NEWS

【FOCUS IT.】デサントの覚悟が詰まったビッグプロジェクト。リニューアルした水沢ダウンの生産拠点に潜入!

高機能ダウンの代名詞として知られる〈デサント(DESCENTE)〉の「水沢ダウン」。その名前は、生産を担っている水沢工場に由来します。岩手県奥州市に位置し、1970年の操業以来、野球のユニフォームやスキーウェアなどさまざまな商品を生産してきました。その水沢工場を〈デサント〉は今年7月に大規模リニューアル。投じた額はなんと約30億。そんな並々ならぬ覚悟が詰まった新水沢工場に潜入してきました。

  • Photo_Yu Nagai
  • Text & Edit_Kazuki Sakaguchi

  • 南部鉄器と大谷翔平の街で生み出される水沢ダウン。

    東京から東北新幹線に乗ること2時間半。編集部がやってきたのは、岩手県奥州市の水沢江刺駅。ここから20分ほどクルマを走らせたところに水沢工場はあります。奥州市は伝統工芸品「南部鉄器」の産地としても知られる街。駅前や道など各所に「南部鉄器」モチーフのオブジェが見られます。

    野球ファンの方なら、大谷翔平の出身地として名前を耳にしたことがあるのではないでしょうか。駅の近くには大谷モチーフのデザインマンホールが設置されていました。奥州市役所では、背番号に合わせ毎月17日を“大谷デー”とし、職員が応援シャツやユニフォームを着て勤務しているんだそう。

    水沢ダウンはもともと、2010年に行われた冬季国際大会の日本選手団のために開発されました。開催地のバンクーバーは、極寒で雨と雪が多いことで知られる都市。そのため、保温性と防水性を両立する必要がありました。保温性という点ではダウンを使わない手はないけれど、濡れるとダウンが潰れて空気の断熱層を形成できず保温性が低下してしまうという弱点が。羽毛の偏りを防ぐために刺し縫いで隔壁をつくる従来のつくり方では、縫い目から水が侵入してしまうため雨と雪の多いバンクーバーには不向きだったのです。

    そんなジレンマを解消すべく、表面の縫い目を極力減らしてつくられたのが水沢ダウン。縫うのではなく「熱接着ノンキルト加工」という独自の加工法を採用することで水の侵入を防いでいます。それだけでなく、縫い目が減ったことで熱が外部に逃げづらくなり保温性が向上。袖などの縫製が必要な箇所には、裏面にシームテープ加工を施すことで防水性、耐水性を確保しています。濡れに強く、あたたかい、最強のダウンというわけです。


    工夫の詰まった新工場。

    そんな水沢ダウンの生産を一手に担っているのが、ここ水沢工場。1970年に操業を開始して以来、野球のユニフォームやスキーウェア、JRAの騎手用防護ベストなど、機能性が高く複雑な構造の商品を生産してきました。なかでも〈デサント〉の代表的なアイテムであるスキーウェアは、厳しい環境に適応するためさまざまな機能性が求められ、パーツ数や複雑な工程の多い生産が難しい商品の代表格。それだけの設備と技術を持つ職人を水沢工場は抱えているのです。

    まずエントランスホールで我々を出迎えてくれたのは、水沢ダウンの代表的なモデル「マウンテニア」を構成する全型163パーツが並んだパターンボード。ミニマルな見た目とは裏腹に一着にこれだけ多くのパーツが使用されています。工程数は280と、一般的なアウターの約4倍。なかには、曲線パーツの縫製や、やり直しの利かないシームテープの圧着、扱いの難しい素材の加工など、技術力が試される工程を含みますが、ほとんどが手作業で行われています。いちばん下の50は、完成までに携わっているオペレーターの人数。一着のダウンがつくり上げられる裏には、確かな経験とスキルを持った多くの職人の存在があります。

    新工場になり、大きく変わったのはレイアウト。旧工場は8棟に分かれていたため、動線も作業効率も悪いという課題がありました。そこで、新工場では設備を1棟にまとめ、床面積を1.5倍にすることで全工程がワンフロアで完結するように。生地の倉庫、裁断ブース、縫製ブース、検品ブースを工程順にコの字型に配置することで、物を運ぶ距離が最小限になり効率化を実現しています。

    そして新たに設けられたのが、羽毛検査室。これまではサプライヤーから供給されたダウンをそのまま使っていましたが、検査をすることで責任を持って「水沢ダウン」に使える品質であることを確認しています。ひと口にダウンと言っても、ダック、フェザー、ファイバーなどいろんな種類がありますが、「水沢ダウン」に封入するのは保温性、軽量性に優れるダックの羽毛のみ。ほかの種類のダウンや、壊れている羽、ゴミ、陸鳥の羽などが混入していないか、何時間もかけてピンセットで分けながらチェックしています。

