「かたち、生産国、素材、仕様と、“役”が付つほど高くなる」
80’s Burberrys’ Tielocken Coat
今野今回もまずは自分から。ひとつめは〈バーバーリー〉の「タイロッケンコート」を。
阿部いま一番熱いかもね。いまヤフオクとかでも〈バーバリー〉で検索すると、【一枚袖】って検索用ワードを結構見かけるほど、みんな探してるみたいね。
栗原へえ。それは「タイロッケン」に限らず、普通のトレンチやステンカラーでもあるものなんですか?
今野タイロッケンはもともと1800年代後半から生産が始まり、一時的にほぼ市場からなくなっていたもので、中でもイングランドメイド、オールコットン、一枚袖となると、自分はこの1着しかいままで見たことがない。トレンチの原型とも言われているコートなんですが、個人的にはトレンチよりも着やすいですし、他の人ともカブりにくいバーバリーなのかなと。これは80年代頃のものと譲っていただいた方から聞いてます。
藤原一枚袖って、要はアームに剥ぎがないってことですよね?
今野そう。普通は剥ぎ目のある二枚袖が一般的なんだけど、トレンチもステンカラーからも一部一枚袖が見つかっていて。自分はたまたまイングランドメイドのものを手に入れることができたけど、ほかの生産国のものでも、そこまで見たことがない。
栗原イングランドメイド以外は全部ライセンス商品なんだと思っていたんだけど、違うんですか?
今野多分ライセンスだとは思うけど、その中にもまた珍しいとされる生産国があるようで。特にフランス製は生産期間が短かったみたいだし、先日、水戸のストレイシープ(欧州ものに強いヴィンテージショップ)さんにお手伝いいただいて、ヴィンテージバーバリーのイベントをやったんだけど、その時に聞いたのは〈バーバリー〉のコートを数千枚見つけてもフランス製のは1枚あるかないかというくらいみたい。
阿部この間、高円寺のとある古着屋さんで一枚袖が何着か出ていてチェックしたら、フランス製のオールコットンも1枚あったよ。
藤原僕も1万5800円とか1万9800円とかの世界だと勝手に思ってたんだけど。
今野いやいや、〈バーバリー〉の定価って知ってます? 日本だと20万円以上からなんですよ。それを知ったら5万8000円なんて安いもんじゃないですか。これは受け売りなんですが、そもそもヨーロッパの富裕層向けに作られたコートなんで全世界的にも価格設定を下げたことが一度もないみたいで。
阿部あとオールコットンとT/C(ポリエステル混紡綿)の2種類があるんだけど、オールコットンはとにかく数が少ない。というか、ほぼT/Cしか出てこないのが現状で。
今野役が付いていくほど高いですよね。まずはかたち、続いて生産国、袖の仕様、素材と。とはいえ、自分も1年半ほど前に〈バーバリー〉が1着欲しいから、その前にちょっと勉強しておこうと思って知り合いの古着屋さんに集めてもらったら、その奥深さにハマったクチでして。別注品とかもかなりあるので、まだわからないことばかりなんですが。まあ、自分らってみんなアメリカ古着から入っているので、単純にヨーロッパものが新鮮だったって部分もあるんでしょうけどね。実はまた今年の秋口に向けてストレイシープさんの御協力のもとVLACK VINTAGE SHOWのヴィンテージバーバリー展の第2弾を開催予定なので楽しみにしていて下さい。
「シャーデーは曲名をブランドコンセプトに引用するほど、ゆかりのあるアーティスト」
90’s Hip-Hop&Black Music T-Shirt
今野続いては90年代のミュージシャンT。NASやスヌープ・ドギー・ドッグ、アレステッド・ディベロップメントなどヒップホップやブラックミュージックが中心です。
阿部僕はこの辺疎いんだけど、最近高くなってるんでしょ。
栗原そうですね。でも、海外での高騰ぶりと比べたら日本はまだマシな方ですよ。オーストラリアとかエラいことになってて。
今野NASは自分のブランドでもオフィシャルでTシャツ作ったくらい思い入れのあるアーティストですし、スヌープも確かファーストアルバムがリリースされたタイミングで殺人容疑がかかっていて(笑)、そんな悪いヤツの作った音楽なら聴いてみたいと思ってタイムリーでハマったアーティストのひとり。
今野どうでしょう? ブートも中にはあると思います。でも、じつはブートの方が少ないし、人気もあって。
栗原そうですね。例えばニルヴァーナとかでもオフィシャルだとある程度デザインが決まってしまっていて、ファンからすると見飽きた感じがあるのか、ブートでワケがわからないヤツの方が逆に人気があるみたいですよ。
今野この間行ったインスピレーション(年1回LAとNYで開催される大型展示会)でもこの辺が結構出ていて、とんでもない価格が付けられてましたね。ディスカウントにも全く応じてくれなかったし。
阿部もうちょっと古めのアーティストTとなるとロック系ばかりだから、僕も一時はブラックミュージック系を探したことがあったけど、当時は全く出てこなかったな。これは誰?
