2023年春夏シーズンに初となるセッションを実現させた〈グラミチ(Gramicci)〉と〈アドサム(Adsum)〉。仕掛け人であるステファン・ウェンドラーとピート・マクニーの息の合ったコラボレーションワークからは、互いのブランドへのリスペクトと深い理解が感じられます。
前回に引き続き“アウトドアの楽しさ”をテーマに掲げた今回のコラボレーションでは、どのようにして彼らのアイデアやビジョンが具現化されたのか。両者へのインタビューから、その裏側に迫ります。
PROFILE
ドイツからアメリカへと渡り、〈カーハート WIP〉や〈ステューシー〉などのプロダクトディレクターを担当。その手腕が評価され、2020年、〈グラミチ〉のクリエイティブディレクターに就任した。
Instagram:@gramicci_jp
PROFILE
クリスチャン・ライスとともに2015年に〈アドサム〉を発足。スポーツやアウトドアへの深い造詣に自身らのルーツであるニューヨークらしさを加えて、機能性とディテールに注力したアウトドアウェアを制作する。
Instagram:@adsumnyc
ー まずはピートさん、〈アドサム〉について教えてください。
ピート:〈アドサム〉をはじめたきっかけから話すと、僕は〈ウールリッチ(WOOLRICH)〉のデザイン、生産に携わっていたマーク・マクナイリーの手伝いをしていたんだ。マンハッタンのガーメントディストリクトにあった彼のアトリエに通って、裁断や縫製、生地や資材の仕入れについて学ばせてもらっていたんだけど、ある日、マークに「ここにある機材や生地、それからマークの人脈を使って、僕のつくりたいアイテムをつくってみてもいいか」と尋ねたら「ニューヨークは自由の国なんだから、好きにしたらいい」と言ってくれてさ(笑)。これが〈アドサム〉のはじまりだった。ブランドコンセプトについては、僕のことをよく知っている、近しい友人たちと何度も意見交換をしたよ。その結果、僕にとってもっとも大事な要素のひとつである、アウトドアウェアを核に洋服づくりをすることに決めたんだ。
ー 〈グラミチ〉にどのようなイメージを持っていますか。
ピート:〈グラミチ〉はオーセンティックで、昔から大好きだよ。ベルト付きのパンツで〈グラミチ〉の右に出るブランドはいないよね。〈グラミチ〉が体現しているカジュアルアウトドアのスタイルは、〈アドサム〉が目指すべき姿と言ってもいいんじゃないかな。
ー ステファンさんは〈アドサム〉にどのようなイメージを持っていますか。
ステファン:ここ数年、気に入ってよく着ているブランドのひとつだね。タイムレスでクリーンだし、イーストコーストのアウトドアスタイルへのリスペクトも感じられる。とにかく“着やすい”んだよね。それに、彼らは洋服づくりに誠実だし、手法に一貫性もある。本当に素晴らしいことだと思うよ。
ー お二人がこれまでに影響を受けたことはありますか。
ピート:アウトドア、木々、家族、友人、住んでいる街や旅先、あらゆるスポーツ、そして音楽かな。どれも特別だから、順位はつけられないね。
ステファン:幸運なことに、これまで世界中のいろんな街で暮らしたり、働いたりする機会に恵まれた。その過程で出会ったたくさんの人たちや、読んだ雑誌、スケートボード、大都市ならではの楽しさとか魅力とか、全部ひっくるめていまの僕をつくっているよ。
ー 今回で2度目のコラボレーションとなりますが、そもそもどういった経緯でコラボレーションに至ったのでしょうか。
ピート:ステファンとのファーストコンタクトは、正直なところ、はっきりとは覚えてないんだよね。とにかく、少し会話をしたらすぐに意気投合して、コラボレーションをすることになったんだ。〈グラミチ〉と〈アドサム〉はブランドのDNAが共通しているから、どんなアイテムをつくるべきか、それらをどう見せるべきかを深く考えなくても、お互いのブランドらしさを表現することができたよ。前回のコラボレーションは“ニューヨークの窓拭き作業員”を出発点に、アイデアを膨らませていったんだ。クライミングと都会を繋げるイメージを商品とビジュアルで表現しようと思ってね。ほら、作業員が高層ビルの窓を拭いている姿って、どこかクライミングと似ているでしょ?
