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【FOCUS IT.】韓国の気鋭ブランド、ポスト アーカイブ ファクションの服は如何にして生まれるのか? デザイナー、ドンジュン・リムが抱くデザインの哲学。

先日の渋谷パルコでのポップアップも大盛況を博した韓国の気鋭ブランド〈ポスト アーカイブ ファクション(POST ARCHIVE FACTION(PAF))〉。世界中から注目を浴びる韓国の文化において、その潮流をつくりあげるひとつのブランドでもあります。

そこあるのは既視感を覚える服ではなく、未来を創造するような新たな文脈を通して生み出されたプロダクト。そうしたプロセスに呼応するように、過去にはヴァージル・アブローの声がけにより〈オフホワイト(Off-White)〉とのコラボレーションを果たし、近年ではスイス生まれの〈オン(On)〉との共作も話題です。

これらの服はどのようにしてデザインされ、着用者の心を満たすのか。今回のポップアップを機に来日を果たしたデザイナーのドンジュン・リムのもとを訪ねると、勉強中であるという日本語で、丁寧に言葉を紡ぎながらインタビューに応じてくれました。

Photo_Satoru Tada
Text_Tsuji
Edit_Seiya Kato


PROFILE

ドンジュン・リム

大学でインダストリアルデザインを学び、2018年に共同設立者であるスーキョ・チョンと共に〈ポスト アーカイブ ファクション〉をスタート。従来のファッションデザインのフォーマットとは異なる先鋭的なアプローチで注目を集め、ケンドリック・ラマー、ゴールドリンクといった人物から支持を得る。さらに2022年にはヴァージル・アブローの〈オフホワイト〉や、2024年にはスイスのスポーツブランドである〈オン〉とコラボレーションを実現した。
Instagram:@limdongjoon


服をデザインしているのではなくて、プロダクトをデザインしている。

ー 〈ポスト アーカイブ ファクション〉のブランドコンセプトを教えてください。

ドンジュン:このブランドでは、自分のユニフォームをつくるような感覚でデザインをしています。私は人生の多くの時間をユニフォームを着て過ごしました。学生時代もそうだし、韓国では兵役がありますが、そのときもユニフォームを着ていました。

だけど、そうした義務から解かれたときに、何を着ればいいのか分からなくなったんです。いろんなブランドの服を見て回ったけど、自分が着たいと思う服は自分でつくるしかないと思った。それで新しいユニフォームをつくろうと決心したんです。

ー 自分のためのユニフォームということですよね。

ドンジュン:そうですね。でも、既存のユニフォームではなくて新しいデザインをしたかった。常に変化をする、まるで生きているような服をつくりたいと思っていますね。

ー ドンジュンさんの言葉にあるように、〈ポスト アーカイブ ファクション〉の服は、いままで見たことのないデザインが並びます。どんなものに影響を受け、どんなときにインスピレーションが湧くのでしょうか?

ドンジュン:子どもの頃、私はレゴブロックで遊ぶのが大好きだったんですよ。そのときから何かクリエイションすることに楽しさを感じていました。いまも同じことをしている感覚ですね。材料を探して、それを組み合わせて完成させる。

それと、私は大学でインダストリアルデザインを学んだんです。その影響もあると思いますね。自分としては服をデザインしているんじゃなくて、プロダクトをデザインしている感覚。だから既存の服とは異なるインプレッションが得られるんだと思います。

ー これは個人的な推測なのですが、アニメや漫画からの影響もありそうだなと思いました。

ドンジュン:それもありますね。私はアニメが好きで、日本語もその影響で学んでいるんです。アニメを見ていると、現実世界では見ることのできない、人間のオーラのようなものも描かれ、可視化されているじゃないですか。服をつくるときも、スタイリングをするときも、そうしたオーラを意識しています。オーラをまとうことで、ひとは変わることができると思うんです。

ー 具体的にデザインはどんな作業からスタートするんですか?

ドンジュン:まずはじめにアーカイブの服を手に取ります。たとえばクラシックなシャツとか。ブランド名にある“Post Archive”という言葉は、“アーカイブの後”という意味なので。

ー だけど実際につくられる服は、そうしたアーカイブの影響があまり見えないですよね。

ドンジュン:そうだと思います。アーカイブらしいアーカイブではなく、新しいアーカイブなので。未来で私たちの服がアーカイブになったら、これは良いプロジェクトだったと自慢できると思いますね(笑)。

ー まったく新しものをつくるには相当な想像力が必要だと思うんです。どうやってその力を働かせているのでしょうか?

