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スタイリストならではのセンスと審美眼が光るセカンドストアとは? 小沢宏が考える自分流のサスティナブルの形。

スタイリスト、ファッションディレクターとして長いキャリアを持つ小沢宏氏が、生まれ故郷の長野県上田市にて、新たなチャレンジを始めます。

エディストリアルストア(EDISTORIAL STORE)」と名付けられたプロジェクトはその名の通り、お店という形態ではありますが、これまで存在したどのお店とも成り立ちが異なる、小沢氏でしか作りえないものとなっています。

簡単にいうと、国内ブランド各社の数年前の在庫を小沢氏のセンスと審美眼のもとに、セレクト・買付けをして販売する、いわゆるセカンドマーケットと呼ばれる類の商いです。

というと、すでに同じようなお店があるように感じるかもしれませんが、これまでの二次流通市場はブランドやセレクトショップ主導ではなく、業者と個人が主体のマーケットで、一次流通側(ブランド)がオフィシャルに取引を許可しているという時点で画期的な試みなのです。

なぜそれが可能になったかというと、ひとえに小沢氏が長年に渡り築き上げてきた信頼と信用、そしてセンスによるものだと思うのです。「小沢さんがそういうなら」ということです。

SDGs的な時代の気風にもぴったり歩調が合ったこのプロジェクト。発表するやいなや、繊研新聞の一面に取り上げられるなど、世の中的にも非常に注目度が高いものとなっています。

果たして「エディストリアル ストア」はどのような思いでスタートしたプロジェクトなのか。改めて小沢氏本人に語ってもらいました。

PROFILE

小沢宏
スタイリスト

スタイリスト業を軸に、ブランドディレクション、ショップディレクションなど様々な角度でファッションに携わる。現在「EDISTORIAL STORE」を来春にオープンすべく準備中。

ー今回、なぜお店を作ろうというところに至ったのでしょうか?

小沢:スタイリストという仕事をどういうところに収斂させていくべきかということをずっと考えていたんです。これまで自分なりにベストを尽くして、キャリアを重ねてきたつもりなんですが、自分のスタイリングのクリエイティビティをノーリミットで発揮できる媒体だったり環境がなくなってきたんです。

ー確かに媒体自体もずいぶん変わってきました。

小沢:あとはコロナになってあらゆることが変わりましたよね。だいたいは悪い方にいっているとは思うんですが、そのなかでも違った捉え方をできることもありました。例えば二拠点生活なんていうのは、コロナをきっかけに一気に進みましたよね。そのなかで、Uターンとか二拠点がありえるんじゃないかと思っていたところで、ひらめいたのがお店だったんです。

ースタイリストでお店を営まれている方って、けっこういらっしゃるんでしょうか。

小沢:いなくはないと思いますよ。多いのはオーナーではなく、ディレクションという形で携わるというパターンですよね。スタイリストに限ったことではないですが、やっぱりどこまでいってもクライアントワークなんです。どこかから発注が起きないとビジネスが発生しないということに対するジレンマはずっとありました。

ー受け身ではありますよね。

小沢:そう。だから2000年代は服を作ったり、2017年には今回のお店の元にもなるような〈エディストリアル(EDISTORIAL)〉っていうブランドをやってみたりしました。そうしていろいろなことをやってきたんですが、理想は誰もやってないようなフィールドで、エクスプローラーとしてできることがあればと思っていたんです。

ーそんななかで、今回の発想に思い至ったわけですね。

小沢:そうですね。アウトレットとかオフプライスではない形、新しい仕組みでセレクトショップが提案できるんじゃないかというアイデアを思いついたときから、テンションが上がってきて、いろんな人と話をして次第にピントが合っていくうちにどんどんいけるんじゃないかっていう気持ちになってきました。

ーお店の過去の在庫を使うというのは、ものづくりをしてきたからこそ見えていた景色があって、それで思いついたところがあるんでしょうか?

