CLOSE
NEWS

【Focus It.】UNDERCOVER PRODUCTIONが手がけたザ・ラカンターズのMVから紐解く、人の繋がりの不思議な引力。

本日、11年ぶりのニューアルバムである「Help Us Stranger」が発売となった、グラミー賞受賞バンド、ザ・ラカンターズ。4月の来日公演も記憶に新しいジャック・ホワイト率いるこのバンドの新曲『Help Me Stranger』は、もうチェック済みでしょうか?

アルバムリリースに先行して配信されたこのMVは、アップからたったの1ヶ月しか経っていないにも関わらず、既に500万回以上も再生されています。どうやらジャック・ホワイト本人もこのMVを大変気に入っているのだとか。

制作を手がけたのは、こちらの記事で紹介した、高橋盾さん率いる〈UNDERCOVER PRODUCTION〉。退廃的な背景のなかでザ・ラカンターズが見た魅力的な“悪夢”を表現しています。MVの中盤で差し込まれる16カットに及ぶメンバーたちのポートレイトも見所です。

でも、どうして彼らがザ・ラカンターズのMVを手がけることになったのか? 撮影現場ではどんなことが起こっていたのか? そんな裏話を聞くべく、高橋盾さんをはじめとする制作チームに加え、今回のMVのキーマンとなった〈ヒステリック・グラマー(HYSTERIC GLAMOUR)〉の北村信彦さんも迎えて、じっくり語ってもらいました。

北村信彦 / HYSTERIC GLAMOUR
高橋盾 / UNDERCOVER PRODUCTION
水谷太郎 / UNDERCOVER PRODUCTION
清水康彦 / Movie Director
荒井俊哉 / Director of Photography

 
 
 
スケジュール的には9割断る話だよね(笑)。(高橋)

水谷:もともとジャック・ホワイトと(北村)ノブさんが繋がりがあるということで、MVの話が〈UNDERCOVER PRODUCTION〉に来て、いい流れで無事に制作することができました。メンバーたちもすごくよろこんでくれて、ぼくたち自身もいい仕事ができたなと思ってます。そもそも、ジャック・ホワイトとノブさんの関係というか、どうしてこの仕事の話がノブさんに渡ったのか聞いてもいいですか?

北村:デトロイトのデストロイ・オール・モンスターズっていうバンドのナイアガラと、ヒステリックでコラボしたりして交流があって。2007年に(ザ・)ストゥージズがフジロックへ来たときに、彼女に「ストゥージズが行くから楽屋に挨拶に行きなよ」って言われたの。そこでイギーとかロンに会って、「デトロイトに興味あるから行きたい」なんて話をしたらロンが「俺らのアーカイブを見せてやるから来いよ」って言うんだよね。「断る理由なんてないでしょ?」って(笑)。

一同:笑

北村:それで行ってみたら、本当にいい街でさ。フォトジェニックだし、何度も行くうちに段々とコネクションができて。ローカルの人たちがものすごく優しいんだよね。「なんでここに来たの?」とか「うちの店を撮影で使ってくれんの? うれしいなぁ」とか、とにかく協力的でさ。それで結局デトロイトで撮った写真で写真集を何冊かだしたりしたんですよ。

一同:へぇ~!

北村:それとは別にザ・キルズっていうバンドが日本に来たときに仲良くなって。そのバンドのアリソンっていうヴォーカルの女の子がジャック(・ホワイト)と一緒にザ・デッド・ウェザーっていうバンドをやってて。

北村:そのデッド・ウェザーが来日したときに、『Huge』でインタビューしたいっていうから交渉しにダメもとで楽屋に訪ねていったの。「実はこういう写真が撮りたくて」って言いながらデトロイトで撮った写真集見せたりしてね。そしたらジャックが「あ、これは俺がいつも通ってるホットドッグ屋だよ!」とかさ、「ここは俺が通ってた中学校の近くだ」とか言って、仲良くなって。

水谷:最初はそんな感じだったんですね。

北村:そうそう。それで無事にインタビューもできて、意気投合しちゃってライブ終わったあとに朝5時まで一緒にどんちゃん騒ぎして。そうゆう思い出が最初にあったの。そのあともナッシュビルにあるジャックのオフィスを訪ねたりして、一緒に撮影もしたりしてとにかく協力的なんだよね。夜になると「ここでこういうライブがあるから絶対行ったほうがいい」とか教えてくれたりさ。いろいろお世話になったの。

それで今年に入ってゴールデンウィークの2週間前くらいかな、オファーが来て。

水谷:いきなりきましたよね。

Photo_Olivia Jean

北村:ジャックからのメッセージで、「東京に1週間行くんだけど、そこでニューシングルのMV撮りたい」と。いままで協力してもらってきたし「できることはやるよ」って返したら、「1週間の間に1日だけオフがあるから、その日に撮りたい」って言ってて(笑)。

清水:たった1日だけ…(苦笑)。インディーズバンドじゃないんですからね(笑)。

北村:しかも、その連絡が来日の2週間前なんだよね。

水谷:加えて、撮影してから納品までが10日間くらいしかなくて。鬼のスケジュールでしたね。

北村:これは絶対に予定組めないなぁと思ってて、どうしようかなと思い悩んでたときに「あ、そうだ」と閃いて。ジョニオがいたな、と。

一同:笑

北村:それでダメもとでジョニオに相談したら「みんなやりたいって言ってます」っていうことで、それがはじまりだよね。

水谷:とはいえ、当時は本当に忙しい時期で。どうすればできるんだ? みたいな。俺もモーリー※も、永戸さん※も動けないっていう状況で。でもプロダクションとしては絶対に受けるべきでしょって話しているときに、ここにいる荒井ちゃんと清水くんのふたりの名前が上がって。

※守本勝英さん / フォトグラファーでありUNDERCOVER PRODUCTIONのメンバー。
※永戸鉄也さん / アートディレクター。守本さんと同様にUNDERCOVER PRODUCTIONのメンバー。

高橋:ふたりは準構成員だから。

一同:笑

水谷:日本にはたくさんいいクリエイターがいるけれど、ジャック・ホワイトを相手にいい作品がつくれる人となると限られるわけで。ジャックの個性に対して荒井ちゃんと清水くんを当てるというのは、ぼくらとしてはおもしろいなぁ、と。

