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ドラマのものさし・特別編 Special Interview 川のほとりに、転がる人生。 ドラマ24『リバースエッジ 大川端探偵社』 脚本・演出 大根仁 

2014.04.18

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浅草、隅田川沿いに事務所を構える探偵社にやってくる奇妙な依頼者たち。不可解な調査から、失われた時間を埋めようとする者たちのいびつな欲望や性癖、そして愛が起ち上がる...。下町を舞台に異色の人間模様を描いたマンガ『リバースエッジ 大川端探偵社』を「深夜ドラマの巨匠」大根仁が完全映像化。「ドラマのものさし」特別編として大根監督のスペシャルインタビューをここにお届けする。ひと足早く全12話を拝見した筆者は断言するが、これは大人の男が見るべき傑作である。金曜深夜、いつもの発泡酒よりもちょっとだけいい酒を飲みながら、人間のおかしみと哀しみのドラマに、酔うべし。

取材・文:さくらい 伸
写真:佐藤博信
編集:小牟田亮

「主人公が寡黙だと、周りの人たちにしゃべらせないといけない」

-『リバースエッジ 大川端探偵社』は、大根さんが2009年にドラマ化した『湯けむりスナイパー』(作・ひじかた憂峰、画・松森正)のひじかたさん、というかマンガ好きの間では狩撫麻礼(かりぶまれい)という別名義の方が通りがいいと思いますが、その狩撫さん原作ということで雑誌連載時から目をつけていたんですか?

大根仁(以下、大根): もともと『湯けむり』の登場人物を使って、狩撫さんの作、松森さんの画で『リバースエッジ』の前身のような話を『漫画ゴラク』で描いてるんですよね。手塚治虫的なスターシステムというか、『湯けむり』の源さんが村木で、番頭さんが所長、君枝がメグミ、という感じで。でも、狩撫さんもこれはちょっと違うなと思われたのか、すぐに撤収して、同じ探偵ものという設定で、たなか亜希夫さんの画で描き始めたので、「ああ、こっちのほうがしっくりくるなあ」と。だから、連載の初回から読んでましたね。

-で、これは映像化できるんじゃないか、と。

大根: ですね。それですぐに『漫画ゴラク』の編集者と連絡を取って会いに行って、エピソードが貯まってきたり、役者がハマッたりとか、タイミングが合えばお願いしますという話はしていました。そのあと、忘れていたわけではないんですけど、『湯けむり』を一緒にやったテレ東の五箇公貴プロデューサーから、去年(2013年)の頭くらいに「前に言ってた『リバースエッジ』、オダギリジョーさんでどうですか」と言われたんです。五箇さんは映画『舟を編む』にも関わっていたんですけど、あの映画のオダギリさんはぼくもすごくいいなと思っていたので、それで話が進んでいったという感じです。

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(c)「リバースエッジ 大川端探偵社」製作委員会

-原作は、いま単行本化されているだけでも37話分あって、この中からどのエピソードをチョイスして12話にするのか、結構悩まれたんじゃないかと思うんですが。

大根: そもそもテレ東深夜枠なので、それほど潤沢に予算があるわけではないから、まず大がかりな設定のものは外して、と。あとは、12話全体のバランスを取りつつ選んでいった感じですかね。

-各話の順番も原作通りではなく、変えてますよね。12曲入りのアルバムをつくるみたいに、「曲順」も試行錯誤されたんじゃないですか?

大根: 1話と最終話は最初に決めた通りなんですけど、残りの10話に関しては撮影をしながら順番は変えてますね。この話の次はこっちのほうがいいなという感じでシャッフルしてます。

-原作は1話が20ページで、話の骨格はしっかりしてるんですけど、ディティールは結構省かれていて、物語に余白がある。普通に映像化すると15分くらいの尺にしかならないと思うんですが。

大根: 調査の依頼があって話が進んでいって、調査の結果が出て終わるという、起承転結でいうと起と結が明確で承と転の部分が薄いんですけど、そこがむしろ面白いなと思ったんです。本来は『湯けむり』みたいに2話で1回分とかにしたほうがテンポ的にはいいんでしょうけど、今回は割合ゆるいテンポでやりたかったということもあって、こういう形にしました。

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-どうしても設定的には、同じテレ東深夜枠で手掛けられた『まほろ駅前番外地』(2013年)と比較される面もあると思うんですが、『まほろ』との差別化のような部分は意識されたんでしょうか。あちらは便利屋で今回は探偵なので、職業としては違うんですが。

大根: 確かに「依頼もの」という意味では似てるんですけど、『まほろ』はバディものという側面があるので、ある依頼ごとに対して多田と行天という2人の若者がどう動いて、何を感じ取るのかというスタイルだったんですけど、今回はどちらかというと探偵社は受け身で、主役はむしろ依頼する側なんですね。 オダギリさんもその辺りのことは共有してくれていたんですけど、オダギリさん演じる村木は立ち位置としては主役でも、基本的にはつねに受け身で、主役として芝居的に主張するようなこともない。まず主役っぽいセリフは外して、というところから作っていったので、自分の中で両者はそれほど似通ったものではないんですけどね。

-なるほど。

大根: まあ、『まほろ』は原作(三浦しをん)があったものの、ぼくがつくったオリジナルエピソードも多くて、そこにぼくが好きな「狩撫テイスト」を入れてしまった部分もあったので、その辺が似てるんですかね、考えてみれば。

-『まほろ』第2話のカラオケビデオの回(『麗しのカラオケモデル、探します』)がすごく好きだったんですけど、今回はあの回で描かれていたような「過去の時間を埋めていく」話も多いですよね。

大根: そうですね。『まほろ』のカラオケビデオの回とか蝋人形の回(第4話『秘密の蝋人形、引き取ります』)とかが近いのかもしれないです。

-ということは、あの辺のトーンをベースにしつつ、今回はさらに依頼者の人生に焦点を当てている、と。

大根: そう取ってもらっても全然間違いじゃないと思います。

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-探偵社の調査員・村木役のオダギリさん、所長役の石橋蓮司さん、美人秘書・メグミ役の小泉麻耶さんが主要キャストですが、とりわけ石橋蓮司さんの「酸いも甘いも噛み分けた大人の男のもつ説得力」のようなものに対して、大根さんがシンパシーをもって描いているような気もしました。

大根: まず、主人公が寡黙だと、周りの人たちにしゃべらせないといけないという問題があるんですよ。『湯けむり』であれば、でんでんさん演じる番頭さんとか、伊藤裕子さん演じる女将さんにしゃべらせることになるわけですが、今回も村木が語らない分、必然的に所長が状況や心情を説明するシーンが多くなる。原作通りのセリフもあるし、ドラマで新たに書き加えたセリフもありますけど、所長役に石橋蓮司さんが決まって、蓮司さんに合うようなセリフを考えていく中で、ぼくが普段から思っているようなことを預けたフシは確かにあるかもしれないですね。

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