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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.106 ダッドキャップに感じるアメリカ。“何コレ?”から読み解くデザイン。

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

新たにショップが全て入れ替わり、始まった14シーズン目! 続いては第106回目は、自由が丘の新星「マーマレード(marmalade)」のHiroさん! どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


Hiro / marmalade 店主
Vol.106_アメリカ買い付けのダッドキャップ

―本連載では、いわゆるグッドレギュラーと呼ばれる中から、トゥルー・ヴィンテージのように後の世にまで記録と記憶に残っていく可能性を持ったアイテムを探していく企画です。そこでお聞きします。「マーマレード」、そしてHiroさん自分自身が考えるニュー・ヴィンテージの定義とは?

しっかりした語れるバックボーンがあったり、カルチャーと結びついている…というのは大前提にあるとして、ぼく自身の考えで言えば、やっぱり“アメリカのカルチャーを感じる”という部分は重要だと考えています。そこで今回、何を紹介しようかと考えた時に、以前から好きな自転車カルチャーと関係性の深いアイテムとして、キャップがいいんじゃないかなと。

―豪徳寺の「アストロロジーストア(Astrology store)」さんも以前、“自転車乗り”という視点からキャップを紹介していました。

元々はキャップなんて全然被らなかったんですが、自転車に乗り始めるようになって以降、キャップの大事さと面白さに気付かされまして。特にこの辺はすごくアメリカを感じるというか。まず1つめのポイントはシルエット。被りが浅くてツバがカーブしたいわゆる“ダッドキャップ”。で、背面のストラップはレザー。ボディと共布とかよりも得した気分になるし、このヤレたレザーの風合いもアメリカっぽくて良いですよね。

―これらはノーブランドという認識で合っていますか?

ブランクのボディメーカーに刺繍を施してはいますが、どれも扱いとしてはノーブランドです。でもこれがアメリカ買付けでスリフトを回ったりしても、1個出るか出ないかっていう感じで…探すと意外に見つからないんです。ローカルのおっちゃんがこういうのを頭の上に載せるように被っている雰囲気が好きで、ヴィンテージ・バイヤーの若い子が被っているのもよく見かけます。

―ボディがコットンというのもポイントですね。

そこにピグメントダイ&ウォッシュがかかっていたりして、見つかる際は大体クシャクシャのシワシワ(笑)。シルエットを含めボディには差異がないので、本当にパッと見のインスピレーションで選んでいます。なので、「どういう意図を持って、こんなの作ったんだろう?」と想像力を掻き立ててくれるようなデザインのモノや、何だかよくわからないご当地企業モノが好きです。

―今回紹介いただく4つはタグも全部違います。

はい! 今回は4種類のボディメーカーのモノを用意しました。まずは〈アダムス(ADAMS)〉から。どうも創業25年以上は経っているヘッドウェアブランドで、タグには“NEW YORK・PARIS・MILAN”の文字とともにエッフェル塔のような大きな塔とキャップが描かれています。創業地はノースカロライナとかサウスカロライナあたりらしいので、じゃあ、ニューヨークは何のこと? って(笑)。

アダムスのキャップ ¥9,790(マーマレード)

―(笑)。フロントの刺繍は?

それが…流暢な筆記体&刺繍が細かすぎて判読できずで…なんとなくロゴマークは山と川を表していそうなので、それ関連なのかなと思ったら、背面には〜ビルディングって書いてあるっぽいので、建築系なのかなとも思いつつ…、とりあえずレザーストラップにロゴが入っていると金具に記されたエッフェル塔(?)がポイントです!