高橋:でも、スケジュール的には9割断る話だよね、これ(笑)。

清水:ぼくも一本動かしましたからね(笑)。

一同:笑

北村:写真だったら自分の力でどうにかなるんだろうけど、ムービーだとそうもいかない。とはいえ、ジャックの頼みだし断るにも断れない。そういうタイミングでさ、アリソンから「マイボーイズたちが東京に行くからよろしくね~」なんてメールが来るんだよね(笑)。それでジョニオに電話して受けてもらえてよかったよ。

荒井:最初の打ち合わせのときの殺伐とした空気はもうすごかったですよ。

北村:殺伐なんてしてないじゃん。

荒井:いやいやいやいや、そんなことないですって(笑)。
 
 
 
関東におけるデトロイトみたいなのを考えていた。(北村)

水谷:前回のラカンターズのMVは以前はジム・ジャームッシュが撮ってるんですよ。それこそ、ホワイト・ストライプスの時代のMVはミシェル・ゴンドリーが撮ってたりとか。俺たちが映像や写真を志すときに憧れていた人たちがやってるわけですよ。

北村:ジャック自身もニューヨークとかロスとかってあまり好きじゃないのよ。だから、東京とか六本木で撮るなんてもってのほか。デトロイトっていうのは暴動が起こった街だから。古くていい建物とかたくさんあるんだけど、人が全然いないし、広告も見当たらない。ようはゴーストタウンみたいになっててさ。でも、街の景色はすごくいいんだよ。

それで、ジャックから話がきたときに関東におけるデトロイトみたいなのを考えていたんだけど。たまたま自分がむかし波乗りやってたときだとか、最近だとゴルフへ行くときなんかに千葉へ訪れるんだけど、さびれた繁華街とかがあったりして、なかなかいいじゃんって思ったことがあって。それで千葉がピンと来たんだよね。それを打ち合わせで話したときに、みんないいじゃんって乗ってくれてさ。

清水:どこなんだろう? って思いますよね、あそこ。

北村:その感じがいいんだよね。どこなんだろう? って思われるくらいがちょうどいい。

水谷:すぐにロケーションの提案があって、ぼくらもロケハンに行って。そこはスムーズでしたよね。

北村:できあがったビデオを何も知らない人に見せたりすると、日本人ですら異国情緒を思い描くような、そんな空気があるよね。東京っぽくないし、日本らしさっていうのも意味で薄い。かといって中国や韓国でもないし。アメリカの郊外が持つしみったれた感じも出ているし。
 
 
 
もう自分ができることを全部出すしかないなと。(荒井)

水谷:清水くんはこの話が来たときにどんなことを思ったの?

清水:納品まで時間がないっていうことで、それならそれなりの散らかし方をしたほうがいいのかなと。でも、やっぱり最初は「やべぇ、どうしよう」っていうのはありましたよ(笑)。

水谷:それはラカンターズという相手に対して? それともスケジュール的に?

清水:撮影のモチーフに関していうと、諸先輩方が集まっていたので、力がみなぎる感じというよりはアンニュイなゾーンを狙うだろうというのは思っていました。そこらへんは先輩の胸を借りるような気持ちでしたね。まぁでも、逆にスケジュール的に余裕があったら、絶対に自分に回ってこなかった仕事だろうなぁ。

水谷:そのくらいビッグネームの案件だもんね。

清水:ぼくらの世代からしたらギターヒーローですから。

北村:撮影現場で待ち時間とかにメンバーと話をしたんだけど、みんなリラックスしてたよ。清水くんとか荒井ちゃんの「ああして、こうして」っていうオーダーに対して全部従ってやってくれてたじゃん。

清水:ぼくは日本人のMVしか撮ったことなかったんで、結構緊張してたんです。ミュージシャンとして「俺はちゃんと通電している楽器じゃないと弾かないぜ」みたいな、“海外ルール”とかあったらどうしようみたいな。当日にそれを相談したら「君はライブと同じような感じで音出しながらやりたいの? MVの撮影なのに?」みたいなこと言われて、「全然任せるよ!」みたいな感じだったので、俺の緊張はなんだったんだってなりましたね(笑)。

でも、その代わりに「お酒は飲みたい!」っていう感じでしたよね。酒飲みながら楽しいムードで! みたいな。ここでアメリカンな感じ出してくるかぁと思いましたよ。

水谷:なるほどねぇ。日本の文化との違いというか、どっかで楽しみながらやりたいというのはあるのかもね。荒井ちゃんはどうでした?

荒井:決定的だったのは、打ち合わせのときにジョニオさんとノブさんが、「いけるっしょ」って言ってくれたんです。その瞬間にいろんなタガが外れたというか、「なんかあったら俺らがケツ拭くからお前ら行ってこい」って言われたような気がしたんです。それでもう自分ができることを全部出すしかないなと。打ち合わせの帰り道に清水監督とふたりで話したときに「気を使ってもしょうがないよね」みたいな話をして。ちょっと吹っ切れた感覚はありました。

それで実際に現場で本人たちにあって、目を見たときに「正々堂々といける人だな」というのが分かって。全部伝えましたね。あれやってくれ、これやってくれって。

水谷:ふたりに頼んだ時点で、ふたりの持ち味だすしかないじゃん。そこで引かれちゃったら頼んだ甲斐もないし。

北村:ぶっちゃけ、清水くんの作品を見たときに、一癖も二癖もあるもんだから、「これどうかなぁ」と思ったのはあったよ(笑)。でも、一回音を消して映像だけを集中して見たの。

清水:あぁ~、なるほど。

北村:そうすると、やってることとか工夫が見えるわけ。だから彼らに見せるときも「音を消して見てくれ」って伝えてさ。

清水:すみませんでした(笑)。
 
 
 
俺はアートとか音楽とか映画とか、そういうもののほうが好き。(高橋)

水谷:まぁでもすごくいい作品ができて、ツイッターとかでも検索したんですけど、結構おもしろい反応が見えて。「これ関東? 木更津?」みたいな声もあったりして。あと「ゆるキャラが映ってる」とか(笑)。「なんで?」っていう声ももちろんあって、まぁそういう意味でも話題になっているというのはすごい健康的な感じがしますよね。

北村:あぁ、きみぴょんね。あれは俺もうれしかったな。ご当地キャラのなかでいちばん好きだから(笑)。

水谷:それで、今回はおもしろい座組みでMVをつくったというのがあって。ディレクターの清水くんは映像畑の映像監督で、かたやジョニオさんとノブさんはファッションのデザイナー。そしてぼくと荒井ちゃんは写真家ですよね。その真ん中には共通点として“音楽”というものが存在すると思うんです。

でもみんなやっていることはそれぞれで、本当は一緒のこと考えているはずなのに、どこか交わりにくい時代なのかなと俺は思っていて。本来なら、もっとジャンルを越えて混ざり合うべきなんじゃないかなと。そうしながら東京らしい文化とかをつくりたいなと。

それで、ファッションとか、映像とか、それぞれの観点から見たMVとか、自分たちが影響を受けたMVなどについて話がしたいなと思っています。そういったものをもっといろんな人、特に若い子たちに伝えたいなと。

まずジョニオさんに聞きたいんですが、音楽やMVの世界っていうのは〈アンダーカバー〉と隣接したものですよね。もちろん〈ヒステリック・グラマー〉もそうですし。さっきも話したように、いまは映像屋、ファッション、写真家みたいなのがなんとなくバラバラな気がするんですが、ジョニオさんたちの世代はもっと混ざり合うのが当たり前でしたよね?

