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OKINAWAN 3rd WAVE再び! 沖縄やちむん工房探訪の旅。

Featuring JOURNAL STANDARD

OKINAWAN 3rd WAVE再び! 沖縄やちむん工房探訪の旅。

昨年「ジャーナルスタンダード(JOURNAL STANDARD)」で開催され、大好評を博した「OKINAWAN 3rd WAVE」が今年もやってきます。沖縄の伝統工芸であるやちむんはもちろん、琉球藍染を施したアイテムなどを展開し、現在進行形で進化を遂げる現地のカルチャーを堪能することができる同イベント。そんなイベントに先立ち、今年4月、ショップのバイヤー陣がやちむん工房の陶工たちと会うために沖縄へと向かいました。作家の個性によってさまざまな作風を見ることができるやちむん。今回は名物バイヤーの山口翼さんと3人の作家さんの声から、やちむんの魅力を掘り下げていきましょう。

  • Photo_Kazunobu Yamada
  • Edit_Yuichiro Tsuji
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沖縄到着! 初日は現地をリサーチ!

どこまでも果てしなく青い空、そのなかで惜しみなく光を放つ太陽、まるでどこかに取り残されたかのようにゆったりと流れる時間。そんな南国特有のトロピカルなムードが、現実として存在する沖縄。東京から約二時間の空の旅を経て、空港に降り立った瞬間からそうしたメロウな空気を感じることができます。

今回我々を案内してくれたのは、セレクトショップ「ジャーナル スタンダード」のバイヤー陣。なかでも率先して沖縄の魅力を解いてくれたのが山口 翼さん(通称:チャビーさん)でした。いつでもどこでも簡単に情報を手に入れられる時代にあって、彼の買い付けスタイルはオールドスクール。世界各地、どこへ訪れても、まずはローカルたちとコミュニケーションを取り、そこで得た情報を起点に足を動かすことを心がけているそう。

ということで沖縄に到着して早々、現地の服屋に訪れリサーチを重ねます。米軍基地があるため、ミリタリーアイテムの払い下げ品やたくさんのアメリカ古着が沖縄にはありました。

そしてローカルフードも堪能。チャビーさんはご飯を本当においしそうに食べます。そこに自身の愛称の由来があるんだとか。「“チャビー”っていう呼び方には“丸っぽい”とかそういう意味があるんです。もちろん、差別的な意味ではなくて、親しみを込めた意味合いで。ぼくがよく食べるんで先輩がそうつけてくれたんですよ」と教えてくれました。しっかり働き、よく食べ、初日を終えます。翌日から今回の出張の目的である工房探訪がはじまります。

アートでも高級品でもない、日用品の「やちむん」。

沖縄の伝統工芸である「やちむん」は、現地の言葉で「焼き物」を意味します。古くから沖縄の生活に密着し、日用品として使われてきました。現在も沖縄の各地でつくられ、多くの作家たちが活躍しています。

そんななかでとくに注目したいのが若手の作家。伝統に敬意を払いながらも、自分の個性を活かしたものづくりを行い、文化の発展に貢献しています。

この日我々が訪れたのは、沖縄本島の中部に位置する読谷村(よみたんそん)という町。古くからやちむん文化が根付き、多くの作家たちが拠点にする場所で、「OKINAWAN 3rd WAVE」にも参加する2人の作家もここで制作を行っています。

アブストラクトな作風が魅力の志陶房。

我々はまず最初に「志陶房」の長浜太志さんのもとを訪ねました。「長浜さんの作品には、力強さを感じます。まずはそこに注目してほしいですね」とチャビーさん。到着すると優しい笑顔で長浜さんが迎えてくれました。

こちらが長浜さんの作品。一度素焼きをした焼き物に釉薬(ゆうやく)と呼ばれる材料を塗って色付けをしています。長浜さん曰く「ぼくが目指しているのは強弱。細くてシャープな線や、大きな波のような大胆な色付けによって、ひとつの作品のなかにメリハリをつけています」とのこと。

読谷で生まれ育った長浜さんは、伝統的な柄使いや色付けを行う師匠のもとで修行を重ねました。でも、独立後のアプローチはまったく正反対といってもいいほどアブストラクト。「はじめは唐草模様などを描いたりもしていましたが、自分がいいなと思うものをつくりたくてこんな作風になりました。地元で伝統を学んだからこそいまの自分があります。でも、やっぱり見てもらうためには個性を出すしかないと思って。それが段々認知されるようになっていったんです」と長浜さん。

その作風に加えて「日常における使いやすさも長浜さんの作品の特徴なんです」とチャビーさんが教えてくれました。「軽くて、手に取りやすいように意識しています。沖縄の土は薄くすると強度が出ないので、そこにさまざまな土をブレンドして、薄くて丈夫になるようにしているんです」と長浜さんは語ります。

