多くのファッション好きを満足させてきたセレクトショップ「ベンダー(vendor)」が「カバーコード(COVERCHORD)」と名を変え、早一年。次なる動きとして福岡店のオープンという情報が入ってきました。彼らが提唱しているコンセプト、“衣・食・住・旅”はどのように具現化されたのか。このタイミングで改めて、お店づくりにおいて大切にしていることをバイヤーの小田さんに伺ってきました。
Photo_Masayuki Nakaya(except fukuoka)
Edit_Ryo Komuta
PROFILE
COVERCHORD バイヤー。バイイングを取り仕切るキーパーソン。顔出しの取材はかなりレアだそう。
ー昨年の7月に中目黒のショップ「ベンダー」が「カバーコード」と名前を変えたわけなんですが、早くも「カバーコード」の2店舗目ができるそうで。
小田:そうなんです。9月21日(土)に福岡に「カバーコード フクオカ」をオープンすることになりました。
ー福岡。みんな好きな街ですよね。ご飯が美味しくて、文化的な成熟度も高くて。
小田:そうですね。今回は本当にいいご縁に恵まれました。まず場所が本当に素敵なところなんです。けやき通りという通り沿いにあって、緑も豊かで。今年の5月に下見に何人かで行ったんですけど、即決でした。
ー場所は当然のように大事ですもんね。
小田:はい。あとは人ですね。お店は人と場所だな、って思います。
ー元々「カバーコード」というお店を、中目黒以外に作っていくつもりはあったんですか?
小田:はい。やれたらいいなとは思ってはいて。今回ようやくそのタイミングがきた感じでした。
ーこの取材の時点では、まだ福岡店が完成していないのですが、せっかくの機会なので「カバーコード」というお店のことを、中目黒店の写真とともに深掘りさせてください。
ー「ベンダー」から「カバーコード」になって、いろいろなことが変わったと思うんですが、一番印象的だったのは、女性が入りやすいお店になったなということでした。
小田:そうですね。そこは狙いとしてありました。以前のお店は、ちょっと入りにくいというか、お客さんから怖いと言われることもあったので。
ーちょっと緊張感のある感じだったんですかね。
小田:洋服がばーっと並んでいて、少し威圧感があったのかもしれません。なので、パッと見たときの印象はだいぶ変わったと思います。あとは女性のスタッフが入ったことも大きいと思います。
ーたしかに。空間全体が柔らかい感じになりましたよね。
小田:僕たちはやりたいことを、“衣・食・住・旅”という言葉でよく表現するんです。
ーファッションだけではないですよね。
小田:はい。ライフスタイル全般というか。元々オンラインストアの「カバーコード」はその世界観で運営していて、そのムードを実店舗に落とし込んだ形になります。
ーライフスタイルでいうと、「ルーツ トゥ ブランチズ(ROOTS to BRANCHES)」というお店がありましたが、そのエッセンスがものすごく巧みに「カバーコード」には落とし込まれていますよね。「coverchord home」というインスタグラムのアカウントが、それを正しく具現化しています。
小田:そうなんです。「カバーコード」で取り扱う広いジャンルのアイテムを全てご覧になりたい方もいると思うんですが、自分の興味あるものだけでいいという方もいると思うので、アカウントをいくつかに分けています。
ー運用は大変になると思いますが、世界観が整うという利点はありますよね。「coverchord womens」なんかはまさにそうで。
小田:最終的にはデパートみたいにしたいなと思ってるんです。ひとつの館の中に全部入ってるんですが、フロアごとに分かれてる、みたいな。
ーなるほど。ということは今後「home」だけ「womens」だけのお店ができる可能性もあるわけですね。
小田:はい、ありえると思います。
ー中目黒のお店にはちょこちょこ行かせてもらっているんですが、最近日用品を買わせていただくことが多くて。「ルーツ トゥ ブランチズ」でその手のアイテムを見ていたときとは、また違う感覚があるんですよね。服も雑貨も日用品もある空間だからこそ、よりよく見えるというか。人間の物欲って不思議ですよね。
小田:同じものでも、場所によって全然違って見えたりしますよね。それがそのお店のブランディングということになると思うんですが。さっきの“衣・食・住・旅”という言葉通り、「カバーコード」では生活を楽しむもの、気分をアゲるものを取り扱っているのですが、その点においては、スタッフみんなの好みがしっかり反映できていると思います。
ー「そこに行けば、なにかいいものがありそう」というのがお店にとっては一番いい状態ですよね。
小田:まさに。人気ブランドを買うために発売日に来てくださるお客様もすごくありがたいんですが、それだけではなく、いつ行っても何かしらあるという状態をつくりたくて。箱としての安心感というか。
ーセレクトショップはそこがキモですよね。他所のお店でも買えるアイテムを取り扱っているなかで、それでもここで買いたいと、どう思ってもらうか。逆に知らないブランドだけど、ここが取り扱っているなら信頼できるなとか。そういうところですよね。
小田:今、中目黒のお店にはスタッフが10人くらいいて、みんな好きなものが少しずつ違うんですよね。なので変に偏ることなく、バランスのいい接客ができているのかなと思います。
ー人と商品とが、うまく噛み合ってるわけですね。あのお店の規模感でスタッフが10人って、わりと多い方ですよね。
小田:そうですね。うちって微妙な規模感なんです。大手ほど大きくもないし、個店というわけでもないし。なんともいえないサイズ感なのかなと。