―こちらは何となく見覚えがあるような…。

“P&O Nedlloyd”というのはイギリスの海運会社〈P&OCL〉が、1996年にオランダのコンテナ船会社〈ネドロイド(Nedlloyd)〉と合併したもので、2005年にデンマークの海運会社〈A.P. モラー・マースク〉に買収されたそうです。ウィキペディアによると。

バレットライン ヘッドウェアのキャップ ¥9,790(マーマレード)

―へ〜。持ち株の比率が違うから、ロゴのバランスも異なるんですかね? これだと上下関係があるように見えてしまうというか。

なるほど。ロゴのデザインからそういった背景を読み解くっていう視点はこれまでなかったので、面白いかも…。で、こちらのボディメーカーは〈バレットライン ヘッドウェア(BULLET LINE HEADWEAR)〉。ネット調べましたが全然ヒットしなかったので、もしかしたら既に消滅したブランドかも。ただ、このツートンカラーのボディが良くないですか? 映画やドラマに登場する“ザ・アメリカンな男性”が被っている感じで。このベージュとカーキの中間のような曖昧な色合いで、格好良いのか悪いのかがわからない。でも、そこがイイ!

―で、3つ目がこちらですね。

〈KCキャップス(KC Caps)〉はちょいちょい見かけると思いますが、こちらはその別ラインで〈ヘッドショット(headShot)〉。先ほどの〈バレットライン ヘッドウェア〉然り、ちょいちょい頭と弾丸をかけた名前のヘッドウェアカンパニーを見かけます。多分“ヘッドショット=即死=一発で魅了する”みたいなノリでしょうか。

ヘッドショットのキャップ ¥9,790(マーマレード)

―フロントには“Marvelous Market”の刺繍が。アレですかね? このデザインからしてオーガニック系のスーパーとか。

インスタで同名のアカウントを発見しましたが…うん、多分コレですね。あ〜でもローカルコミュニティとも記載されているなぁ。めちゃめちゃ気になってきました(笑)。デザインとしてはニンジンが超可愛い! この子どもが描いたようなタッチをそのままキャップにしちゃう。その気取ってない感じがアメリカっぽいなって。

―最後はキャッチーなワンちゃんです。

ボディは〈ファーレンハイト ヘッドウェア(Fahrenheit Headwear)〉。1978年創業で今も現存していて、カスタマイズ出来るのが特徴みたいので、これも個人オーダーなのかもしれませんね。ちなみにファーレンハイトとは華氏を意味するドイツ語。なので、リアストラップの金具部分にも華氏を意味する“°F”の記号が記されています。

ファーレンハイト ヘッドウェアのキャップ ¥9,790(マーマレード)

―なかなか洒落たことしますね。あと、ワンちゃんが可愛い!

アニマル系がすごく好きで集めているんですが、この手のアイテムって犬だけでなく犬種名の文字も入っちゃったりすることが多くて。その点、これは犬単体というのがイイですよね。自分ちの愛犬だから、わざわざ犬種なんて入れる必要がないってことなのか。

―ラブラドールレトリーバーですかね?

耳の感じはそうですね、なんなら子犬かも。ここのメーカーって20種類以上もカラバリがあるんですが、それでこの色を選ぶというのも意味があるのかなって。たとえば愛犬の刺繍とストラップの色を合わせているとか。

―もしかしたら…犬の名前の頭文字が Fとか…?

それ、めちゃめちゃ面白いっすね! そうやって“デザインを(無責任に想像して)読み取る”っていう楽しみ方も古着ならでは。数が少ない=希少性という観点とは無縁なアイテムに対して価値を見出す楽しさもある。そしてそこにはアメリカの匂いも。そうやってぼくのハートをギュッと掴んでくれるのが、こんなキャップたちというワケです。

Hiro / marmalade 店主
高校時代から古着を買い続け、大学時代にはアメリカに留学。そこで映画や音楽といったアメリカンカルチャーにさらにドップリ浸かる。その後、広告制作会社にインターンとして勤めるも、ファッションへの想いを捨て切れず「ゾゾ(ZOZO)」に入社。同社の古着部門で買い取り査定業務を担当。原宿とんちゃん通りのアクセサリーショップ「ポケット(Pocket)」を経て、2023年、自由が丘の学園通り沿いに「マーマレード(marmalade)」をオープン。90年代を中心に、アメリカで直接買い付けてきたアウトドア系やテック系をメインとした古着・雑貨が並ぶ。
インスタグラム:@hmarmalade_jiyugaoka

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