最後に今後のことについて尋ねると、「目標ですか? 有名になりたいとか、そういう気持ちはとくにありません。とにかく、お客さんに使って欲しい(笑)。ただそれだけです。遠い先のことはあまり考えていなくて、ただいま自分にできることをやるだけですね」と笑顔で話してくれました。

工房十鶴が描くポップな絵柄の誕生秘話。

続いて訪問したのは同じく読谷に工房を構える「工房十鶴(じっかく)」でした。「この工房の康助さんは、明るいお兄ちゃんみたいな感じですごく気さくなんです。そして、そんな人柄を表すように作風もすごくポップ。マンドリルを象った置物をぼくは持っていて、それがお気に入りです(笑)」とうれしそうにチャビーさんが話します。

この工房の陶工である柄溝(からみぞ)康助さんは大阪の枚方市出身。若い頃から焼き物をつくりたいと思っていて、雑誌でやちむんの特集を見たことをきっかけに読谷に来たんだとか。「読谷山焼 北窯」という4つの工房が集まる集落のような場所で修行を重ね、独立。いまはコーヒー豆やドクロ、落花生など、従来のやちむんには見られることのなかったポップな絵柄を取り入れ、新たな風を吹かせています。

「新しいものをつくろうっていう意識は全然ないんです。そうなったら変なもんばっかつくっちゃうし、カミさんにダメ出しばっかされちゃいますよ(笑)」と、大きな笑い声をあげながら豪快に話す柄溝さん。「コーヒー豆はね、点打ちから生まれたんですよ。点打ちっていうのは水玉模様のこと。楕円形の水玉を描いてたら、カミさんの友達が『豆みたい』って言いだして(笑)、それで真ん中に線を引いたらコーヒー豆みたいになるでしょう? それで生まれたの」と、またまた笑いながら話してくれました。

もうひとつ、工房十鶴の個性を表すのがドクロ。これの誕生秘話に関しては「修行しているときの同僚が青森で蕎麦屋をやっていて、爪楊枝入れと蕎麦猪口をつくってくれって頼まれたから、彼の好きなドクロを描いたんです」と柄溝さん。

「康助さんの描く柄は独特の強さがあって、それに惹かれるんです」とチャビーさんも太鼓判を押します。今回のイベントでは、そんな愛らしいタッチのポップな絵柄をプリントしたシャツをリリース予定です。「こうして自分の絵が服になるのはうれしい。焼き物にしても、こういう服にしても、やっぱりたくさんの人が見てくれるからには、しっかりものづくりしないとなって思いますね」と最後に顔を引き締めて語ってくれました。

やちむんの世界でいちばん大事な心。

この日の仕事はここで終了しましたが、じつはこの夜、柄溝さんの師匠である與那原(よなはら)正守さんの工房で窯出しの宴が行われるとのこと。窯出しとは、焼き物が焼きあがり、窯から取り出すこと。窯ではいつも、その日にお祝いをするんだとか。今回は我々もそこに同席させてもらうことになりました。

工房を尋ねると即席の宴会場がセットされ、與那原の元で働くお弟子さんや独立した作家さんたちをはじめ、読谷でやちむんを支えるさまざまな人たちが一堂に介していました。

宴には志陶房の長浜さんや、翌日に訪ねる予定である室生窯の谷口室生さんの姿もあり、誰でもウェルカムな状態。それについて長浜さんがこんな話をしてくれました。「沖縄には“ゆいまーる”の精神があるんです。つまり、人と人の繋がりのこと。たとえ住んでいる地域が違ったとしても、みんなで助け合うという心があるんです。窯にいるひとたちもそうで、自分だけじゃなくてみんなで協力しながら支え合おうとしています。だからこそ、やちむんが文化として発展できたんだと思います」とのこと。たしかに、沖縄に住む人たちはみんな強い絆で結ばれ、だからこそ人に対して優しく接する人が多いような気がします。

宴会では大きなやちむんのお皿に盛られた料理がテーブルに並び、グラスを手にお酒を酌み交わします。

みなさん気持ちよく酔ったところで、窯の親方である與那原さんの挨拶が。実はこの宴は、窯出しの祝いの他に、ひとりのお弟子さんの独立を記念するものでもありました。卒業に際して、與那原さんからこんな言葉が贈られました。

「手仕事の世界というのは厳しく、大変なところです。でも我々はみんな、手仕事を楽しみながら生きています。人がものづくりをするということは、ただ単にそれを売るためではなくて、自分の心を届けたいという想いがどこかにあるはず。自分がつくった器でおいしいご飯を食べて欲しい。これがやちむんの世界でいちばん大事な心です。これからの若い世代にもそういった気持ちを持って欲しい。手仕事の世界は奥が深いです。でも、自分なりの想いを追求して、みんなが幸せになれる器をつくってください」

