新型コロナウイルスの影響で、映画館は閉鎖、公開するはずだった映画は次々と延期になりました。一日でもはやい復旧と公開を願うばかりですが、その間、ただ首を長くして待っているのはもったいない…ということで、いまのうちに映画の予習をしておきましょう! 制作経緯を知ったり過去作を見返すことで、より奥深い映画体験になるはずです。
第2回目に扱うのは、4月公開予定だった『ホドロフスキーのサイコマジック』。鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー監督の自伝的ドキュメンタリー映画です。これまで斬新な演出でたびたび注目を集めてきましたが、今回はその裏側を解き明かす一本になっているとか。
ではでは、早速いってみましょう!
ストーリー:
心の病を抱え、相談に訪れた10組の人々。ホドロフスキーは自ら考案した心理療法「サイコマジック」を彼らに実践していくが、果たしてその効果は。セラピーの様子を過去作のシーンとともに描く、ドキュメンタリー作品。
その一、過去作の謎。
ホドロフスキーは初期の頃から、新作を発表するたびに物議を醸してきました。その名を知らしめた『エル・トポ』にはじまり、『ホーリー・マウンテン』、息子の死を乗り越え23年ぶりにメガホンをとった『リアリティのダンス』とその続編『エンドレス・ポエトリー』。
今作は、それらをまとめあげる集大成的な作品。というのも、過去作の映像表現がいかに「サイコマジック」に根付いているか証明しているからなんです。ところで「サイコマジック」とは何なのか。彼自身はこう言葉を残しています。
私にとって、サイコマジックはアートである。惜しみなく与えることは歓びのためにやっているんだ。私は、グルでもないし、医者でもない。アーティストだ。アートが人を癒すことができると証明しようとしているんだ。
サイコマジックとは、フロイトのような精神分析とは対極にある、アートを介したセラピー。作中では、サイコマジックを用いた心療の様子と、それとリンクする過去作のシーンが流れます。過去作で腑に落ちていなかった登場人物のセリフや行動の意味が、本作を観ることでするするっと合点がいくはず。となると、過去作も事前に観ておきたいところですね。
その二、カルトカルトカルト。
サイケデリック、幻想的、シュルレアリスム、抒情詩的、超現実。ホドロフスキー作品を表す言葉からも、そのほとばしる作家性を感じてしまうわけですが、なかでも“カルト”ムービーと称されることが多いですよね。いわゆる一部の層から絶大な支持を集めている映画のことで、残虐なホラーや倫理を逸脱した作品を指します。
今作は、吃音で悩む男性や婚約者に自殺された女性など、心に病を抱えたひとびとが登場します。ホドロフスキーの手によって別人に生まれ変わっていくのですが、その嘘みたいな心療に、最初は疑いながらも徐々に引き込まれてしまうはず。カルト作家と呼ばれるゆえんを知るにはぴったりの作品になっています。
昔の大作だと『時計じかけのオレンジ』(スタンリー・キューブリック)、日本だと『愛のむきだし』(園子温)『狂い咲きサンダーロード』(石井岳龍)、最近だと『ミッド・サマー』(アリ・アスター)も同じカルトムービー。これを機にそれらの作品も観てみてもいいかもしれません。
その三、映画を2倍たのしむグッズ。
新作が公開されるたび、オフィシャルグッズにも毎度注目が集まります。これまで、監督の自画像が描かれたトートバッグやサイケなレインボータイツなど、ほかとは一線を画したアイテムが発売されてきました。期待の高まる今回も、なかなかクールなラインナップです。
鑑賞後、余韻に浸るお供としてはもちろん、鑑賞前に購入して気持ちを高めるのもありですよ。
おまけ:現役ばりばりな映画監督。
アレハンドロ・ホドロフスキーは91歳になったいまでも、現役で映画製作をおこなっています。歳をとっても創造しつづける秘訣は、作中で語られているのでお見逃しなく。
高齢をもろともせず映画製作をしている猛者たちはほかにも。人間の醜さを描かせたら右に出るものはいないでしょう、ミヒャエル・ハネケは78歳。2018年公開の『ハッピーエンド』でもその鋭さは健在、若者のスマホ中毒を皮肉するという時代性に富んだ作品に仕上げました。巨匠と呼ぶことすら恐れ多いジャン・リュック・ゴダールは89歳。昨年公開の『イメージの本』は、既存の作品をサンプリングして製作したという実験的映画。ファンすらも置いてけぼりにするそのスタイルは、引き続き見守っていきたいものですね。
以上、いろいろと解説しましたが、ホドロフスキー作品はつべこべ考えず観たほうがはやい! てことで、アップリンクのオンラインではすでに先行上映がはじまっているので、劇場公開まで待ちきれない方はチェックしてみてください。
『ホドロフスキーのサイコマジック』
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、アルチュール・アッシュほか
日本語字幕:比嘉世津子
デザイン:中村友理子(HOOP)
コラージュ:河村康輔
配給・宣伝:アップリンク
公開予定日:2020年5月22日(金)
公開場所:アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次公開
(2019年/フランス/104分/フランス語、スペイン語、英語/1:1.85/5.1ch)
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