ドンジュン:アイデアは急に湧いてくるのではなくて、何かを見たり、触ったりしているときに生まれます。素材がなかったらなにもできない。だからレゴと一緒なんです。たとえばたまたま近くにあった素材と、もとある素材をミックスしてつくるとか。そうゆうことをしていますね。そうした材料を集めるのには、やっぱり経験が役に立ちます。

ー そうした材料探しをするための環境が韓国で整っている。

ドンジュン:いい環境だと思います。ソウルの東大門ではフリーマーケットがあるし、国内には工場も結構あるんです。

ー 2024年秋冬シーズンはどんなテーマで服をつくっていますか?

ドンジュン:シーズンのコンセプトはないんです。なぜならプロダクトだから。いま私が座っている椅子とおなじなんですよ。

ー 単独のアイテムで完成しているわけですね。

ドンジュン:そうですね。いつも大事にしているのは自然に生まれたものであるということ。たとえば〈オン〉とコラボしたプロダクトは、川の流れをデザインに取り入れました。人口的であり、自然的であるように心がけているんです。

ー “自然”という概念をベースにしているのは、どうしてなんですか?

ドンジュン:だって、それが自然だと思うから。たとえばここにボールペンがありますよね。この細い筒状の形は、指で握ることを前提に考えられている。だからこの形状になっていて、それで私たちは簡単に書くことができる。プロダクトにはそうゆう理由がありますよね。だから〈ポスト アーカイブ ファンクション〉も、そういうデザインがいいと思うんです。

ー すごくロジカルな考え方ですね。インダストリアルデザインの話もそうだし、冒頭で話していた“ユニフォーム”という言葉とも繋がるような気がします。

ドンジュン:人工と自然のハーモニーが大事だと思いますね。

ー 常に新しいものをつくりたいと仰っていましたが、アイデアが尽きることはないですか?

ドンジュン:アイデアがないときも結構ありますよ(笑)。

ー そういうときはどうするんですか?

ドンジュン:旅行へ行くとか、ミュージアムでいろんな作品を鑑賞するとか。あとは運動したり、映画を観たり。そうやってインスピレーションを探すんです。だけど、アイデアがないっていうのはとくに問題だとは思いません。それも自然なことだと思うから。毎秒のようにインスピレーションが生まれていたら、きっとメンタルになにか良くないことが起こっているはずです(笑)。だけど、常にかっこいいもの、魅力的なものをつくりたいという気持ちはありますね。

ー ご自身の服で、とくに気に入っているものはありますか?

ドンジュン:冬はやっぱりダウンジャケットですよね。日本の冬は寒いですか?

ー 寒いです。だけど、今年は冬のはじまりが遅いですね。

ドンジュン:なるほど。ソウルは本当に寒いから、ブランドをはじめたときも自分で着るダウンジャケットをつくったんです。

ー 最近では〈オン〉とのコラボレーションも話題です。あのプロジェクトはどのようにスタートしたんですか?

ドンジュン:2021年の冬に〈オン〉から「コラボしませんか?」と連絡がきました。当時はまだ〈オン〉に関する知識が乏しかった。だから実際にプロダクトを手に取って見てみたら、本当にクオリティが良かった。他にも魅力的なスポーツブランドはたくさんあるけど、これもいいチャンスだと思ってプロジェクトをスタートさせました。いまとなっては、その選択は間違いではなかったと確信しています。最近は〈ロエベ〉ともコラボレーションしているし、〈オン〉もどんどんパワーをつけてきています。

ー 〈オン〉とのコラボレーションではどんなことを意識してデザインをしているんですか?

ドンジュン:〈オン〉のプロダクトを見たときに、なんというか直線的とでもいうような、システマチックなデザインだと感じました。だからそこにカーブを加えてみたいと思ったんです。あとは男性的な感覚もあったから、もっと女性的でクールなラインをつくりたいとも思いましたね。それで頑張ってラインをドローイングして。それですごくいい結果がでて、みんなが幸せになることができました。大満足ですね。それ以降、〈オン〉のインラインのムードも変わったような気がします。

ー 〈ポスト アーカイブ ファンクション〉が〈オン〉にインスピレーションを与えたと。

ドンジュン:そう思いたいですね(笑)。


ヴァージルが性格や考え方を変えてくれた。

ー ドンジュンさんは、仕事意外ではどんなことをしているんですか?

ドンジュン:本を読むことが多いです。ほかは仕事ばかり。

ー どんな本ですか?