高橋:そうだね。でもファッションてさ、なんか文化の一部みたいなところがあるじゃん。俺はアートとか音楽とか映画とか、どっちかというとそういうもののほうが好き。大本はそっちから影響を受けてるよ。もちろん服も好きなんだけど。

水谷:ノブさんもそんな感じですか?

北村:もともとは音楽があって、好きで、それでアーティストたちと関わるにはどうしたらいいんだろうって思ってはじめたの。デザイナーになったらそういう人たちと会えるかなって。デザイナーに憧れてとか、お店を持ちたいとか、そういう気持ちでなったわけじゃない。

高橋:音楽を聴いて、そこからファッションに入っているから。それで結果的にこうしたプロダクションでMVをつくってて。80年代後半とか90年代って、MTVもそうだけど、MVを見ることが音楽を聴くことと同じだった。昔は音楽って聴くものだったけど、MTVが出てきてからは、音楽がだんだん映像とリンクするようになってきて。それを見て育ってきてるから、ファッションも含めてそういうものを形にできることができたらいいなと思っていたところに、(水谷)太郎たちから「こういうのをやりたいんですけど」って相談があってさ。それでプロダクションをスタートしたの。それはすごいおもしろい試みだなと思って。

清水:でも音楽だけに限定するわけではないですよね。興味があるものだったらなんでもというか。

高橋:もちろん。垣根なんてないからね。

水谷:インテリアや建築だってそうだし、もしかしたら食べ物のパッケージだって含まれるかもしれないけど、すべて表現である事は変わらない。写真や映像もそうだし。

高橋:そうだね。そういう意思を持って俺らは立ち上げて、なんならお菓子のパッケージだってやりますよ。それぞれプロフェッショナルな人たちが集まれば、既定概念を壊して新しいものができると思ってるから。
 
 
 
アナログで、しかも短期間でできるっていうのがいまの時代に必要。(北村)

北村:ちょっと話が戻るけど、ジャック・ホワイトだってそうじゃん。未来に向かって突っ走るんじゃなくて、過去に向かって突進していくっていう。過去にはいっぱいいいものあるじゃん。ギターにしても、ミュージシャンにしても、いろんな優れたカルチャーがたくさんある。いまの時代、新しいギターのテクニックなんて誰も持ってないのよ。その代わり、デジタルが発達してそれを上手に利用してるやつらはいるけど。たとえばいいフィルム映像を撮るとか、いい写真を撮るとか、いい絵を描くやつは少なくなってる。過去にはもっといっぱいいたよ。

だからジャックはそっちに行くんだよ。「こんだけの機材しか持ってないのに、この時代にこんな音だしてるやつは一体何者なんだ?」って思うよね。そういうところに対してリスペクトして、そこに突っ走ってる結果がいまのサードマン・レコードだったりするわけじゃん。

もともとジャックはデトロイトで生まれ育って、自分が音楽家として成功して、今度はサポート側に回ったときに、デトロイトで商売をするっていうのは考えられなかったんだよね。カルチャーはあったけど、ビジネスができるような状況じゃなかったから。それでいまジャックがやってるナッシュビルは印税がものすごく低いんだよね。だからそこにサードマン・レコードをつくって地道に活動をはじめて、最近はデトロイトにレコードのプレス工場をつくったの。自分のお店も一緒にね。この前彼らが日本に来る前に行ってきたんだけどさ。工場のなかをきれいに黄色く塗ってさ、レーベルカラーにして、古い機械にも全部自分たちのロゴを入れたりしてて。いま彼はそういうことに熱中してるよ。

水谷:世の中がデジタルに向かっていく一方で、こういう情報の伝達方法ってすごく貴重だし重要ですよね。勝手に知れちゃう情報ってたくさんあるけど、ジャックがやっていることとか、そこでノブさんが体験してきたことをちゃんと伝えていかないといけないって。

北村:今日起こったことを記事にして明日の朝刊で流すとかさ、アメリカにいるけど日本の人たちとスカイプで話すとかさ、そういう意味でデジタルはすごい便利だし進化したわけよ。だけどすごいよね、今回のMVの制作ってアナログじゃん。2週間くらいかけて準備して、1日で撮影して、それを全世界に発信してるわけだよ。すごくない? アナログで、しかもあんな短期間でできるっていうのがいまの時代にものすごく必要なことなんだよ。それはやっぱりチームがあってこそだもんね。

水谷:みんなそれぞれ経験を積んできた人たちが集まったなというのは感じましたよね。

高橋:そもそもノブさんとジャックの繋がりがあってさ、そこで生まれた話を俺に相談してくれて、俺もみんなと話をしてやろうってなったわけで。人の繋がりみたいなのは感じるよね。

北村:そこには信頼関係とか付き合いっていうものがないとできないからね。じゃああの打ち合わせをラインでやりましょうって言われても無理でしょう。

高橋:ちゃんと会って話して何かが生まれていく感じっていうのは、いまもむかしも変わらないよね。どれだけ文明が発達したとしても、結局それがいちばん強い。ジャックとノブさんの関係とか、みんなそうしたものを理解した上でつくるから、作品にもそういう気持ちが宿るじゃん。清水くんと荒井ちゃんのタッグに任せたのも、おもしろい流れみたいなのを期待してのことだし。
 
 
 
「俺たちはここでMVを撮ってるんだ」という気持ちにさせた。(北村)

北村:あの映像にもアナログ感いっぱい出てたじゃん。公衆電話とかさ。

水谷:俺はMVのなかにアー写を16発入れるっていう考え方がいちばん好きで。めちゃくちゃアナログじゃないですか? あれって。

北村:バッティングセンターとかね。

水谷:監督から勝算があるのはそこだって力強く言われて、「なんでだろう?」って一瞬思ったけど、見てみたらたしかにあそこはおもしろい。16ビートのなかで16発アー写を流すっていうのは、ある意味世界共通というか、共通言語でもあるなぁと思いました。みんなすごいところ見てるなって。