    異物混入を検査したあとはフィルパワーの確認も欠かせません。室温20度、湿度65%の部屋で48時間リラックスさせ膨らませた羽毛に荷重をかけ、かさ高が規定値に達しているか見ていきます。この工程があってこそ、「水沢ダウン」の名にふさわしいクオリティが担保されているのです。

    ほかにも、快適に、効率的に働くための気配りが至る所に散りばめられています。頭上の配線カバーは、レール上ならどこでも電源が引ける仕様。挿し口に合わせて動く必要がないし、工場内のレイアウト変更にも柔軟に対応できます。外側には岩手県産の木材を使用することで、工場らしくない温かみのある印象に。従業員の9割以上が女性ということもあり、低めの位置に設けられているのだそう。

    台車は、動きが滑らかで、力のないひとでも重い荷物を簡単に運べるものを採用。タイヤはシリコン製なので、床にタイヤ痕が残らないというのもポイントです。ベストな台車を選ぶために時間をかけて探したのだそう。細部にまで働きやすい工場にするという心意気が感じ取れます。

    工場内を常に25℃に保つ冷暖房は輻射式。熱伝導で温度をコントロールしてくれるから、風でミシンの糸が揺れたりダウンが舞うことがないし、直接風が当たる不快感とも無縁です。


    新工場から始まる新たなあゆみ。

    LUCENT ¥198,000

    ご紹介した新工場の竣工を記念した限定モデル「LUCENT」が現在発売中です。ベースにしたのは、水沢ダウンのファーストモデル「ANCHOR」。奥州の雄大な自然の息吹をイメージしたカラーリングで仕上げられていて、フィルミーブルー(写真)とペールカーキの2色展開。いちばんの特徴は、表地に12dの透け感のある生地を使用したこと。スケルトンにすることで、これまで隠れていた内側の構造や細部の美しさなどの職人や開発者の努力が見えるようになっています。薄くても耐水性はバッチリ。20,000mmの耐水圧を誇ります。

    ダウンパックのなかには軽量で嵩のある1000FPのダウンを封入し、空気をまとうかのような着心地と暖かさを実現。裏地に採用された光を熱に変換する保温素材HEAT NAVI®が暖かさをキープしてくれます。さらに、背中部分にプリーツ加工を施すことで、光を吸収する表面積を増やし保温効果を促進するという工夫も。ここまでいくとオーバースペックのように感じるけれど、不快な熱や湿気は、フロントのデュアルジップや脇下のベンチレーションから熱を逃せるので安心です。

    水沢ダウンはモデルやサイズによってはすでに欠品が発生しているとのことなので、寒さが本格化する前にチェックしてみてください。

    最後に、工場長の塔筋さんに、今後の展望を伺いました。

    設備投資によって生産効率は上がった。だからといって、ダウンの生産量を増やしたいという想いはまったくなかった。効率が上がってできた余裕は、もっと難しいことにチャレンジしたり、新しい商品を開発したり、より丁寧に質の高さを追求したり、そういったことに使っていきたい。

    そして、10月29日に行われた新工場のお披露目会にて社長の小関さんが残したコメントを、〈デサント〉の考えの詰まった言葉として話してくださいました。

    国内に流通する衣料品は年間35億点あり、うち98.6%が輸入品と言われています。今後、残る1.4%の国産品も減ると予測されているなか、覚悟を持って国内の縫製工場を建て替えるという判断をしました。それは、この水沢工場でつくる「水沢ダウン」が〈デサント〉を象徴する商品であり、今後も「水沢ダウン」を成長させていく強い想いがあったからです。そして、建て替えるとなれば中途半端なことはせずに最高の工場、いま考えられる世界最高の工場をつくることにしました。水沢工場は、55年間この地に根を張ってきました。建て替えに当たってはその中身にこだわり、岩手県産の建材を使い施工も地元の業者さんに依頼しました。勤務するスタッフは地元にルーツを持つ方ばかりで、なかには親子2代、3代にわたって工場を支えてきた方もいます。新しい工場になったことで、これから「水沢ダウン」はもっと機能的で素敵な商品に進化していきます。いまは280の工程数ですが、近い将来は300以上に増えるかもしれません。今後、世界のスポーツアパレルのトップを走り、さらに高みを目指して挑戦していきます。新しい水沢工場は、そのための大きな強みになるはずです。

    新水沢工場のあゆみは始まったばかり。この水沢の地から今後どんなダウンジャケットが生まれるのか、楽しみです。

    INFORMATION

    デサントジャパン株式会社 お客様相談室

    電話:0120-46-0310
    公式サイト

TOP > NEWS

関連記事#デサント

もっと見る