これは悲観論でもなんでもなく、日本で働くことに今以上に安寧していられない時代がやっていることはおそらく間違いないでしょう。出生率が低下し、労働人口も消費人口も減って行くわけですから、どう単純に考えても楽観視できるわけはありません。そこで経済とは違う新しい指標作るのか、といったあたりのお話とはまた別ですけれど。
さて、そんな悲観論が渦巻く日本を出て、海外でひとつがんばってみようかなという人もそんなに珍しい時代ではなくなりました。そして実際に成功したり、日本とはちがったスケールやスピードで働いているひともいます。でも実際にはどのように働いているのか、それまでの紆余曲折や苦労はどうだったのか、そんなリアルな体験談を聞いてみたいところです。
『海外でデザインを仕事にする』は、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカの10か国を拠点に活動するデザイナー14名が自らの体験を綴った本です。登場するのはテキスタイルデザイナー、グラフィックデザイナー、デジタル系のデザイナーなどデザインひとつといえど、幅広い分野に渡ります。日本を飛び出し、海外で仕事を獲得し、キャリアを積み重ねながら独自の働き方を見出していくその過程は、現在進行中のビビッドなものであると同時に、なかなか触れられない貴重な情報でもあります。
読んでいると、彼らと一緒にデザインの広い世界を探検しているような気持ちになります。これから海外に出ようとする人たちにとっては、14人がそれぞれに異なるロールモデルとなるでしょう。留学先の選定からインターンシップの仕組み、ビザの取得や、給与水準、住宅事情や生活費など、実用的な情報も詰まっています。仕事の具体的な進め方や同僚たちとのコミュニケーションなど、その国での働き方が透けて見えてきます。
そして、自力で道を切り開いているひとたち特有の爽やかかつ熱気に満ちた文章も、読む者を鼓舞するでしょう。
非言語領域であるデザインを生活の糧とする彼らが語る、熱くもリアルな海外事情。海外はもちろん、働き方に興味がある人もぜひ手に取ってみてください。
そして現在「青山ブックセンター本店」の店頭では、出版記念としてこの本に登場するデザイナー全員に“影響を受けた本は?”というテーマのもと、コメント付きで各人3冊ずつ選書しています。
さらに、青山ブックセンター本店内にて「IDEOとFabLab──2つの“工房”から見るデザインの風景」と題した刊行記念イベントが3月3日(金)19:00~20:30で催されます。詳細は下記を参照ください。
本の声を、さらに現場でよりリアルに体感してみるのもいいのでは?
Text_Shinri Kobayashi
『海外でデザインを仕事にする』
価格:¥2,400+TAX
編者:岡田栄造
著者:鈴木元、森山茜、青木翔平、福定良佑、德島泰、川島高、今村ひかる、長田喜晃、青木慶一、山本尚明、清水花笑、中山雄太、小林耕太、村上あずさ
出版社:学芸出版社
『海外でデザインを仕事にする』(学芸出版社)刊行記念
日時:3月3日(金)19:00~20:30(開場 18:30~)
会場:青山ブックセンター本店内・小教室
入場料:¥1,350
定員:50名様
参加方法:
[1] 青山ブックセンターウェブサイトの「オンライン予約」にて受付。
http://www.aoyamabc.jp/event/desgin-ovss/
[2] 本店店頭にてチケット引換券を販売。(受付時間: 10:00~22:00)
※電話予約は行っておりません。
イベント詳細:
“海外でデザインを仕事にする”──その言葉から、どんな風景を思い浮かべますか?
まさにこのフレーズをそのままタイトルに据えた本書には、大都市のデザインオフィスから途上国のファブラボまで、世界10カ国14都市のさまざまなフィールドで活躍する日本人デザイナー14名が、それぞれの歩みを振り返るエッセイを寄せました。
今回のトークイベントでは、その中からお二人をゲストにお迎えします。世界的なデザインファーム「IDEO」のロンドンオフィスとボストンオフィスで7年にわたって勤務された鈴木元さんと、東京大学大学院修了後に単身ガーナに渡り、同国初の市民デザイン工房「FabLab Ghana(ファブラボ・ガーナ)」で現地のデザイン教育に取り組まれている青木翔平さんです。
イベントの前半では、海外に渡ったきっかけや言葉の壁の乗り越え方、仕事をする上でのこだわり、デザインの難しさなど、エッセイに綴られたトピックを中心に、書き切れなかったエピソードにも触れつつ、それぞれに語っていただきます。後半では、本書の編者でデザインディレクターの岡田栄造さんにナビゲーターとして加わっていただき、いま海外でデザインを仕事にすることの意味や可能性について、会場のみなさんと一緒に考えます。
IDEOのワークショップ(工房)で技術を磨かれた鈴木さんと、熱帯のファブラボ(デジタル工房)でものづくりに挑戦する青木さん。同じ「工房」という名の、それでいて一見対照的な環境にある空間でデザインに取り組まれてきたお二人のお話から、一体どんなヒントが浮かび上がってくるでしょうか。
海外でデザインを学びたい、仕事をしたいという方はもちろん、ひろくデザインに興味がある方や、自分のキャリアを見つめ直してみたいという方も、ぜひお越しください。