服づくりへの強い想い。
ーいまとなっては加藤さん=モノ好きというイメージがすっかり浸透していますが、そのルーツいうか、原点は何になるんでしょうか?
加藤: 話は中学生時代に遡るんですけど、学校が遠くて1時間半かけて通学してたんですよ。で、途中にあった藤沢とか町田とかによく寄り道して帰ってて。当時はいまよりももっといろんなショップがあって、古着屋はもちろんおもちゃ屋、レコード屋、スニーカーショップなんかがたくさんあったんです。そういうのを繰り返し見ていくうちに、あれもいいな、これもいいな、っていう感情が芽生えて…。
加藤: まさにいまといっしょなので、それが原体験なのかもしれないですね。
ーそのときは90年代…だと思うんですが、カルチャー誌やファッション誌が元気だったことも影響しているような気もします。
加藤: そうですね。雑誌がめちゃくちゃな情報量を毎月ぶっ込んできてたし、そういうのを読み漁ってましたから。そこでいろんなカルチャーに触れて、そのどれもに魅了されていった感じです。服にどハマりしたのは高校の終わりくらいかなー。そのときには原宿にもたくさん通っていましたね。
イベント会場で飾られた、加藤さんの私物コレクションの数々。
ーそういう学生時代を過ごしていたから、「ビームス」を就職先として選んだのも当然の流れだったのかもしれないですね。
加藤: それが違うんですよ。実は「吉田カバン」に入社予定だったんです。
ーそれは初耳でした! 詳しく聞かせてください。
加藤: 「吉田カバン」といえばあのタンカーシリーズですよね。で、当時のおれは〈グッドイナフ〉にハマりまくっていたんですけど、そのタイミングで「吉田カバン」が〈グッドイナフ〉とのコラボバッグを出したことがあったんです。そのコラボバッグが好きでたまらなくて。そのとき「吉田カバン」入りたいなって思っちゃって、お店に突撃したんですよ。「ここで働きたいんですけどどうしたらいいですか?」って。
ー湯婆婆ならブチ切れてますよ(笑)。大胆な行動に出ましたね。
加藤: そのときに対応してくれた店員さんがすごくいいひとで、すぐに確認してくれて。「とりあえず履歴書を」ってことだったから、次の日のすぐ書いてまたお店に持っていったんですよ。そしたら電話がかかってきて、そのあと3日もしないうちに神田の本社に呼ばれて。やべー、筆記試験とかだったらどうしようとか思いながら、一応対策本を買って適当に読んでから行ったんですけど、専務みたいなひとと1対1で1時間半ほど話して終わり。そしたら内定もらえちゃったんですよね(笑)
ーその行動力、そして熱意が伝わったんでしょうね。でもそこからなぜ内定辞退、そして「ビームス」へ?
加藤: おれって何がしたいのかなって考えた時に、やっぱり“服がつくりたかった”んですよね。その気持ちに嘘は付けないなと。それなら遠回りせずにストレートに服屋だろと思って「ビームス」にしました。「吉田カバン」を知ったのも「ビームス」、デート前にシャツを買いに行ったのも「ビームス」。いろんなアパレルがあったとは思うんですけど、当時のおれのなかでは服をつくるなら「ビームス」一択でしたね。
ーそのときは店舗へ履歴書を持っていったりしてないですよね?
加藤: ちゃんと正規のルートでしたよ(笑)。まあ、Tシャツ短パンで面接に行くような舐めた就活生でしたけどね。しかも最終面接で遅刻しちゃったんですよ。せっかくその日だけはブレザーを着て行ったのに、台無し(笑)。
ー寝坊ですか?
加藤: いや、違うんです。入社前に「ビームス 原宿」はチェックしとかねーとな、と思って面接前に寄ったんですよ。そしたら接客でついてくれたひとが、めちゃくちゃいいひとで。話もおもしろいからずっと聞いてたら、気づいたら時間過ぎちゃって(笑)。将来の先輩になる可能性があるひとが真剣に話してくれてるのに「おれ、ちょっと用事あって…」とか言えないじゃないですか。だからガッツリ最後まで接客を受けてたら、遅刻しちゃいました。
ー「ビームス 原宿」に寄ってて遅刻した、とは言ったんですか?
加藤: 言いませんでした。まわりまわって、接客してくれたひとに話がいって、そのひとがおれのせいで怒られるのは違うよな、と思って。
ーそこまで含めて、加藤さんらしいエピソードですね。そんなこともありましたが、無事に入社を果たした加藤さん。さっきのお話にもありましたが、そのときからすでに服をつくりたいという願望があったんですね。
加藤: そうですね。ぼんやりですけど、こういうのがつくりたいっていうのは当時からずっと考えていました。
ーそしていまから10年前に晴れてブランド化となった、加藤さんがディレクターを務める〈SSZ〉。その10周年を記念したアイテムを紹介…の前に聞きたいことがあるんですけど、なんと読むのが正解なんでしょうか? 「エス エス ズィー」だと認識しているんですが、諸説ありますよね?