北村:いろんな記事をみたら、結構みんなそこを取り上げてるよ。「妙なポートレートだ」って(笑)。

一同:笑

水谷:終わったあとに荒井ちゃんが「あれがいちばん辛かった」って言ってて。俺もあれをやらされたら辛い。でも、それを荒井ちゃんにやらせる清水くんの妙みたいなものもあったりして。そういう意味でもふたりはぴったりハマってたよね。

清水:時間がないなかでこのメンバーで楽しめることといえば、やっぱりそこだよなと。

北村:最初にメンバーが現場に来る前にチークタイムのシーンを撮って、そのあとにライブのシーンを撮ったじゃない、その映像をチェックしながら、メンバーたちは「任せる」ってなったと思うよ。

清水:ぼくもそう思います。あれはバッチリでした。

北村:あそこで雑な映像になってたら、メンバーも考え方を変えなきゃいけなかったはずだから。「わざわざ東京に来て、なんで俺たちはこんなことやらされてるんだ」って。

水谷:そういう意味ではすごい勝負してますよね。

北村:主役であるメンバーたちが楽しくなってるんだもん、そこでさ。現場に彼らが連れてきたカメラマンとかもいてさ、空いてる時間に外の潰れたスナックの写真撮って来たりしててさ。そこのサインがレイカーズのロゴを真似してるんだよね。撮った写真をメンバーに見せて「お前これどこだよ? 俺にも場所を教えろ」なんて会話をしてるんだよ。

清水:あのビルはネタ満載でしたからね。

北村:「俺たちはここでMVを撮ってるんだ」っていう気持ちにさせた感覚があったよね、1カット目と2カット目でさ。ましてや1カット目なんておじさんとおばさんが踊ってるだけなんだよ。

清水:あれ、気に入ってましたよね。

北村:あそこもうちょっと増やせばよかったのに(笑)。

最終的には編集に対してメンバーたちも要望を伝えてくれて。とはいえ制作サイドにも各々こうしたいっていう意見があって、そのキャッチボールをした結果、いいバランスになったと思うよ。

清水:ぼくもそう思います。編集の時間が少なくてブーブー言いながらやってたんですけど(笑)。でもまぁ、主役は長めに映して、アクセントにしたい部分を際立たせてみたいな構成でボールを投げると、やっぱりどうしても詰めが甘くなるんです。だからメンバーたちの要望を聞いて、「あっ、もっとここを詰めろってことだな」って理解しました。
 
 
 
ふたりの散らかし待ちだよ。(高橋)

清水:それと、16カットのアー写のうち3カット分撮り終えたくらいで、「ここからなだらかなスロープを描くな」と思ったんです。

水谷:尻すぼみになっちゃうってこと?

清水:そうです。ここで新たな燃料を投入しないとなと思ったんです。そろそろ散らかさないとなって(笑)。たぶん荒井さんも同じことを思ってたのか、すでに散らかそうとしてて、俺はそれをキャッチしてノブさんに言ったんですよ、「荒井ちゃんを見てください、ジャックに板もたせてますよ。ほっといていいんですか?」って(笑)。

荒井:廃墟とラカンターズが似合うなと思いはじめてて、だったら廃墟に染めようと思って。

北村:でも、あの板必要だったか?

水谷:それずっと言ってますよね(笑)。

北村:あれをジャックがうまく利用してくれたからよかったよ。

清水:「これナシでもいいの?」ってノブさんが現場で言い出して(笑)。

水谷:荒井ちゃんも清水くんも、誰であろうと関係ないっていう人なのよ。たとえ相手がジャック・ホワイトであろうがね。そこがいいんだよ。ふたりともジャックがどんな人とかしってるくせにさ(笑)。

高橋:そこで引いちゃうやつは選ばないよ。

Photo_David James Swanson

北村:ソファーの後ろに食器棚とかテレビとかあるシーンあったじゃない? 家族ゲームみたいなやつ。それでメンバーをソファーに横一列で並べてさ。「ここで撮ります」ってなったときは一瞬「えっ?」って思ったよ。だけど、あとになってすごいなと思ったのは、YouTubeのサムネイルであのシーンが使われてるんだよね。

高橋:もしかしたらこのまま笑いのほうにいっちゃうかも、みたいなことですか?

北村:そうそう。あそこはそのドアだった。

高橋:最初のミーティングでそうゆう方向にならないようにって話してたじゃん。でも俺はちょっとそっちの方向に行ったほうがいいんじゃないかなと思ってたの。そのほうが荒井ちゃんたちの持ち味が出せるだろうなって。

水谷:最初、大漁旗入れるみたいな話ありましたもんね(笑)。脚本が上がってきたときに、暗い部屋でおばあさんが大漁旗を縫っているって。

一同:笑

水谷:ディレクターズカットとして撮り直しましょうか(笑)。

高橋:俺的にはそれ入れたほうがいいと思ってたよ。ノブさんも好きなはず。

北村:パリコレで真っ暗な会場のなかで真ん中におばさんがいて、みたいな(笑)?

清水:俺たちはそのイメージですよ! むしろ、それが伝わってなかったことのほうがショックです!

北村:でもバンドからの最終的なオファーでは、散らかした部分をいい感じに排除したよね。しつこいところはなくなってさ。俺はジャックが街中を歩いているシーンはそんなにいらないんじゃないかって思ってたんだよ。

清水:ひとりで徘徊するってノブさんが言ってたから、これはしつこくやっておかないとって思ったんです。

北村:でも、赤子から煙が出てくるシーンのときはジャックがノッてたよね。煙を鼻から出したりして。

清水:打ち合わせのあとに荒井さんとふたりで王将に行ったんですよ。それで餃子を食いながら、「散らかそう」って話をして(笑)。

高橋:俺らはそれ待ちだから。

一同:笑

清水:それで、どうやったらジャックがよろこぶかなと考えた挙句にひねり出したのが赤ん坊だったんです。

荒井:王将でひねり出したんですよ、その答えを(笑)。

北村:赤ん坊じゃなくて、“赤子”だから。

一同:笑

高橋:でも、あのダンスシーンを増やせって言ってきた向こう側の意見もすごいよね。あれは絶対に足したほうがよかったもん。不思議な話で、みんなが全体のバランス感を共有してたよね。

北村:よくあのダンスシーンの足元も撮ってたよね。最初の編集では入ってなかったじゃん、あれ。

清水:最初の打ち合わせでデヴィッド・リンチも出ましたし、ジム・ジャームッシュも参考に上がったりしてて。もうとにかく先輩方のプレッシャーが…。

北村:プレッシャーじゃなくて煽ってるんだよ。

水谷:でも、俺らにとって代打の切り札だから(笑)。

一同:笑

水谷:〈UNDERCOVER PRODUCTION〉初の代打。俺らの切り札はふたりしかいなかったからさ。
 
 
 
音楽を聴くと、MVも、ジャケ写も、アーティストが着てた衣装も思い出す。(清水)

水谷:でも冷静に考えて、グラミー賞を獲ったアーティストのMVを日本人が撮影するなんて、今後もあまりないケースだと思うんです。さっきの話の続きで清水くんに聞きたいんだけど、映像監督から見て、いまのMVがどう影響を与えていると思う? ファッションや東京において、MVはどういう役割を果たしているか、清水くんはどう捉えている?

