年齢や技術問わずだれもが映像作品をつくり発信ができる時代、そして際限なく見ることができる時代になりました。
だからこそ、映像を生業にするひとたちの声に耳を澄ませたい。技術の進歩に否が応でも向き合わなきゃいけないいま、彼らはどうするのか。本日8月28日(木)から東京都写真美術館で始まるこの展示は、そんなことを考えるきっかけになるでしょう。
映画監督ペドロ・コスタが、日本最大規模かつ、東京では初めてとなる美術館での個展を開催します。
ご存知ない方のために補足をすると、ペドロ・コスタはポルトガルを代表する映画監督。1989年の長編デビュー作『血』がヴェネチア国際映画祭で注目を集め、その後『骨』(1997)や『ヴァンダの部屋』(2000)で国際的評価を確立しました。
『ホース・マネー』(2014)ではロカルノ国際映画祭最優秀監督賞受賞、『ヴィタリナ』(2019)で同映画祭金豹賞受賞、短編ミュージカル映画『火の娘たち』(2023)では第76回カンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映されるなど、近年も目覚ましい活躍を見せています。
彼の映画は、自国の首都・リスボンや周辺のスラム街に漂う行き場のない空気、住民たちの生活のすぐそばにある絶望を切り取り、強烈な映画技法で映し出します。暗闇と光の強いコントラスト、緻密な画面構成は、まるで我々の題材への向き合い方を正すよう。世界を見渡しても他に類を見ない映画を多数生み出してきました。
そんなコスタは、映画だけではなく展覧会という形式でも国際的に高い評価を受けてきました。たとえば2018年にポルトのセラルヴェス美術館で開催された「Companhia(コンパニア)」展や、2022年から2023年にかけてスペイン各地を巡回した「The Song of Pedro Costa」展など。
そして満を持して日本へ。今回開催される「ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ」は、コスタが10代の頃に出会い深い影響を受けた、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『インナーヴィジョンズ(Innervisions)』(1973)と同名のタイトルを掲げています。音楽を通して社会と個人の関係に迫ろうとしたこのアルバムの精神は、彼の映像制作の方法論とも深く響き合っています。
ペドロ・コスタ《少年という男、少女という女》2005年 2チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション 東京都写真美術館蔵
ジェイコブ・リース〈向こう半分の人々の暮らし〉より 1880-1889年 ゼラチン・シルバー・プリント 東京都写真美術館蔵
ペドロ・コスタ《火の娘たち》2019年 5チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション 作家蔵
《ジ・エンド・オブ・ア・ラヴ・アフェア》2003年 シングルチャンネル・ヴィデオ・プロジェクション 作家蔵
展示内容は、コスタ作品において重要な役割を担う彼の友人・ヴェントゥーラをはじめとする登場人物の映像作品や、彼らが住んでいる場所に関わる映像作品、そして東京都写真美術館のコレクションも並びます。
注目すべきがその展示方法。通常、白い壁に作品を並べていき、いくつかの章に分けて展示しますが、本展はその壁を黒に塗りつぶし、会場内の照明は非常灯のみ。映像の光が鑑賞者を導きます。順路もあってないようなもので、まるで迷路のよう。緊張感を携えて手探りで進まなければなりません。
観客に全ての解釈を委ねる本展。コスタ作品を一度でも鑑賞したことのあるひとならば、まるで作品の中に自身が潜ったような感覚に陥るでしょうし、観たことのないひとでもその作家性に引き込まれるはず。
ペドロ・コスタ《アルト・クテロ》2012年 2チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション 作家蔵
ペドロ・コスタ《溶岩の家 スクラップブック》2010年 スライドショー 作家蔵
ペドロ・コスタ《火の娘たち(2022)》2022年 3チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション 作家蔵
