HOME  >  BLOG

Creator Blog

小西康陽音楽家NHK-FM「これからの人生。」は毎月最終水曜日夜11時から放送中。編曲家としての近作である八代亜紀『夜のアルバム』は来年2月アナログ発売決定。現在、予約受付中。都内でのレギュラー・パーティーは現在のところ、毎月第1金曜「大都会交響楽」@新宿OTO、そして毎月第3金曜「真夜中の昭和ダンスパーティー」@渋谷オルガンバー。詳しいDJスケジュールは「レディメイド・ジャーナル」をご覧ください。pizzicato1.jphttp://maezono-group.com/http://www.readymade.co.jp/journal

小西康陽・軽い読み物など。

小西康陽
音楽家

NHK-FM「これからの人生。」は毎月最終水曜日夜11時から放送中。編曲家としての近作である八代亜紀『夜のアルバム』は来年2月アナログ発売決定。現在、予約受付中。都内でのレギュラー・パーティーは現在のところ、毎月第1金曜「大都会交響楽」@新宿OTO、そして毎月第3金曜「真夜中の昭和ダンスパーティー」@渋谷オルガンバー。詳しいDJスケジュールは「レディメイド・ジャーナル」をご覧ください。
pizzicato1.jp
http://maezono-group.com/
http://www.readymade.co.jp/journal

Blog Menu

モデットたち。

2012.11.20

このエントリーをはてなブックマークに追加

以前、フレッドペリーが主催したイヴェントにDJとして出演したご縁で、何シーズンかフレッドペリーのカタログを送ってもらったことがある。以前、と書いたが、そのパーティーの夜、その日の午後に仕事場で編曲したばかりのシーナ&ザ・ロケット「レモンティー」のリミックスをプレイしたのを思い出したので、それが2009年の晩秋、もしくは初冬だったと判った。その日、自分はフレッドペリーとコム・デ・ギャルソンのコラボレイトによって制作・販売されたマフラーを身に付けていたことも思い出した。

たしかに何シーズンか送ってもらったはずのカタログだが、いま手許にあるのは一冊のみ。それは「FRED PERRY LAUREL」 というラインの、2010年秋冬のカタログだった。これはもちろん、自分が手許に遺しておきたい、と考えたから遺っているのであって、なぜそう考えたかと言えば、カタログ後半のページから登場する女性モデルを捉えた一連の写真をとても気に入ったからだった。

痩せて、大きく物憂げな瞳で、ショートヘアの女性モデル。この条件だけなら、ファッション・モデルとして別に特殊でも何でもない。ああ、いかにもあなたの好きそうなルックスの娘ね、と嘲われそうな話で終わる。

けれども、この女性モデルが、このカタログを手許に置いておきたい、と考える程に魅力的だったのは、彼女が自分の目にはインド・バングラディシュ系イギリス人、もしくは中東系イギリス人の女性と映ったからだった。

フレッドペリーというブランドに対して興味を抱いたり、好意的な印象を抱いている人々の多くは、いまやテニスウェア、スポーツウェアの商標としてではなくて、ミュージシャンやDJといった人々が愛用する服飾メイカー、という認識を持っているに違いない。自分もまた、そのひとりであることも書き添えておく。

とくに1960年代以降のイギリスから登場した音楽の流行に興味を抱いている音楽ファンなら、いまや彼の地のシーンを活性化させている連中の間にはアフリカやアジア、ジャマイカやインドから移り住んだ人々やその子供たちが多くいることを知っている。

だからこのファッション・ブランドのカタログに、そうした移民第二・第三世代の(ように見える)女性モデルが登場することには何の違和感も感じない。むしろ、これは絶妙なキャスティングだったと思うのだ。

だが、マーケティングだの、ブランディングだのという話を抜きにして、フレッドペリーの服を着た女の子たちは皆、たいへんに魅力的に映る。

彼女たちが魅力的に映るその理由を、まったく独り善がりに説明してみるならば、フレッドペリーの服がどれも甘過ぎないデザインだから、ということになるのではないか。

男たちにとって、お洒落とはつまり「やせ我慢」のことである。耐えられないほど熱い湯に、涼しい顔をして浸かってみせる。とりわけモッドたちのお洒落とは、そのようなものだろう。

そのパートナーである女性たちの服は、男たちほどではないが、やはり辛口に作ってある。若くて、チャーミングな女性たちが着るのだから、それだけでじゅうぶんにスウィートではないか、と言わんばかりに、服のデザインそのものは極端にシンプルにしている。フレッドペリーの女性向けの服が魅力的に映る理由は、たぶんこの辺りにある、と自分は考えている。

フレッドペリーの60周年のために、何か書いてほしい、という依頼があって、この2010年のカタログのことを思い出し、それは運良くすぐに部屋の中から出てきたのだが、好いきっかけだったので、フイナム編集部を通して、この年の前後のカタログを借りてきてもらった。どれも丁寧に作られていて、見応えのある冊子だ。とはいえ、見たいのは美しいモデルの女性たちだけなのだが。

