1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに、当時“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
本連載も8シーズン目に突入! というワケで、ショップが全て入れ替わってリスタート。第59回目は、原宿にある「オーサムボーイ(AWSOME BOY)」のkic©︎さん。
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
kic©︎ / AWSOME BOYオーナー
Vol.59_ハインゲリック/ショウエイのライダースジャケット
―kic©︎さんにとっての、ニュー・ヴィンテージとは?
世の中から姿を消して、街で着ている人や店で売られている姿を見なくなったモノというのが前提条件にあって、その上で見せ方や着方を変えることで新たな提案をすることが可能な古着。それがニュー・ヴィンテージと呼べるのかなと考えています。
―なるほど。それを「オーサムボーイ」でいうと、どういったアイテムが該当しますか?
ひとつは、アウトドアウェアやワークウェアのように、そもそも実用性ありきで特定の用途に合わせて作られているアイテムが該当すると思います。本来の文脈とは違うアプローチでファッションとして取り入れることができますし。ヒップホップカルチャーにおける、バスケジャージやベースボールシャツなどのユニフォームなんかもまさにそうですよね。その辺りは既に当たり前のモノとして受け入れられていますが、まだファッションとして認知されていないモノがある。その隙間を提案していきたいと思っています。
―というワケで、今回紹介いただくのがライダースジャケット……ですが、なんていうかシブイですね。
ですよね(笑)。まずは〈ハインゲリック(Hein Gericke)。ドイツのモーターサイクルウェアブランドで、こちらは“Pro Sports”というよりプロユースなラインと思われます。本気ゆえに機能性とタフさにかけては折り紙付き。フロントの胸ポケットは多分、サングラスなんかを収納するためのものでしょうね。いまだとスマホなんかがちょうど収まり良さそう。個人的にポイントが高いのが肩やヒジ部分に内蔵された防護用プロテクター。これを取り外すともうちょっと着やすくなるんですが、ウチでは逆三角形のスパルタンなシルエットを活かしたタフな着方を推しているので、あえてそのままに。より本気のギア感が楽しめますし、ファッションに取り入れた際のミスマッチ感も際立つと思います。
―ちなみにプライスゾーンは?
これなんかだとシンプルなデザインなので、ウチでは1万3,200円ですかね。スポンサー企業のロゴが入っていたりすると、一気にプライスも上がります。で、もう1着は日本のヘルメットブランドで〈ショウエイ(SHOEI)〉のモノ。バイク乗りなら誰でも知っているってくらい有名ですし、『AKIRA』の作中で金田のバイクにステッカーが貼られているので知っている人も多いかと。この立体裁断的な複雑なパターニングやバキバキに反射するスコッチライト、マチ付きで収納力の高いウエスト部分のポケットなど、やりすぎな感じもユニークですし、ウエストベルトをギュッと絞って、シルエットを変えてみても面白い。ただ普通、ファッションとして着るケースは稀でしょうが(笑)。
―こういった日本のメーカーも人気なんですか?
バイク同様、〈カワサキ(KAWASAKI)〉や〈ホンダ(HONDA)〉は人気が高いですね。デザイン的にも格好良いモノが多いですし。そんな中、こういった玄人好みのブランドを“あえて”取り入れるっていうのがイイんじゃないかなと。オーバーサイズを選んでも着丈が短いので、ボトムスもデニム、カーゴパンツ、ワークパンツなど何でもOK。シルエットは太めを推奨。最近のファッションにもすごくハマります。
―インナーには何を合わせるのが正解でしょうか?
素材自体がタフなのでフーディーなど厚めのアイテムを重ねると動きづらくなっちゃうため、Tシャツ1枚ですかね。それで肌寒いならロンTとか。基本的に風を全く通さない防風仕様なので、タウンユースなら3シーズン対応可能。ファッションアイテムとして仕入れている古着屋は少ないと思うので、探すというアクションも含めて楽しんでもらえます。時期的にまだ先になっちゃいますが、毎年判に押したように“冬はダウンジャケット”と決めつけてしまうのではなく、こういうちょっと不便でもおもしろいアイテムにも目を向けることで、オリジナルなスタイルを見つけ出すキッカケにもなるんじゃないでしょうか。
kic©︎ / AWSOME BOY オーナー
東京発のストリートブランド〈スワッガー(SWAGGER)〉で経験を積み、友人が立ち上げたラップTEEを中心に独自の視点で90’s〜00’sのヒップホップカルチャーをベースとした古着をセレクトするオンラインショップ「オーサムボーイ(AWSOME BOY)」に加入。2015年、裏原宿に実店舗をオープンし、2018年より同名のリメイクブランドを立ち上げ。現在はオリジナルリメイクアイテムと古着を取り扱っている。
公式HP:www.store-awesomeboy.com
インスタグラム:@awesomeboy_vintage