展示会場はもちろんのこと、合わせて開催されるイベントも必見。本展に合わせ、コスタが自らの視点で自由に選び構成した11本(予定)の映画が上映される他、コスタ自身の映画の上映、出品作家およびゲストによるアーティスト・トーク、担当学芸員によるギャラリートークなども行われます。詳細はインフォメーションよりご確認を。
本展の開催期間は、明日8月28日(木)から12月7日(日)まで。またとない機会です。ペドロ・コスタの世界を本展でご堪能ください。
総合開館30周年記念 ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ
会期:2025年8月28(木)〜12月7日(日)
会場:東京都写真美術館 地下1階展示室
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話:03-3280-0099
開館時間:10:00〜18:00(木・金は20:00まで)
※8月28日〜9月26日の木・金曜日は21:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
観覧料:一般800(640)円、学生640(510)円、高校生・65歳以上400(320)円
※( )は有料入場者20名以上の団体、当館映画鑑賞券提示者、各種カード会員割引料金
※中学生以下及び障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)は無料
※第3水曜日は65歳以上無料
※8月28日〜9月26日の木・金曜日17:00〜21:00はサマーナイトミュージアム割引(学生・高校生無料、一般・65歳以上は団体料金。学生証・年齢が確認できるものをご提示ください。)
※オンラインで日時指定チケットを購入いただけます。
公式サイト
【関連イベント】
①関連上映プログラム「ペドロ・コスタのカルト・ブランシュ」
期間:8月28日(木)〜 9月7日(日)
概要:本展に合わせ、ペドロ・コスタが自らの視点で自由に選び構成した11本(予定)の映画を上映。
会場:東京都写真美術館1階ホール
料金:一般1800円、シニア(60歳以上)1500円、学生および高校生以下 1,000円
※本展チケットのご提示で1,000円(本展チケット1枚につき1回の割引)
※『H story』を除き、すべて日本語字幕付き
上映予定作品:
・『トラス・オス・モンテス』監督:アントニオ・レイス、マルガリーダ・コルデイロ(1976年)
・『ポルトガルの別れ』監督:ジョアン・ボテリョ(1986年)
・『田舎司祭の日記』監督:ロベール・ブレッソン(1950年)
・『星を持つ男』監督:ジャック・ターナー(1950年)
・『太陽』監督:アレクサンドル・ソクーロフ(2005年)
・『H story』監督:諏訪敦彦(2001年)
・『真人間』監督:フリッツ・ラング(1938年)
・『山羊座のもとに』監督:アルフレッド・ヒッチコック(1949年)
ほか
※8月31日(日)13:00からの上映終了後、ペドロ・コスタによる上映アフタートークを開催します。
②関連上映プログラム「ペドロ・コスタ特集上映」
概要:ペドロ・コスタの代表作を特別上映
会場:東京都写真美術館1階ホール
料金:一般1800円、学生および高校生以下 1,000円
※本展チケットのご提示で1,000円(本展チケット1枚につき1回の割引)
※日本語字幕付き
上映予定作品:『血』『溶岩の家』『骨』『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』『何も変えてはならない』『ホース・マネー』『ヴィタリナ』『火の娘たち』ほか、全11プログラム
※以下の日程で、出品作家およびゲストによる上映アフタートークを開催
・12月6日(土)登壇者:北小路隆志(映画評論家、京都芸術大学教授)
・12月7日(日)登壇者:ペドロ・コスタ ※オンライン
③出品作家およびゲストによるアーティスト・トーク
会場:東京都写真美術館 1階ホール
参加費:無料 ※当日10:00より1階総合受付にて整理券を配布します。
日程/内容:
・8月28日(木)18:30〜20:30(登壇者ペドロ・コスタ)
・8月29日(金)18:30〜20:30(登壇者ペドロ・コスタ、長島有里枝)
・8月30日(土) 15:30〜17:30(登壇者:ペドロ・コスタ、諏訪敦彦)
④担当学芸員によるギャラリートーク
日程:8月29日(金)、9月26日(金)、10月17日(金)[手話通訳付]、11月28日(金)[手話通訳付]
時間:各回14:00〜
参加費:無料 ※ただし当日有効の本展チケット、展覧会無料対象者の方は各種証明書等の提示が必要