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北浦和から宇宙的遊泳を続ける音楽家。Boys Ageとは一体なにものなのか?

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Boys Ageというアーティストを知っているだろうか。彼は2013年にアメリカ西海岸の「Burger Records」から初めてアルバムをリリース。以来、数多の国外レーベルからカセットで作品を発表しており、インディーファンの間では尊敬のまなざしを向けられている。

そしてそのBoys Ageは4月27日(金)に開催されるこちらのイベント「Fog」に出演する予定。会場では出演者であるBoys AgeThe NovembersのフロントマンであるYusuke Kobayashi、jan and naomiへのインタビューが掲載されるZINE『GRADIENT』が無料配布される。

フイナムでは、そのZINEの “B面” として出演者の一端を担うBoys Ageの特別インタビューを敢行。国内での認知度は高いとは言えない未だ謎の多い彼のことが知りたくて、彼の住む北浦和までに会いに行ってきた。

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ー今回Boys Ageをインタビューさせてもらうきっかけとして、2016年に下北沢THREEで見たライブに衝撃を受けたという経緯があります。おそらく『ROMANCE PLANET』を出したばかりの頃だと思うんですけど。

Boys Age(以下BA):はあ。僕、どんなことしていましたっけ?

ーほとんどギターも弾かずにiPadのボタンを触ってバックトラックを流して、後ろにあるドラムセットのハイハットを叩いていて。頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けたんです。その時お客さんが8人しかいなかったんですけど、なんか明らかにヤバいことがここで起きている! と直感しました。

BA:そうでしたか。お客さんの人数は大体いつもそれくらいですよ。ハイハットを叩いていたのは、当日ドラムが来られなかったから叩いていただけです。

ーその場では、ぎりぎり呼吸ができる生命維持装置がついている状態で、どこへもたどり着かない宇宙的遊泳を続けている…みたいな不可思議な感想を抱きました。

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自宅のストックから手元にある分だけ持ってきてもらった彼のディスコグラフィー。彼の記憶を頼りにアルバム発売順に並べてもらった。ここにあるだけで14作。圧巻の一言。コアファン涎垂の写真かもしれない

ーその後CDを買ったんですけど、デザインも自身でされているんですよね?

BA:そうですね。Boys Ageのアートワークはすべて僕が描くかコラージュしています。

ーこれまでフィジカルでリリースされた作品でいま手元にあるものを持ってきていただきましたけど、契りを交わしている男女、裸体の女性などのイメージが多いのはどうしてですか?

BA:単純に男だけを描いてもつまらないじゃないですか。自分が描いていて楽しいものを描いていたら自ずとそうなっていきました。

ー日本でまだ知っている人がいないこと自体がすごくもったいないことだと思って。

BA:僕も当然売れたくて。2013年当初は国内外問わず色んなことにお声かけしましたし、音楽のメジャーレーベル各社に挨拶周りもしましたが、日本のレーベルからまったく声がかからなくて。2013年6月にカリフォルニアのBurger Recordsと当時ポートランドに拠点を置いていたGnar Tapesからテープをリリースして、それからすぐにBleeding GoldからCDリリースしたのが『Fake Gold』というアルバムで。国内のレーベルからはじめてだしたのが2015年。どんだけ時間かかってるんだよ! という話ですよね。

ーここにあるだけで14枚以上フィジカルでアルバムをリリースしていますし、Bandcampのみのリリースを含めるとその数は膨大になると思います。毎作宅録での制作デザインからイラストレーションまで手がけているのには、どんな背景があるのですか?

BA:ひとつはYo La Tengoの影響。彼らのミュージシャンとして色んなことにチャレンジしている態度を勝手に継承しているつもりです。音楽家はどんどんと音楽を掘り下げて新しいものを作っていくべきだと思っているんです。もうひとつは、Van Dyke Parksの影響です。彼はワーナーブラザーズに社員として働く傍ら、編曲家としても名うてで色んなバンドにも参加しているのがすごい。僕は専業作曲家だから色んなことができないといけないと思います。

ーほかにも影響を受けているものはありますか?

BA:SF小説とゲーム音楽ですね。人が作り上げた物語から着想を受けたり、自分が頭の中で描いた物語や世界を題材に音楽をつくっていきます。だから小説をライナーとして載せて発売したこともあります。

ー「Postcards Holiday」はSpotifyで160万回再生されていますよね?

BA:そうなんです。でもその経緯が結構しんどくて。実はちょっと前に流行したVineで注目されていた海外のティーンのEmmaという子がいたのですが、その子の彼氏が勝手にこの曲をUPしたことで話題になって。そこから火が着いたようなんです。実は僕がその知ったときには既に癌で亡くなっていて。生前の彼女のことはしりませんが、なんとも皮肉な縁だなと思います。(昨年のクリスマスにEmmaというシングル曲をリリース

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ーすごいお話ですね。海外のファンとコミュニケーションをとることもありますか?

