都市というのは、総じて西側が栄えていくもの。東京で言えば、山手線の西側である新宿や渋谷が栄え、ロサンゼルスで言えばダウンタウンより西、ハリウッドやサンタモニカが栄えています(ほかの都市も、たいがいがそんな感じ)。
西が飽和状態になり地価が上がると、今度は東側が栄えていきます。いまの東京が、まさにそう。イースト東京にはここ数年で、注目のカルチャースポットが続々とオープンしています。
そんな盛り上がりを見せるエリアで、2018年カフェとして誕生した「ルッテン_(RUTTEN_)。当初はカフェをメインに、ひっそりと営業をしていましたが、昨年からコンセプトを刷新し新装開店。
このお店、経営している方というのが、青山にあるアイウェアショップ「ブリンクベース(blinc vase)」を運営する荒岡敬さん。
なので、生まれ変わってからは店頭でメガネも販売されはじめ、昔からの趣味である郷土玩具も陳列されていたり、加えてユニークなレモンサワーもいただけるという、なんともカオスなお店になりました。
ここからは荒岡さんの言葉で、「ルッテン_」を解説していただきます。
ーメガネもあって、郷土玩具もあって、レモンサワーも飲めて、かなり多角的ですね(笑)。
荒岡:オープン当時は郷土玩具もメガネもなかったんです。でも、自分が「ブリンク」をやっているということもあって、途中からなんとなく、メガネを販売しはじめて。
ーレモンサワーは元からあったんですか?
荒岡:オープンしたときから、夜はレモンサワーを提供していましたね。そのときはレモンサワーのメニューも5種類しかなかったんですけど、いまは31種類になりました。
ー31種類ですか?レモンサワーだけで?
荒岡:そうです(笑)。最近32種類目が完成しました。
ーちなみにそれは、どんなメニューで?
荒岡:BJJレモンサワーと言います。ブラジリアン柔術の文字をとってBJJ。
ー「ルッテン_ 」のレモンサワーはどれも違う味わいで、それぞれにユニークな名前をつけられていますよね。
荒岡:BJJレモンサワーに関しては、まず「カシャーサ」という、ラム酒に似たブラジルの大衆酒をベースにしているんです。そこに、マイヤーレモンをきび砂糖に漬け込んだ自家製レモンシロップ、深煎りコーヒーをスパイスと一緒に煮込んだ自家製コーヒーシロップを混ぜて作ります。ブラジリアン柔術って、日本の柔術がブラジルで広まってできたスタイルなんです。レモンサワーも日本で生まれ、そこにブラジルの要素である酒とコーヒーを使っているから、BJJレモンサワーと名付けました。
ーユニークなメニュー名の裏にはちゃんと背景があるんですね。「サウナ帰りのレモンサワー」なるメニューもありますが。
荒岡:場所柄、サウナの有名店「北欧」帰りの人もよく来てくれるんです。それだったら、その人たちが楽しめるメニューもあっていいよなと思って作りました。
ーどんなメニューなんでしょう?
荒岡:サウナと言えばオロポですけど、それに変わるレモンサワーを作ってみました。ジンをベースにした自家製レモン酒に、レモン果汁をほど良く加えて、スッキリした味わいです。
ーほかにも「銭湯帰りのレモンサワー」「ムエタイのレモンサワー」など、一見どんな味か想像できないメニューが並んでます。
荒岡:そうしたメニューが32種類あります(笑)。なので、エブリデイレモンサワーみたいな感じで、毎日違う味を楽しんでいただけたらと。私は普段、店頭にいますので、わからないことがあればぜひ質問してください。
ーレモンサワーに加えて、郷土玩具とメガネも販売していると。
荒岡:玩具に関しては昔から好きで集めていて、好きが講じていまは「日本郷土玩具の会」の会員でもあるんです。日本全国には、まだまだ知られていない作家さんや郷土玩具があって、東京にはちゃんとセレクトして販売しているショップがないから、自分がやろうと思って。
ーなかでもオススメはありますか?
荒岡:これらは「ルッテン_」の別注という形で作っていただきました。みなさん、新鋭の作家さんたちで、伝統工芸品のよさを活かしながら、現代の感覚や文脈を盛り込んでいる方々です。このような微笑ましい世界観がいま、人気になっているんです。
ー郷土玩具に関して、セレクトの基準などはあるんでしょうか?
荒岡:郷土玩具って、似ているものがけっこうあるので、なるべく趣の違うものを集めています。あと、新旧の作家を同列に並べている場所って本当に少ないんです。なので「ルッテン_」ではどっちの良さも伝えていければと。
ー最後にメガネですね。ここに置かれているものは、荒岡さんのセレクトなんですよね?
荒岡:そうですね。現状は日本で生産しているものが多くなっています。最近だと日本の新鋭ブランド〈フィルトン(Filton)〉も扱い始めました。ヨーロピアンヴィンテージのデザインを踏襲しながらも、ボタン、縫い針の形をしたオリジナルパーツを製作し、そのパーツをフレームに組み混んだ遊び心があるメガネなんです。
レモンサワーも郷土玩具も、どちらも大量生産ができないものです。メガネもそうしたクラフト感をテーマにしていて、人の手のぬくもりが感じられるアイテムを置いています。
ーレモンサワーで酔っちゃって「メガネかけさせろー!」みたいなお客さんもいそうですね。
荒岡:そんな乱暴な人はいないですけど(笑)、男性は特に、レモンサワーを飲み始めるとメガネを見たくなるようで、そのまま購入する人も結構いるんです。さすがに酔っているときに視力検査はできないので、それは後日来てくださいと。で、これはあまり知られていないんですが、ここ御徒町は、メガネの街なんです。
ーといいますと?
荒岡:昔からメガネの工場や問屋があって、不忍の池にはメガネの碑があるくらいで。
ーそれは知らなかったですね。
荒岡:実は自分の両親も、この辺で代々メガネ屋をやっていて、私の祖父の名前はその碑に刻まれていたりもして。
ー荒岡さんは正真正銘、メガネのサラブレッドなんですね。その背景もあると思うんですけど、なぜ「ブリンク」のある青山方面ではなく、ここ御徒町ではじめたんでしょうか?
荒岡:特にここの場所は、自分の祖父が商売を始めたエリアで、自分が生まれ育った場所です。ずっと青山で仕事をしていて、それはそれでとても楽しかったんですけど、いまは少しでも、地元の方々が楽しめるような場所を作りたいと思っているんです。
ー今後、このあたりも蔵前や清澄白河のように、盛り上がっていくと思いますか?
荒岡:まず、ここでやってわかったのが、青山や渋谷まで行かず、東側のほうで買い物をしたい人がいることです。そうした方々に、自分のいいと思っているメガネもそうだし、玩具もだし、そういったものをもっと紹介していきたいんです。
それと、昔からの友達がカメラ屋だったり写真のギャラリーとかをやってたりして、いまは彼らと「写真の街みたいになればいいよね」なんて話しもします。草の根運動じゃないけど、小さいことを積み重ねていって、いままでにないようなおもしろい場所に、みんなの力を合わせてできたらいいなと思います。
Text_Keisuke Kimura
Photo_Hiroyuki Takenouchi