PROFILE
1964年生まれ、長野県出身。1990年代からスタイリスト兼ファッションディレクターとして活躍するかたわら、2022年5月に故郷である長野県上田市にセレクトショップ「EDISTORIAL STORE」をオープン。
MONEY IS OVER=お金不要。
貨幣が発明される前、ひとびとは物々交換によってモノを手に入れていました。たとえば、あるひとは米、あるひとは鍬をつくり、それぞれの得意分野を交換することで生活を営んでいたわけです。
この原始的な行為にいま改めて目をつけたのが、小沢宏さん。10月17日(金)から「渋谷PARCO」で開催されるイベント「MONEY IS OVER」では、現金はもちろん、クレジットカードも、PayPayも使えません。欲しいものを手に入れるための手段はただひとつ、物々交換。なんともラディカルな催しです。
「渋谷PARCOから“なんだこれは!?”と、予想の斜め上をいくイベントをやってほしいと言われたのが始まりです。それで『MONEY IS OVER』というタイトルで物々交換をしようと。戦略的に時代の逆を行こうとか、そんな意図はなくて。どちらかといえば、ぼくの初期衝動から生まれた企画なんです。物々交換って、仕組みとしてすごくシンプルだし、フィジカルで面白いじゃないですか」
そんな小沢さんの想いに共感して集まったのは、〈ユナイテッドアローズ〉の栗野宏文さんや「ザ・コンランショップ・ジャパン」代表の中原慎一郎さん、〈ロウワーケース〉代表の梶原由景さん、〈ニート〉デザイナーの西野大士さんなど、ファッション関係者をはじめとする約50名。それぞれにとっての“着ないけど捨てることもできない服”が、このイベントに並ぶ品物です。
「たくさんの服を提供してくれる手離れがいいひともいれば、言い方は悪いけど不用品を不用品として出してくれるひともいる。すごくいいおかずを一個入れてくれるひともいましたね。モノにその人のキャラクターが出ていて見ているだけで面白いし、玉石混合のラインナップになっていると思います。中にはぼくの問いかけに応えようとクローゼットをひっくり返していくうちに、思い出の服ばかりで手放せなくなって、『やっぱり参加できないです』って連絡をくれたひともいました。それがまた服好きらしくて、ぼくもすごくわかるなって」
“着ない=捨てていい”ではない。だからこそ、会場に並ぶ一部のアイテムには、提供者による思い出やストーリーを記したコメントが下げ札に添えられています。ブランドや価格、希少性といった尺度だけではなく、かつての所有者の想いも汲んだ上で、小沢さんは来場者が持参したモノをすべて吟味し、交換するアイテムを決めていく。いわば、質屋の店主のように店頭に立つそうです。
「必ずしもお目当てのアイテムと交換できるとは限らないし、野球の複数トレードみたいに3つで1つと交換みたいなことがあってもいいのかなと。明確なルールがあるわけじゃないから、イベントが始まってみないと正直どういう風になるか分からないですね。そのライブ感が醍醐味でもあります。それに、交換してすぐ終わりにはしたくなくて。持ってきてもらったモノの話を聞いたり、逆にぼくがアイテムの魅力を通訳のように伝えたり。そういう会話を楽しみながらの物々交換になりそうです」
交換された服はそのまま会場に並べられ、また誰かの手元に渡ることもあるかもしれません。そんな循環によって、アイテムのラインナップは日ごとに変わり、短い会期の中でも訪れるたびに新しい発見がある。それもまた「MONEY IS OVER」というイベントの魅力です。
「交換を終えたお客さんにも下げ札を書いてもらいたいなと思っています。そうすると、ぼくから声をかけたひとと、イベントに来てくれたひとの服が少しずつ混ざっていく。店とお客さん、業界人と一般のひと、有名と無名――そんなヒエラルキーがなくなって、純粋に“服がかっこいい”という直感だけで『MONEY IS OVER』の世界が回っていくようになるといいなと思っています」
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