BA:アメリカ以外でもアイルランド、ウクライナなどでもカセットを販売しているせいか、先日エジプトからファンメールが来たんです。最初アラビア文字が読めなくて(笑)

ー世界の裏側にまでファンがいることはすごいことじゃないですか。

BA:そういう意味で日本でこれだけ知られていないのが不思議で仕方なくて。早いとこ辿り着いてほしいですね。

ーはじめて聴いた人はどこから入ればいいか分からない気がするのですが、ご自身の音楽的変遷からまずどれをビギナーに勧めますか?

BA:仮に僕がBoys Ageのディスコグラフィーを1日で聴けと言われたとしても、ぶち切れるでしょうからね(笑)。そうだなぁ、普通に考えてベストから聴けばいいんじゃないですか。2枚もベストアルバムを出しているから。あと個人的にいまでも納得のいく作品である『Calm Time /安らぎの時間』かな。その頃からどんどんと虚ろになっていきました。

ー最新作の『新世界懐胎』では、もはや浮き世から離れていくような感覚を覚えました。

BA:普通にいまのこの希望の無い時代を生きていたらこういう表現になるのが当たり前だと思うんですけど。またはメタルとかハードコアとか。…いや、僕の場合、どんな時代に生まれても希望を持たなかったのかな。日本でいま流行している音楽はアクが薄いものになっている気がしてまったく理解できなくて。もっとドロドロと豚骨臭いものをやれば良いのにと思う瞬間もありますけどね。まあ尖りに尖って結果がこんな感じですから、尖れば良いってもんじゃないということを身を以て証明していますけど。

ーいやいや…。厭世的な気持ちで世の中を見ているのですね。

BA:人間が嫌いですからね、僕。こうやって1対1で話している分にはまったく問題ないですが、群れるとどうも嫌な部分がみえてくるし、人を知れば知るほどがっかりさせられることも多い。だからライトな距離感で人付き合いしたいですね。30も手前なのに生きづらいなぁ。

ー東京ではなく北浦和で活動を続けることにも符号の一致があると思いました。

BA:東京は最先端のものがたくさん集まっていますし、日本社会の縮図だと思いますが、何より僕は人の影響を受けやすいので、染まってしまうのが怖いんですよ。あと、人が多すぎて鬱陶しい。ここがいいというわけではないのですが、どこに行っても変わらないのなら地元に近いところに妥協しているだけで。いっそもっと静かな香川県とか高知県に行ってみるのもいいかもしれませんね。

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ーいつもアルバムごとに違うことをやっているBoys Age。最新作の『新世界懐胎』に至るまで、次がどうなるかまったく予想がつかないのですが、どのような形になりそうでしょうか?

BA:2枚程手がけているアルバムがあって、1枚はオーケストラ・ポップを全面に打ち出したものです。既に数百曲もあって、それが一度データを飛んでしまって。つくり直して、また飛んでしまいました。だけど、頭の中に完成系があるので、とりあえずそれを完成させたいですね。また個人的に19世紀末ゴシック的なロゴやフォント、ルーン文字、北欧神話にハマってきているので、サウンド的にもそういうデザインを生かした作品を手がけたいなと思っています。

ー楽しみにしています。音楽制作に没頭しているとき、幸福だと感じることができますか?

BA:いえ、まったく。これだけアルバムをつくると音楽を作る行為が自分にとって呼吸と変わらないようなものになって。生物として、音楽を作らないという選択肢はありえない。頑張っているつもりもないし、もう僕にはそれしかなくて、辞めたら生物として成立し得なくなってしまう。そういうものだと思います。毎回アルバムで最高のものにすると思って手がけたら、もっと最高のものが作りたくなる。そういう意味では一生満たされもしないし、完成しない。逆に言えば完成したら消えたくなってしまうでしょうね。

ー明日4月27日(金)にはこちらの「Fog」があります。見る人たちには、どんな風に音楽を味わってもらいたいと思いますか?

BA:仮にお客さんが1000人だろうが、いつも通り10人だろうが僕の音楽に刺さる人の数は変わらないと思います。大半が僕の音楽を聴いても、よく理解できないのかもしれません。個人的にはなんで理解できないのかがわからないのですが。ただ海外のファンから、セラピーみたいな音楽だと言われたこともあるので、刺さった人には刺さる深度は深いとおもいます。ライブは多分暗い曲をたくさんやると思いますが、一音一音をじっくり味わってもらえたらいいんじゃないでしょうか。

Photo_Haruki Matsui
Interview & Text_Hiroyoshi Tomite
Edit_Rei Kawahara


Fog.
開催:4月27日(金)
時間:OPEN:18:00 / START:18:30
会場:VACANT
住所:東京都渋谷区神宮前3-20-13
チケット:peatix

ZINE『GRADIENT』
仕様:A3
ページ数:10ページ
印刷会社:Hand Saw Press。
handsawpress.com/

Boys Age(ボーイズエイジ)
いくつかの自主作品の後、2013年にUSデビューアルバムをBURGER RECORDS/GNAR TAPES/Bleeding Goldの3レーベルからリリース、以降、独創的な宇宙的音楽を立て続けに世界中でリリースを続け、今もなおほぼ一切の後ろ盾ないままにゆっくりと躍進中。代表曲”Postcards Holiday”はSpotifyだけでも150万回以上再生され世界中のコアな音楽ファンを魅了している。

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