これまでのアメリカ人トレイルランナーは「速いけれど強くはないタイプ」が圧倒的多数だった。なだらかで走りやすい山やトレイルが多いというお国柄が影響しているのかもしれない。持ち前のスピードを生かして序盤はレースをリードするも、後半に逆転されるという展開ばかりが繰り返されていた。ディランの真価は、その例に当てはまらない勝負強さにある。
「UTMFでは最後の登りが終わった後にパウに追いつくことができた。今までのベストレースだったよ。レース終盤にアタックをかけるスタイルが自分にあっているのかもと気がついたのはそのとき。UTMFの後に出た『TDS』121kmでは、後半の勝負どことでコースの誤誘導があって、トップから転落して3位に落ちてしまった。自分のミスだったら納得もいくけれど、あの局面であんなことが起きるなんて…。
でも、これもトレイルレースの一部。前年の『UTMB』で粘って7位まで浮上できたことと『UTMF』で逆転した経験を信じることで、最後まで諦めずに走ることができた。終盤にアップダウンの少ないコースプロファイルで、得意な登りパートが残っていないと知っていたので、最後のエイドステーションの給水をパスしたんだ。120kmも走って、最後の最後は3分45秒/kmの勝負。僅差の2位だったけれど、このレースもUTMFに負けず劣らずのベストを尽くせた」
数年前までのアメリカ人トレイルランナーに多かったヒッピーのようなワイルドな風貌ではなく、まるでトム・クルーズのような正統派の好青年。でも速い。そして強い。新世代のトレイルランナーの代表だ。
「2019年は地元のビッグレース『ハードロック100マイル』か、世界一を決めるヨーロッパの『UTMB』で結果を出したい。ハードロックは抽選で選ばれないと出走できないから、このどちらかにフォーカスすることになると思う。あとは遠くない将来またUTMFを走りたいね。日本は欧米と比べてチルした雰囲気があって、ギスギスしていなくって、行き交う人々のバイブスがすごく心地いい。ラーメンやうどんなどの食べ物もおいしいしね。僕のモットーは“Never Stop Searching”であり、“Never Stop Traveling”であり、“Never Stop Ramening”だから(笑)」。