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FEATURE | 若月美奈×泉英一が語るロンドンとファッションの世界。

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Mina Wakatski & Eiichi Izumi talks fashion, catwalks and their love for London

若月美奈×泉英一が語るロンドンとファッションの世界。

ロンドンを拠点に30年近く、コレクションを取材するファッションジャーナリストの若月美奈さん。10月下旬に彼女の著書『ロンドン・コレクション 1984-2017 才気を放つ83人の出発点』が繊研新聞社から発売された。それを記念して、同じくロンドンの若手デザイナーに精通し、セレクトショップ「デスペラード」のクリエイティブディレクター兼バイヤーを務める泉英一さんとの対談を敢行。80年代後半から現在に至るまで、先陣を切ってロンドンの若手デザイナーたちの魅力を日本に広めてきた2人の目には、ロンドン・コレクションの過去、現在、未来はどのように映るのか? その想いを聞いてみた。

  • Photo_Hiroyuki Takashima
  • Text_Reiko Kuwabara
  • Edit_Ryo Muramatsu

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若月美奈
ファッションジャーナリスト。1988年に渡英し、日本の新聞や雑誌での執筆活動を始める。90年から繊研新聞嘱託記者として世界のコレクション取材を担当。2001年以降はロンドン通信員として英国内におけるさまざまな取材を行う。2017年10月に『ロンドン・コレクション 1984-2017 才気を放つ83人の出発点』を繊研新聞社から刊行。

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泉英一
「デスペラード」のクリエイティブディレクター兼バイヤー。1981年にレナウンルックに入社。ドリス・ヴァン・ノッテン、クリストフ・ルメール、マーク・ジェイコブスなどのデザイナーを発掘し、いち早く日本に紹介した。2013年に独立し、自身の会社「パノラマ」を設立。同年、東京・渋谷にセレクトショップ「デスペラード」をオープン。17年9月、群馬・高崎に2号店「デスペラード マス」が誕生。www.desperadoweb.net

一番最初に買ったバイヤーになりたい。

お二人の出会いを教えてください。

泉英一(以下、泉)もう本当に古くて、多分25年ぐらい前だと思います。当時、私は、レナウンルック(現ルック)でブティック事業部を立ち上げ、〈ドリス ヴァン ノッテン〉、そして1996年に〈ジョー ケイスリー ヘイフォード〉を仕入れ始めたとき、繊研新聞の取材で来てくださったのが若月さんだったと思います。

若月さんの印象は?

やはり若月さんというと、ロンドン・コレクションの第一人者というか、一番熟知されているかただと思っています。僕の場合、とにかく実際にショーを見ているかたを信用したい。その現場に常にいるかたの方がリアルというか現実味がある。信頼があるので常に若月さんの記事は読んでいます。

若月美奈(以下、若月)最初にお会いしたとき、すごく覚えているのが、「海外に行くといろんなブランドをミックスしたお店があるのに日本にはない」とおっしゃっていたこと。それでなんでだろうって考えたら、バイヤーが買いたくても買えないから、海外に行っても買い付けられない。それだったら「買えるシステムを作ればいいんだ」ということでブティック事業部を立ち上げ、ブティックに卸すというところからスタートされた。それからセレクトショップという名前が生まれ、「若手デザイナーの服はセレクトショップで買う」という流れができたんです。言ってみれば日本のセレクトショップの土台になるようなものを作られたのが泉さんというイメージですね。

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泉さんが自らバイイングを手がける「デスペラード」。常に次世代のタイムレス(時代を超越した)な服を提案し続けている。世界各国の気鋭のブランドが並ぶ中、イギリスからは〈マルケス アルメイダ〉〈チャラヤン〉〈ケイスリー ヘイフォード〉などをセレクト。

そこまで言えるか分かりませんが(笑)。確かに服が大好きですし、当時としては、もっとグローバルになっていかないと今後の発展はないと思っていましたね。それから20年から30年ほど経ちましたけれど、やはり我々としてはオリジナルをつくるのではなく、100%デザイナーのもので揃えるという従来のやり方で、ずっとやって行こうと挑戦を続けています。

