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Extreme対談 vol.1 渋谷慶一郎×オノセイゲン(前編)

2011.11.22

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だから、レコーディングもある種のドキュメントなんですよ。

―オノさんはとても重要な時期にキャリアをスタートさせたのですね。

オノ:いや、ほんとに時代っていうか歴史っていうか、80年代は、ニューウェーブや実験的な音楽がどんどん出てきた時代でしょ?「ゲート・エコー[※注:ドラム音にリヴァーヴやコンプレッサーをかけ、その余韻をゲートで切ることで通常とは異なる残響を生み出す手法]」って知ってる? XTCやU2の音づくり。ブライアン・イーノちゃんの新しいアプローチ。一方でスティーブ・ライヒ、フィリップ・グラス。とにかく、プロ用にデジタルレコーディングが始まった瞬間だった。新しい技術がどんどん登場して、すごい勢いで技術が進歩していくんですよ。ちょっと横道に逸れますが、そもそもデジタルレコーディングの歴史は、天下のNHKの放送科学基礎研究所の所長を務めていた中島平太郎さんに端を発するわけです。つまり、MADE IN JAPAN、インヴェンテッド ジャパンというか、とにかく日本発信の技術としてPCM[※注:アナログ信号をデジタルデータに変換する方式のひとつ]の基礎が始まったんですよ。中島さんは、その後SONYに移りフィリップスとCDの企画を始めて、世界初のCDプレーヤーを発表したりと、考えてみたらすごいですよね。

―勉強になります。

オノ:そんなことがあって、さっき渋谷君が言ってたYAMAHA「O2R」っていう、これまた歴史の転換期なんだけど、たしか97年だったか。それまでは、AMS NEVEが「LOGIC2」という数千万円もする大型のフルデジタル・コンソールを作ってたんです。それをYAMAHA「O2R」は一気に100万円くらいにしてしまったわけで。そういうのが全部、日本発で起こっていた。Macが個人でも手の届く値段になったのもこの頃でしょ、たしか。

―面白いのは、アナログからデジタルの変遷を体験してきたオノさんと、デジタル以後の渋谷さんが、作り方の部分で共鳴するという点だと思います。

渋谷:僕はハードディスクの中で音楽を作れるようになった時期に音楽業界に入ってきた感じだから、小型化デジタルからということになります。だから、基本にあるのはラップトップに代表されるような小型化。で、実験的なものというのは基本的には金がないから、やっぱり小型化デジタルでやるっていうのはすごくメリットがありますよね。録音もテープじゃなくHDになった時点でずっと回してられるというのはすごく大きい。セイゲンさんの録音っていうのは、ずっと回しているから、何を録られているのか分からないんですよ。ひそひそ話も録られているし。

オノ:だめでしょ。時間がもったいないし。最初のマイクチェック以外はプレイバックしない。廻しっぱなし。5分の曲を録るのに、いちいちプレイバックしてたらスタジオ代がも倍かかるし。

渋谷:そう、プレイバックしないから極端に言うと通常1曲の時間で2曲録れちゃうんですよね。

オノ:もったいない精神ですね。プレイバックするくらいだったら同じ時間内でもうワンテイク録りますよ。どんなに頑張っても、それ以上もそれ以下もないでしょ、あとで好きなものを選べば良い。現場でああだこーだ折衷案をつくっても弱い作品にしかならないでしょ。

渋谷:セイゲンさんがすごいなって思ったのは、NHKのドラマの音楽をセイゲンさんが作曲して、それをプリペアド・ピアノ[※注:グランドピアノの弦に消しゴムや木を挟んで、音色を変化させたもの]を使って演奏するってなったときですよ。で、NHKのすごく良いスタジオに今も一緒にやっているすごい調律師に来てもらったんですが、2000万円くらいするピアノの弦にネジとかコインとかを挟むもんだから、NHKの職員が心配で見に来るわけです(笑)。それで、曲は非常にシンプルだからソロで録るっていうときに、ピアノでそのまま弾くのではなく、ちょっと変えて弾いた方がいいんじゃないかなあと思って、休憩時間にちょっとぽろぽろ弾いていたんですね。そしたら、録音が回っていて、それがそのまま番組のエンディングに使われていたんですよ(笑)。

―えぇー。

渋谷:練習で弾いていただけだから、たどたどしい演奏なんですよ。で、「それがプリペアドピアノの感じに合うから」って。だからレコーディングもある種のドキュメントなんですよね。

オノ:クラシックのピアニストの演奏やタッチを望むなら渋谷慶一郎ではないでしょ。ある作曲家が他人の曲を攫ってるくらいで、そのたどたどしさこそが、すでに狙いであって演出なんです。ジャズのときもそうだったけどね。

―映画みたいですね。

オノ:ドラマのサントラですから同じ。つまりドキュメントと編集作業なんです。録音のすごいところっていうのは、時間軸を後から編集できることにつきます。

渋谷:そうですね。あと、僕はクラシックの演奏家じゃないから。ピアノをコンサートで弾くときも、作曲しているのを見せるように弾けたらいいなと思ってるくらいだし。

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