CLOSE
NEWS

連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.57 誇張された意匠は“なぜ!?”だらけ。一周回って00’sのヒップホップデニム。

そもそもニュー・ヴィンテージとは?

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに、当時“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

本連載も8シーズン目に突入! というワケで、今回からショップが全て入れ替わってリスタート。1巡目のトップバッターとなる第57回目は、渋谷にある「渋谷 T(SHIBUYA T)」のShunさん。

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


Shun / 渋谷T ディレクター
Vol.57_ショーン・ジョンとラフ・ライダーズのデニムジャケット

―Shunさんにとっての、ニュー・ヴィンテージとは?

ウチだったら、まだ誰も手を出していなかったり感度の高いブランドがサンプリングソースにしていたりするモノですかね。身も蓋もない言い方をするなら、まだ同業者が目を付けておらず、買い付けられるというのもポイントです。そういうアイテムってディーラーも在庫を持て余していたりするので、市場に送り出すことはお互いWin-Winですし、その上で“なぜ、どこがイケてるのか”という理由をしっかり提示して価値を見出して提案できればニュー・ヴィンテージとなり得るのかなと、この連載を読んでいて感じました。

―なるほど。その上で“渋谷Tならではの目線”というのはありますか?

ストリートカルチャーに紐づいたアイテムに関しては、他店よりも多少は説得力があるんじゃないかなと考えています。先輩方には懐かしく、若い世代には新鮮に映る。その両者に重なる部分のアイテムをカルチャー的知識でゴリ押しすることなく、あくまでリアルクローズとして提案する。そこにお客さん側がカルチャーの匂いを少し感じ取ってもられば、それでイイのかなと。最近は若い世代の間で“古着=高い”というイメージを抱いている人も増えてしまっているので、肩肘張らず古着カルチャーの入門編みたいなお店でありたいと思っています。

―とても素晴らしい姿勢かと。で、今回紹介していただくニュー・ヴィンテージなアイテムは?

入門編と言っておきながら、ちょっと玄人っぽいアイテムになってしまうのですが……00年代の〈ショーン・ジョン(Sean John)〉と〈ラフ・ライダーズ(RUFF RYDERS)〉のデニムジャケットを持ってきました。海外の古着屋では一応、“ヒップホップデニム”などの名称でカテゴライズはされているようです。

左からラフ・ライダーズのデニムジャケット ¥11,000、ショーン・ジョンのデニムジャケット ¥11,000(ともに渋谷T)

―40代以上には、この感じが非常に懐かしく感じられます。

要は、原宿の竹下通りでブラザーたちが売っていたアレです(笑)。元祖的存在の〈カールカナイ(KARL KANI)〉に始まり、〈フブ(FUBU)〉〈ロカウェア(ROCA WEAR)〉〈ファットファーム(PHAT FARM)〉〈アカデミクス(AKADEMIKS)〉なんかも有名。そういう意味では“ブラザーデニム”という呼び方でも良さそうですね。ぼくも中1の時に、地元の先輩から本物かどうかも分からないジーンズを買わされた思い出があります(笑)。

―ドンズバの世代は気恥ずかしくて着づらいかもしれませんが、バイアスなしで見ることのできる若い世代には、すごく新鮮に映りそうです。

数年前には〈バレンシアガ(BALENCIAGA)〉が〈ラフ・ライダーズ〉をサンプリングした事件もありましたし、バカデカなシルエットや無駄に凝ったディティールなど見どころも多いんです。同業者と話す際にも、必ずデザインの面白さは話題になりますし。ただ、そのあとにクオリティの低さも触れることになるんですが、まぁそこはご愛嬌ということで(苦笑)。

―世代間で反応の違いが大きそうではあります。

若い世代は単純に“なんか面白いアイテム”と捉えていますね。例えば、この〈ラフ・ライダーズ〉。着丈がメチャクチャ長くて誇張されたシルエットが、モードなノリに感じられるのかもしれません。実際は、腰履き前提で腰に拳銃を挿していても隠せたりと、“不良のための服”という背景に即したデザインなんでしょうけど。

―このデカさもそうですよね。

これで2XLサイズなんですが、多分SやMなんて存在してなかったんじゃないですかね。買い付けしていてもXL以上しか出てきません(笑)。そしてこれらの特徴の1つに“無駄なディテール”があります。意図不明な場所に施されたステッチや、生地をパネル使いで切り替えているけど立体的に裁断されているワケでもない袖。生地も厚いから着るとゴワゴワして違和感しかないし、ポケットはマチがないから全然モノが入らない。こうなってくると背面のハンガーループも「別の用途があるんじゃないか?」と勘繰ってしまったりで(苦笑)。こんなバカでかいサイズで作っておきながら、ちゃんとウエストにサイズ調整用のアジャスタがあるのも謎です。

ラフ・ライダーズのデニムジャケット¥11,000(渋谷T)

―いい意味で、すごくバカっぽいです。

語る分には、本当に面白いんですけどね。もう1着が〈ショーン・ジョン〉です。一見普通ですが、やっぱりサイズ感がちょっとおかしいですよね(笑)。ペインターパンツに見られるハンマーループ的なディテールを備えていますが、場所的にも「なぜ?」っていう。カラビナで色々とブラ下げても面白そう。あと、また、ピスネームの“永遠”の文字も然り。漢字が流行った時期もあったので、そのノリなんでしょうね。若い世代だけではなく、オーセンティックな古着好きが見ても、すべてが新鮮に映ると思います。

ショーン・ジョンのデニムジャケット ¥11,000(渋谷T)

―ディグ&ツッコミ甲斐がありますね(笑)。この辺りって、まだまだ掘れる感じなんですか?

アメリカ買い付けでもスリフトにはあまり出てこないようで、意外と高騰し始めているみたいです。逆に日本では、郊外のリサイクルショップとかで安く見つかりそう。ぼくの地元・福島の会津なんかも、ウェッサイのローライダー文化が根強く残っているので、見つかる可能性は高そうですし(笑)。

―当時のコスプレにならないように着こなすコツとかありますか?

若い子たちは格好良く着こなしていますよ。〈リック・オウエンス(Rick Owens)〉に合わせたり、ゆったりしたスラックスに革靴みたいな人もいたり。〈ダブレット(doublet)〉のようなビジュアル強めのドメスティックブランドが好きな子たちの反応も良かったりします。やはり、カルチャー的背景を知らないからこそ、自由に楽しんで着こなせているんでしょうね。皆さんも色々と試してみてください。

Shun / 渋谷T ディレクター
21歳で株式会社mellowに入社し、同社が運営する古着屋「渋谷T」で働き始めるように。今年でキャリア9年目。現在は店舗のディレクターとして運営に関わる一方で、バイヤーとして商品の買い付けも行っている。同店で前任のディレクターを務めた「伊藤商店」のITOさんの後継者として、日々奮闘中とのこと。
公式HP:shibuya-t.shop-pro.jp
インスタグラム:@shibuya_t_shop

このエントリーをはてなブックマークに追加
TOP > NEWS

関連記事#NEW VINTAGE

もっと見る