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寝正月にはこんな映画を。

正月は家で過ごすに限る。あっち行ってもこっち行っても人だらけだし、普段忙しなく働いていているのだから正月ぐらいは休みたい。そんな寝正月のお供には映画が最適。いまは便利な配信があるし、地元のTSUTAYAにDVDを借りに行ったっていい。そんなわけで寝正月におすすめの映画10選をどうぞ。おまけの新作もあるよ。

Photo_Yuco Nakamura
Text&Edit_Yuri Sudo


NO.1 『家族ゲーム』

家族が抱える難問はだれが解く?

正月休みが明ければ、受験シーズンの到来。そんなわけでこんな1本をどうぞ。

舞台となるのは4人家族の沼田家。次男である茂之の高校受験を控えるなか、両親は家庭教師をつけることに。やってきたのは吉本という三流大学に7年在籍している男。変わった指導方法ではあったが、茂之の成績は徐々に伸びていく。そして伸びるに連れて沼田家にもある変化が……。

亭主関白で傲慢な父、甘やかし過ぎる母、有名高に進学するもぐれていく長男、ネジの外れた弱虫の次男。昭和特有の空気感と何かしらの欠陥を抱える沼田家であるが、突如現れた松田優作扮する家庭教師の吉本によって、その形がより一層歪になっていく。それを助長させるのは、横一列の食卓という演劇的な空間設計と、誇張された日常音。その当時としては斬新だと評された森田芳光による演出が光る。そして多くを語らず、多くを見せない松田優作の静の演技にも注目だ。
 

家族ゲーム
1983年/106分/日本
監督:森田芳光
U-NEXT, Amazon Prime

NO.2 『バニシング・ポイント』

走る走る、白のチャレンジャーと70年代ロック。

頭も身体もすっかり正月モードのひとには、アメリカン・ニューシネマからこんな疾走感のある映画を1本勧めたい。

主人公・コワルスキーは、ベトナム戦争で名誉勲章を受け、レースドライバーや警察官を経て、いまは車の陸送で生計を立てる。あるとき、コロラド州デンバーからサンフランシスコまで、白の70年型ダッジ・チャレンジャーを届けるという任務を課せられたコワルスキーは、約2,000キロもの道のりを15時間で走り切るという賭けをする。交通法規を無視して時速200キロで暴走する彼を警察が追う一方で、たまたま警察無線を受信した盲目の黒人DJスーパー・ソウルはラジオでカーチェイスの実況中継を開始。コワルスキーの逃走劇の結末は…….。

全編ほとんどが車が走っているショットであるが、見ていられるのは、ただ激しいだけじゃないその趣向を凝らしたカメラワークと、コワルスキーの寡黙ないでたち、そしてDJスーパー・ソウルの音楽によるところだろう。特に音楽に関しては、ジミー・ウオーカー、ジミー・リード、マウンテン、デラニー&ボニーなどの70年代のアメリカン・ロックを軸に、マンドリンが小気味いいブルー・グラスまで。昨今のカーチェイスとは異なるクールな仕上がりの今作をぜひこの機会に。

バニシング・ポイント
1971年/106分/アメリカ
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NO.3 『フレンチカンカン』

人生をカンカンに込めて。

ハリウッドのミュージカルと言えば、しばしば現実逃避した演出がなされ幸福感に満ち満ちているが、今作はすこし違う。『マッチ売りの少女』(1928)、『ピクニック』(1946)、で知られるフランスの巨匠ジャン・ルノワールの作品で、人生の機微を感じさせてくれるミュージカルなのだ。

舞台は1888年、パリ。歓楽街であるモンマルトルで、興行師ダングラールが営む上流階級向けのクラブは、満員ながら経営難に陥っていた。ある日、ダングラールは下町のキャバレーで出会ったニニの踊りに触発され、自分の店を売った金でキャバレーを買い取り、“フレンチ・カンカン”という新たなショーを目玉とした興行を思いつく。キャバレー、そしてダングラールとニニのその後は…。