2009年春夏のカタログの女性モデル。長い栗色の髪にブルーの瞳。最初のページの短い丈のジャケットを着た彼女は、どこかアメリカの女性にも見える。それは髪をなびかせているからだろうか。ポロシャツを長い丈にしたワンピースや、ハットを被った彼女は、やはり21世紀のモデット、という他ない。いちばん美しいのは、上から白、水色、紺色の三色の生地を合わせた丈の長いTシャツといった趣きのワンピースを着こなした写真。白い生地の胸元に、月桂樹のマークが縫いとられている。

2009年秋冬のカタログの女性モデルは、その多くのカットで紺色の服を着ていて、どちらかというと日本のコンサバティヴな女性ファッション誌の読者モデルのような雰囲気。長いブルーネットの髪を真ん中から分けている。アーガイル・ニットのワンピース。紺色に赤白のラインの入ったニット・ジャケット。トレンチ・コート。短い丈のピー・コート。チェックのスカート。どれも紺色。ただ一点、グレイのツイードふうの生地で作られた袖なし・ミニ丈のワンピースを着た彼女の写真が圧倒的に素晴らしい。袖なしのワンピースの襟ぐり、服の中央、そして裾の部分には太い紺色のラインが施してあり、胸元、といってもバストよりもかなり高い位置にはやはり月桂樹のマークがある。踵の低い 黒いエナメルの靴にはたぶんタッセルが付いている。トリコロールのリボンの付いたクラッチバッグを手にした、完璧な21世紀のモデット。

2010年春夏のカタログは主に屋外で撮影されている。海岸の砂浜と、プール。女性モデルのスタイリングも、女性モデルも、もちろんチャーミングではあるけれども、ここに書くことは割愛する。

2010年秋冬のカタログの女性モデルについても、同じく割愛する。ただ、このスタイルブックに掲載されたマフラーや帽子、バッグや手袋やソックス、といった小物は、いま見ても最高に購買意欲をそそる。

2011年春夏のカタログは、それまでのように男女のスタイリングを紹介するページが分かれているのではなく、同じ組写真の中で紹介されている。表紙は砂浜でドラム・セットを叩く長髪の人物と、その手前でジャンプしている人物のロング・ショット。最初の見開きでは、ドラムスを叩く人物が若い女性であると判る。同じフレイムの中、テーブルで何か書いている眼鏡を掛けた若い男性。男性の背後にはエレクトリック・ベースとベースアンプがある。ドラムスを叩く女性は長いブロンドの髪、サングラスをかけている。この若い女性はカタログの中で、ギターを持ってマイクに向かっているショットもある。いっぽう、若い男性は五線譜に音符を書き付けているショットや、彼の手書きと思しき 、歌詞の断片なども掲載されている。女性のスタイリングはどれも素晴らしいが、前立ての部分にリバティ・プリントをあしらった暗い色のポロシャツを着たカットと、マルチストライプのロングTシャツを着て海岸線を歩くカットがとりわけ美しい。

2011年秋冬のカタログは、4つの章立てに分かれていて、ページ数も増えている。それ以前のカタログと同じ男性・女性それぞれの新しい服を紹介する最初の章には「ブリティッシュ・カントリー・サイド」という題名が付けられている。文字通り、英国の深い森の緑の中で撮影されたファッション・フォトグラフィー。女性の服を紹介する最初のページは、崖、というには小さい、切り立った岩の上にモデルが座っている写真だ。モデルの下には、赤いチェックの毛布が敷かれている。長い、明るくないブロンドヘア、瞼の重そうな目が印象的なモデル。 いちばん美しいのは、霧に霞む白樺の木立の中、襟首の大きく開いた、丈の短いニットのドレスを着て、雨傘をさしているポーズの写真だ。

フイナム編集部が借りてくれた一連のカタログを納めた封筒には、2012年、つまり今年の春夏、そして秋冬のコレクションを纏めた冊子も入っていたが、これらはあまりに最近のものであるから、ここでは取り上げるのを控える。だが、どちらのカタログにも21世紀の美しいモデットたちを発見することが出来た。モデットって、何のこと? と呟きそうな女の子たち。

追記:

この原稿を書くいちばんの動機となった、「FRED PERRY LAUREL」 というラインの、2010年秋冬のカタログに登場した女性モデルは、オーシャン・ムーン、という、そのルックスに負けず劣らずエキゾティックな名前を持つモデルだった。このモデルは、英国の人気TVシリーズ「Dirty Sexy Things」にも出演していて、当時は話題の女性だったらしい。彼女が移民第二・第三世代であるかどうかは、けっきょく確証を得ることが出来なかったし、そのTVシリーズの画像を見る限り、アングロ・サクソンのようにも、ラテン系のようにも見える。女性はメイクを施すと本当に化けてしまうから、いまとなっては彼女がインド系の女性である、と断言する自信は全く無い。ただ、友人に調べてもらったところ、ある人気ファッション・モデルを取り上げているサイトで、<skin colour : tanned >と紹介されていたそうだ。





★FRED PERRY 60th ANNIVERSARY SPECIAL MESSAGE★
FRED PERRY×HOUYHNHNM
フレッドペリーのブランド生誕60周年を記念して、フイナムブロガー12名にお祝いコメントをいただきます。一ヶ月に一人ずつ、一年で12人のフイナムブロガーが登場します。お楽しみに!