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【FOCUS IT.】中目黒に深夜だけやってる食堂がある。お店の名前は「ザ・銀皿」というらしい。

ひとびとが家路へと急ぐころ。中目黒から駒沢通りをのぼると、1軒のお店に灯りがつく。「ザ・銀皿」は10月にオープンしたお店です。カウンターが5席に、メニューはいくつかのお酒と2、3の料理。店先には小さな看板と営業中の札があるのみで、何屋なのかはわかりません。

お店のインスタグラムを見ると、銀皿に盛りつけられた料理の写真とともに、ちょっとした小話が。その文章からは、店主だと思われるひとの、その柔和な人柄が透けて見えます。気になって連絡をすると、小田島さんという方から返信があり、話を聞きに行けることになりました。

PROFILE

小田島 利成
「ザ・銀皿」店主

岩手県出身。盛岡の専門学校に在学中、東日本大震災に見舞われ、静岡に移住。住み込みのバイトを経て、上京後は、ホテルや都内の有名レストランのキッチンに入る。現在、昼は別の職場で働き、夜は自分のお店に立っている。

ふたつの顔を持つ空間。

ーオープンして1ヶ月が経ちましたが、どうですか?

はじめは知り合いがほとんどだったんですが、やっと一見さんも来ていただけるようになりました。近くに住んでる方もいて、特に何屋とも書いていないので、それで気になって入ってきてくれるみたいです。

ーたしかに、看板は店名のみでひっそりという感じですね。ここにお店を構えることになった経緯を教えてください。

ある時期、ここの裏にあったレストランで働いていました。その頃は、ちょっと背伸びをして飲みに行きたい年頃で、いろいろ探しているなかで見つけたのがここ。その頃は狭くていい感じのバーでした。オーナーさんとも仲良くなり、通うようになりました。

今年の7月ごろ、バーが移転してここが空くという話を聞き、じゃあここで何かやろうかなと店を持つことにしました。

ーここはお昼の時間帯は「周波数」という喫茶店なんですよね。いっしょにはじめるきっかけは何だったんでしょう。

オーナーが瑠偉くんっていう子なんですが、実はお互い岩手県出身の幼なじみで、高校も同じだったのでかなり古い付き合いなんです。卒業後はあまり会っていなかったんですが、彼が祐天寺に「Ambient Brew」という喫茶店を出したときに、よくお店に行くようになりました。

そして、自分の店を持つことになったんですが、(昼は別のところで働いているので)夜だけの営業となると昼の時間は空いてしまうなと。そこだけ誰かにやってもらいたいと思っていて、いちばんはじめに浮かんだのが瑠偉でした。あっちも昼だけしか営業しないので、今風に言うとウィンウィンの関係ですね(笑)。

キッチンのすぐ横に置かれている両店のショップカード。
たまに赤い模様がついているが、それはナポリタンを作るときに跳ねたケチャップだという。なんかよくないですか?と言いながら小田島さんがフライパンを大げさに振ってたのは、ここだけの話。



銀皿に料理の可能性を見る。

ー店名もしかり、お店のインスタグラムを見ると「銀皿」が前に立ってますね。コンセプトを教えていただけますか?

すこし遡るんですが、数年前。本業をやる傍ら、空いた時間でケータリングをはじめました。だんだん呼ばれる機会も増えて、同世代と繋がることもできたんですけど、半年ぐらいしたら思うところがあって。見栄えよく飾ったり、出来たてを提供できないことにモヤモヤしてきてしまったんです。

投稿には銀皿がずらり。
和洋中、幅広い料理のラインナップは、小田島さんの手数の多さと、銀皿の懐の深さを物語る。

次に何しようかなと思って、ひとまず銀皿に盛り付けた料理を投稿するInstagramのアカウントを作りました。銀皿に対して、ずっといいなと思っていたので。そこで自粛期間になり、時間ができてたくさん投稿していたら、7月にお店の話がきて、これをこのままお店にしてしまおうとなりました。

ータイミングが絶妙ですね。メニューはすべて銀皿にのせて提供しているということで、すこし意地悪な質問ですが、”銀皿”でなければいけない理由はなんでしょう。

よく喫茶店で出される銀皿にのったナポリタンって、雰囲気込みなところがある気がしていて。10年厨房に立ってきた身からすると、ナポリタンに限らず喫茶店メニューを銀皿の上で本気でやったら、もっと可能性が広がるんじゃないかなと思って。カッコつけすぎかもですが…。

ー料理は強気の3つ!赤いウインナーとポテトサラダ、そして”棚からひとつかみ”…これは何でしょう。

山下達郎さんのラジオにこのタイトルのコーナーがあって、それをオマージュさせてもらってます(詳しくは10月17日のインスタグラムにて)。その日の気分でメニューは決めているんですが、ある日もあれば、ない日もあったりマチマチ。そこで人気なやつがあれば、レギュラーにしてもいいし、という感じです。いまはナポリタンです。

ーあまり決めすぎずにやっていこうという感じなんですね。

そうですね。元の感じが好きだったのもありますが、内装もほとんどいじらずに、極力シンプルにしました。最初に作り上げてしまうと、あとあと修正が大変なので、徐々に完成すればいいかなと。お酒もお客さんからリクエストがあれば、増やそうかなと思っています。

ーまさに。最低限必要なものが置かれているという感じですね。営業時間が遅いということですが、2軒目や3軒目づかいで、お酒だけ飲みにくるお客さんも多いですか?

