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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.94 “無駄に○○”がぼくらを魅了する。00’sなナイキのスフィアシリーズ

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

新たにショップが全て入れ替わり、この連載も12シーズン目に! 第94回目は、明大前の注目店「セッション(7ession)」の井石 毅さん&佐野敦哉さんの2巡目。どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


井石 毅&佐野敦哉 / 7ession バイヤー、ディレクター
Vol.94_NIKEのプルオーバー&クルーネックシャツ&ショーツ

―前回は、30代半ば以上の世代には懐かしい〈ノー・フィアー(NO FEAR)〉と〈バッド・ボーイ(BAD BOY)〉を紹介いただきましたが、今回は?

今回はそんな世代の皆さんにとって、「そんなのあったなぁ」ではなく、「こんなのあったんだ!」と新たな発見に繋がるアイテムをということで、〈ナイキ(NIKE)〉からこちらのシリーズを取り挙げたいと思います。

NIKEのSPHEREシリーズのプルオーバー スタッフ私物(7ession)

―まさに「こんなのあったんだ!」といったムード。どういったシリーズなのか教えてください。

立体構造によって肌表面との間に空間を作り出すことで、肌のベタつきを軽減するだけでなく、汗が生地の表面に移動して素早く蒸発させる機能素材。それがスフィアドライ(SPHERE DRY)であり、これを取り入れたのが「スフィア(NIKE SPHERE)」シリーズで、現在ラインアップされているドライフィット(Dry-FIT)がこの後継にあたります。このシリーズとしての見どころは、メッシュ素材や切り返しといった機能的なディテールが落とし込まれたテクいデザイン。名作と呼ばれるモデルも存在していて、一部の好き者たちの間ではひとつのジャンルとして確立されています。

―へぇ、面白そうですね。これって時代的にはいつ頃のもので、どんな流れから注目するようになったんですか?

時代に関してはちょっと定かでないのですが、調べたところ00年代後半から2010年頃にかけて展開されていた模様。〈ナイキ〉自体は、90年代の第一次古着ブーム時から人気ですが、風車やゴツ、カマボコとかではなく、機能的でありながらデザイン性も備えたこのシリーズがぼくらはいちばん好きで、いわゆるテックブーム到来前から面白いと思ってチェックしていました。

ーこの辺の時代のアイテムって、ちょっと前のはずなのに、いま見ると新鮮ですね。

NIKEのSPHEREシリーズのクルーネックシャツ スタッフ私物(7ession)

ですよね。では、なぜこのタイミングで紹介するのかといえば、スフィアシリーズは秋冬モノの方が面白いから。春夏モノはまんまスポーツウェアって雰囲気ですが、長袖のトップスやアウター系は立体的なパターニングや切り替えといったディテールが際立ち、表情のある質感とテック感のあるデザインのバランスも絶妙。ファッションとしても十分遊べるというか、むしろファッションとして捉えるべきかなと。そもそも本気で運動するなら、もっと機能的な最新ウェアを着用するでしょうし(笑)。

―たしかに(笑)。しかしこういったスポーツウェアってたまにどういった場面での着用を想定しているのか分からないモノがありますよね。たとえば、このショーツの丈感とか。

NIKEのSPHEREシリーズのショーツ ¥8,800(7ession)

これまでぼくらが見てきたラインアップから推理するに、基本はランニングなんでしょうね。正直、本気で走るならもっと短い方が運動性も高いと思うんですが、7分丈のこのシルエットだと生地が汗で肌に張り付く。そこをスフィアドライなら快適に過ごせる的な。これも本来はドローコードでフィッティングを調整できる仕様だったようですね。このハトメ穴はその名残で。

ーなるほど! 不思議な位置にデザインされた極細ピスネームなど、00年代の雰囲気が細部にまで感じられるのも見どころ。やはりコレクターもいたりしますか?

いますね。ヴィンテージ〈ナイキ〉のコレクターで、ひと通り蒐集した人がネクストとして集めているパターンと、アウトドアやスポーツのテッキーなアイテムを好むいわゆるアーカイヴ・ギア コレクターのパターン。この内、後者は〈オークリー(OAKLEY)〉とか〈アークテリクス(ARC’TERYX)〉も集めていたりで、主に海外に多いようです。逆に前者の場合、最近だと80年代の紺タグまでヴィンテージとして捉えるようになっているようですね。

ー〈ナイキ〉も掘り尽くされ、みんなネクストを探していると。

とは言いつつ、デカスウッシュがデザインされたキャッチーなものが人気なのは変わらず。中にはスフィアシリーズと知らず、「近年モノの格好いいヤツ」として扱っていたり着用している人も多いかと。ただし、〈ナイキ〉の2000年代のアイテム自体が軒並み高騰化していることもあり、このシリーズも既に値上がりしています。

ーそれこそSNSでは、よく同年代の〈ナイキ〉のウェアを販売している古着屋のポストが流れてきたりしますが、先ほど話にも挙がったヴィンテージのように、アイコニックなディテールがないモノの場合、何を基準に“ツラの良し・悪し”を決めるんでしょうか?

言語化が難しく、あくまで“ぼくら的は”になりますが、こういったテック系のウェアに関しては、スポーツやアウトドアのウェアではありつつも、“ファッションのアイテムとして捉えられるかどうか”だと思います。それが顕著に表れるのが素材の質感やディティールで、ステッチの入り方や首回りや裾の始末の仕方といった作りの良さも重要。そういった視点でスポーツブランドのアイテムを見た際に、ファッションとして捉えることのできるアイテムがもっとも多いのが、やっぱり〈ナイキ〉で。

ー要は“無駄に〇〇”がポイントであると。

その通りです。何を削ぎ落とすかではなく、何を付け足すか。使い途の分からないポケットや、装飾的用途しかないコードやベルトなど、本当は必要ないのかもしれないけれど、あるとなんとなく格好良く見える。そういった部分に、ぼくらは惹かれるのかもしれません。

井石 毅&佐野敦哉 / 7ession バイヤー、ディレクター
バイヤーの井石 毅さんとディレクターの佐野敦哉さんにより2019年に立ち上げられ、2022年に明大前に移転し、「セッション(7ession)」としてオープン。そのセレクトは定番から個性派まで幅広く、中でも1990年代のブランドアーカイブから2000年代のアウトドア・スポーツウェアを中心に、2人のアンテナに引っかかったアイテムが多数。1万円札を握りしめて訪れれば、なにかしらの収穫があるはず。
公式サイト:7ession.base.shop
インスタグラム:@7ession

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