親子の数と同じだけその関係性は存在します。けれど、どれが正しくて間違っているかというのは、時代がいくら巡れど、答えが出るものではありません。あらゆる芸術作品がこのテーマに果敢に挑むのは、その掴めなさゆえでしょう。
7月3日(金)に公開される映画『MOTHER マザー』もそのひとつ。実話をモチーフにしたフィクションで、母親と息子の関係性を通して親子の形を探っています。主演の長澤まさみを筆頭に、この映画に選ばれた者たちは、真正面からその凄惨たるテーマを受け止め、一本の物語として昇華しました。
〜STORY〜
男たちとゆきずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきた秋子。シングルマザーの彼女は、息子の周平に奇妙な執着を見せ、忠実であることを強いる。そんな母からの歪んだ愛の形に、翻弄されながらも応えようとする周平。彼の小さな世界には、こんな母親しか頼るものはなかった。やがて身内からも絶縁され、次第に社会から孤立していくなかで、母と息子の間に生まれた“絆”。それは17歳に成長した周平をひとつの殺害事件へ向かわせる…。何が彼を追い込んだのか? 罪を犯してまで守ろうとしたものとは?ー。
17歳の少年が祖父母を殺害したという、実際の事件に着想を得て作られた本作。ニュースでは報じられないそのビハインドストーリーとして、既存の物差しでは測れない親子関係を我々に突きつけます。
主演は、今年で女優生活20年を迎える長澤まさみ。社会からあぶれた女性、いびつな感情を持つ母親・秋子を、文字通り体当たりで演じています。〈アンダーアーマー〉のPVやドラマ「コンフィデンスマンJP」での怪演が何かと話題でしたが、今作はそれをはるかに凌駕していると言って相違ないでしょう。
息子の周平を演じた奥平大兼は、オーディションで抜擢された驚異の新人。演技未経験だからこその、まっさらな感性で過酷な少年の青春を生き抜きました。また、秋子と内縁の夫になるホスト・遼を演じたのは阿部サダヲ。底辺を這って生きる男の空虚感を、得意の愛嬌と時折ほとばしる狂気で作り上げました。
そのほか、秋子の母親役に木野花、一家を救おうとする児童相談員役には夏帆、そして秋子を手助けするラブホテルの従業員役は仲野太賀がつとめ、作品を影でしっかりと支えています。
メガホンを取ったのは『さよなら渓谷』『セトウツミ』など、話題作を精力的に発表している大森立嗣。成熟した手腕と瞬発力で、母と息子のあいだに生まれた、社会的側面ではないドラマをあぶりだします。
無性の愛情を万人に捧げたという聖母マリア。秋子から周平に向けられた眼差しは、その”愛情”という類のものなのか。この映画が示す解を、ぜひ劇場で確かめてみてください。