清水:MVは、自分が持っている発信源だと思ってます。作品を見て、その曲のムードを感じ取ってほしいというか。SNSが全盛のなかで、それ自体を疑問に思う日本の考え方もあるのはわかるんですが、たぶんラカンターズのメンバーたちもそうですけど、英語圏のミュージシャン的にはそんなの関係ないと思うんですよ。

水谷:俺自身の感覚からすると、楽曲と一緒にずっと残り続けるものだと思ってて。Youtubeができてそうなってるじゃん。たとえば街中でとある曲を聴いたとして「あ、あの曲だ!」ってなったときにMVも一緒に思い出すみたいな。そういう感覚ってなかなかファッションじゃ味わえないんだよね。服自体は残っても、俺らが撮影したファッションストーリーを思い出す人っていないと思うから。そういう意味で映像がすごくうらやましかったりするわけ。

清水:そういう意味でいうと、映像でいちばん強いのは映画なんですよ。だから音楽って特別な位置にあるなと思います。映像も引っ張りだされるし、ジャケ写もでてくるし、アーティストが着てた衣装も思い出すし。

水谷:俺らはどこかでMVに影響を受けてきているし、あと何本かいいMVを残したいですよね。あのときのあれって思い返されるようなものをつくりたい。

清水:ファッションとか、写真とか、総動員で関わるべきカルチャーだと思います。

北村:ソニックユースっているじゃない。彼らはブートレグを認めたのよ。いろんな街で、それこそ新宿とかにブート屋がいっぱいあった時代でも、自分たちのブートレグを探してコレクトしてるの。ライブで隠れて録音してたやつとか、PAから漏れたやつとか。それで、そうゆうのを認めてたんだよね。たぶんジャックもブートレグを探すタイプのミュージシャンだと思うな。

清水:誰かに自分たちのブートをつくられるぐらいなら、ジャックは自分でブートをつくるタイプだと思いますね。人にやられるのは悔しい、みたいな(笑)。

北村:ジャック・ホワイトのライブって携帯使うの禁止なんだよね。だから、SNSとかにはもちろんアップできない。だけど、なんとか網をかいくぐって録音したり映像を撮ったりしたやつは認めると思うよ(笑)。そこなんだよね。YouTubeとかがあって、それがいまの時代なんだけど、むかしはブートカルチャーっていうのがあった。本当だったら、それも味があるわけじゃん。

水谷:ブートのほうが愛情深い感じがしますよね。

荒井:いまはないんですか?

北村:マーケットがなくなっちゃったから。ブートCDとかDVDを売ってるお店なんてもうないでしょう? ネットで売れるわけもないしさ。
 
 
 
自分の娘もちゃんとスリラーは見てるんだよね。(高橋)

水谷:荒井ちゃんにとってMVはどんな役割を果たしてますか?

荒井:ぼくは高校まで見たことなかったんです。栃木出身なんでMTVも流れてないし、MVよりもまずは映画があったので。完全に後乗りですよ。だからそもそもMVに恩恵があまりないんです。

清水:ジム・ジャームッシュ好きなんですよね?

荒井:デレク・ジャーマンの影響のほうが大きいです。フィルムフェスティバルとか栃木にはあったけど、MTVは宇都宮は流れてなかったですね。

高橋:MTVは俺も東京に出てきてからかも。でも、90年代頭から半ばぐらいのMTV全盛の時代って完全に「音楽=MV」だったよ。

清水:映像も含めてかっこよかったのはどんなアーティストですか?

高橋:ニルヴァーナの『イン・ユーテロ』とか、『ハート・シェイプド・ボックス』とか、あのへんはよかった。オルタナがはじまったくらい。

水谷:U2とかさ、アントン・コービンが撮ってたり。フォトグラファーが映像撮ることにびっくりしたりしたな。そういう事実に喰らったというか。

高橋:俺は中学のときに「ベストヒットUSA」がやってて、スリラーのMVを日本初公開でリアルタイムで見たの。マイケル・ジャクソンとか興味なかったけど、あれは衝撃的で。映画だった。それを音楽のMVでやるっていうのがすごいし、やっぱ見ちゃう。俺たちがそういう世代なのはわかるんだけど、自分の娘もちゃんとスリラーは見てるんだよね。もちろんいまの新しいやつも。やっぱり常に影響力ってあるんだと思うよ。

清水:ぼくらのときはMDプレイヤーが流行った時代で、やっぱりジャミロクワイ。CDTVで床が動くMV見て、「床が~!」って(笑)。

水谷:俺らの世代は完全にスパイク・ジョーンズで、ビースティ・ボーイズやら、ソニック・ユースやら、「なんでこんなの撮れるの?」って思ったよ。「お金かけなくたっていいのが撮れちゃうんだ」って。「予算がないなんてもう言えない!」みたいな(笑)。

清水:スパイク・ジョーンズのあのノリはすごいですよね。あとで金持ちだと知ってショック受けましたけど(笑)。

北村:スパイク・ジョーンズの親父はアメリカで最初に通販やったような人なんだよ。

水谷:ぼくも撮影で家に行ったことあります。もう本当にすごいですよね。

北村:ソフィア・コッポラと離婚する前かな? 家に行ったんだけど、でかいプールがあってさ。あそこで『ロスト・イン・トランスレーション』の企画つくってたの。俺、結婚式行ったんだよね。

一同:え~!?

荒井:ウソですよね!?

北村:本当だよ。ナパバレーにあるコッポラのワイナリーのなかで。「ソフィア」っていうシャンパンが有名でさ。

清水:相当な金持ちですよね。ワインができちゃう血筋なんて。

荒井:どんな結婚式だったんですか?

