1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップが全て入れ替わり、この連載も遂に11シーズン目に! 第87回目は、先日2周年を迎えたばかりの「チルウィーブ(chillweeb)」のchillさんの2巡目。どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
chill / chillweeb オーナー
Vol.87_MAHARISHIのモーターサイクルコート&アノラックパーカ&ベスト
―今回紹介してもらうニュー・ヴィンテ―ジなアイテムは?
30代半ば以上の読者には懐かしいと感じる人も多いかと思いますが、今回は1994年にイギリスで設立されたブランド、〈マハリシ(MAHARISHI)〉を取り挙げたいと思います。デザイナーのハーディー・ブレックマンが元々、ミリタリーサープラスウェアのコレクターだったため、それらをサンプリングソースとしたアイテムで知られています。
ー近年では〈ミズノ(MIZUNO)〉や〈リーボック(Reebok)〉〈アディダス(adidas)〉などユーロ圏で人気のスポーツブランドとのコラボレーションを行うなど、同国を代表するストリートブランドですね。
当然いまでも現役のブランドですが、ウチではトニー・スパックマンというデザイナーが関わっていた1997年〜2000年までのアイテムにフォーカスしています。
ー同ブランドといえば、ドラゴンなどオリエンタルな刺繍をあしらったアイテムのイメージが強くありますが、あれはいつ頃なんですか?
西洋のアイテムであるミリタリーウェアに東洋的モチーフをミックスしていて格好良かったですよね。時代的には2000年代以降かな。近年のY2Kブームもあって再評価されていますが、よりマニアックな人たちの間で静かなブームなのが、この辺のアイテムです。個人的にも好きでぜひ布教したいなと(笑)。
ーなるほど。そもそもトニー・スパックマンとはどういう人物でしょうか?
創設者のハーディーさん同様、彼もイギリスのデザイナーで、〈ザ・ダファー・オブ・セントジョージ(The DUFFER of St.GEORGE)〉のインターンシップとして業界に入った後、〈マハリシ〉に在籍。その後は〈ナイキ(NIKE)〉のデザイナーになって、世の中的にはそこで手掛けたアイテム群の中でも、2002〜2003年頃のフューチャリスティックかつアーバンテックなデザインが人気。さらに2013年〜2022年まで〈ジバンシィ(GIVENCHY)〉のディレクターも務めていたりと、華々しいキャリアを歩んできた人物です。
ーなるほど。〈マハリシ〉ではどんなアイテムを手掛けていたんですか?
彼の公式サイトには当時手掛けたアイテムの画像が抜粋されて掲載されているので、そちらをチェックしてもらえれば一目瞭然なんですが、後に〈ナイキ〉で手掛けたアイテムにも共通するような“機能美”が最大の特徴でしょうか。パッと見でも格好いいし「今こういうのを着たい!」という気分にもマッチするものばかりで。
ーこれが1着目ですか。なかなかシブいですね。
ミリタリーアイテムでいうところのモーターサイクルコートですかね。胸元のフロントポケットが目を引きますが、それ以上に細部までのこだわりが尋常じゃなく。内側のネームタグはブランド初期に見られた通称“忍者タグ”。プレミア価格で取引きされるのは、基本このタグが付いたアイテムです。
ボタンもブランドネームが刻印されたオリジナルですし、それを縫い付けたテープも当然ロゴ入りのオリジナル。対する受け手側はボタンホールではなく、ドローコードによるループ仕様ですよ? このアイデアは他で見たことがないし、ギア好きにはたまりません。
で、フードも取り外し自在。そして注目いただきたいのがジップ! レール、テープ、ヘッドとすべて2色使いで、しかも〈リリ(riri)〉社に別注したオリジナル。この2色使いのWジップは、この時期の特徴的なディテールですね。
―大きくロゴが入るわけでもなく、シンプルかつ気の利いたデザインでイイですね。
そう。服としての完成度が高く、かつ飽きずにずっと着続けられる系です。ちなみにこれを含め、今回用意したのはすべてメイド・イン・UK。現行のメイド・イン・チャイナのアイテムの中にも格好いいモノはありますが、やはり古着好きとして惹かれちゃう部分ではあります。
―続いての2着目は?
こちらは2000年頃のモデル。この時期のタグはタギング調のロゴがデザインされているのが特徴で、通称“タギングタグ”。カテゴリーとしてはアノラックパーカですかね。
フードも身幅も大きめ。ボディをグルリと囲むようにリフレクターテープがあしらわれ、フードとポケットの裏地はいわゆる“マハリシカモ”と呼ばれる迷彩柄が採用されています。しかもパイピングまでカモフラ柄と作りが変態的に凝っているんですよね。袖先のベルクロストラップにもリフレクターとカモフラ柄をかましていますし。また身頃の裏地に通気性に優れたメッシュ素材を使っているのも、機能性を重視しているから。
―3着目はベストですね。アシンメトリーなデザインとポケットの配置からもテッキーな匂いがします。
ボディ素材にも、吸水速乾性を備えたクールマックスを使用していますからね。ただしコレは、トニー・スパックマンが1999年にデザインしたアイテムを2000年代に改良したモノで、素材やポケットの位置などに差異あり。なので今回のテーマからは若干ズレはしますが、アシンメトリーのデザインが唯一無二でめちゃくちゃクールです!
―たしかにアシンメトリーなカッティングがユニークですが、どういうデザイン意図なんでしょうか?
なんでしょうね?(笑)。同じデザインでジャケットもあるんですが、わざわざこのカッティングで作っているのが〈マハリシ〉らしさという以外に言いようがないというか。
ー右側だったら腰にガンホルダーを装着するイメージかなと思ったんですが、左側ですもんね。腰に日本刀を差しているイメージなのかなって。
先ほども話したように、忍者などの和のテイストはマハリシを語る上で欠かせない要素なので、その可能性もありえますよ。ディテールについてもう少し詳しく説明すると、ジップは当然2色仕様ですが、ヘッド部分が細長いタグのようなデザインに。他のアイテムにも基本的についているピスネームも、ブランドネームをあえて入れず洒落ていますし、内側からチラリと覗くステッチが絶妙なアクセントに。
ー正直、前回の〈コスパ(COSPA)〉のアニメTに比べ、全体的にすごくリーズナブルなプライスに感じちゃいました。
ですよね(苦笑)。とはいえ日本では、〈マハリシ〉でもこの辺をフォーカスしている人って、まだまだ少数派なので、この値段で買えるのはいまだけかもしれません。実際、海外を中心に〈ストーンアイランド(Stone Island)〉や〈シー・ピー・カンパニー(C.P.Company)〉のような、テック要素のあるミリタリーテイストが好きなギアコレクターたちの間では、ネクストの存在として評価が高まっていますし、将来的にもそうなるんじゃないかなと期待しています。
chill / chillweeb オーナー
2022年5月1日に代田橋に「チルウィーブ(chillweeb)」をオープン。アニメTシャツを軸に、自分で着たいと思うグッドレギュラーやデザイナーズアーカイヴ、テクノ系やY2Kの古着を主に取り扱う。2024年3月には、原宿のURAHARA CENTRAL APARTMENTに移転し、さらに注目を集めている。またの名をナード・コバーン。
インスタグラム:@chillweeb_harajuku