ー「カバーコード」のお店って、いま求められているもの、流行っているものが、しっかり取り揃えられていると思うんです。お店に伺うと、そのときのトレンドがつぶさにわかりますし。そのうえで個人的に期待してしまうのは「なんだこれ!?」っていうアイテムを少しでも置いてほしいな、ということなんです。
小田:あぁ、なるほど。
ーノイズというか、色、匂いを出せるようなものというか。今回お店を拝見していて、シューズブランドの〈ノーマル(NNORMAL)〉があったのは意外でしたし、すごく素敵だなって思ったんです。スポーツ系のお店以外では初の取り扱い店舗だそうですね。
小田:そうなんです。〈ノーマル〉に関しては、タイミングがうまくハマった気がしています。おっしゃるように、こういうアイテムってお店の個性を出す上ではすごく大切ですよね。
ー仮にそのアイテム自体がそこまでリアクションがよくなくても、そういう面白いアイテムを扱っているお店で買い物をしたい、という気持ちって絶対あるじゃないですか。これからのお店には、やっぱりそういう部分を期待したいなと思うんです。
小田:だいぶ昔の話になってしまうんですが、「ベンダー」が代官山にあったときに、ちょっと面白いスニーカーのコーナーを作っていたんです。誰もチェックしてないような品番を仕入れているような。そして、そのスペースを定期的にチェックしにきてくれるようなお客様がいました。だからそういうフックというか、パンチのある商品があることの重要性は未だに感じています。
ー今だとSNSがあるので、伝え方次第ではそうしたニッチなアイテムもしっかり売れると思うんですよね。
小田:そうですね。それでいうと、次のシーズンでは某ブランドで、誰も注目してなさそうなインラインのシューズを仕入れています。どこでも取り扱っているようなブランドでも、探すと面白いものってあるんですよね。そういうのを仕入れるのは楽しいですね。
小田:あとは、今オリジナルアイテムを作り始めています。
ーお! そうなんですね。
小田:「カバーコード」という名前にはしないんですけど。まずはアパレルからということでパンツを作っています。
ーどんな輪郭のアイテムなんですか? わりと手に取りやすい感じの価格帯とか?
小田:いや、結構こだわり系の方でして。。
ーそれは意外でした。でも今って、お店のオリジナルブランドの役割が変わってきたところもありますよね。それこそお店の名前を冠さないようなブランドも増えましたし。なんだったら卸をやるようなブランドもあります。
小田:ですよね。今作っているものも、ある程度の型数でコレクションとして構成して、というイメージではなくて、ひとつひとつじっくり突き詰めて作っていくイメージで進めています。年明けぐらいには出せると思います。本当は福岡に間に合わせたかったんですが。
ーそれくらい時間をかけて作っているっていうことですね。楽しみにしています。一方でスーベニア系のオリジナルアイテムもあったらいいのでは?と勝手に思っています。というのも「カバーコード」は海外のお客さんがかなり多いと聞いていたので。
小田:実はそっちも動いているんです(笑)。おっしゃるように、うちってインバウンドの方にとって、すごく入りやすいお店みたいで。ここでしか買えないような、お土産的な感覚のアイテムを作るつもりです。
ーそうなんですね。あの手のアイテムは、センスとコンセプト勝負みたいなところだと思うので、グラフィックとかが良ければ、おのずと手に取っちゃいますよね。
小田:まさに。こっちは見た目とプライスが大切だと思っています。これは福岡店ができるからというわけではなく、中目黒のお店ができたときから考えてはいたんですが、ちょっと時間が経ってしまいました。
ー最後に福岡店のお話をもう少しだけ聞かせてください。
小田:面積は中目黒よりも大きいです。なので、イベントとかもできたらいいなと思っています。ブランドさんのポップアップや、作家さんの個展とか。
ーいいですね。住所が警固とのことですが、ということはあまりガヤガヤしているようなところではない感じですか?
小田:はい。「ビオトープ(BIOTOP)」さんがわりと近いですかね。あとは「ブックス キューブリック(BOOKS KUBRIC)」という有名な本屋さんが向かいにあるんです。
ー本屋さんがあるのはいいですね。周辺の雰囲気を、一気に文化的にしてくれますし。
小田:そうなんです。そういうお店がちょこちょこ点在しているんです。
ーまずはオープンしてみてだとは思うんですけど、福岡では中目黒ではできなかったようなことができるようなお店になるといいですよね。お客さんの感じとか、場所の空気感とかを取り入れながら。
小田:そうですね。個性は出していきたいですね。さっきお話に上がった、ちょっと面白いものがあるというようなエッセンスを大切にしていきつつ、あとはお店は結局人が大切なので、その二点ですかね。
ーたしかに。あとは大手と個店の間ぐらいの規模感だからこそできることってあると思うんです。「カバーコード」なりの面白さ、奥行き、豊かさみたいなものを期待しています。ちなみに気が早いですが、今後ここにお店を出したいなという場所はありますか?
小田:京都ですね。これはもう社全体の想いであり、夢です。
ーいいですよね。さっき伺ったところによると、中目黒のお店では香りに京都の〈薫玉堂〉を使われているそうで、もうフラグは立ってますね(笑)。楽しみにしています。
COVERCHORD Fukuoka
オープン日:9月21日(土)
住所:福岡県福岡市中央区警固2-17-23 1F
営業:11:00〜19:00
電話:092-791-2075
Instagram:@coverchord_fukuoka