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【FOCUS IT.】型破りなティースタンド、ティーバックスが提唱する“カルチャーとしてのお茶”の可能性。

「最近はこのあたりのことを“奥代官山”なんて言うらしいですよ。こないだもテレビの人たちが『奥代官山特集なんです』って、うちに取材に来ましたけど(笑)」

そう笑って話すのは、「ティーバックス(TEA BUCKS)」オーナーの大場正樹さん。奥代官山とは、取材に来たテレビクルーによれば、代官山駅から並木橋あたりまでの、どちらかといえば渋谷・恵比寿寄りのエリア(住所的には渋谷区代官山町1〜10丁目、渋谷区恵比寿西2丁目)のことを指すらしい。

「ティーバックス」はそんな今ホットな?スポットに、2018年4月にオープンしたばかりのお茶を専門にしたティースタンドです。

オーナーの大場正樹さん。神奈川県出身。バックパッカーとしてアフリカやアメリカ、カリブ海の島々を回り2015年に帰国。その後、飲食店の立ち上げや茶葉屋での修業などを経て、「ティーバックス」をオープン。

お店は美容室「Dayt.」の入るビルの1Fにある。髪をカットしてもらいながら、大場さんの淹れたお茶を飲むこともできる。

「ブルーボトルコーヒー」などのいわゆるサードウェーブ系の大流行によって、コーヒースタンドは都市部のどの街でも目にするお馴染みの存在となりました。しかし、お茶、しかも日本茶を専門にした“ティースタンド”ともなると、おおよそ東京においてもほとんど目にすることはありません。

「不思議ですよね。お茶って、日本人にとっては誰しもが日常的に飲むものなのに、その淹れ方や種類、効能についてはほとんどの人が知らないと言ってもいい。僕はこの店からお茶を淹れることで生まれるカルチャーを作っていきたいと思っているんです」

「ティーバックス」で扱っている茶葉はすべて佐賀県嬉野市の茶畑で栽培されたもので、専属の茶師が独自にブレンドしているそう。

派手な装飾で有名な九谷焼にしては珍しく、漆黒のシンプルなデザインが特徴の急須。釉薬が塗ってあるため、茶葉に茶器の香りが移りにくい。

お茶を焙じて香りを楽しむ茶香炉。カウンターの囲炉裏で温める。

そもそも大場さんが日本茶に興味を持ち始めたのは、サラリーマンを辞め、1年間のバックパッカー生活を終えて帰国した頃。京都を訪れた際に口にした本物のお茶に衝撃を受けたのがきっかけだったと話します。

「これがお茶なのか、と。今まで僕が飲んでいたペットボトルのお茶ってなんだったんだろうって思いましたね。気がつけばどっぷりハマって、そこからは独学でお茶について学び、実際に農家さんのところへ行って、茶葉や淹れ方について教えてもらったり。宇田川町にある茶葉店『幻幻庵』でも修業させてもらいました」

「その頃にはもう、自分でお茶屋さんをやりたいなっていう目標も持っていました。バックパッカーをしていた頃に悠馬さんが美容室のオーナーでもあって、この恵比寿西の物件の1階をカフェにしたいっていう相談を受けたので、それで『ティーバックス』をやらせてもらえることになったんです」

「ティーバックス」のインテリアは、古いヨーロッパのヴィンテージや80年代の日本のキャバレーで使用されていたソファ、中南米を思わせるミントグリーンの内壁など、多国籍でミクスチャーな雰囲気を醸し出しています。世界中を旅した大場さんらしい嗜好が違和感なく同居していますが、それにしたって、外から見ればそれが「茶屋」の姿にはまったく見えません。

「ハハハ、そうですよね(笑)。お茶って、日本人にとってはこうあるべきっていう価値観が凝り固まったもの。厳かな茶室で姿勢を正して、茶碗を回して、静かに飲む。いわゆる伝統的な茶道の世界のイメージが強くあると思います。そういうものにリスペクトを持ちながらも、もっと敷居を下げるというか、若い人たちにもカジュアルにお茶を面白がってもらいたい。時代に合った提案の仕方があってもいいと思っているんです」

ゆず緑茶(アイス)Lサイズ ¥500+TAX。緑茶はリラックス効果と体温を下げてくれる働きが。

茎ほうじ茶(アイス)Lサイズ¥500+TAX。カフェインが少なく、体温を上げてくれる効果がある。

釜炒り茶(アイス)Lサイズ¥500+ TAX。裏メニューとして、限定1日20食のみ、釜炒り茶を使ったお茶漬けも出している。

日本には茶道に代表されるような“敷居の高い”お茶がある一方で、定食屋や寿司屋では、セルフサービスで自由にお茶を飲むのが一般的。そんなタダ同然の扱いを受けるお茶についても、大場さんは「それが対価を払う価値のあるものだということを忘れてはいけない」と語気を強めます。

「農家さんが愛情込めて育てた茶葉も、そこに大手の資本が入った結果、僕たちは今100円でペットボトルのお茶として飲んでいるわけです。そして、ほとんどの人がその100円のお茶の味しか知りません。だけど、そこには化学調味料がたくさん入っているし、作られた茶葉の旨味を感じているにすぎない。それは、僕からすれば本物のお茶の味ではないんです。お店の名前にある“Bucks”には、“お金”という意味があります。つまり、お茶には対価を払う必要がある。そういうことを伝えたくて、この店名にしたんです」

店頭で販売しているティーパックの袋には、化学繊維を避けるためにトウモロコシの繊維が使用されている。

お店ではアルコールの提供も。こだわりのお茶で割ったカクテルも人気。

大場さんがここまで強く断言できるのは、お茶が持つ可能性——お茶を淹れることで生まれるカルチャーがあることを、誰よりも強く信じているからです。

「お茶は音楽に似ているところがあります。プレイリストを考えるように、自分のその時の気分に合わせてお茶の種類や飲み方を選ぶことができる。リラックスしたいのか、気分を上げたいのか、リフレッシュしたいのか。そのシーンに合わせて使い分けることができるんです。あるいは、茶香炉で香りを楽しんだり、お酒と合わせて仲間と楽しい時間を過ごしたり。茶器も奥深いので、レザージャケットの経年変化を楽しむように、モノとしての魅力だってあります。若い人たちがみんな家やアウトドアで急須を振るようになれば、お茶はまだまだ化けていく。お茶を淹れる——そんなスタイルをここから作っていけたら面白いですね」

それがコーヒーにできて、お茶にできないはずはない。奥代官山に誕生したティースタンドは、私たちにとっての当たり前を見つめ直す、そんなきっかけを与えてくれる場所でもあるのかもしれません。

Photo_Taro Hirayama
Edit&Text_Masato Saita


TEA BUCKS
住所:東京都渋谷区恵比寿西2-12-14
営業:11:00~23:00/月曜定休
nikusoba0141.wixsite.com/tea-bucks
www.instagram.com/tea_bucks

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