ファッションアイコンでもあり、ミュージシャンでもある。そして、イベントのオーガナイザーも務める神出鬼没のフリーランスディレクター、久世直輝さん。これまでも数々のブランドを陰から支え、ヒット作を連発してきた彼が、アパレルブランド〈ナオキ・クゼ〉とヘッドドレスブランド〈ウーシン〉を立ち上げます。
シーンの第一線を走ってきた審美眼と音楽家としての視点。その双方の経験が落とし込まれたアイテムは、アイコニックでいて、日常を豊かにしてくれるギミックが満載です。彼は自身のアイテムを見ながら、「音楽があったからこそ生まれた服」と表現します。
PROFILE
生まれ育った京都でショップスタッフや広告制作会社を経験した後、上京。〈ジャーナルスタンダード〉のプレスを務め、2018年9月に独立し、フリーランスディレクターとして〈テンボックス〉や〈ポストオーバーオールズ〉、〈アロハラグ〉、〈マウンテンスミス〉など様々なブランドに携わる。またNAOKI KUZE(ナオキ・クゼ)名義でループマシーンを用いたミュージシャンとしても活躍中。今シーズンからアパレルブランド〈ナオキ・クゼ(NAOKI KUZE)〉とヘッドドレスブランド〈ウーシン(Wu Xing)〉を立ち上げる。
Instagram:@la_kuze
音楽があったからこそ生まれた。
ー ブランドを立ち上げたい気持ちはプレス時代からあったんですか?
なかったですね。フリーになるときも在庫を持つ仕事はしないって決めてたんですよ。在庫は持たず、制作やディレクションで食べていこうって。なのでPRの仕事だけでよかったんですけど、フリーになってからも〈ミヤギヒデタカ〉や〈テンボックス〉のイベントを手伝ったり、いろんな人と仕事させてもらえるようになって。身近な存在のみんなが好きな仕事で成功をおさめていて、サポートをしている中でそれがすごく悔しくなっちゃったんですよね。今まで色々なブランドやイベントで自身が企画してきたモノづくりもたくさんあるなかで、ノウハウはあるのに前に出てチャレンジする覚悟がない自分とか。そう思ったのが去年です。
ー その悔しさは成功が妬ましいって感じじゃないですよね。ネガティブな感情だけじゃなく、喜ぶ気持ちもあるけれど、どこかで挑戦できないジレンマがある、そんな感覚だったんですか?
周りが成功するのは、もちろんすごく嬉しいんですよ。嬉しいけど、「自分は一体何者なんだ」っていう感覚があったんです。フリーになったのも、もっと音楽をやりたい気持ちがあったからで。僕にとって音楽とファッションはどちらも必要な存在で、線引きできなかったんです。そういうなかで、音楽ではNAOKI KUZEという名で曲を残してるのに、ファッションにおいてそう言えるものは、実はいろいろとやっているのに何も残ってないなと。
そんなときに「ジャーナルスタンダード」の先輩で、昔からめちゃくちゃお世話になっている〈シアージ〉の土屋さんに話したら「やった方がいいよ」と背中を押されて。〈シアージ〉が大きくなっていくところも間近で見ていたので、その言葉が何より心強かったですね。
ー 今回立ち上げられた〈ナオキ・クゼ〉と〈ウーシン〉。コンセプトはありますか?
