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Extreme対談 vol.1 渋谷慶一郎×オノセイゲン(前編)

2011.11.22

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CDをかけると猫もスピーカーを見るわけですよ(笑)。

―そして、渋谷さんの初のピアノソロ・アルバム『ATAK015 for maria』の際に、コンサートホールで初めて渋谷さんの作品を録るわけですね。

渋谷:その前、ちょうど今から2年ほど前に当たるのですが、「ソノリウム」というすごく音の良いクラシック専用のホールで行った、『for maria』の元になっているコンサートがあったんです。コンサートというよりも、マリアがいなくなって葬式をした後に、気持ちが収まらなくて、音楽葬がしたいって言ったんです。そのとき、セイゲンさんがマイクを立てて僕の演奏をすべて録っておいたくれたんですよ。

オノ:その時のライブは、先月やっとミックスしたんですけど。あれはよかった。記録として特別な意味があるし、気持ちが入ってる。その空気感はDSD(Direct Stream Digital)でないと収録も再現もできなかった。

渋谷:そうそう。だから、それまではDSDのことも知らなかったんですよ。聴いてビックリして。録ったあとのラフミックスを渡されて、家で聴いてみたらすごくリアルで、音がほんとに良くてびっくりしました。当時、僕は家で猫を飼っていたんですが、CDをかけると猫もスピーカーを見るわけですよ(笑)。家にお客さんが来たときも、「これ、コンサートのやつ」って聴かせると、みんなスピーカーの方を見てるんです。

―それは面白い反応ですね。

渋谷:音楽をかけてスピーカーの方を見るっていうことがあまりないことだから、これは僕が思ってるだけじゃなく、音の存在感がすごいんだなって思いましたね。そのあと、このやり方で、DSDでもう一度やりたいからお願いしますっていう話をして、相模湖の近くの市民ホールで「ベーゼンドルファー」を一日貸しきったわけです。そのときもプレイバックなしで、ずーっと弾き続けて弾き続けた。その後、セイゲンさんのサイデラで編集したのかな。

オノ:そうだったね。

渋谷:僕はSACD(Super Audio CD)には興味がなくて。というのも、専用の機材がないと普及しない技術は現実的には難しいと思うんです。DSDでビックリしたのは、録った音をダウンコンバートしてPCのスピーカーで聴いても音が違うんですよね。DSDで録ったピアノと普通のレコーディングで録ったピアノではまったく違う。これにはすごく可能性を感じました。ハイオーディオを持っている人しか相手にできないテクノロジーにはあまり興味がないんだけど、これは違うなと思ったんです。

―オノさんはDSDのどのような魅力に惹かれていたのですか?

オノ:ここは原理から説明した方がいいですかね。今では一般の人は見れないであろうアナログテープ。あれは写真で言えばフィルム。デジタルになると画像も音もADC(アナログ to デジタルコンバーター)で0か1のデータになるわけですが、そのデータを容量が大きいままで、すべて取り込むのが1ビットDSDレコーディングです。デジタル写真でもDSDでも「RAWデータ」と言いますよね。とにかく捉えたものすべてなので容量がたいへん大きい。

新津保建秀(敬称略):(ここで新津保さんも会話に参加して)データ量は録るサイズと場所によって変わるんですよ。大きければ大きいほど負荷が強い。どこをチョイスするかによって全然違いますね。

オノ:まさに1ビットDSDはそこなんです。CDなどのPCMでは、当時はそんなに大きなデータを転送したり記録したり扱えなかったんで、仕方なく間引きした部分だけを、時間軸で一秒間に44100回だけ16ビットのダイナミックレンジに間引いて記録したのがCD。もとの音とはすべて連続するデータだけど、転送速度と容量の問題ですね。

―なんだか難しいですね。

オノ:新津保さんのカメラの話が判りやすいですね。みんな持ってる最新のiPhoneは、すごい処理速度でハイビジョンもとれます。ところが、RAWデータにはとても勝てない。間引いたデータは再生するために信号処理が入っているから、決して元の音とは同じ形にはできないんです。Eメール添付の100KBくらいの写真がPC画面できれいに見えても、印刷原稿にはちょっと小さすぎますよね。

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