若月あと泉さんの「一番最初に買ったバイヤーになりたい」と語ったインタビュー記事を読んで、すごく同士のようなものを感じました。私も注目した若手デザイナーには一番最初にインタビューがしたい、最初にインタビューをするジャーナリストになりたいというか。

どこか自分の中で、ファッションというのはそういうスピード感も大事だと思っているのかもしれません。いつやるか、いつ展開するか、できるだけ早い方がいいですし、早くやること自体とても大事なことなんじゃないかな。出来上がる前の卵が孵化するところにファッションの醍醐味があると思います。

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90年代のロンドンといえば、アレキサンダー・マックイーンやフセイン・チャラヤンなど、新進気鋭のデザイナーたちが突如現れた時代。その時代のロンドンはどんな空気感でしたか?

若月面白かったですね。ファッションだけではなく、アートだとダミアン・ハースト、音楽だとオアシスやブラーが出てきて、きっとこれは歴史に残る時代なんだなって。そんなムーブメントの中で仕事をできたのは、すごく貴重な経験になりました。やはりそういう時期は、日本の雑誌がロンドンに目を向けたので、たくさん仕事のオファーがあったし、いろいろなかたに話を聞く機会がありました。実際その頃の日本は、ロンドンのデザイナーの服を買い漁っていました。

そうですね。バイヤーにとってもバイイングというか、ものを発見するのは未知との遭遇のようで楽しみなんです。自分の知らない世界を如何に探し当てるか。その出会いってすごく楽しいし、バイヤー冥利につきる。

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若月さんはこれまで自身で取材してきた、ロンドンのデザイナーたちの記事を一冊にまとめた『ロンドン・コレクション 1984-2017 才気を放つ83人の出発点』を刊行されました。そもそもロンドン・コレクションの魅力とは何だと思いますか?

若月この本のなかでアレキサンダー・マックイーンが「最低の時期にデビューした僕はラッキーだった」と言っているけれど、どん底になった時にこそ、何か新しいものが生まれてくる。そういう意味でもロンドン・コレクションにはすごく期待しています。やっぱり過保護な環境だとアナーキーで面白いものって生まれませんからね。

この本では、そんなロンドン・コレクションの歴史を大きく4つの時代に分けています。ロンドン・コレクションが発足した1984年からスタートして、アレキサンダー・マックイーンやフセイン・チャラヤンがデビューを飾った90年代、クリストファー・ケインやガレス・ピューなどの若手デザイナーが活躍した2000年代前半、そしてシモーン・ロシャやアストリッド・アンデルセンといった手作業を駆使したデジタル世代が登場した現在。どん底から生まれた4つの波を紹介しています。その流れでいくと2017年もどん底だけど、絶対に次の波が来そうな予感がしています。どん底のときこそ面白いので、そこにも注目して欲しいですね。

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写真の見開きは、1985-86年秋冬シーズンに発表されたジョン・ガリアーノのデビューコレクション。

「THE BIRDS」が私のジャーナリスト人生を変えた。

お二人にとってロンドンのファッションとは?

クリエイションですね。残念ながら日本には、ここ10年を振り返ってみても、コンサバティブ、スタンダード、あとシンプル・イズ・ベストみたいな独自の価値観が強く根付いている。いわゆる何気ない装い、一週間着回し、どこでも誰でも着られるみたいな服。僕はそういうものはあまり好きじゃない。好きじゃないというか、ファッションの存在って一体何なんだろうと考えさせられます。

若月私もニコラス・ナイトリーやアレキサンダー・マックイーンのデビュー当時の服も持っていますが、特にこの時代は、肉体的な着心地という部分でかなり厳しかった。歩きにくかったり、纏わりついたり。でも肉体的に着心地のいい服が果たして精神的に着心地がいいかというとそうではない。やっぱりいいなと思う服を着たときの方が、精神的にもすごくいいんですよね。

ファッションというのは、服が人間にどのような影響を与えるのかが大事だし、服を着て気分が高揚したり、何か楽しくなったりするということがすごく大事だと思います。僕の持論では、ファッション、音楽、アート、スポーツというものは “生活必潤品” だと思っているんです。生活必需品ではなくて、生活を潤すもの。人間は潤すものがなければ、生きていたって楽しくないと思うんです。

