小西康陽・軽い読み物など。
小西康陽
音楽家
NHK-FM「これからの人生。」は毎月最終水曜日夜11時から放送中。編曲家としての近作である八代亜紀『夜のアルバム』は来年2月アナログ発売決定。現在、予約受付中。都内でのレギュラー・パーティーは現在のところ、毎月第1金曜「大都会交響楽」@新宿OTO、そして毎月第3金曜「真夜中の昭和ダンスパーティー」@渋谷オルガンバー。詳しいDJスケジュールは「レディメイド・ジャーナル」をご覧ください。
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飛び上がって喜ぶほどの素晴らしい出来事。
2011.11.29
早朝の東京。タクシーで大通りを走っていると自転車で疾走している美少女を追い抜いたことに気付く。停車してドアを開け、両手を拡げて待っていると彼女は一直線に胸に飛び込んで来る。毎朝起きる直前の夢に現れる美少女。とうとう恋心を告げた。
そんな映画の一場面のような出来事が自分の人生に起こるはずがない。あれもまた夢だったのだ、と静かに落胆する朝の穏やかな時間。
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「人生には飛び上がって喜ぶほどの素晴らしい出来事はそんなにありません。人は平凡であればいいのです。毎日が健やかであればいいのです。そして出来ることなら心優しく聡明でありたいと思います。」
これは元NHKアナウンサーで、「にっぽんのメロディー」などの番組に於ける名調子で知られる中西龍の言葉。
この人の語りをイントロダクションにして、日本の古き佳き叙情歌や、誰もが知っている歌謡曲を味わう、というアンソロジーが二種類、発売された。上に掲げた言葉は、そのアルバムの中で見つけたものだ。
『心のナレーション 中西龍・叙情歌編』
『心のナレーション 中西龍・歌謡曲編』
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たしかに人生には飛び上がって喜ぶほどの素晴らしい出来事はそうない。
好きな人とベッドの上でただ何度もキスをして過ごす、他のことは何もしない一日。そんな一日というのは、人生の中でそう何度もは巡って来ないのだ。
たいていの人間がそのことに気付くのは、ずいぶんと年を取ってからだ。若いときにはそのことが解からない。
好きな人と暮らすようになったら、いつだってキスばかりしてだらだらとお休みの日を過ごせるのじゃない?
残念だが、そんなふうに物事は運ばない。一緒に暮らし始めたなら、ふたりはやがてキスすることも忘れてしまう。
人間はほとんどの時間を平凡に、退屈に過ごすことになっている。平凡で退屈な毎日を送ることが出来るだけでも、その人生は上出来であるらしい。
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こんな歯の浮くような文章を書いたのは他でもない、ここから先に書く週末の大きなパーティーの告知のための「ツカミ」なのでした。
そう、フイナムの記事でも取り上げていただいた、「the BEAT BOWL SHOW!」というイヴェントが、いよいよ今週12月2日金曜、東京・笹塚ボウルで行われる。
ひと晩中、50年代、60年代の音楽を聴きながら踊るも好し、飲んで騒ぐも好し、ナンパするのも好し、そしてボウリングを楽しむのも好し。<ひと晩中、ボウリング投げ放題>は、このパーティーの売り文句のひとつ。
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DJには最高のメンバーを揃えた。ガレージ・パンク・ディスクガイドの監修者でもある重鎮・関口弘さん。重鎮、と言っても、ダンスステップも軽やかな、カッコいい重鎮。
その関口さんの主宰するパーティー、「SWANK!」からもうひとりのDJ、松井明洋さん。
イラストレーターでサーフ/ガレージ・ミュージックの権威、ジミー益子さん。
高松から、いま話題のDJデュオ、各地でミックスCD『PLAY LOUD 』が次々と完売している NOEL & GALLAGHER のNOEL こと、辻一臣さん。
そして、我らビート4兄弟から、長兄・ビートこにし(オレ)、次兄・ビートあきら、こと佐藤彰。そして、3男・ビートただし、こと星野直志。新宿OTOで第五金曜日開催の『ATTRACTION TIME!』、というのが、我々ビート4兄弟のパーティー。末弟・ビートおーよし、こと大好俊治は、たぶん当日もフロアで酔いつぶれている予定。
さらに、高松からNOEL がやって来る、というわけで、相棒のDJ GALLAGHER も深夜に登場。NOEL & GALLAGHER としてのプレイを体験する年内最後のチャンス!
