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【Focus It.】旅先の空気感をパッケージング。417 EDIFICEのムービーを手掛けたクリエイターが考える新しい映像表現。

「若々しく自由な感性で着崩すフレンチトラッド」というコンセプトをベースに、独自のスタイルを提案するセレクトショップ「フォーワンセブン エディフィス(417 EDIFICE)」が先日リリースしたファッションムービー、もうご覧になりましたか?

「OFFとON」「ラフとカジュアル」というテーマのもと、ベトナムを舞台に撮影されたこのムービー。キリッとした男らしさと、ユーモアが入り混じった絶妙な力の抜け具合が上手に融合しており、えも言われぬバランス感でグイグイとその世界観に引き込まれていきます。

制作を手がけたのは「EUPHORIA FACTORY」の山川明男さんと、「HUMPLAND」の戸谷光一さん。二人はどんなことを考えながらムービーを制作したのか? クリエイティビティの源に迫るべく、彼らのもとを訪ねました。

左:「HUMPLAND」戸谷光一さん、右:「EUPHORIA FACTORY」山川明男さん

ー今回のファッションムービーはベトナムが舞台でしたね。

山川:今回のテーマが「OFFとON」ということで、東京でそれを表現するとなると単純に「都会と田舎」みたいな感じになってしまって、どこかありきたりなヴィジュアルになってしまうなと思ったんです。

ーだから海外で撮影をしたほうがいいとなったわけですね。

山川:そうですね。とはいえ欧米でやってもわかりづらくなるだろうし、アジア圏内であれば面白い画が撮れるかなというのが出発点でした。日本人がそこで汗びっしょりになりながらラペルのジャケットを着ているほうがリアルでいいなと。

ーアイデアは山川さんと戸谷さんの二人で出し合うんですか?

山川:そうですね。戸谷くんがベトナム好きなので、ぼくが「こういうのはどうかな?」って相談すると、それに対してきちんとアイデアを返してくれるんです。ロケーションとかそういう部分でもすごく頼りになります。

戸谷:単純にベトナムが好きで。なのでベトナムの魅力をアピールして、なるべく行けるようにしているんです(笑)。

一同:笑

ー二人の役割分担はどんな感じなんですか?

山川:ぼくはアイデアを出して、「こういうイメージで撮りたい」っていうのを戸谷くんに伝える係ですね。クリエイティブ目線でアイデアを出すというか。実際の撮影では戸谷くんが撮って、仕上がりのアートディレクション的なことも含めて編集もほとんどが彼がやってくれています。

「EUPHORIA FACTORY」山川明男さん

ー今回のムービーはベトナムで撮影をすることが決まって、いま仰っていたような“こういうイメージ”というのを共有するために、どんなやりとりがあったんですか?

山川:今回のテーマは「OFFとON」で“OFF”からはじまるんです。短パンにTシャツなんだけど、そこにジャケットを羽織ってもいけますよ、みたいな。なので、コーディネートをいくつも用意してガラッと雰囲気を変えるというよりは、ジャケットを脱いだり着たりしながら「OFFとON」を表現しています。あと、ベトナムの空気感みたいなものも含めて、旅をしている様子も要素としてそこに加わるようなイメージを二人で考えていました。

ーなるほど。完成したムービーでは街中と自然の景色が交互に表れていました。

山川:ハノイをベースに撮影をしていたんですが、そこだけだと全部景色が一緒になってしまって画変わりしなくなってしまうんです。ぼくらはいつもそうしているんですが、ひとつ拠点を決めたら、そこを中心に郊外も訪れるようにしています。事前にどんなロケーションがあるかということもきちんと調べてますね。

ーベトナムでは何日くらい撮影されていたんですか?

戸谷:1週間くらいですね。

山川:1日目にロケハンをして、残りはずっと撮影してました。ロケ場所のリサーチは日本にいる間にめちゃくちゃやってたんですけど、現地に行かないとわからないこともあるので、ある程度目星はつけつつも、できる限りたくさんの場所を廻るようにしていますね。

ーカット数がすごく多いので、ハードな撮影なんだろうなと想像しているんですが、実際どうですか?