この後、師匠とお弟子さんが抱擁を交わし、宴は深い時間まで続きました…。

枠に収まらない室生窯のおおらかなやちむん。

楽しい夜が明けた朝、我々は読谷村よりもさらに北にある名護へ向かいました。3つ目の工房である室生窯の谷口室生さんに会うためです。「室生さんの作品は、長浜さんや康助さんの作風に比べると、伝統的なムードがあります」とはチャビーさんの言葉。

ご自宅兼工房には、チャビーさんの言葉通り、どこか硬派で渋さを感じる作品がそこかしこに置かれていました。「伝統というのはあまり意識してないですね。作業をしているとアイデアが湧いてきて、それを形にしたものがここにあるんです。『やちむんはこうあるべき』とか、そういった固定概念は捨てて、頭の中に生まれたものを大事につくっています」と室生さんが話してくれました。

「“シノギ”と呼ばれる立体的な線の入った作品や、3つの色で点打ちをあしらったものが室生さんの代表的なアプローチのような気がします」というチャビーさんのひと言に対して、室生さんはこんな言葉で返していたのが印象的でした。「自分は山田真萬という親方のもとで修行を重ねたんですが、すごく斬新で大胆な絵づけを行う人なんです。ぼく自身もそれを大事にしていますね。例えばこういった点打ちにしても、お皿のなかにキレイに収まるように描くのではなくて、枠からはみ出るように描いています。そうすることで柄が広がって見えるし、おおらかな雰囲気になるんです」

加えて、チャビーさんはこんなことも語っていました。「室生さんの作品はすごく使いやすい。実際にぼくも家で使っているんですが、いろんな料理との相性がよくて使用頻度がすごく高いですね」。実は使いやすさという部分も室生さんの意識するところなんだとか。「お皿にご飯を盛ったときのことを考えてつくってます。自分は料理だけはできるんで(笑)。こういう柄ってうるさいって思われがちなんですけど、意外とご飯を盛ったときに調和が生まれるんですよ。全体に柄をまぶすか、もしくは大胆に空白を残すか。そのどちらかだとぼくは思ってます」とのこと。

使いやすさの秘訣にはもうひとつ、構造的な理由もありました。「一部のお皿は、裏側の高台と呼ばれる足の部分がなくて、内側に入っていて収納がしやすい。これもポイントですね」とチャビーさんが教えてくれました。最後に今回のイベントへの抱負について室生さんに訪ねると、「去年のイベントでお店に立たせてもらって、すごく楽しかったんです。沖縄にいるとお客さんと直接話す機会があまりないので、いろんな声が聞けるととても刺激になる。それに、器のことが好きな人がたくさんいることを知れたのはいいことだったし、がんばろうって思います」と語ってくれました。

ということで、今回のやちむん工房探訪の旅はこれにて終了。沖縄のおおらかな風土や、人々の優しさに触れることができた今回の旅。その空気をふんだんに含んだやちむんは、現地の人たちにとって欠かすことのできない大切な日用品であることがわかりました。

陶工たちの手によってひとつ一つ丁寧につくられる作品には、沖縄のカルチャーはもちろん、作家たちの思いが込められています。志陶房の長浜さん、工房十鶴の柄溝さん、室生窯の室生さん、3人が口を揃えて話していたのは、「やちむんを使って食事を楽しんで欲しい」ということ。

今回行われる「OKINAWAN 3rd WAVE」では、ここで紹介した3つの工房の作品が販売されるほか、各工房とコラボレーションした雑貨や服などを展開予定。ここで紹介した作家さんご本人も店頭に立つ予定です。人気作家である3人が一堂に介して販売を行う機会は、沖縄でも滅多にありません。少しでも気になった方は、ぜひ足を運んでみてください。

「OKINAWAN 3rd WAVE」

Organized by 58works
Instagram:@58_kitagama

Vol.01
日程:2018年6月23日(土)・24日(日)
会場:SHIBUYA CAST. 広場内
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-21
当日スケジュール:
8:30 整理券配布スタート
11:00 入場及びイベントスタート
17:00 営業終了
※雨天決行。荒天の場合は「JOURNAL STANDARD 表参道」にて開催。
詳しい最新情報はジャーナル スタンダードの公式インスタグラムをご確認ください。
Instagram:@journalstandard.jp

Vol.02
日程:2018年6月30日(土)・7月1日(日)
会場:JOURNAL STANDARD 表参道
※こちらの会期中は陶工は不参加となります。

志陶房 www.instagram.com/yachimun/
工房十鶴 www.instagram.com/jikkaku/
室生窯 www.instagram.com/murougama/

JOURNAL STANDARD 表参道

住所:東京都渋谷区神宮前6-7-1
電話:03-6418-7961
営業:11:00~20:00(不定休)
journal-standard.jp
Instagram:@journalstandard.jp

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