小沢:それはあるかもしれません。どんなにシェイプアップしたビジネスをしたとしても、段ボール(在庫)ができてしまう。ファッションに携わる人ってみんな好きという気持ちがあって、こういう仕事をしていると思うんです。そういう人たちにとって、売れないからといって焼かなければいけない、埋めなければいけないって、すごく切ない体験なんじゃないかと。今回の取り組みであれば、そういうことを裏返せるんじゃないかと思いました。

ーたしかに。いろいろなことのソリューションになっているように思います。

小沢:課題解決というほど大それたことではないんですが、ごくごく個人的な体験をいい方向にいかせないかなということなんです。ファッションシーンの根本的な問題って、シーズンが終わると価値(値段)が半分くらいになってしまうことですよね。

ーはい。そんな業界って他にないですよね。

小沢:そう。ファッションだけがその仕組みができてしまっているがゆえに、みんなが困っています。セールの時期もどんどん早まっていってプロパー(定価)で売る期間が短くなるという。それを逆手に取るというわけではないんですが、自分ができることとして、まずはこういう方法を取ろうと思います。

ー今回の話を聞いて、周りのみなさんのリアクションはいかがでしたか?

小沢:最初はいい意味で否定されました。一番多かったのは「何年も前の洋服で、小沢さんがいいと思えるものが残っているはずがない」という意見です。売れないで残っているものには、売れない理由があると。

ーなるほど。いくら在庫があってもそこから新たな価値を見出すのは難しいだろうと。

お話を伺った小沢宏さん。いつ見てもチャーミングな格好をされています。

小沢:僕が話を聞いた人はみんな経験がある方ばかりなので、それなりに重みがある言葉なんですが、いざ取り扱いたいブランドに話を聞きに行ってみると、そういうことを超えるぐらいの在庫があることがわかってきました。これはもう構造的な問題なんですよね。なので、これなら(自分がいいと思えるものが)見つけられるなって思いました。

ーおそらくは想像を絶するぐらいの在庫があるんでしょうね。。

小沢:メーカーにとっての余剰在庫って、これまでは「あまり触れてくれるな」というムードがあったように思うんですが、いまはサスティナブル的なことなのか、こういう企画にもGOが出るようになったというのはいいことだなと思うんです。

ーそうですね。数年前だったら実現していないかもしれません。

小沢:〈バーバリー(BURBERRY)〉が何年か前に在庫を焼却処分したことが表沙汰になって大問題になったことがあったと思うんですが、あそこから一気にヨーロッパのブランドがこうした廃棄の問題とか、サスティナビリティについてきちんと考えるようになりましたよね。例えば〈プラダ(PRADA)〉の「リナイロン(Re-Nylon)」とか。

ー最近、プロダクトとしてもいいなと思えるものが増えてきたように思います。

小沢:世界的にそうした運動が盛んになるなかで、そんな大げさなことに関わろうという感じではなく、さっきも言いましたが、あくまでも個人的な思いとか体験をいい風に変えたいと突き詰めていったら、これって世の中でいうところのサスティナビリティっていうことなんじゃないかっていう風に、後付けで辿り着いたんです。

ー取り扱う商品は、何年前くらいのものがあるんですか?

小沢:会社、ブランドによって違うみたいです。最初は捨てられる寸前くらいの服を取り扱おうと思っていたんですが、話を聞いていくとサンプルとかB品もあったんです。ちなみに世界で一番日本がB品に対して厳しいみたいで、海外だったら全然OKなものも、突き返されちゃったりするらしいんです。それだけ品質に厳しいということだと思うんですが。

ーたしかに海外生産のアイテムは、いい意味で?杜撰で味がありますもんね。

小沢:なので、いま話を聞いているブランドは、売れ残りだけではなくて、そういうアイテムも抱えているので、そういうのもひっくるめて面白く見せられれればいいのかなと思います。いろいろ見るうちに僕の知見も深くなってきましたね。

ーインスタでも徐々に買い付けに行かれている様子をアップされています。

小沢:はい。来年の4月頃にお店を開けるので、あんまり早く買い付けても置く場所もないので、年またぎくらいで倉庫に行って買い付けをしていきます。内装は来年の2月くらいに完成すると思うので、そこで保管してもらってオープンの準備をして、ゴールデンウイーク前くらいにオープンするという流れです。

ーお店はどんな感じになるんですか?