この日のDJたちがプレイするのは、たぶん間違いなく7インチのシングル盤ばかり。
ドーナッツ盤の孔が大きいのは、パーティーのときに掛け替え易いからなのだという。つまりこの夜は、たぶん最高の、とっておきのパーティー・ミュージックばかりが用意される、ということ。
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そしてVJはワカイヒロキ。
このVJがとにかくパーティーのいちばんの目玉なのだ。なにしろボウリング場のレーン全体が、音楽とシンクロしたスクリーンになってしまう。
昨年の4月に、『ATTRACTIONS!』、という自分のリミックス・アンソロジー盤のリリース・パーティーでこの笹塚ボウルを借りたときのこと。
開場前のヴィデオ機材チェックの時間、ボウリングのスコアを掲示するモニターに、ずらりと熊田曜子さんのヴィジュアルが流れたときは、感動して涙がこぼれた。
「ディズニーランドかよ!」
そのときの印象をひと言で表すなら、これに尽きる。
これはそのときの映像。超楽しそう!
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とにかく、ひと晩中楽しいパーティーにしたくて、レコードショップの友人たちにも協力してもらうことにした。
前園直樹さんの運営する和モノ専門店・ラヴショップ。
あのレコード893・内門洋さんの吉祥寺ボールルーム・レコード。当日はオリビアくんが店番に。
大阪から謎の闇ディーラー・北澤レコード店。コレが実はいちばんの目玉。
そして小西康陽も聴かなくなった7インチを放出します。ついでに要らないCDもタダで出すのでオミヤゲにどうぞ。
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そして当日は、このフイナムからも『安全ちゃんが行く』、というページの取材が来るらしい。
ネット事情に疎いビート4兄弟周辺では、残念なことに<安全ちゃん>さんの知名度はあまり高くなかった。
有名ブロガーらしいよ。らしいっすね。意外とカワイイ子よ、とゲイの友人が教えてくれた。
今回のパーティーのトレイラーを制作してくれた田中のぞみ監督に「ねえ、安全ちゃんって知ってる?」と尋ねると、
「危険ちゃんなら知ってる、わたしの友達のカメラマンで」
と言うので話を遮って、有名ブロガーらしいよ、と話すと、
へえ、日本にも有名ブロガーっているんですね、と、帰国子女か留学経験者のようなコトをのたまう。たしか彼女はアメリカ帰りなのだ。カラテを教えに行っていたはずだ。
渋谷直角が「安全ちゃんがライヴァル。潰す」と書いてた程の人気ブロガーらしい。と言うと、
「ああ、直角さんも来てくれるといいのになあ」
とビートただしが言う。どうやら古い音楽を愛する友人の間では渋谷直角のほうが知名度がある、ということだけは解かった。
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そのビートただし、こそは今回の主催者。
主催者、というのは、どういうことか、というと、<ひと晩中、ボウリング投げ放題。>のパーティーの場所代とボウリング代を、彼がとりあえず建て替えてくれている、ということだ。
去年の笹塚ボウルのリリース・パーティーでは、この男とジミー益子さんをまずゲストに呼びたい、と考えた。
そして、思った通り、彼のDJは素晴らしかった。いや、神懸った瞬間さえあった。
ビートただしの選曲する60年代の7インチに合わせて、知っている友人も、見知らぬ若い人たちも、みんなが楽しそうに笑いながら踊っている。DJブースの向こうにはボウリングのレーンがあって、そこでも男の子や女の子が仲良く大騒ぎしている。
人生には飛び上がって喜ぶほどの素晴らしい出来事はそんなにありません。
その、そんなにはないはずの素晴らしい出来事を、もう一度だけ体験してみたいのだ。
長い告知になりました。では、田中のぞみ監督が編集したトレイラーをどうぞ。
たとえ独りで来たとしても、絶対に楽しいはず。絶対に帰りは誰かと仲良しになっているはずのパーティーなので。
参考。
・ジミー益子さんのブログ。
・前回の笹塚ボウルがどれくらい最高だったか、というと。
その1。
その2。