2020.10.16 UP
Photo_Takahiro Idenoshita
Text_Shogo Komatsu
Edit_Shun Koda
飲みの席で、洋服のデザインのアイデアが生まれることもあるとラジオでお話いただきました。普段、どんな方々と飲む機会が多いですか?
Ino 仕事関係の人たちが多いです。うちの会社の者や取引先のお店の方、あと近所に住んでいる友人もアパレル関係が多いので、そう行った人たちと飲んでいます。
アイデアが生まれると言っても、真面目な話ではないとのことでした。
Ino そうですね。飲んでいるときくらい、堅苦しい話はなし。でも、日常的な会話をしていても、誰かがそういったアイデアを思いつけば、「じゃあ、こういうことってできるのかな?」って、急に仕事の話をぶっ込んできたりして。「え、今?」みたいな反応になることもありますけどね(笑)。
思いついたら、鮮明なうちに話したほうがいいですからね(笑)。
Ino あと、飲みの席以外でも、例えば、工場の人に連絡するときも、「最近、休日はなにしてるんですか?」って全然関係ない話をしてみて、「最近キャンプにハマってるんだよ」みたいなやりとりをしています。そうすると、なにかしら引っかかるワードがあるんです。知らない単語というより、おもしろい言い回しに引っかかっていて。あとから、なにが引っかかったんだろうって、自分なりに考えてみると、真正面から見えていたものが、ほんの少し横から見えてくるんです。それが新鮮に見えてきて、いい意味で脱線していって。
常に頭のどこかに、デザインのネタを拾おうとする意識があるんですかね?
Ino みんな、悩んでいることがなにかしらあるんですよね。それと、会話の内容が、自然と結びついて、アイデアになることもあります。あと、強いイメージが残っているとアイデアにつながりやすい。今日のラジオ収録は、かなり新鮮な経験でしたので、今度はラジオ風のPR方法もできるようになったと思います。
経験からもアイデアが生まれて、デザインになるんですね。
Ino あと、最近は、服をきっかけに会話が生まれるようなデザインを大事にしているんですよ。会話が詰まったとき、「この服どうなっているの?」って、ダブレットの服で少しでも盛り上がればいいなと思っています。
ダブレットの服は、会話のきっけのひとつになりやすいデザインだと思います。あと、お風呂に入っている時にイメージが湧いてくるという話は共感しました。
Ino あれ、分かります? お風呂に入っていると、いろいろと冷静に思い返すことができるんですよね。
サウナにハマっているそうですが、それも同じ感覚ですか?
Ino いや。サウナは、単純に気持ちいいから(笑)。現代社会で、電子機器に囲まれない空間って、あんまりないんですよね。サウナに入っているときだけは、スマホが鳴ろうと関係ないので。普段だったら、スマホがないとどこに置いたか気にしちゃいますけど、サウナはスマホの存在を忘れられます。
以前、フイナムの記事でやらせていただいた三原康裕さんとの対談で、ミハラヤスヒロに入社後、まずは浅草の職人さんと仲良くしてくることから始めたというお話が、三原さんからありました。今も職人さんとお付き合いがあると思いますが、どういったところに惹かれますか?
Ino やっぱり、自分で作ったものにプライドを持っているところ。もっとよくできる、とこだわりを持って、考えながらやってくれています。僕が言っているから、なんとかしてあげたいって思ってくれているところも嬉しいです。いつも助けていただいていて、職人さんから「作っていて楽しかった」と言っていただけると、なお嬉しいです。
その関係性は、ビジネスというより、人付き合いによって完成したものですね。その職人さんのこだわりもさることながら、ラジオで、「ファッションデザイナーはわがままな職業」とおっしゃっていたのが印象的でした。
Ino そうですね、わがままです。例えば、ショーの直前で、時間ギリギリだけど、どうしてもこの部分が気になるから直したい、みたいなことはあります。ショーまで5分しかないけど、そのショーは一生残るかもしれませんから。だったら、その5分に全力を尽くしたいです。それに付いてきてくれる仲間たちも素敵です。
10月12日に、楽天が支援するファッションプロジェクト「by R」で、3年半ぶりに東京でショーを開催しましたね。
Ino 3年半って、本当にあっという間ですね。つい最近やった気がします。展示会とショーを東京からパリに移した僕らに、再び声を掛けてくれたのが嬉しかったです。
このラジオはショーの開催前で、来週に本番を控えていますが、どんなショーを予定しているのか、ざっくりと教えてください。
Ino うーん……。良くも悪くも、見たくなるようなショーになればいいな、と思って作っているところです。今回、楽天さんにすごく協力してもらっているので、ショーに興味を持ってくれる人を増やすことこそ、僕がやらせてもらう使命だと思っています。だから、狙っているわけじゃないですけど、話題になるといいですね。中間のない、賛否両論のどちらかになると思います。僕のことは嫌いになっても、ファッションのことは嫌いにならないでください(笑)。
それは楽しみです! 現在、渋谷ファッションウィークも開催されていて、渋谷が盛り上がっていますが、はじめて渋谷に来たときのことを覚えていますか?
Ino 覚えていますよ。高校生のとき、バイトしたお金を握りしめて、原宿と渋谷で買い物をしました。田舎から出てきているから、すごくカッコつけていました(笑)。カッコつけているんだけど、なんか恥ずかしくなってくるんですよね(笑)。最初は、センター街でスニーカーを狩られるんじゃないかって、怖かったです。
それから印象は変わりましたか?
Ino 上京して、飲み屋とか遊び場を知ると、渋谷の街が楽しくなりました。でも、まだまだ未知数なところがあります。最近だと、ミヤシタパークがオープンしましたしね。
ここ数年で、渋谷はガラッと変わりましたよね。
Ino そうですね。この数年で街並みの表情が変わりました。ミヤシタパークには飲屋街もあって、いい感じでしたよ。この前、そこを通りがかったら、店内が満席だったみたいで、雨なのに外の席で傘を差しながら飲んでいる人たちがいたくらい賑わっていて(笑)。そのとき、20代の若い人たちからエネルギーを感じて、本当に刺激的でした。それから若い子たちの動きがすごく気になっちゃって。
例えば、どんなところに?
Ino 洋服の着こなしひとつにしても、僕らが知っているルールと違うんですよ。僕がパーカを着るなら、タンクトップを着て、Tシャツを着ますけど、パーカ1枚を素肌に着ている若い子もいて、おもしろいんです。掘り下げれば、なにか出てくると睨んでいます。
確かに、若い世代は自由にファッションを楽しんでいますね。それでは恒例の質問です。ジョニーウォーカーのボトルには前を向いて歩いている人が描かれていて、それは人と支え合いながら常に前進するという意味を持ったコンセプト“KeepWalking”が表現されています。井野さんは、“自分の可能性を広げていく”ためにやっていることはありますか?
Ino ネガティブなワードを使わないこと。できないって言うの、悔しいじゃないですか。それは自分ができないと思っているだけで、できる方法を知っている人がいるかもしれない。だったら、できる人に手伝ってもらえばいいと思いますし。できないって言っちゃえば終わりだけど、「こうやっていると、行き詰まっちゃうんですけど、アドバイスないですか?」って聞いてみるのもひとつの手だと思います。物理的な不可能はありますけど、アイデアの面だったら、考え方を変えることもできますからね。
Photo_Takahiro Idenoshita
Text_Shogo Komatsu
Edit_Shun Koda