北村:正直、『ゴッド・ファーザー』とかそういう次元じゃないよ。夕方の17時にスタートして、次の日の朝の5時までぶっ通し。お酒は赤と白のワインとシャンパンしかない。それをずっと飲んでるんだけど、吐いているやつはどこにもいなくて。

水谷:それだけいい酒ってことですね。

北村:夜中の1時くらいにジョナサン・リッチモンドのソロライブとか普通にやるんだよ。トム・ウェイツもやったりさ。

荒井:マジですか!? やばいですね。

北村:細長いテーブルが200メートルくらい続いてて、みんな席番号決まってるの。子供用のエリアとかもあって、そこには手品師とかいるんだよ。

北村:敷地がすごい広いんだよ、とにかく。それで古い倉庫があるんだけど、なかに入るといろんなものが置いてあるの。『タッカー』のときのクルマとか、『ゴッド・ファーザー』の衣装とか、でっかいシャンパングラスとか、そういうのが飾ってあってさ。中庭にはDJとかがいて、みんなでそこで盛り上がってたらいきなりオトンが出てきて「ちょっと音を止めて! みんな裏庭きてくれ!」みたいなこと言いだすの。すると裏庭にキャンドルの道ができてて、みんなでゾロゾロと結構歩いた先が崖っぷちになっててそれ以上先に進めないから待ってたら「谷の向こう側を見てくれ」って言うんだよ。そしたら兄貴のローマン・コッポラからソフィアへのプレゼントですって、「SPIKE LOVES SOPHIA」って書いた仕掛け花火がバチバチバチバチってあがるわけ。

一同:うわぁ~!

荒井:なんで離婚したんですかね。そこまでやったのに。

清水:派手に結婚したほうが、派手に別れるって言いますよね…。
 
 
 
スパイク・ジョーンズとミシェル・ゴンドリーはすごい!

水谷:今回みなさんがおすすめしたいMVとか、「これ見てほしい」っていう作品を読者に伝えたいと思います。フイナムの読者の方々はぼくらよりも下の年代が多いと思うし、それを繋げていきたい。

高橋:だとしたら、やっぱりホワイト・ストライプスじゃない?

高橋:俺が好きなのはレゴのやつかな。

水谷:レゴを組み上げてそれをコマドリするっていう異常行動ですよね。これはミシェル・ゴンドリーが監督してますね。

高橋:あとはニルヴァーナの『ハート・シェイプド・ボックス』。当時、すげぇなって思ったんだよね。好きな曲はまた別だけど、MVっていう意味ではこれだね。

水谷:これはアントン・コービンですね。

清水:そういう意味だと自分はケミカル・ブラザーズの『スターギター』ですね。

水谷:これもやばいよね。あれ? これもミシェル・ゴンドリーだっけ?

清水:そうなんです。

高橋:やっぱりすごいね、ミシェル・ゴンドリーは。

水谷:常軌を逸してますよね。車窓から撮ってるただの景色だと思ったら、全部音とリンクしてたっていう。

清水:車窓を見ながら音楽聴いてた人が想像してたことを形にしましたよね。

高橋:あと、スパイクのダフト・パンクのやつとかもいいよね。犬のやつ。

水谷:結局この辺ってなりますよね(笑)。

北村:あとビョークもいいよね。

清水:ビョークのMVもミシェル・ゴンドリーがやってますよね。

水谷:そうするとゴンドリー祭りになっちゃうね(笑)。

水谷:俺はスパイクが撮ったウィーザーのMVが好きで。動物と戯れてるやつ。

高橋:『アイランド・イン・ザ・サン』でしょ? いいよね。

水谷:スパイクとミシェル・ゴンドリーはもろに影響受けますよね。

清水:ぼくはクリス・カニンガムも好きですね。

水谷:クリス・カニンガムはビョークのやつもいいよね。

高橋:時代的にはやっぱり90年代半ばから後半がいいのかな。

水谷:荒井ちゃんは?

荒井:ぼくは『不良の森』ですね。ブランキー(・ジェット・シティ)の。

水谷:番場(秀一)さんが撮ってるやつですよ。

荒井:もう、これがかっこよくて。

高橋:俺はもう番場くんと『不良の森』っていう組み合わせだけでお腹いっぱいになるな(笑)。やばいじゃん。俺、番場くん大好きなんだよ。

清水:ぼくに編集を教えてくれたのは馬場さんなんですよ。

高橋:あの人を見てるだけで楽しいよ。マエケンのMV*を撮ったときもずっとバックステージ撮ってたんだよ。てか、『不良の森』ってすごくいいタイトルだよね。この曲すごい好きなんだよなぁ。

※〈UNDERCOVER PRODUCTION〉が手がけた前野健太の『夏が洗い流したらまた』のMV。

荒井:ジョニオさんは不良ですもんね。

高橋:不良じゃないから。

一同:笑

高橋:でもいままででいちばんライブを見たのはブランキーかもしれない。あとはゆらゆら(帝国)。数でいうとね。

清水:イカ天世代ですか?

高橋:そうだね。でもイカ天はあんまりだったな。でもブランキーは好きだった。なんかイカ天ってバンドを一括りにしてたじゃん。そういう風にすんなよっていう思いはあった。

高橋:あと、ゆらゆらの『冷たいギフト』のPVも好きだな。いろんなエフェクターが出てくるんだけど。それが全部かっこいいの。

清水:これ、ぼくが編集してるんですよ。なんかうれしいです。ジョニオさんがそう仰ってくれて。

荒井:太郎はなんなの?

水谷:ぼくはウィーザーですよ。さっき話した犬が出てくるやつ。

荒井:あぁ、そっか。スパイク・ジョーンズっていくつくらいなんだろう。

高橋:たしか俺と一緒かな。69年生まれ。

清水:スパイクは天才ですよね。

北村:時代に受け入れられた人だよね。

水谷:アンクルっていうバンドのMVで、スケーターがスケートパークでトリックすると全部爆発するっていう。あれもすごいですよね。

高橋:あれもスパイクか。スパイクもすごいな。

清水:ジョナサン・グレイザーが撮ったアンクルのいいMVもありますよ。

清水:フード被った男がブツブツなんか言いながら夜中に歩いてて、車にはねられまくるんですよ。

高橋:『ラビット・イン・ユア ヘッドライト』だよね。これもいいよね。

荒井:ノブさんはなんかありますか?