山川:撮影は毎回大変だって戸谷くんが言ってますね。

戸谷:大変ですね。。

〈ノンネイティブ〉の13年春夏はトルコがテーマ。宗教や街、人を追いかけ、ドキュメンタリーのような仕上がりに。

山川:前にトルコで撮影したときも、2、3分の動画のために滞在中ずっと撮ってました。日本に帰ってきてからも撮影してましたね。今回も四六時中ずっとカメラを回してました。休みの時間でも、いい風景が切り取れそうだなと思ったら撮影したり。食事も大事な要素なので、食べる前に撮ったりとか。

ー気が抜けないですね。

山川:1分あるムービーのうちのほんの0.数秒くらいしか映らないんですけど、そういった素材が結果として活きてきて、イメージとして頭のなかに刷り込まれるんです。

〈THE NORTH FACE RAGE〉の19年春夏のムービー。「雪山のテントも良いが、都会の屋上テントもある意味最高です」。

ーある種、サブリミナルのような効果というか。

山川:音楽のリズムに合わせてポンポンと画面が切り替わったほうが見やすいし、視覚的にもかっこいいかなって。

戸谷:ファッションムービーなので、もちろん服を見せたいという気持ちはあるんです。とはいえ、モデルが出てきてスタイリングをただ見せるだけだと、服とモデルの印象だけになってしまう。それだけに焦点を合わせるんじゃなくて、現地での空気感というか、ぼくらが楽しいと感じたことも伝えたい。服とは関係ない抽象的なカットをたくさん入れることで、それらの要素が連想ゲームのように繋がってイメージが膨らむように意識しています。テーマがひとつあったとしたら、それを構成する要素をたくさん見せていくのが好きなんです。

山川:人物を引きや寄りで撮って、あとはディテールを見せる、といった王道的なファッションの見せ方はムービーではやらないほうがいいと思うんです。だから旅感とか、その土地のいいものとか、あとは社会的なものもぼくらは好きなので、今回のムービーに限らずぼくらはそれを混ぜ込んでつくってます。

ー今回の作品に限らず、お二人が制作するムービーは、テーマを直球で表現するというよりも、どこかひねりがあったり、ユーモアがありますよね。そういったことは意識しているんですか?

山川:はい。クスクスって笑えるよう、意識してます。

忍術とファッションの掛け算という斬新な〈ノンネイティブ〉の映像。三部作で構成されていて、見応えあり。

〈ノンネイティブ〉の16年春夏のムービーは、ウェスタンを主題に宇宙とラーメンの要素をミックスさせた壮大な作品。

ーシュールなムードがありつつも仕上がりはすごくかっこよくて、そのバランスが絶妙ですよね。

山川:そのバランスは考えてますね。ぼくが影響を受けた映画が伊丹十三監督の『たんぽぽ』なんですけど、映画の節々で意味のないシーンが挟まれているんです。本筋のストーリーとは全く関係ない謎なカットがいきなり入ってくるんですよ。そういうリズムの付け方が好きで、そうゆうのをやりたいって戸谷くんに相談しながらやってます。

ー二人ではじめてムービーをつくったのはいつ頃ですか?

二人の処女作。プラモデルが好きだという山川さんのアイデアで「子供に靴を組み立たせたかった」と語る。

山川:4年前くらいですね。〈ホーボー〉のムービーをつくりました。

ー山川さんはTNPのプレスをやりながらムービーの制作もしていて、戸谷さんももともと絵描きだったんですよね。ムービーとは異なる畑にいた二人が、どのようにして出会い、いまこうしてムービー制作を手がけるようになったんですか?

山川:以前に「TNP」で『menu』というフリーペーパーをつくっていたんです。その始まりのときに、アートディレクションをやってくれる人を探していて、知り合いに紹介してもらったのが戸谷くんでした。最初は紙媒体からはじまって色々ヴィジュアルづくりをするなかで、ムービーもやりたいよねということになって、興味本位で始めてここまできました(笑)。

戸谷:やったこともないのに、よくここまでできるようになりましたよね(笑)。

奥:「EUPHORIA FACTORY」山川明男さん、手前:「HUMPLAND」戸谷光一さん

山川:ぼくは対等に意見を出し合える人と一緒にやりたいと思っていて、だからこそ二人で切磋琢磨しながらここまでできるようになったんだと思います。あと、映像を制作するときって大人数でチームを組んでやることが多いと思うんですけど、ぼくらは基本的に3、4人でいつもつくっています。だからこそ誰かが意見を出さないと前に進めないし、一人ひとりの意見が重要になるので、それを信じあいながらこれまでやってきましたね。

ー意思の疎通がしやすいと。おふたりは年齢が近いんですか?

山川:同い年です。でも、ぼくが意味のわからない提案をすることが多いかもしれないですね。それを戸谷くんがしっかり汲み取ってくれるっていう。

ー趣味趣向も似ているんですか?

