〈DCシューズ(DC SHOES)〉や〈ハフ(HUF)〉に携わってきたジェイ・ベックさんが、2019年に立ち上げた韓国発のスニーカーブランド〈イーストパシフィックトレード(East Pacific Trade)〉(以下、EPT)。このたび満を持して日本に上陸し、現在原宿でポップアップストアを開催しています。それをプロデュースするのは、小木“Poggy”基史さん。ファッションシーンをリードする彼が注目する〈EPT〉は、どんなブランドなのでしょうか。ジェイ・ベックさんとの繋がりからシューズの魅力まで、小木“Poggy”基史さんに語っていただきました。
Photo_Yutto
Text_Shogo Komatsu
Edit_Seiya Kato
PROFILE
1976年生まれ。97年に「ユナイテッドアローズ」へ入社。「ユナイテッドアローズ」のプレスを経験し、2006年にセレクトショップ「リカー、ウーマン&ティアーズ」をオープン。「ユナイテッドアローズ&サンズ」のディレクターを経て、2018年に独立。ブランドのディレクションや話題のコラボレーションを手がけ、「2G」のファッションキュレーターとしても活躍中。
Instagram:@poggytheman
勢いにのるアジア発のブランド。
―小木さんは〈EPT〉のシューズに、どんな印象をお持ちですか?
小木:ブランド名が“アジアから世界に発信する”という意味。まず、それがすごくいいと思います。いろんな国のカルチャーを吸収して、ベーシックに落とし込んでいるデザインがおもしろいですね。アメリカのバスケットボールシューズやヨーロッパのテニスシューズをアップデートしてモノづくりをするのは、アジア特有だと思うんです。〈EPT〉は、ベーシックでありながら、スケートもできるシューズをつくっているのが特徴です。
―ジェイ・ベックさんとの出会いは、いつですか?
小木:ぼくが「ユナイテッドアローズ&サンズ」にいたころ、〈ハフ〉とコラボレーションする際に知り合いました。ジェイさんは、韓国で生まれて70年代にアメリカ・サンディエゴへ移り、80年代にシューズリペアの仕事を始めた方。そして、93年に〈DCシューズ〉を立ち上げたメンバーのひとりなんですよ。そして、2002年に〈クリエイティブレクリエーション(Creative Recreation)〉を立ち上げ、2009年に〈ハフ〉に加入して世界的ブランドに押し上げました。2年前くらいだったかな。ジェイさんが日本へ来て、食事をご一緒したとき、〈EPT〉を知ったんですよね。
―どんな経緯で、今回のポップアップストアをプロデュースすることになったんですか?
小木:去年、インドネシアのバリで〈ジーショック(G-SHOCK)〉の40周年記念イベントが開催されたじゃないですか。それに参加したとき、今後の可能性を秘めたアジアのブランドが、すごくたくさんあると改めて感じたんですよ。スポーツブランドを除くと、アジア発のスニーカーブランドって多くないじゃないですか。でも、〈EPT〉は本気で世界を目指している。
―確かに、アジアのブランドは勢いがあると聞きます。
小木:これまでセレクトショップとして、海外のブランドを日本に紹介してきましたが、いまは逆に日本のブランドを世界に紹介しているセレクトショップが多いですよね。でも、日本のブランドだけじゃなく、アジアのブランドを日本から世界に発信していくほうが、やりがいがあると思いまして。今回がその試みのひとつ。ジェイさんから、日本で〈EPT〉の認知度を高めるためにポップアップショップを開催したいと相談を受け、お手伝いさせていただくことになりました。
―〈EPT〉は韓国でどんな立ち位置なんですか?
小木:さまざまなブランドとコラボレーションしている人気ブランドで、ジュニアのスケートチームやダンスチームもサポートしています。そして、ジェイさん自身、韓国のファッションシーンで信頼されているんですよ。〈パルパルスケート(PALPAL SKATES)〉というブランドを手がけている韓国のスケートカルチャー第一世代と繋がっているし、ジェイさんとソウルで一緒に食事に行ったら、若いデザイナーも含めた、いろんなひとが来てくれて、シーンがひとつに団結していたのもよかったです。
―今後〈EPT〉は、日本でどんなブランドになると思いますか?