高橋:俺も結構ノブさんに教わってるからね。「これジョニオ絶対好きだから見てみなよ」って言われて見たのがヤン・シュヴァンクマイエルで。そしたらやっぱり好きだったの(笑)。本人に会いに行くくらい好きになっちゃって。

荒井:え? どこ行ったんですか?

高橋:プラハ。2回行ったよ。日本で個展やったときも上野を案内させてもらって。ふたりでプラプラと。2004年くらいかな。

清水:ぼくはスパイクよりもヤン派です。じつは(笑)。最初アニメやってたんですよね。

高橋:映像はもちろんすごいもんね。

清水:シーナ&ロケッツの映像は、ヤン・シュヴァンクマイエルの影響がもろ出てますよ。本当に憧れているので。

高橋:ノブさんに見せられたときはショートフィルムから見たんだよね。短いのが結構たくさんあって、それがものすごくて。そのあとに長編があるのを知って、それも見たら、やっぱりすごくてさ。あの人に捧げるコレクションもやったりしたんだよなぁ。ヤン・シュヴァンクマイエルはアートだよね。

北村:脳みそのなかを表現してるよね、あれはもう。

北村:アニメとかだと、ザッパのクレーンアニメーションもすごいよね。ザッパは天才すぎて売れなかった。アーティストとしてはすごいじゃん。だけども、いろんなことができちゃって、結局自分の持ち味を失っちゃったっていう。

清水:フランク・ザッパとキャプテン・ビーフハートって高校の同級生なんですよね。それもすごい。
 
 
 
MTVが新しい文化をつくったのは確かなんだけど…。(北村)

北村:世代の違いだと思うんだけど、俺はもともとアンチMTVだったのよ。パティ・スミスもそうだったんだけど、MTVが音楽業界をダメにしたっていう意見に賛同してた。

水谷:それはぼくたちの世代では考えられない意見ですね。すごいな。

荒井:フジロックでそれ言ってましたね。カメラが何台かあって、「どこから来たの?」って聞くんですよ。それでみんなどこの放送局か答えるんだけど、MTVに対してはもうひどいこと言ってて。みんな、「ええぇぇぇぇ?」ってなってましたね…(苦笑)。

北村:「私はアンチMTVなんだ」って言った瞬間にドーン! と盛り上がるみたいなね。

一同:おぉぉ~!

北村:たしかにあれでダメにされちゃったアーティストもいるんだよね。そこから新しい文化が生まれたのは確かなことなんだけど。

清水:でも、ミュージシャンたちが叶えたかったことをMTVはやったとぼくは思いますけどね。

高橋:俺もそう思うのよ。パティにしても、もしフィルムを使って70年代に映像を撮ってたらおなじじゃん。MTVがそれを商業化させたからダメだって言ってるんだと思うんだよね。

北村:でもまぁ75年くらいからクイーンとかキッスもMV撮ってたんだよ。

清水:ビートルズもやってましたしね。

北村:ピンクフロイドもね。でもそれをひとまとめにして、「ほらどうぞ」って視聴者に見せてビジネスにしちゃったのがMTVなんだよね。

水谷:もしかしたらYouTubeとかiTunesもそれとおなじことなのかもしれませんね。

清水:でも一方ではふるいに掛けるという見方もできますよね。

北村:当時はレコードからCDに変わる時代と並行してたからね。正直言えば俺はCDすらついていけなかった。レコードのジャケットデザインとか、A面、B面があるのにグッときてたのに。開けたらブックレットも入っててさ、いつかこういうのをデザインしたいなんて思ってたら時代はもうCDになってて。そうするとレギュレーションがあってマークを入れなきゃいけないとか、いろいろ出てきたわけ。別の組織が入ってきちゃってね。便利になる一方で、自由度が狭まっている感覚もあったんだよ。

清水:MVつくりたいやつは映像へ行って、ジャケットつくりたいやつはデザインに行って、Tシャツをつくりたいやつはファッションへ行ったんじゃないですかね。

水谷:当時ね、音楽を軸にってことでしょ?

清水:そうです。ネットが普及するよりももっと前に「音楽ここにあり!」っていうのを伝えたMTVはやっぱりすごいと思いますけどね。

高橋:アメリカっていう大きなマーケットで商業的にやったからというのもあるんじゃない?

北村:テレビゲームとかカラオケも、最初はそうだったんだよ。アンチがやっぱりいるの。でも、結局カラオケは日本の文化に根付いているし、外国人もカラオケに行きたがってるじゃん。
 
 
 
音で聴いていたのが、「これ本当なんだ!」ってなる瞬間。(清水)

水谷:じゃあそろそろまとめに入ろうかと思います(笑)。映像監督である清水くんにとってMVとは?

清水:音楽の可能性を視覚的に見せてくれるものですかね。音楽はさまざまなカルチャーのゴールになりうるものだと思ってて、それをさらに目で明らかにさせてくれるもの。音楽と密接ってことは、すべての芸術と密接であるということだと思いますね。

一同:おぉ~!

水谷:まとめたね(笑)。ジョニオさんはいかがですか?

高橋:すごく画期的なものだよね、MVは。音楽がヴィジュアル化されるっていう。中学から衝撃の連続でさ。しかもいろんな作品をオンタイムで見れて。

清水:盾さんの世代以降は音楽そのものですよね。

高橋:パブリック・エネミーの『ファイト・ザ・パワー』とかさ。ヒップホップなんかはとくに誕生と同時に映像化されているから。音と映像を一緒に見れるっていうね。

高橋:俺は耳で聴いていいなと思ったのはやっぱりクラッシュなんだけど、『ロック・ザ・カスバ』のMVでパンクなやつらが演じてるのを見て「なんかイヤだな」って思ってたの。でも同時期に『アイ・フォウト・ザ・ロゥ』のライブで演奏しているMVを見てさ…。

水谷:かっこよかったと。

高橋:めちゃくちゃかっこいいんだよ。

一同:笑

高橋:パンクにしてもなんでもそうなんだけど、音楽が映像で見えたというのは衝撃だった。

北村:そういう意味でいうと、俺は『ぎんざNOW!』だったのよ。中学のときにテレビで見ててさ、ジミヘンの映像とか流すんだよ。それを見て「俺はギターなんて絶対に弾けない」って思った。キッスのインタビューとかもあってさ、部屋に入ってくるなりソファーの背もたれに腰掛けんだよね、ニタニタ笑いながら。そうゆうの見て、キッスってこういう感じなんだって。