はい、ベロベロな人もときどきいます。小腹が空いていたら何か食べてもらって、なにも飲まずにそのまま帰ってもらってもいいです(笑)。身の上話なんかも聞きたいですね。

ーお話をお伺いしていると、何だかあるお店が連想されて…。こんなことをお伺いするのは失礼なんですが、漫画の「深夜食堂」をすこし意識されてたりしますか?

…してますね。恥ずかしいんですけど、最近ふと見て面白いなと、こういうのやりたいなと(笑)。大々的には謳ってないですけど、薄々気づいてくれる方がいてくれればいいですね。

ー今回、取材を依頼したきっかけはお店のインスタグラムだったので、ここからはそのお話をすこし聞いてもいいですか? お店を構成する何かとそこから派生した小話を投稿されていますね。文章の温度感が絶妙だなと思いました。

ありがとうございます。長々と書いても読まれないので、ギリギリ読める長さにはしてますね。トイレで読むくらいの、そんなテンションで書いています。

ーいい表現ですね(笑)。投稿の中にラジオとか漫画とか、固有名詞が出てくるんですが、そういったカルチャーを通ってきたんでしょうか?

胸張って言えるような趣味は特にないですね。東京でてきた時は、遊ばずに料理の修行をした方がかっこいいんじゃないかと思って、それは完全に『美味しんぼ』の影響なんですが。

でもそれがだいぶ視野を狭くしていることに気づいてからは、お店を掛け持ちしてみたり、ポップカルチャーに触れるようになりました。ボキャブラリーを増やしたいなと思って深夜ラジオも聴くようになりましたね。

そういえば『深夜食堂』を見はじめたのは、TBSラジオ「ハライチのターン」でハライチの岩井さんが面白いって言ってたからです(笑)。影響されやすくて。

料理をはじめたのも漫画の影響が大きいですね。家が厳しかったので、ゲームとかをさせてもらえなくて、そうなると漫画に走るしかないんです。厳しいなかでもさらに厳しい家だったので、何かが死んだり血が出たりするバトル系の漫画が読めなくて、その検閲をすり抜けられたのが料理漫画だったんですよ。さっき言った『美味しんぼ』とか『将太の寿司』とか。そういうのが、料理の道に走ったきっかけでしたね。

ー親御さんの規制があったからこそ、いまこのお仕事をされているのですね!



ドイツでの衝撃をお店でも。

ーもうすこし小田島さんのパーソナルな部分について聞いていきたいんですが、暇ができたら真っ先に何をしてますか?

コロナになる前は、海外旅行によく行ってました。ふと思い立ってアメリカに行き、1年弱住んでいたこともありますね。その時にフードトラックをやったりしたことで、だいぶ土台ができて、それからは毎年行けるようになりました。

店内にかかってたこちら。服好きが高じて作ったそうで、モチーフにしたのは〈ダブルタップス〉が昔つくっていたフライトジャケット。土方のひとが着ているという市販のものに、店名の刺繍を施している。

ー現地で食べたものを参考にして、こっちで作ったりも?

うちのメニューにある赤いウインナーは、ドイツで食べたカレーソーセージを参考にしてます。あっちではポピュラーなファーストフード的なもので、ソーセージにポテトがゴロゴロ入ってて、味付けにマヨネーズとケチャップ、ケチャップにはカレー粉がかかってるんです。それだけでカレーソーセージと名乗っているのも面白いんですけど、何だこれと思って食べたら、意外とケチャップとカレー粉が合うことがわかって、ここのメニューでもそれを再現してます。

ー食べたことがあるのにちょっと新しくて、でもひねりすぎてない。いいですね。お店はこれからどうしていきたいですか?

ガツガツしないお店にしたいですね。それで回転率をあげて稼ぐお店もあると思うんですが、そういうのってどうしても接客ででてしまう。そうじゃないお店を求めてるひともいると思うし。せっかく中目黒のはずれにあるのでゆっくりできるお店にしたいです。

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取材も終わりに差しかかり、なんとなしに好きなお店とかありますか?と聞いた。あまり知られていないけれど知ってるひとは知ってる、そんなお店を答えてくれるだろうと期待していると「学大の養老乃瀧です。全国にあるフランチャイズの店なんですが、そこだけ?ふつうにご飯がうまくて」。

あっさりかわされたことに驚きながら、掴めないマスターがいてこそこういうお店は成立するのだなと、ついある漫画を思い浮かべてしまった。

昼の部「周波数」の記事も近日公開予定です。

INFORMATION

ザ・銀皿

営業時間:20:00ごろ〜26:00ごろ
定休日:月曜日
住所:東京都目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル101
公式インスタグラム
※日によって時間の変更あり

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