ロンドン・コレクションで印象に残っているショーを教えてください。

若月今はロンドン・コレクションしか見てないんですけど、以前はパリやミラノも含めて1シーズンに200近くのショーを見た時期もあったので、中には忘れちゃうショーもあります。でも「これを超えるショーはない!」と思うのは、アレキサンダー・マックイーンのデビューから3シーズン目の「THE BIRDS」。その後、このブランドは「アメリカン・エクスプレス」がスポンサーについてドラマティックなショーになるけれど、「THE BIRDS」はまだ全然お金がない時代。なのに、この興奮はなんだろうって思いました。「THE BIRDSが私のジャーナリスト人生を変えた」というタイトルで追悼記事を書いたぐらい。だから今のマックイーンではなく、当時のマックイーンですね。

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お金がないから、なかなか生地が調達できないし、工場も協力してくれない。でもそういった状況で何を作るのか考えることが、クリエイティブだと思います。〈フセイン チャラヤン〉がシルクのドレスを土の中に長い間埋めて腐食させるとか、そういうアイデアに結びついているんですかね。

若月ちょっと前までは、本当にかわいそうなぐらいロンドンの新人デザイナーのショーでは同じプリントばかり使われていて、お金がないことが伝わってきました。最近はテジタルテクノロジーのおかげで、60型あったら60種類のプリントを作ることもできるようになりました。でもその一方で、〈セイディ ウィリアムス〉のように総スパンコール地の上にプリントを施したり、シルクスクリーンプリントの上に熱転写プリントを重ねたり、また手作りのものが戻って来ているようにも思います。

あと〈マーティン ローズ〉とかね。強いんじゃないですかね。これからは。

若月実は60年ぐらいコレクションの写真を撮り続け、「ファッションショーが始まってから撮影している」というフォトグラファーのクリス・ムーアも、好きなショーのひとつに〈マーティン ローズ〉の名前を挙げていました。最近、特に大きいファッションショーではなく、もっと小さくてインティメートなショーの方にパワーを感じて、撮るのが楽しいって。

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最後に『ロンドン・コレクション 1984-2017 才気を放つ83人の出発点』をどんなかたに読んでもらいたいですか?

若月まずはデザイナーを目指す方には絶対。だからファッションを志望する学生さんにも本当に読んでほしいんです。いろんなデザイナーがそれぞれの “出発点” を語っているので、そこから何かしらヒントを得ることができると思います。それで「ファッションデザイナーは面白い仕事かもしれない」と思ってもらえたら嬉しいです。あと昔のいいところって忘れられちゃうので、今の30代から40代のかたにもこんなデザイナーがいたんだということを改めて思い出してもらえたら嬉しいです。

でもロンドンは本当に面白い場所だし、新しいものが生まれてくるところなので、ファッションに興味のあるかた以外でも何かしら引っかかる部分があって、興味を持ってもらえたらいいなと思います。

あえて大御所は入れていないんですね。〈ポール・スミス〉とか〈マーガレット・ハウエル〉とか。

若月完成されたものはね。すべて最初の孵化して行くところだけをピックアップしているんです。

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『ロンドン・コレクション 1984-2017 才気を放つ83人の出発点』
本書は、1984年に始まったロンドン・コレクションの足跡を72 ブランド 83 名のデザイナーのインタビューとランウェーの写真を通じて紹介。デビュー当時のアレキサンダー・マックイーンやクリストファー・ケインのインタビュー記事を始め、他では見ることのできない〈ジョン ガリアーノ〉のデビューコレクションや〈フセイン チャラヤン〉のドラマティックなランウェー写真なども掲載。ロンドン・コレクションの今を知り、未来を探る上でも貴重な一冊となっている。デザインは米山菜津子さんが担当。B5変型版。246ページ。繊研新聞社刊。¥3,400+TAX。大手書店の他、東京・渋谷の「デスペラード」でも販売中。www.amazon.co.jp

繊研新聞社出版部
電話:03-3661-3681
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