俳優としてもファッションとしても、悪目立ちしないこと。
ートラッドや古着など、光石さんの着こなしはファンも多いですよね。上京してから古着に興味を持たれたんですか?
光石: はい。ただ、今の「古着」とは全く違う感覚で、当時は中古品=安いもの、というイメージでした。米軍放出品なんかもそう。新品を買うより安かったから、博多でもよく探しに行っていました。東京に出たら古着屋がたくさんあって、それも楽しみのひとつでしたね。
ー古着の奥深さに目覚めたきっかけはあったんですか?
光石: いやいや、僕は古着に “目覚めた” わけじゃないんですよ。全然詳しくないし。収集癖もないんです。
ーえ! 意外ですね。
光石: 本当にそうなんです。レコードも集めるというより、聴きたい曲があれば買うだけで、どんどん増えるわけじゃない。もちろんジャケ買いすることもあるけど、聴かなくなったら手放します。服も同じで、ひとにあげたりどんどん回してますね。要するに、物に関するうんちくを語るのが苦手なんです。服のスペックを細かく語るのって、ちょっと照れくさい。それは背中に忍ばせているくらいの方がかっこいいと思うし、むしろ知らないぐらいの方がいいんじゃないか、って感覚です。
ーなるほど。じゃあ「この古着は60年代のミリタリーで…」みたいな掘り方ではないわけですね。
光石: そうです。自分にとっては「その服をかっこよく着てるひとがいたから」とか「この佇まいがいいから」といった感覚で選んでいます。ジーンズだって、昔は年代やディテールにこだわる時期もありましたが、一瞬でしたね。今は「この色落ちが好き」とか、ごく感覚的なものです。もちろん、服の歴史やうんちくを語りながら飲むのが好きなひともいますけど、僕はそうではない。ただ、誰かが着ていた古着を受け継ぐのはおもしろいと思います。車でも同じで、前に乗っていたひとがいて、そのひとの前にはまた別のオーナーがいたんだろうなと想像するのが楽しいんですよ。
ーご自身が服を着るときの “マイルール” のようなものはありますか?
光石: そうですね、とにかく「決めすぎない」ことです。主張しすぎない。「ここにいます!」って強調するんじゃなく、日常や社会に自然に溶け込む服を着たいと思ってます。あとは清潔感ですね。この年齢になると特に大事にしています。それと、服よりも大切なのは姿勢かもしれません。背筋をちゃんと伸ばして、電車を待つ時もスマホをいじらずに立つとか。そういうことの方がよっぽど大事なんじゃないかと感じています。
ーその「主張しすぎない」スタイルというのは、「自分を撮ってるんじゃなく映画を撮っている」というお考えにも通じますね。
光石: そうですね。役も同じで、悪目立ちしちゃいけないんです。「誰もお前を見てるわけじゃないんだから」ってことなんですよ。
ーファッションに迷走した時期はありましたか?
光石: ありましたね。20代から30代にかけてのDCブランドブームの頃。ギャルソンをはじめとするデザイナーズブランドが流行してて、無理して買ったこともありました。
ーそういう経験を経て、今があるんですね。
光石: そうなんです。ただ、その中でも僕はわりとトラディショナル寄りのものを選んでました。たとえばファスナーが斜めについていたり、肩にジッパーがついたような奇抜すぎる服は買わなかった。普通っぽいシルエットのものを選んでましたね。まあでも、やっぱり洋服って楽しいんですよね。