自分が着たいものをつくるってことですかね。いまのところ、ショップに卸して販売する気はないですし、出来上がったら直接お客さんに販売しようかなと。そこに固執する気もないんですけど、自分の名前を付けちゃったので、セレクトショップや服屋で売るより、ギャラリーとかで販売したいんですよね。「いまの自分を表現した作品です」みたいな、アーティストの個展のような感覚で。テーマがあるとしたら、音楽とファッションの両立。いや、“音楽があったからこそ生まれた服”って感じですかね。とにかくストーリーのある服にしたかったんです。
ー プレスとしてもそうですが、ストーリーを大切にしている久世さんらしさがすごく伝わってくる服だと思いました。ギミックが効いていて久世さんのライフスタイルが詰まっているというか。このライブジャケットなんかまさにそうで。
本当ですか、嬉しいです。さっきラーメン屋に行ってたんですけど、ジャケットや荷物をあまり床に置きたくないし、カバンに入れるのもめんどくさいじゃないですか。なので背負ったまま脱げるみたいなディテールにしていて。しかも、脱いだままポケットにアクセスできるようになっているんですよ。今日も来る途中、雨が降ってたんですけど、水を弾いてくれましたし。自画自賛なんですけど、機能がデザインになっていて、めちゃくちゃ使いやすいですね。
日常生活にヒントにした
“THE”と呼べるアイテム。
ー そのリアルな感じがいいですね。着用者のライフスタイルや性格によって、全く違う使われ方がしそうですし、ギミックはぎゅうぎゅうに詰まってるのにどこか余白がある感じがします。
そうなったら嬉しいですね。ミリタリーのディテールもひと通り知ってるんですけど、いまの服や自分のスタイルだったらこう使うかなとかよく考えてて。このショルダーストラップも元々は軍モノのディテールなんですよ。だけど、自分ならご飯食べるときとか、カフェでパソコンを触るときにすごく便利で。あと歩いてて、暑いけど手で持ちたくないとか、ライブに行ったときにクロークに上着を預けたくないとか。
ー 確かにそれありますね。ロッカーに入れてる隙に物販買い逃したり、ステージから遠いところから見なくちゃいけなくなったり(笑)。
ライブあるあるですよね(笑)。そういう服があったらいいなってずっと思ってたんですよ。なので、そういう自分の経験も今回の服に落とし込んでいて。クラブでぶつかった拍子にビールがかかったことがあるんですけど、そのときに60/40クロスのジャケットを着てて、ビールをしっかり弾いてくれて全然汚れなかったんです。
ー 〈シエラデザイン〉とかでよく使われてたロクヨンクロスですよね。
そうですそうです。意外とロクヨンクロスって優秀なんですよ。GORE-TEXより防水性は落ちるんですけど、自宅でも洗濯できるし便利です。個人的にはGORE-TEXだとオーバースペック過ぎる気がして、ちょっとシュッとしすぎるというか。ルックス面でもロクヨンクロスなら、コットン味があってどんな生地のアイテムともすんなり馴染むんですよね。
ー 日々の生活での気付きがアイデアになってるんですね。
ほとんど実体験がベースですね。コーチジャケットが好きなんですけど、僕みたいな普通体系の人でもシャレて見えるようにショート丈にしてるんですよ。そうすることで目線が上にいってスタイルよく見えるんです。友達の洋服がほとんどなんですけど、自身のワードローブと相性の良い洋服を作りたかったっていう意図もあるんです。
ー ショート丈に加え、サイドのジップを開けばインナーも綺麗に見えますね。
そうなんですよ。温度調整もしやすいし、ポケットもアクセスしやすくて。
ー ワークやストリートの要素が散りばめられたジャケットですね。シンプルだけど、機能的で。
色柄を使ってないのは、〈ナオキ・クゼ〉の“THE”みたいなものを最初に発表したいと思ったからで。
ー 今後はこのアイテムをベースに、改良していこうって感じですか?
そうですね。シグネチャーってわけじゃないですけど、コーチジャケットみたいにグラフィックを乗せても良さそうですし、いずれ誰かと一緒に色んなことできたらいいなって。
ー 調理しがいがありそうですね。
はい。当分コラボはしないと思うんですけどね。いまは自分の中でやりたいことが山ほどあるので、まずはそれをカタチにしてから。
ー このサングラスも久世さんらしいですよね。
アイウェアはいつも掛けてるので、絶対つくりたかったんです。個人でセルロイドのサングラスをブランドのデビューにつくる人ってなかなか少ない方だと思うんですけど、有り難いことに機会があってつくれることになって。それなら僕のオリジナルの型をつくらせていただいたので、素材を変えたりしながら定期的にリリースできたらいいなと思ってます。
ー これはモデルにしたサングラスがあるんですか?
モデルにしたのは、もともと僕が使ってた某ハイブランドのサングラスです。すごく好きなんですけど、フレームのサイズがかなりデカいんですよ。いわゆるコレクションっぽい大袈裟さというか。気に入ってたんですけど、デイリーユースしづらいなって思ってたので、それをベースにしつつ、僕好みにディテールを調整しオリジナル型をつくり上げました。
ー 先ほどのジャケットもそうでしたが、服づくりは音楽の影響も大きいですか?