今野セロニアス・モンクです。僕もブラックミュージック系を集めるにあたって、周りの人に聞いたら、とにかくマーヴィン・ゲイものが出てこないと。それから気にしてマーヴィン・ゲイばかり探したけど、じつはまだ1着も見つけられなくて。
阿部前に地方のショップで僕の一番好きなアーティストでもあるドナルド・バードのチャンピオンボディが出ていて、ちょっと他の店を覗いてる間に売れちゃったのを思い出したよ。この辺だけを集めているコレクターも少なくないんだろうね。
今野このアレステッド・ディベロップメントのものは友人からいただいたもの。このシャーデーのものは大分着込んでボロボロだけど、ずっと手放せずにいて。ブランド始めた当時、ブランドコンセプトみたいなものを考えるにあたって、シャデーのアルバム曲「Bullet Proof Soul」をコンセプトの最後の文言に引用させてもらったほど、勝手にゆかりのあるアーティストなんです。
栗原スヌープのものは2~3万円くらいで出した記憶があるけど、アメリカの方がもっと高いと思います。
今野僕は値上がりする大分前に安く手に入れてますが、このシャーデーもいまのアメリカだったら500ドルは下らないと思いますね。
「Gジャンはある程度揃えることができたので、次はちょい丈長めのカバーオールかなと」
60’s Hercules&Oshkosh Coveralls
今野3つめはワッペンだらけのカバーオール。ボディは60年代頃の〈ヘラクレス〉だったり、〈オシュコシュ〉だったりするんですけど、ワッペン自体は70年代のものが中心。まあ、決め手は完全にワッペンでしたが。
阿部そもそもこれは何を意味するジャケットなんだろうね? そんなに大量にあるワケじゃないけど、たまに見かけるじゃない?
栗原ワッペンもほぼ鉄道関係会社のものなんで、鉄道関係者、もしくは鉄道もののコレクターが持っていたものだとは思うんですが、これを着て作業したってワケではないのかなと。
藤原そう。出てくる際はほぼデッドストック状態なんで、日常的に使っていたものではなさそうですよね。
今野まあ、僕自身もじつは何度か見かけてはいたけど、当初はそれほど気にはなってなくて。ただ、Gジャンはある程度揃えることができたので、次はちょい丈長めのカバーオールが気になり出したと。今回もそうだけど、こうやって大量にワッペンが付いてると、ディーラーは大抵「ワッペン1枚、云ドルで計算したら、絶対お得だから」って言い出すよね。
栗原あるあるですね(笑)。逆にワッペンは欲しいけど、ボディがどうしようもない場合も僕はワッペン代で換算してますね。
藤原そうですね。「91-J」とか〈リー〉のイメージが強いかも。50年代だとカバーオールよりもエンジニアジャケットが多い印象ですね。
栗原この〈オシュコシュ〉もやっぱり鉄道系のワッペンとデッドストックに近いコンディションなんで、おそらく鉄道関係のイベントに着て行ったりしたものなんだと思いますね。
栗原おそらく。もしかしたらイベントごとにワッペンを買い足して、徐々に増やして付けていくようなものだったのかも。
阿部なるほどね。でも最近の日本の市場だと、前にも(スピンオフ企画を参照)裕くんが話していたように、同じボディならワッペンがない方の人気が高いのかな。
栗原でも、それは日本の古着マーケットだからであって。例えば軍モノでも海外だとパッチひとつで数百ドルから1000ドルを超えるようなものも少なくないですが、僕らのマーケットにはそこまでの文化はないですよね。あくまでファッション的な評価が強いというか。
藤原資料的価値は当然一般的なパッチなしのものより高いワケですし、古着関係者として、安くは付けたくない。ただ、売れるかどうかはまた別の話ですね。
「トップボタンがハトメ+ムービングボタンは完全に初見だった」
20’s Carhartt Heart Button Coveralls
今野カバーオール繋がりで最後は〈カーハート〉のヴィンテージを。
今野裕くんと一緒にヴィンテージの501XXの本を執筆している水戸の「スマイリー」の川又君に見てもらったら、トップボタンが打ち込みじゃなく、さらにポケットフラップもなく、アームの補強にリベットを使っている点から考えるに、おそらく彼が知る限りハート型のチェンジボタンの付く最も古い〈カーハート〉のカバーオールなんじゃないかと。
阿部けど、このタグはカナダメイドという説もあるじゃない? マスタークロスって表記があるものはカナダだって。
今野一般的にはそう言われていますけど、詳しい方からお話を聞く限り、じつはカナダメイドだけにこのタグが使われていたワケではないみたいで。マスタークロスって言うぐらいですから、おそらくハイエンド版で、同時期にハイエンド版とマスタークロス仕様じゃない廉価版が存在していたんじゃないかと。
今野ちょっと色落ちが特殊だったので調べてみたら、この個体に関しては左綾なんですよ。襟も直線的ですし、何より先ほど言ったようにトップボタンが打ち込みじゃなく、ハトメ+ムービングボタンの個体は完全に初見だったので。おそらく20年代頃のものじゃないかと。
藤原いや、もっと古い可能性もありますね。トップがムービングボタンではなく、チンスト+チェンジボタンって仕様もあるみたいですが、そちらの方が古いかと聞かれたら、またそこは微妙なラインで。
藤原状態にもよりますけど、同仕様でワンウォッシュくらいの状態であれば、300万円くらいは付けるかも。
阿部マジで(笑)。カバーオール自体は最近お店でも結構動いてるの?
藤原36とか小さめなサイズを狙い打ちで買われていくお客さんも中にはいますけど、じつはまだそんなに人気が戻ってきた感じはしてないですね。
阿部そうなんだ。まだ小さめのサイズがイイって人もいるんだね。
藤原ずっと探し続けている人はジャストが気になるんじゃないですかね。実際、20~40年代頃の資料を見ても、当時のアメリカの労働者が皆大柄だったワケでもなく、いまの日本人の体型と対して差がないじゃないですか。ということは、36とか38ぐらいのサイズ感が一般的だったにも関わらず、古着市場では40オーバーばかりという現状から察するに、ゴールデンサイズで状態の良い個体がもうあまり残っていない、つまりは珍しいし、需要も高いってことになりますよね。