アートでも高級品でもない、日用品の「やちむん」。
沖縄の伝統工芸である「やちむん」は、現地の言葉で「焼き物」を意味します。古くから沖縄の生活に密着し、日用品として使われてきました。現在も沖縄の各地でつくられ、多くの作家たちが活躍しています。
そんななかでとくに注目したいのが若手の作家。伝統に敬意を払いながらも、自分の個性を活かしたものづくりを行い、文化の発展に貢献しています。
この日我々が訪れたのは、沖縄本島の中部に位置する読谷村(よみたんそん)という町。古くからやちむん文化が根付き、多くの作家たちが拠点にする場所で、「OKINAWAN 3rd WAVE」にも参加する2人の作家もここで制作を行っています。
やちむんの世界でいちばん大事な心。
この日の仕事はここで終了しましたが、じつはこの夜、柄溝さんの師匠である與那原(よなはら)正守さんの工房で窯出しの宴が行われるとのこと。窯出しとは、焼き物が焼きあがり、窯から取り出すこと。窯ではいつも、その日にお祝いをするんだとか。今回は我々もそこに同席させてもらうことになりました。
工房を尋ねると即席の宴会場がセットされ、與那原の元で働くお弟子さんや独立した作家さんたちをはじめ、読谷でやちむんを支えるさまざまな人たちが一堂に介していました。
宴には志陶房の長浜さんや、翌日に訪ねる予定である室生窯の谷口室生さんの姿もあり、誰でもウェルカムな状態。それについて長浜さんがこんな話をしてくれました。「沖縄には“ゆいまーる”の精神があるんです。つまり、人と人の繋がりのこと。たとえ住んでいる地域が違ったとしても、みんなで助け合うという心があるんです。窯にいるひとたちもそうで、自分だけじゃなくてみんなで協力しながら支え合おうとしています。だからこそ、やちむんが文化として発展できたんだと思います」とのこと。たしかに、沖縄に住む人たちはみんな強い絆で結ばれ、だからこそ人に対して優しく接する人が多いような気がします。
宴会では大きなやちむんのお皿に盛られた料理がテーブルに並び、グラスを手にお酒を酌み交わします。
みなさん気持ちよく酔ったところで、窯の親方である與那原さんの挨拶が。実はこの宴は、窯出しの祝いの他に、ひとりのお弟子さんの独立を記念するものでもありました。卒業に際して、與那原さんからこんな言葉が贈られました。
「手仕事の世界というのは厳しく、大変なところです。でも我々はみんな、手仕事を楽しみながら生きています。人がものづくりをするということは、ただ単にそれを売るためではなくて、自分の心を届けたいという想いがどこかにあるはず。自分がつくった器でおいしいご飯を食べて欲しい。これがやちむんの世界でいちばん大事な心です。これからの若い世代にもそういった気持ちを持って欲しい。手仕事の世界は奥が深いです。でも、自分なりの想いを追求して、みんなが幸せになれる器をつくってください」
この後、師匠とお弟子さんが抱擁を交わし、宴は深い時間まで続きました…。
枠に収まらない室生窯のおおらかなやちむん。
楽しい夜が明けた朝、我々は読谷村よりもさらに北にある名護へ向かいました。3つ目の工房である室生窯の谷口室生さんに会うためです。「室生さんの作品は、長浜さんや康助さんの作風に比べると、伝統的なムードがあります」とはチャビーさんの言葉。
ご自宅兼工房には、チャビーさんの言葉通り、どこか硬派で渋さを感じる作品がそこかしこに置かれていました。「伝統というのはあまり意識してないですね。作業をしているとアイデアが湧いてきて、それを形にしたものがここにあるんです。『やちむんはこうあるべき』とか、そういった固定概念は捨てて、頭の中に生まれたものを大事につくっています」と室生さんが話してくれました。
「“シノギ”と呼ばれる立体的な線の入った作品や、3つの色で点打ちをあしらったものが室生さんの代表的なアプローチのような気がします」というチャビーさんのひと言に対して、室生さんはこんな言葉で返していたのが印象的でした。「自分は山田真萬という親方のもとで修行を重ねたんですが、すごく斬新で大胆な絵づけを行う人なんです。ぼく自身もそれを大事にしていますね。例えばこういった点打ちにしても、お皿のなかにキレイに収まるように描くのではなくて、枠からはみ出るように描いています。そうすることで柄が広がって見えるし、おおらかな雰囲気になるんです」
