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ファッションとスポーツの理想の関係とは? J2サッカークラブ・ブラウブリッツ秋田のグッズを手がけた山本直樹 from SAYHELLOに訊く。

スポーツビジネス、特にサッカーは、コロナ禍で一時停滞しているとはいえ、歴史上類を見ないほどの発展を遂げました。その中で、先進的なサッカークラブはブランド力強化に努め、例えばイタリアの「ユベントス」は、数年前にロゴマークを一新し、マーケティング戦略に力を入れています。また、〈ホワイトマウンテニアリング〉デザイナーの相澤陽介さんが、「北海道コンサドーレ札幌」のクリエイティブディレクターに就任するなど、その流れは顕著です。

世界的な潮流を、より草の根レベルで試みようとしているのが、なまはげやきりたんぽで有名な秋田県に籍を置くサッカークラブ「ブラウブリッツ秋田」。J3の昨シーズンは、前人未到の28戦連続無敗でリーグ最速優勝を果たし、今年2月27日(土)に開幕を迎えるJ2へと参戦。サッカーファンに馴染みのあるところでいえば、「清水エスパルス」在籍時に日本代表として活躍していた、伊東輝悦さんが所属していたチームです。今回のJ2昇格、天皇杯出場などを記念して、サポーターグッズがリリースされますが、そのデザインを手がけたのが、山本直樹さん。グラフィックレーベル〈セイハロー(SAYHELLO)〉を手がけるその人です。

ご存知〈セイハロー〉といえば、スケートなどのユースカルチャーをふんだんに盛り込んだカッティングエッジな東京のブランドです。その世界観をつくり出す山本さんに、マススポーツのグッズデザインをお願いするという今回のプロジェクトは、ドイツ語で青い稲妻を意味する “ブラウブリッツ” の攻撃的スタイルへの志向性が表れたもの。その経緯やデザインに至るまでの思考、スポーツとファッションの可能性について、山本さんに話を伺いました。

山本直樹
グラフィックデザイナー。2010年頃にウェブディレクターの森田涼平さんとグラフィックレーベル〈セイハロー〉をスタート。14年には事務所のすぐ近くにギャラリー兼ショップ「SEE YOU SOON」(渋谷・富ヶ谷)をオープンした。ストリートカルチャーに対する造詣が深いことでも知られる。

誰が着るかを考えた、まろやかなデザイン。

まずクラブチーム側が、課題の一つとして挙げていたのが、若年層の取り込みです。そこで、Tシャツをはじめとするアパレルグッズをつくり、若い人たちに興味を持ってもらおうということで白羽の矢が立ったのが、これまで合計1,000枚以上のTシャツのデザインを手がけてきた、山本直樹さんというわけです。

「お話を聞いて、最初は秋田の方がやった方がいいんじゃない? って正直思いました。ぼく自身、熱心なサッカーファンというわけではないので申し訳ないかなって。でも、クラブ側からそれはもう10年ぐらいやったから、違うことをやってみたいという意向と、ぼく自身もその競技が好きなこととデザインすることは別物だと思ったんで、お引き受けすることにしました。それに、コロナ禍でリサーチする時間が十分にあったので、普段はやらないこともやってみようと考えたのもあります」


これまでの山本さんの実績からすれば、普段の手癖でさっとつくることだってできたはず。でも、彼はグラフィックをつくるにも、その服がどう着られるのかという本質的なところまで考えを巡らせました。

「エッジを効かせすぎないようにしました。というのも、これはファッション感覚で着ることを一番に設定するより、例えば、孫のものをおじいちゃんが着て近くのスーパーに行ってみたら、それいいねって言われるくらいの着地がベターだと思って。若い子向けのエッジなデザインの服を、おじいちゃんが着ているのを見ると孫のお下がりだなって分かるじゃないですか。だから不特定多数が着れることはもちろん、おじいちゃんが着ていてもおかしくないくらいのバランス。ファッショナブルにするだけが今回の目的ではないなと思ってデザインしました。それがサポーターグッズの持つ一番の機能かなと」

サッカーのグッズといえば、サッカーファンが着て、スタジアムに行くというのが定番でしょう。しかし、今回はいままでのファンとは違うところにリーチしたかった、というクラブの思惑もあり、ファッション性を行き過ぎない程度に取り入れています。グラフィック一本でやってきた山本さんだからこそ、そのさじ加減を分かるのでしょう。ちなみに、最近のグラフィックのトレンドというものは、どう考えているのでしょうか。