ドンジュン:最近は進化の本を読んでいます。ユヴァル・ノア・ハラリ(歴史学者)の『サピエンス全史』とか、進化心理学、利己的遺伝子学の本とか。

ー そうしたことに興味があると。

ドンジュン:DNAとか、人間の本能に興味があります。どうして私たちは仕事をしてお金を稼ぐのか。ファッションを楽しんで、ダイヤやラグジュアリーブランドを身につけるのか。そういうことを考えていますね。きっと仕事の延長でそんなことが頭に浮かんでしまうのだと思います。

ー デザインとリンクする部分があるということですね。

ドンジュン:好奇心が旺盛で、なぜ私たちはいまこういう文化の中で生きているのかって思うんです。

ー プロダクトデザインをする上での、根源的な問いかけを感じます。

ドンジュン:そうかもしれません。人間を理解するのが楽しいんです。『デスノート』でもリュークが言ってますよね、人間はおもしろいと。自分も同感です。だって1万年前の人間と、現代を生きる人間のDNAはほとんど一緒なんですよ。だけど全然違う世界を生きている。本当におもしろいと思います。

ー ファッションでは、どんなブランドが好きなんですか?

ドンジュン:いろんなブランドがあるけれど、〈コム デ ギャルソン〉や〈イッセイミヤケ〉のようにアヴァンギャルドな服も好きだし、あとは〈ヘルムート ラング〉のようなミニマルな服も好きです。最近だと〈アワーレガシー〉、〈オーラリー〉、〈コモリ〉も好きですね。

ー 〈オフホワイト〉はどうですか?

ドンジュン:あまりよく知らなかったんですよ、実は。だけどヴァージルさんからダイレクトにDMが来て。本当にびっくりしました。当時〈ルイ・ヴィトン〉のディレクターもしていたので。

ー 実際にヴァージルさんと仕事をして、どうでしたか?

ドンジュン:いろんなものが変わりましたね。性格や考え方とか。本当にすごいひとだと思います。すごく優しかったし、あんなひと他にいないですよ。

いまでこそNIGOさんが〈ケンゾー〉のデザインを手がけていますが、アジア人がラグジュアリーブランドのディレクターに選ばれることって本当に珍しいことだと思います。なんとなく見えない壁を感じるというか。

だけどヴァージルさんには、そうした壁を感じることはありませんでした。ドアを開けてくれたような気がします。すごくオープンなんです。一緒に仕事ができて本当に光栄だと思いました。

ー ご自身が変わったというのは、どんな変化があったんですか?

ドンジュン:私はむかしからネガティブな人間だったんです。なにかに期待することはほとんどなかった。そういうエナジーで仕事をしていたけど、ヴァージルさんはすごくポジティブでした。仕事をする方法も違うし、雰囲気もオーラも全然ぼくとは違う。それにすごく影響を受けたし、変わるための努力もしましたね。だからいまはハーフ&ハーフだと思います(笑)。

ー いま韓国の文化が注目されていると思うんです。ドンジュンさん自身もその中にいて、当事者としてどんなことを感じていますか?

ドンジュン:たしかに大きな波が来ているのは感じます。ヴァージルさんは生前に“The World Produces Waves, Surf or Drown, You Decide. (世界は波を生み出し、それをサーフするか、溺れるかを選ぶ)”という言葉を残しています。まさにいま、そんな状況ですよね。韓国はいますごくコンディションがいい。このウェーブを一生懸命捉えようと思っていますね。

ー 韓国が注目されているのは、どうしてだと思いますか?

ドンジュン:韓国は流れのスピードがすごく早くて、常に変化をしています。日本では変わらないことに対する美徳があって、私もそうした考え方が大好きです。でも、韓国はリミットがない。本当にいつも変わるんです。「大丈夫かな?」って心配になることもあるんだけど、やっぱりおもしろさもある。文化的なダイナミクスを感じるし、トレンドもすぐに確認ができる。だからテストベッド(検証)にはもってこいですね。

ー 最後にこれからの目標を教えてください。

ドンジュン:私自身の目標は元気に過ごすことですね(笑)。ずっと仕事をしているので。ブランドやデザイナーとしての目標は、服以外のデザインにもチャレンジしたいですね。家具とか、あとは自分の好きなクルマとか。あとは東京にもお店をオープンしたいし、いろんなことを考えています。

INFORMATION

POST ARCHIVE FACTION(PAF)

postarchivefaction.com
Instagram:@postarchivefanction

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