清水:音で聴いていたのが、「これ本当なんだ!」ってなる瞬間ですよね。

水谷:ぼくはそういう意味でいうと、ファッションの影響を受けましたね。靴紐外してスニーカーを履くんだ! みたいな。ファッションの原体験がMVにはあって、Tシャツの着方にしても、合わせ方とかサイズ感とか見たり、髪型やスタイルそのものにも衝撃を受けたりして。


 
 
 
ノブさんは音楽とファッションを繋げた人なんだよ。(高橋)

荒井:ぼくは普段からMVを撮っているわけじゃないですけど、この現場につかせてもらって、結局人の繋がりなんだなって思いましたね。今回はジャックとノブさんの関係がすべてで。その信頼感で全部が成り立っているというか。もちろん制作に対してはちゃんとやらなきゃいけないんですけど、人の繋がりでミュージシャンたちも自信をもったりできるのかなって。人と人ですよね。電話ボックスのシーンを撮り終わったあとにノブさんとメンバーが抱き合っているのを見てそう思いましたね。

清水:ぼくもそれ思いました。当たり前ですけど、この関係は、時間とか、お金とか、そういうのを超えたものだなって。ノブさんが現場で楽しそうなのを見て、俺はうれしかったですもん。

北村:そこで広がって行ってるのがいいんじゃないの? ジャックと俺だけの関係だったらあのビデオはできてなくてさ、そこにジョニオがいて、それからこのチームができていったからだよ。それこそ、むかしから荒井ちゃんのこと知ってたりさ。

高橋:毎年フジロックでノブさんと荒井ちゃんの絡みを見るのが楽しみなんだよね(笑)。

北村:だから今回うれしかったんだよ。モーリーが来るかな? って思ってたら「すみませんノブさん、今回別件入ってて」みたいに言われてさ。「清水くんっていういいやつがいるんですよ。あと荒井ちゃんも」って(笑)。ようやくきたなと。

一同:笑

高橋:俺の前の世代であるノブさんから教わったことを、今度は太郎たちに伝えていきたいんだよね。

水谷:もうずっと言われてますよね。「俺がノブさんから教わってるのはさ」みたいな(笑)。

高橋:ノブさんは音楽とファッションを繋げた人なんだよ。他にいないよそんな人。それを踏まえて考えると、今回のMVの流れも必然的というかさ。

清水:ぼく、いまの話をもっと前に聞いていたら、たぶん断ってますね。重すぎて…(笑)。

一同:笑

水谷:でも本当にジョニオさんはことあるごとにそれを伝えてくれて。

清水:ぼくもジョニオさんとノブさんの対談記事を中学生のときとかに読んだりしてるんですよ。そういう世代なんです。まぁでも冗談はさておき、現場はめちゃくちゃ楽しかったですけどね。

水谷:でもふたりの関係がなかったら、俺らもラカンターズと繋がってないしさ。

北村:なんか幕末みたいでいいね(笑)。

高橋:20代でもわかってるやつはわかってるよ。サイクルとしてそういう時代になってる。彼らは確実にアナログがおもしろいってなってるからね。だから20代の子たちは刺激になるよ。

水谷:でも、今回はいいものがつくれて本当によかったです。今後もこうしたグローバルなオファーがきてほしいし、いま話していたような繋がりの責任もきちんとまっとうしたいですね。

北村:結果的にわかったんだけど、ジョニオが高校生のときに俺らははじめて会ってるんだよ。ビックリしたよ。

一同:ええぇぇ~!

北村:うちの1号店が足利にあったんだよ。

高橋:そうそう。桐生市の隣にある足利にできて。

水谷:え? ヒステリック・グラマーの1号店がですか? なんで足利なんですか?

北村:俺がバイトしてた会社で新しいブランドをやるから、お前に任せるって言われて。それで21のときにスタートしたの。それでこういうブランドをやりたいってコンセプトを提出したら、まだサンプルもつくってないのに取引先の会社の社長がえらく気に入ってくれたんだよね。「足利に路面物件をゲットしたから、そこでやりたい」って。だからサンプルをつくる前から決まってたんだよ。

水谷:そもそも〈ヒステリック・グラマー〉の名前の由来ってなんなんですか?

北村:パーティのステージのヒステリカルな感じと、デボラ・ハリーのグラマラスな感じを一緒に混ぜたらいいかなと思って〈ヒステリック・グラマー〉。ブランド名を決めるときにいろいろ辞書で調べてたんだけど、いいのが思い浮かばなくて。なんか翻訳できないような言葉がいいなと思ってたんだよ。アブノーマルなんとかとか、ジェットコースターなんとかみたいなのを考えてたんだけど、ピンとこなくてさ。

水谷:グルーピーな感覚がありますね。それでそれからしばらくしてジョニオさんと会ってるわけですね。

高橋:俺が高校生になって〈ヒステリック・グラマー〉ができて、音楽とかカルチャーが混ざってたんだよね。だから毎週電車に乗って通ってたの。それで高崎でパーティをやるっていう話を聞いて、しかも北村信彦がDJをやるぞ、と。だから赤ひげ団で行って、ノブさんがDJしている横で大暴れしたんだよね。

一同:おぉぉ~!

北村:ジョニオがそのときの写真(上)を見せてくれてさ、当時俺がつくったスパイダーマンTシャツ着てるんだよ。

高橋:俺はそれがすごい好きだったんですよ。

高橋:そのときにDJしてたノブさんの写真がこれ。97年か、8年くらい。

水谷:いやぁ、繋がってますね。それがあったからこそ、今回のラカンターズのMVが生まれたと思うと感慨深いですね。

Photo_Shunya Arai
Text_Yuichiro Tsuji
Edit_Masaki Hirano


UNDERCOVER PRODUCTION
www.undercoverproduction.com

The Raconteurs
www.theraconteurs.com/

ザ・ラカンターズ、11 年振りとなるが新作が完成。自身3枚目のアルバム『ヘルプ・アス・ストレンジャー』、リリース。

アーティスト:THE RACONTEURS(ザ・ラカンターズ)
タイトル:HELP US STRANGER(ヘルプ・アス・ストレンジャー)
品番:OTCD-6764
定価:¥2,400+TAX
発売元:ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ

収録曲目
1. Bored and Razed
2. Help Me Stranger
3. Only Child
4. Donʼt Bother Me
5. Shine The Light On Me
6. Somedays (I Donʼt Feel Like Trying)
7. Hey Gyp (Dig The Slowness)
8. Sunday Driver
9. Now That Youʼre Gone
10. Live A Lie
11. Whatʼs Yours Is Mine
12. Thoughts and Prayers

このエントリーをはてなブックマークに追加
TOP > NEWS