「いまのファッションにおけるグラフィックはどれも似通っているって感じはします。昔と違ってネタの収集方法が似てるから、パイオニアが新しいスタイルをつくって、ムーブメントになるまでの時間がすごい早い。だから結果的に似てきちゃう。年齢的にもぼくがムーブメントを取り入れて作風を左右するより、得意な表現を続けていくことが、見た人に誰のデザインかが分かってもらえる方法だと考えています。売れるファッションのトレンドというものはあるけれど、ファッションとグラフィックのトレンドは混同しないように心がけています」

スポーツとファッションの理想の関係。

コロナによって、中断や無観客が強いられた2020年のJリーグ。同じくコロナのせいで、山本さん自身も秋田へ一度も足を運べていません。もしコロナが収束して、秋田へと行くのであれば何をしたいか。それはやはりファンの顔を見ることであり、スタジアムを身体中で体感すること。

「試合が終わった後に、ファンとワークショップとかできたらいいですね。買ってくれたグッズに、記念にお客さん自身がペイントできたりするような。それだけで愛着の度合いが変わると思うんです。あと、絵を描く楽しみも体験して欲しい。サッカー観戦行ったら、おまけで絵を描いてそっちも大好きになったとか、いいかなって。体育と図工は子供に人気ですし。両方楽しめたら体験としてはすごいラッキーですよね」

スポーツやアートを楽しむこと。そのシンプルな考え方は、ファッションや純粋に楽しむ思い と相通ずる部分があるはず。そしてサッカーを好きになるその入り口が、ファッションであってもいいはず。

「ちょっと前に『ヤマト運輸』のユニフォームのデザインが変わって、いいデザインだなと思って調べたら、〈ホワイトマウンテニアリング〉の相澤さんがデザインしていることを知って、やっぱすごいなあって。いいデザインってのが本来の目的を超えて機能してるって思ったんです。ぼくの人生で『ヤマト運輸』のユニホームを検索することは結構想定外だと思うんです。今回のケースでいえば、サッカーのグッズがかっこよかったから、そのチームに興味を持って、好きになって、応援するようになってもいい。スポーツとファッションの一つの理想的な関係は、そういうことなんじゃないかなと思って。『ヤンキース』のキャップのデザインが好きで、野球あんまり興味なかったけどせっかくニューヨーク来たし一応試合見てみるって流れは想像できるかなって。それが地元のチームなら十分に起こり得るって思います」

たかがグラフィック、されどグラフィック。サッカーの面白さを知ってもらうための仕掛けは、多ければ多いほどいい。ファン未満の人たちをどうやってフィールドへと連れてくるか。そこに危機感を持ち、実際に攻めのアクションを起こす、「ブラウブリッツ秋田」というサッカークラブ。いまはまだJ2へと上がったばかりだけど、J1を目指すその成長物語をいまから楽しむのも、決して早すぎるということはないはずです。

BLAUBLITZ AKITA OFFICIAL GOODS / Designed by Naoki Yamamoto from SAYHELLO


J3優勝を記念したスカジャン。後ろ身頃になまはげのグラフィックが刺繍された一着は、サッカー観戦はもちろん、それ以外で着ても様になる。¥35,000 in TAX

J2昇格を祝うフーディはカレッジスエットを思わせるグラフィックがあしらわれている。¥8,000 in TAX

“We are CHAMPIONS” という言葉の通り、J3優勝を記念してつくられたフーディ。¥8,000 in TAX

胸元のグラフィックはJ2昇格を祝う選手をイメージ。先に紹介したフーディとは一味違うポップなデザインに仕上がった。¥8,000 in TAX


J3優勝を記念したロンT。背面のグラフィックはなまはげを秋田県の形に落とし込んだユーモラスなデザイン。¥5,000 in TAX


キュートななまはげのキャラクターが前後にあしらわれたTシャツ。¥4,000 in TAX

服の他、さまざまなグッズも揃う。右から時計回りにマフラー(¥2,500 in TAX)、ステッカー(3枚セット、¥1,000 in TAX)、リボン型マグネット(¥1,800 in TAX)、キーホルダー(¥1,000 in TAX)、ペナント(¥3,500 in TAX)。

Photo_Masahiro Arimoto(Portrait), Hiroyuki Takashima(Still Life)
Text_Shinri Kobayashi

INFORMATION

ブラウブリッツ秋田

電話:018-874-9777
オフィシャルサイト
オンラインストア

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