加えて、チャビーさんはこんなことも語っていました。「室生さんの作品はすごく使いやすい。実際にぼくも家で使っているんですが、いろんな料理との相性がよくて使用頻度がすごく高いですね」。実は使いやすさという部分も室生さんの意識するところなんだとか。「お皿にご飯を盛ったときのことを考えてつくってます。自分は料理だけはできるんで(笑)。こういう柄ってうるさいって思われがちなんですけど、意外とご飯を盛ったときに調和が生まれるんですよ。全体に柄をまぶすか、もしくは大胆に空白を残すか。そのどちらかだとぼくは思ってます」とのこと。
使いやすさの秘訣にはもうひとつ、構造的な理由もありました。「一部のお皿は、裏側の高台と呼ばれる足の部分がなくて、内側に入っていて収納がしやすい。これもポイントですね」とチャビーさんが教えてくれました。最後に今回のイベントへの抱負について室生さんに訪ねると、「去年のイベントでお店に立たせてもらって、すごく楽しかったんです。沖縄にいるとお客さんと直接話す機会があまりないので、いろんな声が聞けるととても刺激になる。それに、器のことが好きな人がたくさんいることを知れたのはいいことだったし、がんばろうって思います」と語ってくれました。
ということで、今回のやちむん工房探訪の旅はこれにて終了。沖縄のおおらかな風土や、人々の優しさに触れることができた今回の旅。その空気をふんだんに含んだやちむんは、現地の人たちにとって欠かすことのできない大切な日用品であることがわかりました。
陶工たちの手によってひとつ一つ丁寧につくられる作品には、沖縄のカルチャーはもちろん、作家たちの思いが込められています。志陶房の長浜さん、工房十鶴の柄溝さん、室生窯の室生さん、3人が口を揃えて話していたのは、「やちむんを使って食事を楽しんで欲しい」ということ。
今回行われる「OKINAWAN 3rd WAVE」では、ここで紹介した3つの工房の作品が販売されるほか、各工房とコラボレーションした雑貨や服などを展開予定。ここで紹介した作家さんご本人も店頭に立つ予定です。人気作家である3人が一堂に介して販売を行う機会は、沖縄でも滅多にありません。少しでも気になった方は、ぜひ足を運んでみてください。
「OKINAWAN 3rd WAVE」
Organized by 58works
Instagram:@58_kitagama
Vol.01
日程:2018年6月23日(土)・24日(日)
会場:SHIBUYA CAST. 広場内
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-21
当日スケジュール:
8:30 整理券配布スタート
11:00 入場及びイベントスタート
17:00 営業終了
※雨天決行。荒天の場合は「JOURNAL STANDARD 表参道」にて開催。
詳しい最新情報はジャーナル スタンダードの公式インスタグラムをご確認ください。
Instagram:@journalstandard.jp
Vol.02
日程:2018年6月30日(土)・7月1日(日)
会場:JOURNAL STANDARD 表参道
※こちらの会期中は陶工は不参加となります。
志陶房 www.instagram.com/yachimun/
工房十鶴 www.instagram.com/jikkaku/
室生窯 www.instagram.com/murougama/
JOURNAL STANDARD 表参道
住所:東京都渋谷区神宮前6-7-1
電話:03-6418-7961
営業:11:00~20:00(不定休)
journal-standard.jp
Instagram:@journalstandard.jp