小沢:4層のビルの2階と3階を「エディストリアルストア」にします。1フロアで60平米くらいなんですけど、古着屋みたいにぎっしり置くつもりはないんです。服って多ければ多いほど、お腹いっぱいになってしまうというか。なので、かなり絞って並べようと思っています。

ーとなると、そんなにたくさんのブランドは置けないのでしょうか?

小沢:そうですね。同時にECも始めるんですが、お店に置けなくてECだけに置くとなると、せっかく参加してくれるブランドにも失礼かなと思いますので。

ー現状、参加が決まっているブランドを教えてください。

小沢:「ネペンテス(NEPENTHES)」、「ビームス(BEAMS)」、「ベイクルーズグループ(BAYCREWS)」、〈サイ(SCYE)〉、〈ネクサスセブン(NEXUSVII. )〉、〈ノーマティーディー(NOMA t.d.)〉、〈サタデーズ ニューヨークシティ(Saturdays NYC)〉、〈キジマタカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)〉、〈マッキントッシュ(MACKINTOSH)〉あたりでしょうか。

ー錚々たる顔ぶれですね。。その他には、どんな取り組みがあるんですか?

小沢:オリジナルは作らないんですが、ピックアップした商品の中からひと手間加えたものを作ろうとは思っています。例えばオーバープリントしたり、刺繍を入れたりとか。こうした二次加工アイテムを 「マッシュアップ」とカテゴライズして販売します。アップサイクルって、もともと安く済むものを手を加えて高くなってしまうものですよね? 自分はそういうやり方ではなく、アップサイクルの手前で、もっと手軽にセンス次第で買ってもらえるようなものにしたいと思っているんです。

ーあとはお店のショッパーや、什器のリユースについても聞かせてください。

小沢:商品在庫とは別に、部材というか生地のパーツも余ってて困ってるっていう話を聞いたんです。だったらいわゆるショッパーは置かないで、残反をいろいろなところから提供してもらって、それを地元のアパレルメーカーに縫製してもらって、袋を作ります。出来上がったパッチワークのショッパーに下げ札をつけてコンセプトを説明しつつ、生産コストの内訳を記載して、利益を乗せずに原価で販売します。

ーそれはいい試みですね。

小沢:このショッパーには“SPECIAL THANKS LIST”をつけようと思っています。いわゆる映画のエンドロールのクレジットのように、ブランドだけではなく、OEMメーカー、生地メーカーの名前も全部入れたいと思っています。

ーネーミングがいちいち素敵ですよね。そしてインスタで書かれている文章にもすごく引き込まれます。

小沢:ありがとうございます。商品ひとつひとつには、レコードのレコメンみたいな感じで、商品説明を書こうと思っています。それがアイテムに付く下げ札とEC、両方に載るイメージです。それこそインスタでやっているようなことの縮小版というか。自分の主観で何がいいと思っているかを熱を持って書いた方が伝わるのかなって。

ーすごくいいと思います。小沢さんのインスタは本当にみなさんに見ていただきたいです。そして、そうしたレコメンのような文章を、新品を売るお店でも書きたいって思っている方っていると思います。

小沢:はい、絶対いると思います。こないだの『ブルータス(BRUTUS)』で47都道府県からひとつのお店を紹介する、っていうことをやってましたよね。長野県は上田のお店が出ていたんです。「エディストリアルストア」から徒歩3分くらいです。

ー「ハウデイ(HOWDAY)」ですね。

小沢:はい。そこは30歳くらいのファッションユーチューバーの方がやっているお店で、〈カラー(kolor)〉とか〈メゾン マルジェラ(MaisonMargiela)〉とか、「それ上田で売れるのかな」みたいな服をがっつり仕入れているんですけど、それをYoutubeで全部熱く語って売っているらしいんです。すごく反響があるみたいですよ。僕の場合はオールドスクールなので、文章でしっかり伝えるというやり方ですよね。

ーフイナムでも「SHOPPING ADDICT~編集部員のお気に入り~」という企画をずっとやっていて、ずっとご好評いただいているのは、やっぱり純粋にいいなという気持ちがあってリコメンドしているからだと思うんですよね。