諸説あるが、「カンカン」は1830年ごろに労働者階級の舞踏場で生まれたダンスを指す。ハイキックでスカートを捲り上げる動きが特徴的で、4分の2拍子の速いテンポで行われる。その挑発的なダンスは当時の舞踏場を熱狂させるわけだが、今作もその空気感たっぷり。数百人もの女性たちの足がリズミカルに画面を埋め尽くし、その圧巻のパフォーマンスに思わず目を奪われる。それでいて、キャバレーの裏側の人間模様にはひと言で片づけられない複雑さを見る。そんな酸いも甘いも詰め込んだ作品だからこそ、観客の感情を揺さぶれるのかもしれない。歴史に残る名作を改めてどうぞ。
 

フレンチカンカン
1954年/104分/フランス・イタリア合作
監督・脚本:ジャン・ルノワール
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NO.4 『学校』

西田敏行の懐の深さ。

代表作を挙げればキリがないが、今作は西田敏行という俳優の奥深さとあたたかさを感じる、随一の映画だと思う。

西田敏行扮するベテラン教師・黒井が勤める下町の夜間中学校には、年齢も境遇もさまざまな生徒たちが通っている。卒業が近づいたある日、卒業記念文集のための作文を書く生徒たちの横顔を見ながら、黒井は彼らとの思い出を振り返る。

生徒役には田中邦衛、萩原聖人、裕木奈江など、名優たちが個性豊かな生徒をそれぞれ好演。悩みを抱える彼らに、西田敏行はそれはそれは親身になって話を聞き、時には彼らの立場になろうと自ら汗を流すことも。そんなお節介な先生だからこそ生徒からの信頼は厚く、みなが本音をさらけ出す。この安心感と言ったら、とってつけた演技では到達し得ない領域に思える。過去の素晴らしい作品たちを観て改めて、西田敏行という俳優の生き様を見よう。

学校
1993年/128分/日本
監督:山田洋次
Amazon Prime, U-NEXT, hulu, FOD

NO.5 『牯嶺街少年殺人事件』

君はどう感じるか。

壮大な設定、見事な伏線回収、衝撃の結末。シネコンにかかるような映画もそれはそれで楽しいけれど、世の中にある映画はそれだけではない。

台湾の名匠エドワード・ヤンが手掛けた『牯嶺街少年殺人事件』は、台湾初の未成年による殺人事件をもとにした青春群像劇。今作は236分という、長さで言えば超大作であるが、台湾のある街っで起こった殺人事件を中心に人間の機微や台湾の情勢をささやかに滲ませた作品である。

あらすじについては明記を控えるが、今作ではヤンが得意とする特定のモチーフの反復や、画面の構図・カメラワークへの異常なこだわりは健在だ。さらに、驚くことにヤンは約100人もいる登場人物の一人ひとりに対して背景と性格を考え、映画以前・以後の物語まで構想していたそう。しかしヤン作品のおもしろいところは、徹底的に練られていながら、重要な部分は描ききらないところである。何か結論めいたものや、観客が容易にたどり着く答えを示していないのだ。それはきっとヤンが人間や世界を理解するむずかしさを感じているからこそ。そして、ゆえに彼はその短い生涯で表現する手をゆるめなかったのだろうゆるめなかったのだろう。アジア映画が誇る大傑作をぜひこの機会に。 

牯嶺街少年殺人事件
1991年/236分/台湾
監督:エドワード・ヤン
Amazon Prime, U-NEXT

NO.6 『20世紀ノスタルジア』

カメラの奥にあるもの。

古くから映画の撮影技法として「POVショット」があり、最近では彼女目線・彼氏目線のコンテンツがSNS上でトレンドになったりと、いつの時代も主観の視点は鑑賞者を惹きつける。そんな流れの筆頭にいるのが今作。これでもかとPOVショットを効果的に盛り込み、広末涼子の映画初主演作にして、彼女の魅力をあますところなく引き出し切ったのだ。

