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対談:坂口修一郎×中原慎一郎 "良き隣人たち"と、理想的なフェスティバルを考える。

2012.08.06

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「色んな感覚とか趣味を、大人になってから僕らは共有できた」。

-大人になってから、生まれ育った故郷でそうした発見があるのは嬉しいですね。

坂口: 岡本さんの本に登場する「ミマツパン」ってパン屋も僕の実家のすぐ近くにあるんですけど、おそらく小さい頃から家ではいつも食べていたんですよね。こっちにいるときも、帰ると必ず家にあって食べていたし。でもそれが、『ぼくの鹿児島案内』に登場する「ミマツパン」だっていうことを先日知ったくらいで。

中原: 子どもの頃から鹿児島で体験してきたそういう色んな感覚とか趣味をさ、大人になってから僕らは共有できたんだよね。10年前にタスヤードをオープンさせて以来、僕が小さい頃から食べていた食パンをずっと取り寄せてるんですよ。送料高いのに(笑)。なんかその辺りの感覚もみんな分かってくれてて、鹿児島でもそこからまたブワーってネットワークが広まったりするし。岡本さんは色んな場所を、僕ら以上に発見してくれるじゃん?

坂口: そうなんですよ、また色々と岡本さんが教えてくれて。その先ほどから話に挙がっている湯豆腐屋の「ごん兵衛」と「のら」。この2つの居酒屋は、「名山堀」といって古くから残っている飲屋街にあって...

中原: 戦後の市のなごりなんだよね。

坂口: そうです、そうです。昔、戦争のときに市内はすべて焼けてるんですけど、名山堀は焼け残った場所で。それこそ、高校生の頃なんて絶対に足を踏み入れない、ゲットーですよ、本当に(笑)。

-そうやって、岡本さんや中原さんが鹿児島の魅力を再発見して発信することで、「お、なんか鹿児島面白そうじゃん」って思う方々も増えてきているように感じます。今、各地方を盛り上げようとする動きが多く見受けられる中で、鹿児島は群を抜いている。

中原: よく言われるんですが、本当にそうやって感じます?

-はい、確かに。

中原: でも、僕らは結局そうしようとはまったく思っていないんですよ。それどころか、鹿児島以外の地方都市を回っていると、羨ましいなあと思うことが多々あるんですね。旭川に行っても、大阪に行っても思う。ただ鹿児島は、なんというか、ジャンルが邪魔しない感じがあって。どの地方に行っても、なんとなく特定のジャンルの人は集まるんですけど、別の人たちは集まらないから。

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-ジャンルレスに人が集まるというのは興味深いですね。例えば、九州でいうとウェブマガジン「Con-Quest」がありますし、今年からマガジンハウスが「コロカル」という、日本の"地域"をテーマにしたウェブマガジンをローンチさせて話題になっています。ローカルな気運が高まるなか、他方で、地方の面白さを伝えていく手段としてどういった方法に興味があるのか教えてください、

中原: 僕なんかは、地方に足を運んだときは自分たちと同じようなことをしている人を探すのが一番手っ取り早いと思いますね。隣人を各地方に作る感覚というか。そういうことは昔から面白いから続けてますね。例えば、池袋で僕らが年に1回開催している「FOR STOCKISTS」(※編集部注:池袋の自由学園明日館にて、年に1回開催されている合同展示会。インテリアやファッション、雑貨など、有名無名問わずおよそ80社が集う)はまさにそういう試みで。自分があっちこっち歩き回って、集めて、繋げて、という一連の行動は、基本的にはこれがきっかけだったりするんですよね。

-私もお邪魔させていただいたことがありますが、会場内に流れる空気は独特ですよね。合同展示会なのに、ほんわかしているというか、ゆるいというか。

中原: あれはなんでなんだろうね、商売の場なのにね(笑)。隣のブース同士の人とかさ、勝手に仲良くなってるんだよね。まさに良き隣人というか。色んな県から来ているから情報交換の場にもなるし、お客さんの取り合いもなくみんなでシェアしている。そもそも、客が減るとか思ってないんだよ(笑)。

坂口: そうですよね、潔さというか、気持ち良さというか。「FOR STOCKISTS」はたまたま東京でやってますけど、地方の人が、他の地方の方と直接繋がっていくいい機会ですよね。今、中原くんが展開している「さつまもの」も旭川とか香川とか直接出向いたりしているし。

中原: あちこち連れ回すのは面白いんだよね(笑)。結局、みんなその土地に行って気づくんだよ、実際に行くのが一番早いって。行って、話して、そこで初めて分かるから。

坂口: それって、すごく健康的ですよね。なんでもかんでも東京に集まって、そこからじゃないと何も始められないようなのは、やはり健康的じゃないと思うんですよ。だからやっぱり、G.N.Jも鹿児島に行く口実として、その時期になると必ず鹿児島に行こうって思ってくれると一番いいですよね。ディスティネーションになるし。G.N.Jの正しい使い方というか、「有名な誰それが来るから観に行こう」ではなかなか生まれない繋がりが生まれますから。最終的には、フェスのコンテンツを一切伏せたままにして¥4,000のチケットを売って、行ったら今年はこんな人が来ていて楽しかった、って、そんな風にできれば一番理想ですよね。

中原: そうだね。

坂口: 結局、客寄せとして有名なアーティストが出るフェスっていうのは他にもたくさんあるし、それが目当てならそういうフェスに足を運べばいいと思うんですね。だけど、そればかりやっていたら、去年は人気がある人がたくさん来たけど、今年のラインナップは地味だから行かない、とか、そういうことがやはり頻繁に起こりうるわけじゃないですか。それは、これだけ多くのフェスティバルがある現在では、あまり健康的ではないですよね。だから、そういうのは幾つか、他にあればいいんです。

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