ドリス・ヴァン・ノッテンが一線を退くことをアナウンスしたのは2024年3月。そして同年6月、38年のキャリアに終止符を打つ〈ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)〉の129回目のショーが行われた。
ドリス・ヴァン・ノッテンはこのショーに臨むにあたり、フィナーレとはどうあるべきかを考えた。そうしてたどり着いた答えが、単なる懐古趣味ではなく、未来を感じさせるものを――という攻めのスタンスだった。
この攻めに相応しい技法として新たに取り組んだのが墨流しだ。墨流しは水に垂らした墨の一瞬の姿を和紙や絹にとどめる日本伝統の技法である。その起源は9世紀まで遡れるという。
いまも残る京都の工房で染色された。
透け感のあるオーガンザのレイヤードや艶やかなシアーがもたらすコントラストからも感じられたけれど、ボタニカル・パターンを墨流しで表現したそのパンツは確かにチャレンジングな試みでありながら、それでいてドリス・ヴァン・ノッテンらしさはちっとも失われていなかった。
ドリス・ヴァン・ノッテンがこよなく愛した花々は儚い。しかし散り際も美しい。まさに花のように生きたデザイナーだった。
“Suminagashi” Print Work Pants ¥290,400
Print Silk Drawstring Tape Pants ¥214,500
こちらはシルク地に墨流しで描いた花をデジタルプリント。
Photo_Kazuma Yamano
Text_Kei Takegawa