小沢:そうですね。隠してもばれる世の中になりましたし、だったら隠さなくてもいいこと、後ろめたくないことをやろうという風になりました。自分がいいと思うものを100%の純度で伝えてあげることが大切なんです。

ーその通りだと思います。

小沢:そんななか「新しくお店をディレクション始めます」とか言って、東京に拠点を置いたままで週に一回上田に行くっていう感じだと、その純度が下がってしまうのかなって思うんです。だったら、ひと思いに戻ってやったほうがいいかなと。

ー買い付けるものは、ご自身が好きなもの、着たいと思うものだけですか? もちろん嫌いなものは仕入れないと思うんですが。

小沢:自分で着ないようなものも仕入れますよ。例えば〈ネクサスセブン〉って、自分ではおそらく着ないと思うんです。だけど、先日デザイナーの今野(智弘)さんと初めてじっくり話したんですが、なんて物事に対してまっすぐな人なんだ、ということで、改めてお声がけしてよかったなって思っているんです。

ーなるほど。

小沢:あとは〈ノーマ ティーディー〉は一着しか持ってないんですが、人の紹介で会ってみたら、彼らのアティテュードがとにかくかっこよすぎるなって思って。いずれにしても、お店でやることは基本的に自分がインスタでやってることの延長線にあるようなものだと思うんですが、そこはスタイリストとして、少しエッジの効いたものとかクラシックなものを混ぜていく、ということはしていこうかなと思っています。

ーお話を聞けば聞くほど、この企画は面白いですね。ほとんどのブランドが、たまっていく在庫と向き合わなければいけないような状況だと思うので。

小沢:そうですね。個人的にはすごく売れていて、ほとんど在庫なんかないんじゃないかっていうようなブランドから、アイテムを見つけていきたいとは思っています。ちなみに今回取り扱う商品には「デッドストック(DEAD STOCK)」を生き返えらせると言う意味で、「ライブストック(LIVE STOCK)」という言葉を使っていきたいと思っています。

ーこの形態って、現状競合はないんですか?

小沢:大きな会社とかも含めると、いろいろあると思います。アメリカだと「ノードストロームラック(NORDSTROM rack)」とか「T.J.マックス(T.J.maxx)」とかがあありますし、完全にその種のビジネスは定着しています。日本ではまだそこまで浸透していないという感じではないでしょうか。ただ、僕はスケールメリットを求めてやるわけではないので、古着屋さんとやっていることは同じなんですが、取り扱うものが新古品になったというだけという感覚です。そういう意味で全く同じことをやっているところは僕はまだ知らないです。

ー仕組みは本当に素晴らしいと思うので、あとは小沢さんご自身がどれだけそのセンスでみんなを惹きつけられるか、というところですよね。

小沢:本当にそうなんです! そこはもう自分自身を研鑽していくしかないですね。

ーでも、とてもいいビジネスモデルなので、2番手、3番手は絶対出てきますよね。

小沢:そうですね。後追いは出てくると思います。けれど、そもそも一次流通と二次流通の関係性って当然そんなによくはないですよね。僕はそこをオープンにして、オフィシャルの二次流通ストアになりますよということなので、、

ーなるほど。そこは簡単に真似できないかもしれませんね。

小沢:最初はドンキホーテが槍を持って風車に突っ込んでいく、みたいな感じでしたけど、いろいろな人と話せば話すほど、意外に今あることの課題解決のひとつのビジネスモデルとして意味があるんじゃないかなって思っています。

ーそう思います。今の世の中、これだけ選択肢があるなかで、いいなと思っているセンスの持ち主が、いいよとお勧めするものが気になる、というのはもう永久に変わらないと思うので。

小沢:高いものも安いものも、僕がセレクトして、そこに物語性を持たせて、スタイリングもして提案していく、ということですよね。お店ができてしばらくしたら、下げ札に書いてあることよりも、もっと長い文章をフイナムブログにあげたり、ウィークリースタイリングみたいなコンテンツを作るかもしれないです。そういう感じでフイナムブログとはうまく連動していきたいですね。

INFORMATION

EDISTORIAL STORE

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