最近、ファッション業界でサスティナブルな取り組みが増えてきています。7月1日(水)からは、大手コンビニ3社がレジ袋を有料化するなど、なんてことのない日常の中でも環境を意識することが増えてきました。
そんなタイミングで、とある学生からフイナム編集部宛てに1冊の本と熱いメッセージが届きました。それがこちらです。
この本は、京都芸術大学の現役学生が約1年かけて作る『my my my』という大学パンフレット。資料請求をした全国の高校生に届けられたり、オープンキャンパスで配布するなど、入学を希望する高校生に向けて、どんな大学生活を送れるかという空気感を1冊に閉じ込めています。
学生が作るというのも珍しくはありますが、このパンフレットの本当の見どころは毎年変更されるテーマです。過去にはペンや靴下、マスキングテープなどを扱っていたようですが、“今年しか作れないパンフレットを作ろう!”と考えた今年度版では、プラスチックストローにフォーカスを当てています。
どうしてこのテーマなのかというと、取り沙汰される環境問題の中で、プラスチックストローだけが悪者として扱われているところに違和感を持ったから。紙パックのジュースなど、ストローに触れる機会が多い、学生の視点でしか作れないパンフレットを目指して制作されています。
親しみやすいテンションでストローの問題を取り上げていますが、教授にLINEで質問をしたり、国産ストローの最大手「シバセ」に取材に行くなど、大人の力を借りているところも、なんだか微笑ましいです。アートは問題提起、デザインは問題解決とよく言われるものですが、ストローと環境問題を大学パンフレットに混ぜ込むのは、アートのそれではないでしょうか。
といっても、全編に渡ってプラスチックストローだけを取り上げている訳ではないのでご安心を。1ヶ月のスケジュールや大学への文句、親御さんに学費を出してくれた理由を聞いたりなど、学生の生活についてももちろん取り上げられています。
今回、この本を送ってくれたのが、京都芸術大学に通っている平井瑞季さん。高校生しか手に入れることができないということで、少しだけ意図をメールインタビューしてみました。
最初に自己紹介をお願いします。
私は空間演出デザイン学科のファッションデザインコースに所属していて、ジュエリーを専攻しています。課題では、布やシルバーを扱ったりと手を動かしての制作や、PCを使用したグラフィックデザインを学んでいます。学科外では、大学パンフレット『my my my』の制作メンバーとして2年間の活動を終え、今年は学内の就活生に配布される手帳を制作するメンバーとして、企画やデザインを行なっています。
どうしてこのパンフレットを送ろうと思ったのでしょうか?
プラスチックストローと環境問題を取り扱う上で、世間の意見を覆することに少しばかり不安と緊張感がありました。しかし、黙っていては何も伝えられないですし、このままでは他人事と思いながら無関心に生きてしまうとも感じていて。パンフレットを完成させた時、達成感と同時に高校生だけでなくもっとたくさんの人に知って欲しい、このテーマに向き合って欲しいという気持ちを強く持ったんです。そのため、このパンフレットに込めた想いを、どうにか社会や世界へと発信したいと思い、お送りさせていただきました。
なぜ『フイナム』を選んだのでしょう。
他人の目を気にしすぎないことや、“伝える”ことのかっこよさを感じたからです。一例をあげさせていただくと、今年3月に発売された雑誌『フイナム・アンプラグド』の“してはいけないこと、しよう。”というキャッチコピーはとても魅力を感じました。特にP38の
「炎上を恐れてなにかと自主規制で息苦しくなっている現在、この世の中にすこしばかりの風穴を開けよう。」(中略)という言葉がとても印象的で。その反骨心に共感し、この場なら「ストローは悪くない!」といった、少々ヤンキーなテーマも合うかもと思ったんです。
『my my my』は入学を検討する高校生に向けて制作しているようですが、平井さんも当時読まれていましたか?
私も高校時代に手に入れたのですが、当時の衝撃は本当にすごいものでした。ビジュアルの可愛らしさはもちろん、テキストのかっこよさ、内容の面白さ、そして何度も読みたくなるデザイン。しかも、これを学生が作っているということに、とても魅力を感じました。このパンフレットを見て、「作るしかない!作るぞ!!そのためにあと少しの高校生活も頑張るぞ!」という活力を得て、『my my my』を作るために京都芸術大学へ行く、という希望が持てるようになりました。通学中の電車内や、朝の読書時間にも愛読していたので、パンフレットはボロボロだったけど…。ずっといっしょにいることで、自分もかっこよくなれてるみたいでうれしくて、お守りのような存在になっていました。
制作中に大変だったことはありましたか?
パンフレット内のどのコンテンツにおいても、デザインにストローというモチーフを取り入れています。どう取り入れるかや、どうしたら高校生にも内容が伝わるのかという点が難しかったです。大小含めると、500以上のアイデアを出しては検討を繰り返したと思います。私は冒頭文を書いたのですが、深刻なプラスチックストローの問題をどのようにしたら高校生に寄り添い、かつわかりやすく伝えることができるのか、とても悩みました。
制作後、プラスチックストローに対して、何か想うことはありましたか?
制作中はプラスチックストローとほぼ毎日一緒、みたいな生活を送っていたので、作り終えた当初は建物のストライプの模様とか、螺旋階段なんかがストローに見えたりもしました。それほど身近な存在に感じるようになったので、カフェや喫茶店で出てくるとおぉ〜!という気持ちにもなり、無くなって欲しくないという想いも強くなりました。もちろん、今でも使っています! ただ、いろんなストローをリサーチしていく中で、先輩や同級生からガラスやステンレス、竹、藁のストローを貰ったりもしたので、飲み物やその時の気持ちに応じてストローを選んで使うようになりました。
最後に世の中に何か言いたいことがあればどうぞ。
「my」をお大事になさってください。自分で決めて自分で失敗して自分で考える「my」。ストローを悪者にしたのは、自分で考えない=「my」を大事にしない人が増えすぎたからだと思います。
my my my -STUDENT TODAY- 2020
www.kyoto-art.ac.jp
Art direction, design = CHIMASKI
chimaskidesign.jp/