戸谷:バックグラウンドは全然違いますね。

80年代の電化製品のCMをイメージしてつくったという〈エルニドフリップス〉の動画。「丁寧に丁寧にサンダルを美しくおいしそうに撮影しました」と山川さん。

鶴の恩返しをDIYで表現した映像。

山川:ぼくが「これ見ておいて」みたいな感じでDVDを渡したりとかしてます。それに対して戸谷くんから「それをやるならこういう感じがいいんじゃない?」みたいな感じで意見が返ってくるんです。そのやりとりをしながらアイデアを組み立てていきます。ぼくは10〜20年前くらいのものを掘り起こしている感覚があって、そこに現代的な要素を組み合わせるというやり方が定着してきてますね。

ー二人でやりながら見えてきたものはあるんですか? クオリティが上がっているという感触を得られたというか。

戸谷:そういう感触はないですね。単純に面白かったというのが一番です。ぼく、飽き性なんですよ(笑)。やってることがすぐつまらなくなっちゃう。だから昔といまでやってることが全然違うんですけど、ムービーは単純に楽しい。できないことやわからないことが多いので。それに、ファッションムービーをつくるブランドって当時いなかったんですよ。

山川:たしかにいなかったかもね。

戸谷:「TNP」は早かった。だからぼく自身も新しいことをやってて楽しいし、徐々に感触を得るというよりも、面白いからどんどんチャレンジしたくなるという感覚です。

ー〈ノンネイティブ〉のムービーでドローンを使って撮影した作品がありましたよね、しかも都内で。そういった機材の取り入れ方も早かったような気がします。

山川:確かにそうかもしれません。まだ法律が整備される前で、ヒヤヒヤしながらやってたのを覚えてます。

ストイックな漁師をテーマに撮影した〈ノンネイティブ〉の13年春夏のムービー。男たちの息抜きの場所がメリーゴーランドという、なんともシュールなストーリー。

戸谷:つくり方のベースは昔といまでそこまで差はないんですけど、「どう撮るか?」みたいなことはすごく考えるようになりました。最初やってた頃は「ぼくらがつくるムービーって現実的じゃないな」って思ってたんですよ。楽しいけど大変だし、時間かかるし、何年も続けられないなって。だから撮り方であったり機材を工夫して、何年もかけてブラッシュアップして、ようやくその折り合いがつくようになってきました。

ーここ数年でムービーに対する需要がすごく上がってきたと思うんですが、お二人はファッションムービーを撮っていて、テーマやストーリー以外に伝えたいことはありますか?

山川:自分にとってファッションはライフスタイルというか、生活感のあるものだと捉えているんです。いわゆるパリコレとか、モードなファッションの世界にももちろん憧れはあるんですが、自分がそれを表現するとなると正直難しいと思うんです。なので、より自分らしいファッションを撮っていきたいと思ってます。ぼくは旅が好きでそれが土台になっているので、そういったことを表現していきたいです。

ー戸谷さんはいかがですか?

戸谷:ぼくはもともとグラフィック畑出身で、いまは映像の仕事が多いですけど、“映像”という表現方法がいま一番可能性を感じるんです。ファッションにとって“新しい”ことって重要だと思うんですよ。だからいま時代とマッチしたことをしている感覚もありますし、単純にチャレンジしていて面白いので、そういった広がりを感じてもらえたらいいですね。

「真面目にファッションの映像を撮った」と語るのは〈ノンネイティブ〉の2018年秋冬の映像。最高級のスーパースローカメラを駆使して、荒野での卓球というこれまたシュールなストーリーを撮影。山川さん曰く「本気で何事にも立ち向かった」とのこと。

ー今後やってみたいことなどがあれば教えてください。

山川:アイデア次第ですね。ムービーに限らず、スチールで面白いことが思い浮かべばそれをやってみたいと思いますし。表現方法を限定するつもりはなくて、単純に面白いことをやっていきたいです。

戸谷:本当にそうですよね。

山川:それがムービーでも、スチールでもDIYで何かを作るなどなんでもいいです。なんでも屋っぽいんですけど、やるとなったら100%の力でそれをやります。自分らにはそれが合ってます。

Edit_Ryo Komuta
Text_Yuichiro Tsuji

417 EDIFICE | 2019 SUMMER
CREATIVE DIRECTOR & EDIT_山川明男 (EUPHORIA FACTORY)
ART DIRECTOR & CAMERA_戸谷 光一 (HUMPLAND)
417 EDIFICE PUBLIC RELATIONS_阿部 聖也(BAYCREW’S)
MUSIC_Susumu Yokota – Breeze
ACTOR_水上 剣星
PLANNING DIRECTOR_東山 貴広 (Cosmo Communications)


417 EDIFICE
four-one-seven.jp

euphoria factory
euphoria-factory.com

HUMPLAND
studio.humpland.net

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