ステファン:ピートと会話をしているうちに、すぐにコラボレーションのアイデアが湧いてきたよ。お互い洋服づくりに対して似たビジョンを持っていたから、制作のプロセスはすごく自然だった。ピートのチームが僕たちのアイデアを見事に形にしてくれたよ。
ー 今回、2度目のコラボレーションに至った経緯を聞かせてください。
ピート:〈グラミチ〉とは秋冬シーズンにまたコラボレーションをしたいと思っていたんだ。前回は春夏シーズンのコラボレーションだったしね。ステファンも興味を持ってくれていたよ。〈アドサム〉のルールとして、コラボレーションするブランドは一度きりではなく、ずっと一緒にやっていけるブランドに限っているんだ。“一発屋”にはしないってことね。2024年秋冬シーズンのクリエイティブは、ハンティングやDIYのような、タフなアウトドアアクティビティからインスピレーションを得ているんだ。いわゆる、アウトドアワークウェアって感じかな。
ステファン:僕たちも同じ気持ちだったよ。前回のコラボレーションで僕らはすっかり友達になって、お互いのブランドのこともより深く理解できていたと思う。〈アドサム〉も〈グラミチ〉も、どちらも肩肘は張っていないけれど、タイムレスなクオリティでしっかり存在感のあるプロダクトをつくっているしね。これからも一緒に仕事ができたらいいなって思っているよ。
ー 今回のコラボレーションのデザインプロセスを教えてください。
ピート:リサーチを進めていくなかで、いくつか僕ら好みの“アンチテクノロジー”な感じのOGスタイルを見つけることができて、それらをインスピレーションに作業を進めていったんだ。上がってきたデザインにはチーム内のみんなでお互いに率直なフィードバックを出し合いながら、一緒にコレクションをつくり上げていったよね。
ステファン:うん、すごくスムーズで自然なプロセスだったよ。細かい話をする前からお互いのやりたいことを理解していたしね。開発チームも僕たちのアイデアをしっかり形にしてくれて、本当にいい仕事をしてくれたよ。
ー それぞれのアイテムについて教えてください。
ピート&ステファン:これは寒い冬を乗り切るためにつくった、OGスタイルのキャンバスワークジャケット。裏地に使ったダイヤモンド型のキルティングパターンが施されたライナーは取り外せて、それぞれで着ることもできる。胸ポケットとフロントには真鍮製のYKKジッパーを使用しているよ。ウエストと袖口には寒気や木くず、軽い雪がジャケットのなかに入らないようにしてくれる、柔らかくて伸縮性のあるカフスが取り付けられているんだ。カラーは、伝統的なアウトドアオリーブ、ハンティングオレンジ、そしてパインカモの3色。オリジナルでつくったパインカモ柄は、今回のコレクションのなかで2つのアイテムに採用していて、外に出て、手を汚して作業するようなアウトドアのためのコラボレーションであることを強調しているんだよ。
ピート&ステファン:英国のアウトドアミリタリーウェアを着想源にしたジャケットは、オーバーサイズのフィット感と少しドロップしたショルダーのデザインが特徴だね。大きなユーティリティポケットはマチがあるから、見た目以上にものが入るよ。サイドから手を入れることができて、ハンドウォーマーポケットとしても機能する。外側の生地には日本製の高密度なコットンを使用していて、ベンタイルみたいに撥水もしてくれる。このオリーブカラーはシャークスキン生地みたいに光の加減によって色が変わって、虹色っぽく見えるんだ。ワッフルフーディとの相性もいいし、ポケットの容量、長くも短くもない丈の長さ、どこをとってもワークジャケットとしてベストなんだ。
ピート:〈グラミチ〉の「GADGET PANT」は登山で使える機能的な要素を詰め込んだパンツだけど、僕らの感覚では、登山用にデザインされた機能が、料理やDIY、家の修繕作業、ハイキングにもぴったりで、日常使いにも最適なパンツだったんだよね。このパンツにはしっかり重くて厚みのある、耐久性にも優れた100%コットンのキャンバス生地を使用していて、ハードな使用にも耐えられるようにしている。少しゆったりとしたフィット感だけど、決してダボっとはしていなくて、クラシックな「GRAMICCI PANT」より少しリラックスフィットな感じかな。
ステファン:「GADGET PANT」は〈グラミチ〉の90年代のアーカイブを参考にしてつくったんだ。できるだけ忠実に当時の「GADGET PANT」のフィット感やディテールを再現しようと試みて、その結果、ガッツリと登山に使用できるパンツができあがったんだよ。ユニークなポケットデザインやウェビングのディテールは機能的にも便利だし、デザインとして見てもいいよね。着心地も最高だよ。
ピート:「GRAMICCI PANT」とはなんたるかを説明するのはすごく難しいから、僕たちにとってこのパンツがどういった存在なのかを話そうかな。〈アドサム〉に関わっているほとんどの人はボルダリングをしたり、バンダムスプリットをして股下のガセット部分を最大限に活用したりしないけど、「GRAMICCI PANT」は僕たちにとってウェビングベルト付きのメンズパンツの最高峰なんだ。ヒップ、太もも、股上、裾の開き具合が完璧なバランスだよ。今回のコラボレーションでは、伝統的なヘリンボーンツイードを使って「GRAMICCI PANT」をアレンジした。ほんのりとクラシックで、ひねりが効いていると思わない? もしまだ「GRAMICCI PANT」を持っていないなら、絶対に手に入れることをおすすめするよ。すでに持っているなら、この「GRAMICCI PANT」をチェックしてみてほしい。限定だし、すぐに売り切れるだろうから(笑)。
ステファン:「GRAMICCI PANT」は、もはや説明の必要がないよね。40年以上前につくられたこのパンツは、ブランドのコンセプトを体現しているんだ。機能性を最大限に追求してつくられた、数えきれないほどのカルチャームーブメントに愛されてきたパンツなんだよ。
ピート&ステファン:クラシックなデザインのホッケービーニーは、耳のフラップ部分のドローコードを締めて耳を覆えば、アクリルブレンドの糸で暖かさがしっかりとキープされる。でも、このビーニーをアイスホッケーでかぶるのは避けた方がいいかもね。万が一、頭にパックが当たったときのためにヘルメットをかぶるのがベストだよ(笑)。