そもそもニュー・ヴィンテージとは?
1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
さて連載開始から5シーズン目に突入し、参加ショップも入れ替わってリスタートした本連載。第34回目は「シーシーエックス(CCX)」の鈴木克哉さん。
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
鈴木克哉 / CCX 店主
Vol.34_ベストカンパニーのクルーネックフリースシャツ&クルーネックスウェットシャツ
―鈴木さんにとっての、ニュー・ヴィンテージとは?
ぼくの地元の埼玉県・大宮は古着激戦区。なので、小学6年生の頃から地元にある名店「ホワイトヘッドイーグル(WHITE HEAD EAGLE)」に通っていたし、古着はずっと大好きで着続けてきました。ただ、いわゆるトゥルー・ヴィンテージに対しては、先達への反骨心的なところもあって全く勉強する気もなくスルーしてきていて……それよりも、ヴィンテージという価値基準が存在する中で、いかに“そこ”に当てはまらないが面白いモノを探すか。これがぼくの考えるニュー・ヴィンテージなのかなと。
―ご自身の中で、具体的な定義ってありますか?
ひと言でまとめるなら、“掘り起こす価値のあるモノ”。それでいえば、今回紹介する〈ベストカンパニー(Best Company)〉は、まさにその定義に当てはまるんじゃないでしょうか。上質な素材と作りにこだわったイタリア生まれのブランドで、デザイナーは、イギリスを代表するマリンウェアブランド〈ヘンリーロイド(HENRI LLOYD)〉のデザインも務めたオルメス・カレッティ氏。随分前になりますが、〈C.P.カンパニー(C.P. COMPANY)〉や〈ストーンアイランド(STONE ISLAND)〉に注目が集まった時期に、「もっと面白いモノがないのか?」と掘っていて辿り着いたのが、ここでした。
―へ〜、このブランドの存在は初めて知りました。
1980年代、イタリアのミラノで“パニナリ”と呼ばれるカルチャーが誕生し、ヨーロッパの若者たちに大きな影響を与えました。要はイタリア版アメカジといいますか。その中にあって、一際アメカジ色を強めていたブランドというイメージなのがコチラ。当時、日本にも正規代理店があったのですが、国内ではあまり大きなムーブメントにはならなかったようです。
―どんなアイテムがあったんですか?
まずは、クルーネックのスウェットシャツから見ていただきましょうか。袖はフリーダムスリーブの変形版ですかね。脇部分にガゼットがあったりして、ちょっと欲張っちゃうというか、イタリアブランドらしい“やりすぎ感”(笑)。個人的な推し要素を1つ挙げるなら、カジュアルなスウェット生地のボディに対して、何種類の糸を使うの!? ってくらい細かく色鮮やかな刺繍。こういった刺繍や色使いの素晴らしさが、このブランドを語る上でハズせないポイントです。あと配色された襟リブも新鮮でイイですよね。80年代という時代背景を考えると、やはり〈ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)〉のようなアメリカンブランドとは異なる、ヨーロピアンな匂いと大人の色気を感じさせますよね。
―このクオリティでイタリアブランドというところから察するに、当時の値段は結構したのでは?
だと思いますし、今も古着界隈の一部では高騰しています。ウチで店頭に並べるとしても¥18,000〜¥20,000ですかね。それでも市場価格からすれば、全然安いくらい。とはいえ先ほども話したように、存在自体を知らない人も多いので、探せば普通に出てくるとは思いますけどね(笑)。で、続いてもう一着。クルーネックのフリースシャツを持ってきました。
―ストリートブランドの新作と言われても納得するような、今っぽいデザインですね。
そうなんですよ。この素材も〈ベストカンパニー〉ではあまり見かけないものですし、先ほど刺繍がイイとか色気があるとか言っておいて、この“らしくない感じ”が結構珍しいなぁと(笑)。時代的にもそんなに古くはなく、多分1990年代後半〜00年代にかかるか位のアイテムだと思います。当時人気を博していた〈ダナキャランニューヨーク(DKNY)〉などのストリートな匂いのするブランドに、若干の影響を受けたんじゃないかなと。フロントのメッセージは、多分「BACK TO BEST=ベストに戻ろう=やっぱベストカンパニーでしょ!」みたいなノリだと思います。フリー素材のクルーネックっていう用途もよくわからないし、コレ本当になんなんですかね?(苦笑)。
―(笑)。こっちが聞きたいですよ。でもあまり知られていないというのは、掘るのも楽しそうですね。どう着こなすのがオススメですか?
ぼく的には、当時のパニナリよろしく〈リーバイス(LEVI’S)〉の501に合わせてみたらイイんじゃないかなと。もしくは足元を〈ナイキ(NIKE)〉のダンクにしてみたり、〈チャンピオン(CHAMPION)〉のリバースウィーブの代わりに取り入れるとか、アメカジの方程式に当てはめつつ、少しズラしてあげるだけで面白いと思います。通常のアメカジがハンバーガーにビールを合わせるのだとしたら、「今日はちょっとワインにしようかなぁ」って気分の時に取り入れてみるのが〈ベストカンパニー〉。ぜひ探してみてください!
鈴木克哉 / CCX オーナー
自由にファッションを楽しむ人達に向けた“マイノリティの逆襲、尖ったものを発見する喜びを提案する”セレクトショップ「シーシーエックス(CCX)」を2021年7月7日にオープン。ヴィンテージ、デザイナーズ、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、ミリタリー、ワークなどジャンルに縛りを設けることなく、とにかく他には無いアイテムやスタイルを紹介する。
公式サイト:www.ccxwebstore.xyz
インスタグラム:@ccx_kitazawa