そもそもニュー・ヴィンテージとは?
1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに、当時“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
気が付けば7シーズン目に突入した本連載。というワケで、新たにショップも入れ替わってリスタートしましたが、今回の第56回目で各店の2巡目もラスト。「インスタントブートレグストア(instant bootleg store)」の坂本一さんに締めていただきましょう。
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
坂本一 / instant bootleg store 主宰
Vol.56_表地がシェル、裏地がフリースの“あの形”のジャケット
―さて、今回紹介していただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?
今回も当然“モノ”にフォーカスしてはじめるのですが、単にモノを紹介するだけではなく、日本人が広めたこの“古着”というカルチャーに、もう少し触れることが出来たらなと企んでいます。そこで今回は1980年代生まれの“個人的裏アメリカンベーシックなジャケット”を紹介します。スタイル的には表地がシェル、裏地がフリースのブルゾンタイプ。いちばんメジャーなのが〈パタゴニア(Patagonia)〉の名作「シェルドシンチラ」。多少の雨風なら凌いでくれて保温性もあります。これってアウトドア大国・アメリカならではの発想だと思うんです。着丈がスイングトップのように短いし、本格的に山や川での使用までは想定していない。要は“アウトドアが日常にある”からこそ生まれたシティウェアだと思うんです。
―デザイン的にもすごくスタンダードというか着やすそうな。
結構ナウいシルエットでしょ? 身幅があるのに程よい着丈で、少し野暮ったくクラシックな感じなんだけど色・素材使いもイイし。テクノロジーの進化の発展途上感があるルックスはミドルスクールな印象も与えます。そこがイイんですよね、超ナウくて。そして面白いのが、これと同じスタイルのジャケットが、みんなが知っているあのブランドこのブランドにも存在するっていう事実。
〈エディー・バウアー(Eddie Bauer)〉もそのひとつです。こちらでは「ウインドフォイルジャケット」というモデル名で展開されています。ここは現行でも展開していて、時代によってディテールにも変化が。1980年代〜1990年代初頭まではほぼ同じルックスなんですが、近年モノは袖と裾がリブ仕様からゴム仕様に。同じように他ブランドでも少しずつマイナーチェンジしたり、モデル名を変えながら作り続けています。
―他にはどんなブランドがあるんですか?
〈エル・エル・ビーン(L.L.Bean)〉ももちろん作っていて、モデル名は「ウォームアップジャケット」。柄裏地や配色に個性が出ていますね。同じ形でも色や柄が違うと雰囲気もすごく変わるので、探すととても面白いんです。
上が1980年代初期のモノで、フロントジップ&比翼仕立て。もうひとつは近年モノですが、他ブランドと同様のリブ袖&裾のシンプルなルックスへと変遷します。これらの定番アメリカンアウトドアブランドだけでもバリエーションが多すぎて、マジで沼(笑)。しかも今回は、ここからさらに深いところに潜っていきたいと思います。
―おっ、まだ他にも出てきますか!
〈ウールリッチ(WOOLRICH)〉やレアなところでは〈ウィンディ パス(Windy Pass)〉名義の〈ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)〉、〈ティンバーランド(Timberland)〉なんかもあります。
その他にも〈ランズエンド(LANDS’END)〉(ギャップ(GAP))〈アール・イー・アイ(REI)〉などなど。いまは消滅してしまったブランドや2000年以降に誕生したブランドなんかでも、アウトドアテイストが少しでもあるブランドなら、必ずと言っていいほどこの形を作っています。
―まさに“枚挙にいとまがない”というやつですね。
“裏アメリカンベーシック”と言った意味もお分かりいただけたのでは? ジーンズやGジャンと違って、あまり日本人には馴染みのないスタイルですが、気候や国民性もあってアメリカでは、自然と“当たり前にある存在”になったんでしょうね。いわゆる“売れる形”っていう。
―こんなに色々なブランドが作っているアイテムなのに、ネットやフリマアプリでは、“ナイロンジャケット”というカテゴリーで探すしかないというのもイイですね。これは相当、掘り甲斐があります。
約20年かけて下地を築きあげてきたヴィンテージのムーブメントが、古着という日本発のカルチャーとして定着し、いまなんて過去最高の盛り上がりじゃないですか。そんな中で、完全にフェーズが変わっていると思うんです。この連載って“まだ価値は無いけれど、今後間違いなく価値が付く”。そういう新しいモノを提案しているワケじゃないですか。いまって、古着がSNSと相性が良すぎるせいで情報過多もいいところ。みんな間違いないモノを求めすぎていて、その右向け右な感じがすごくダサいと感じています。古着にも流行りはあるし時代とともに移ろいゆくけど、結局“ただ好きなものを取り入れる”。それでイイんです。隣のヤツと同じような流行りのアウターやボトムは当然押さえつつ、インナーに価値はないけどお気に入りの古着のTシャツを着る。そこには、自分にだけ分かる価値がある。それこそが古着本来の愉しみでしょ。
―ですね。自分だけに分かる価値を見出すことで、そこら辺に転がっている石が宝石に見える、みたいな。
なので、今回は「ここで紹介されていたから買う」というのではなく、ここから気になったら調べたり一歩踏み込んでもらいたくて、“何を選ぶかではなく、どこを選ぶか”という視点が必要となる、どこのブランドでも作っているようなアイテムを取り挙げました。地方に住んでいる方は、ネットやSNSももちろん駆使して然るべきですが、オンラインストアに店中のアイテムを載せきれるワケがない。じゃあ、どうするか? 実店舗に行くんです。休みの日に友達と一緒に東京に遊びに行く。わざわざ、ですよ。そういうことをしてほしいと思います。と、ネットショップオンリーの俺が言うのもアレですが(笑)
坂本一 / instant bootleg store 主宰
原宿「BerBerJin」にて8年余り古着業界に携わりバイイングも経験。その後、セレクトショップ「FAN」に参加。以降は様々な企画を手掛ける。その坂本一が思う良い物を“素敵な小遣いの使い方”をテーマに販売する古着屋、それが「instantbootlegstore」である。
インスタグラム:@hajime0722