小木:ファッションブランドが世界的に知れわたる理由のひとつに、スニーカーとのコラボレーションがあると思います。でも、若手ブランドは簡単にコラボレーションできないじゃないですか。その点、現在の〈EPT〉は柔軟に対応してくれると思うので、若手デザイナーにとって大きなメリットになる。セレクトショップも別注しやすいと思いますからね。洋服はつくれても、スニーカーをつくるのは難しいから、コラボレーションでお互いにいい影響を与え合うブランドになってもらいたいです。いろんなブランドとコラボレーションできる懐の広さがあると思いますので。
モダンとクラシックを踏襲したシューズ。
―小木さんがスニーカーを選ぶ際のポイントを教えてください。
小木:ここ数年、カット&ペーストして、いろんな要素をデザインに盛り込んでいくのがスニーカーの主流になっていますが、ぼくはベーシックなものを少しひねったくらいのほうが好き。特に最近は、ベーシックなデザインに戻ってきています。だから、90年代から2000年代初頭のスケートシューズをモチーフにした、〈EPT〉の「ファットタン」に惹かれます。今日履いているのは、〈EPT〉と〈パルパルスケート〉のコラボ作。スケートブランドがつくる、こういったクラシックなデザインはあるけど、〈EPT〉のようなブランドがつくるのは珍しいですよね。スケートカルチャーとファッションの取り入れ方のレベルが高いと思います。
―今回のポップアップで展示されているモデルのほとんどが「ファットタン」ですね。そこにファッション性がプラスされたラインナップが多いです。
小木:〈エムエーエスユー(MASU)〉のデザイナー後藤くんは、普段からトラッドなスタイリングにクラシックなスケートシューズを合わせているのがおもしろくて、今回声をかけさせてもらいました。今年6月のパリコレでこのモデルを使ってくれて、今回ようやく発売されます。
―ほかに日本からは、ハロシさんと〈チャレンジャー(CHALLENGER)〉をピックアップしていますね。
小木:ハロシさんは、ジェイさんが〈ハフ〉のときから付き合いがありますからね。〈チャレンジャー〉は、昔からスケートカルチャーとファッションにおいて信頼がある。ハロシさんと〈チャレンジャー〉のスケートカルチャーが反映されたシューズも会場で販売されます。
―韓国からは、〈ジヨン・キム(Jiyong Kim)〉と〈ヴァンディ・ザ・ピンク(Vandy The Pink)〉が参加しています。
小木:デザイナーのジヨン・キムは、韓国で食事したときにいたデザイナーのひとりで、「LVMHプライズ」のセミファイナルまで残っていた注目株。パターンの技術が高くて、韓国のモードシーンで異彩を放っている存在です。ジヨン・キムもインスタレーションとして協力してくれました。外のフェンスに生地を縛り付けて日焼けさせる、〈ジヨン・キム〉のアイコニックなサンブリーチ生地でシューズを仕上げてくれて。実際に使っている、日焼けする前の生地をスケートランプに被せて展示しています。
―〈ヴァンディ・ザ・ピンク〉はどんなブランドですか?
小木:韓国人のデザイナーでニューヨークを拠点に活動している、ソン・ジョンフンが手がけるブランド。「コンプレックスコン」にも参加している人気のブランドです。こういうブランドも加わると、ファッションとしての幅が広がっておもしろくなると思い、声をかけたら、ふたつ返事で賛同してくれました。
―幅広い5組がそろいましたね。
小木:ポップアップで話題になっても、ものがよくないと意味がありません。でも、〈EPT〉にはその心配がないから、自信を持って各ブランドに声をかけられました。
―いろんなテイストを受け入れる魅力を〈EPT〉に感じました。
小木:いろんなジャンルにおいて、状態のいい古着やヴィンテージのアーカイブがそろっているのは、日本がナンバーワンだと思うんです。日本のデザイナーはそれに囲まれているから、歴史をリスペクトしたモノづくりをしているデザイナーが多いじゃないですか。でも韓国は、ヴィンテージウォッチのお店ですら少ないほど、近年までヴィンテージがあまり根付いていませんでした。でも、そのぶん新しいデザインやシルエットのアプローチが得意。ジェイさんは、その感覚を持っているし、80年代からシューズ作りに携わっているから、モダンとクラシックの提案を〈EPT〉でできていると思います。
EPT TOKYO POP UP CURATED BY POGGY
会期:〜11月4日(月)
場所:THE PLUG
住所:東京都渋谷区神宮前 6-12-9 1F
時間:11:00〜20:00