ストーリーは意外にも入り組んでいる。桜木高校2年の遠山杏は、夏休みの間に同級生の片岡徹と撮影したビデオを映画として完成させることに。突然オーストラリアに旅立った徹が残した膨大なテープの編集を始めた杏は、そこに写る自分たちを通して夏休みを回想していく。テープのなかでは、宇宙人にボディジャックされたチュンセ(徹)とボウセ(杏)という設定の二人。滅びゆく地球をカメラにおさめようと東京中を歩く。その映像を見返した杏はあることに気づき、再び街に繰り出して映像を撮り直していく。完成した映画、そして徹と杏のその後は…。

映画のなかで映画ができあがるという入れ子構造であるが、きっとラストに近づくにつれて、その形式がもたらす効果、タイトルに込められた意味がわかってくるはず。さらに冒頭にもあったPOVショットは広末涼子の可愛さを引き出すだけではなく、若者の甲藤や本音を映すために機能する。漠然としたものにもがいているひとや、『マジで恋する5秒前』で広末涼子の視線の虜になったひとにもぜひ観てほしい。
 

20世紀ノスタルジア
1997年/93分/日本
監督:原將人
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NO.7 『めぐり逢えたら』

期待と偶然が導く、NYの一夜。

“恋はXmasイヴに始まり、愛はバレンタインデーに訪れる……”。というのはこの映画の謳い文句で、まさにこの言葉通りの物語である。そのきっかけをくれるのはなんとラジオ。主人公のハンクスは妻を亡くして悲嘆に暮れていたが、息子のひょんな出来心でラジオ番組でその悩みを打ち明ける。またたくまに “シアトルの眠れない男” として有名になった彼のもとには、全州から女性のラブレターが大量に届く。ヒロインのライアンもそのひとり。記者である彼女はあらゆる手を尽くしてアプローチをつづけるが、果たして。

LIKE/NOPEで異性を指で振り分け、効率的に出会う令和の恋愛からしたら、ライアンは考えられないだろう。だからこそパズルのピースが徐々にはまっていくようなドキドキを、この映画は思い出させてくれる。こんな美男美女がラジオを通じて出会って、いろんな偶然が重なるなんてそんなことあるわけ…と捻くれ者なら思ってしまうが、それは映画の力。1957年の名作『めぐり逢い』を物語のシャレとして盛り込んだり、懐かしさを誘うBGMの数々は、より一層今作をエンタメとして昇華してくれる。なによりニューヨークの某名所を舞台にしたラストは、どの世代であっても釘付けになるはず。恋愛に猪突猛進するライアンから勇気を得て、新たな1年をぜひはじめてみてほしい。
 

めぐり逢えたら
1993年/105分/アメリカ
監督・脚本:ノーラ・エフロン
権利元:株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©1993 TriStar Pictures, Inc. All Rights Reserved.
※デジタル配信中/ブルーレイ& DVD発売中
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No.8 『バグダッド・カフェ』

大掃除で人生を変える。

今作をなぜ新年におすすめするかと聞かれれば、そう、主人公であるヤスミンが掃除をしたことによってすべてが好転していったからである。

ドイツ人のヤスミンは、夫とアメリカ西部を旅行している最中に喧嘩をして、砂漠のど真ん中で車を降りる。荷物を抱えて歩きつづけ、辿り着いたのはカフェ兼モーテル兼ガス・ステーションの“バグダッド・カフェ”。はじめはそこを営む家族と謎の住人たちになかなか受け入れられなかったものの、お節介な性格によって、カフェに干渉するようになってやがて…。

カフェの事務所の掃除をしたことで、何かつっかえてたものが取れたかのようにさまざまな物語が動き出す。そしてヤスミンは一見むすっとしたドイツ人であるが、その実、おおらかでひとを惹きつける魅力的な人物。ゆえにそれまで客がほとんど来なかった店も、ヤスミンのある特技によって繁盛店に。その変化は、劇中に挟まれる数々のイメージカットも教えてくれる。孤を描いて戻ってくるブーメラン、ある住人が描くジャスミンの絵、砂漠に咲く花。そんな細かいところにも注目してほしい。