加藤: 曖昧でいいんですよ。こういうのって。
ーえ…、もっとも予期せぬ回答でした。その心は?
加藤: 〈ANTI HERO〉も「アンタイヒーロー」だったり「アンチヒーロー」だったりしますよね。どっちが正解でも不正解でもなくて。こういうときに“これが正解”っていうのを決め切っちゃうことに違和感を覚えてしまうんです。〈SSZ〉ってホームページもインスタアカウントもつくってないんですけど、それも実は同じことで。“わからないこと”がいいと思っちゃうんです。その曖昧さゆえの余白感というか、なんなのこれ? みたいな神出鬼没感というかさ。なのでその場のフィーリングで好きに呼んでください。
ーそういう考えがあったんですね。ではそれも踏まえつつ、10周年記念のアイテムについて聞かせてください。
加藤: コレクション名は「TEN YEARS of HONING THE SSZ」。これには「10年間、剣を研ぐように磨き続けてきました」って意味を込めていて、これまでの歴代コレクションに紐づいたラインナップになっているんです。
加藤: まずはこの「BIRD WEP」。2019年の「SSZ SIGNATURE COLLECTION」で登場しためちゃくちゃ好きなアウターをアップデートして今回リリースしました。独特で不思議な光沢感があって、今回もめちゃくちゃいいものができたと思っています。縫製後にガーメントダイをしているんですけど、なんか海苔みたいな光沢感になっちゃって(笑)。それもまた好きなポイントです。
ー(笑)。そしてTシャツが2種ありますね。まずこちらの、アウトドア感のあるものは…?
加藤: 〈パタゴニア〉じゃん、って思うかもしれないけど実はそうじゃなくて。〈シークエル〉っていうめちゃくちゃ好きなアウトドアブランドがあるんですけど、そのパロディです。アウトドアブランドもいろいろと持ってはいるけど、大昔から持っていて思い入れのあるのは〈シークエル〉。だから敬意を持って引用させてもらいました。
ーロゴの「outdoor clothing」が「lifestyle clothing」に、そして「DURANGO・COLORADO」が「HARAJUKU・TOKYO」に変わってて、ストーリートブランド然とした見え方になっているのもおもしろいです。そしてもうひとつは?
加藤: ジムさん(グラフィックアーティストのジム・フィリップス)ですねー。
加藤: 実はこのグラフィック自体は十数年前に描いてもらってたものなんです。いまじゃない、いまじゃない、とタイミングを計り続けた結果、随分寝かせちゃったんですよね。
ーこの節目のタイミングで、満を持して日の目を見ることになったんですね。
加藤: スケートを語る上では外せない、伝説的アーティストですから。やっぱりスペシャルなタイミングで。
ーそして〈SSZ〉といえばパンツ。このアニバーサリーイヤーに出さないわけはありませんよね。
加藤: 〈SSZ〉の十八番ですね。歴代のコレクションのなかでも指折りの大好きなコレクションで「いざ鎌倉」ってのがあるんですけど、今回のはそのときはじめてつくった「坐禅パンツ」のアップデート版になります。「坐禅パンツ」は文字通り坐禅を組めるほどの伸縮性のある生地をつかったパンツで、いまとなっては化繊スラックスの“はしり”的な存在の1本だと思っています。
ーどのあたりをアップデートしたんでしょうか?
加藤: また別のシーズンのコレクションで「REVENGE OF THE STREETS」というのがあって、そのときは「eVent」というアウトドアアイテムでよく使われるような通気性の高い機能素材を使ってパンツをつくったことがあったんです。今回の「坐禅パンツ 2」は、要はそのミックス版ですね。「eVent」を使ってるわけではないんですが、穿きやすくて、太くて、でもクラシックで、そして軽くて乾きやすい、みたいな。これまでにつくったパンツのいいとこ取りという感じです。
ーパンツに特に情熱を注ぐ〈SSZ〉。加藤さんはなぜそこまでパンツを大事にするんですか?
加藤: 男のファッションでいちばん大事なのはパンツだと思っているんです。パンツには“ひととなり”が現れると思ってて。男臭くいくなら太くてドンって形だし、トゲトゲしたいなら細身、ナードならサルエルみたいな。まあ主観もありますけどね。ちなみに個人的には、パンツのシルエットをコロコロ変えるやつは信用できねぇっす(笑)
ー加藤さんの働き方ともリンクしてそうですね。
加藤: そうかもしれないですね。朝、“今日はこういう1日だな”って想像しながら服を選ぶときに、トップスじゃなくてパンツから考えませんか? おれの場合なら、畑仕事があれば必ず動きやすくて汚れてもいいものにする、とかさ。そういう意味で、人間の1日の動きを左右するのってパンツ。だからすべての服のなかでもっとも重要視しているのがパンツなんです。