今回つくったものは全部ライブするときや見に行くときにあったらいいなというものです。ライブのときはずっと真っ黒なレンズのサングラスを掛けてたんですけど、手元が見えにくいんですよね。それからずっと淡い色のレンズを探してて、それで作ったって感じです。これだったら暗いところでも弾けるんで。
ー ヘッドドレスブランドの〈ウーシン〉もあまり見ない形の帽子ですよね。参考にしたのはなんだったんですか?
クフィとタムっていう中東で被られてる帽子です。出張だったり、地方でライブもさせてもらえるようになってきて、コンパクトにできる帽子が欲しかったんですよね。キャップって畳めないから結構かさばるんですよ。それに山ほど帽子ブランドがある中で、新しいものをつくるのは相当難しくて。だから、あまり見ない形の帽子にしようと思って、それでクフィとタムをフィーチャーしたんです。個人的にもずっと気になっていた形で。去年〈テンボックス〉の仕事でインドに行ったときに、 Piguさんに内緒でクフィを被ってる人ばかりを観察してて(笑)。
ー なるほど、アイデアを得ようみたいな(笑)
だけど、宗教色のあまり感じない素材にしようと思って、オンブレチェックだったり、エアマックス95をイメージしてたりするんです。これとか、イエローグラデの色なんですよ。
ー 確かに。言われてみて気づきました、おもしろい。
あとこのタムも普通はもっと硬くてゴワついた生地だったり、ラスタカラーとかが多いんですよ、サイズもちょっと小さかったりして。これはソックス生地を使っているから、めっちゃ柔らかいんですよ。
ー ほんとですね、フワッとしてます。
そうなんですよ、部屋で履く柔らかめのソックスというか、それをワッフル編みにしてもらって。ライブジャケットもそうなんですけど、全部自宅で洗える素材なんですよ。
ー手軽に洗濯できるのはいいですね。
ですよね、僕は洗えない服が嫌いでニットは一枚も持ってないんですよ。ニットはクリーニングに出さないとダメだし、家で洗えないのがストレスなんですよね。
ー 服づくりと曲づくりの仕方というか、マインドは似てたりするものなんですか?
似てるかもしれないですね。こう言うとカッコよくなりすぎるんですけど、割と降臨型なんですよ。音楽もギターを弾きながらつくるというより、こうやって会話中にパッとフレーズが浮かんできたりするんです。洋服も同じでふとした拍子に思いつくんです。
ー 机の前でじっくり考えるみたいなことはしないんですね。
そうですね。あと、いま世の中にあるモノはあまりつくらないでおこうって思ってます。すでにあるモノは、やっぱ完璧なんですよね。手を加える必要がないというか。
ー 誰よりも服を見ている久世だから、そのハードルはかなり高そうですね。
そう、だから何かプラスにできるものが自分の中に欲しかったんです。そうやって他の人との違いを見せられるものを探したときに浮かんだのが、やっぱり音楽だったんですよね。身近な先輩だと〈ニート〉の西野さんがいらっしゃるんですけど。プレス業をやってた人でブランドを始める方ってめちゃくちゃ多くはないと思うんですよ。それに加えて、音楽もやってる人ってそうそういないと思うんです。自己分析してみて、これが自分の強みだって確信が持てたんです。だから音楽シーンでこういうのがあったら、みたいなものがようやく具現化できたのは嬉しいですね。
ー 長年温め続けたアイデアがようやくカタチになったんですね。
ライブジャケットはまさにそうですね。他のタネも、早く芽を出させてやりたいです。
NAOKI KUZE&Wu Xing LAUNCH EVENT
東京
会期:10月24日(土)、25日(日)
場所:CLASS
住所:東京都渋谷区神宮前5-12-7 B1
時間:12:00〜19:00
※イベント期間中、ミルクティーのケータリングサービスで人気の「MILKTEA SERVICE」も登場。
大阪
会期:10月31日(土)、11月1日(日)
場所:IMA:ZINE
住所:大阪市北区中津3-30-4
時間:12:00〜21:00