今作は公開から35年を経て4Kレストアされ、いま全国の映画館で上映がされている。映画史に残る名作を映画館で観るチャンスなのでぜひ。ところで、いつの時代もきっと夫の愚痴が、妻同士が仲良くさせるものだと今作を観てしみじみ思う。

バグダッド・カフェ 4Kレストア
1987年/108分/西ドイツ
監督: パーシー・アドロン
脚本:パーシー&エレオノーレ・アドロン
主題歌:「コーリング・ユー」ジェヴェッタ・スティール
提供:是空/TCエンタテインメント
配給:アルファズベット
公式サイト

NO.9 『シリアル・ママ』

ゲテモノであけおめ。

カルト好きの中でも、さらに下品なものを嗜んでいるひとにはこんな映画はどうだろう。『ピンク・フラミンゴ』など、バッドテイスト映画の巨匠ジョン・ウォーターズが監督・脚本を手掛けた『シリアル・ママ』。たぶん映画が描く“ママ”史上、ダントツで恐ろしい。

ボルチモア郊外の住宅街に住む主婦ビヴァリーは、歯科医の夫や娘と息子に囲まれて幸せな毎日を送っていた。しかしその一方で、完璧な家庭を守るためなら手段を選ばず、ルールや秩序を乱す部外者を容赦なく殺害する連続殺人鬼でもあった。周囲は彼女の正体に徐々に気づきはじめるが、頭のキレる彼女は怖いほど状況を切り抜けていって…。

これまで人間が吐瀉物にまみれた様子や鶏に対する獣姦など、常人には耐えられない映像を生み出し、観客を自らのワールドに引きずり込んできたジョン・ウォーターズだが、今作も同様。違ったアプローチで “ママ” の残忍な姿を追いかけながら、社会への痛烈な批判や皮肉をユーモア交えて物語にしている。

年始から刺激的なものをお求めなら、ぜひおすすめ。しかも1月3日(金)からシネマート新宿で始まる特集「コケティッシュゾーン」にて劇場上映されるそう。他にも『死霊のはらわた』『プリシラ』などが順次公開されるそうなので、モノ好きは新年から新宿に集合で!
 

シリアル・ママ
1994年/95分/アメリカ
監督:ジョン・ウォーターズ
脚本:ジョン・ウォーターズ
Images Courtesy of Park Circus/Universal

NO.10 『ブルータリスト』

閉ざされた歴史と向き合う215分。

観客に歴史を立ち返らせる映画は数あれど、なかでも今作はその切り口といい壮大な演出といい、頭ひとつ抜けているのではないだろうか。

才能にあふれるハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トートは、第二次世界大戦下のホロコーストから生き延びたが、妻のエルジェーベトと姪のジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためにアメリカ・ペンシルベニアへと移住したラースローは、そこで裕福で著名な実業家ハリソンと出会う。ラースローのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築をラースローへ依頼した。しかし、母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には多くの障害が立ちはだかる。ラースローが希望を抱いたアメリカンドリームとはうらはらに、彼を待ち受けたのは大きな困難とある代償だった。

今作のタイトル「ブルータリスト」は、1950年代に生まれた建築様式「ブルータリズム」からとっていて、コンクリートなどの建築資材の質感を強調し、無骨なデザインが特徴である。主人公のラースローがつくる建築は映像にも映し出されるわけだが、その威厳のある佇まいに圧倒される一方で、逃げ場のない苦しみにもがく彼と家族たちがより一層強調され、胸が締めつけられる。主人公たちは不当な扱いを受けながら尊厳をどう保つのか、忘れてはいけない歴史に我々はどんな態度を取るべきか、そんなことを考えてしまう215分。第81回ベネチア国際映画祭銀獅子賞も受賞していて前評判も良く、2月21日(金)の公開が待ち望まれる。映画館という閉鎖された空間で、ぜひ目を逸らさずにご覧ください。
 

ブルータリスト
2024年/アメリカ、イギリス、ハンガリー/215 分
監督・共同脚本・製作:ブラディ・コーベット
共同脚本:モナ・ファストヴォールド
配給:パルコ ユニバーサル映画
公開:2月21日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
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