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コロラドに暮らす、アメリカ最強のヒップなトレイルランナー。

Never Stop Searching

コロラドに暮らす、アメリカ最強のヒップなトレイルランナー。

アメリカのトレイルランナーといえば、まるでヒッピーのようなワイルドな風貌がメインストリーム。そんななか突如現れた正統派の好青年が、世界の名だたるレースで目覚ましい活躍を見せています。その名はディラン・ボウマン。これまでとは毛色の異なる“アメリカ最強”のトレイルランナーは一体、どんな人物なのか? 〈ザ・ノース・フェイス〉のイベントのために来日した彼にインタビューをしてきました。

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自然のなかで自由に走ること、その体験自体に価値がある。

ディラン・ボウマンは〈ザ・ノース・フェイス〉のスポンサードを受けるアメリカ人トレイルランナーだ。現在32歳。主にウルトラと呼ばれる、100~160km級のレースで目覚ましい成績を挙げている。世界中のウルトラトレイルをめぐるツアー戦UTWTではいくつかの勝利を重ね、欧州VS米国の様相を呈しているトレイルランニング界において(とはいえアメリカ人男性ランナーはヨーロッパではほとんど勝てていない)、ほとんど唯一と言っていい「米国外でも勝てるトレイルランナー」だ。

「学生時代はラクロスをしていて、走り始めたのは卒業後に運動不足を感じたから。すぐにこのスポーツが情熱を掛けるに足るものだと理解したよ」。

2010年、友人を通じて知ったコロラド州の伝統的な100マイル(160km)のトレイルレース『レッドヴィル100』に参戦。24歳の若さで3位という好成績に輝き、ウルトラカテゴリーに傾倒していく。2015年より本格的に海外のレースに参戦し、ニュージーランドとオーストラリアのメジャーレースを連勝して、“ヤングガンズ”の一角から“アメリカ最強”へと躍り出た。

「ザ・ノース・フェイス エンヂュランスチームの一員になったのは2014年から。マイク・ウルフやティモシー・オルソンら、友人のザ・ノース・フェイスアスリートが推薦してくれたんだ。アウトドアのリーディングカンパニー、そこのチームの一員になれるなんてと、とても興奮したよ。ハル・コナーのようなこのスポーツのレジェンドもいて、“ファミリーフィール”を感じられるんだ。

そもそもトレイルランニングのコミュニティはとても親密で、レイドバックした雰囲気がある。僕はいまのところアスリートとしてのトレイルランニングに比重を置いているけれど、それがこのアクティビティのすべてじゃない。速さやタイムではなく、自然のなかで自由に走ること、その体験自体に価値がある。レースに行けば誰かと会えるし、他人とのつながりを強く感じられる手段でもあるんだ」。

どれだけストロングなクライマーでいられるか。

ふだんは菜食中心の食生活を送っているというディラン。世界を転戦する旅するような生活が日常の半分であり、ホームタウンに戻ったら妻と一緒に料理や読書をしてのんびり過ごすのだそう。愛読書はジョン・クラカワーの『イントゥ・ザ・ワイルド』。

「ここ数年はサンフランシスコ郊外に住んでいたけれど、この夏から故郷のコロラド州アスペンに戻ってきたんだ。妻と、2匹のジャーマン・ショートヘアード・ポインターとともに。じつは妻とはアスペンのホテルの従業員仲間だったんだ。いいなと思ってから、声をかけるまで緊張して半年もかかってしまったけれど。犬たちはトレイルを走るときのパートナーにもなってくれる」。

カリフォルニアとコロラドは全米のトレイルランニングをリードする2大シーン。この2地域を股にかけているのだから、強さの理由もうなずける。現在はより高みを目指すため、カリフォルニア在住時代に知り合った現地のレジェンドランナー、ジェイソン・クープのオンラインコーチングを受け、脚を磨いている。

「僕の持ち味は登りのスピード。レース時間に占める割合は登りパートの方が長くなるわけだから、そこにフォーカスするためにも積極的に登り坂でのインターバルトレーニングを取り入れている。1本10~15分ほどで4~5セット。レース後半の登りパートで、どれだけストロングなクライマーでいられるかどうかのために」

その甲斐あってか、2018年の5月に日本で行われた国際100マイルレース『UTMF』で見事優勝を果たした。残り5kmでトップが入れ替わり、ゴールタイムにして3分半という大接戦だった。

「2018年の『UTMF』では、最後の5kmを切るまでスペインのパウ・カペルに先行されていた。あの日は僕自身とても調子が良かったんだけど、彼のほうがもっといいパフォーマンスを見せていた。だから今日はパウの日なのかもしれないな、とも思ったけれど、自分のペースをキープすることに集中していたら、120kmにさしかかるあたりから先頭との差が詰まってきていることがわかった。だから140kmすぎの最後の登りまではアクセルを踏むのを我慢して、そこからチャージをかけた。それで追い付けなかったらしょうがないって」

あの局面であんなことが起きるなんて…。

これまでのアメリカ人トレイルランナーは「速いけれど強くはないタイプ」が圧倒的多数だった。なだらかで走りやすい山やトレイルが多いというお国柄が影響しているのかもしれない。持ち前のスピードを生かして序盤はレースをリードするも、後半に逆転されるという展開ばかりが繰り返されていた。ディランの真価は、その例に当てはまらない勝負強さにある。

「UTMFでは最後の登りが終わった後にパウに追いつくことができた。今までのベストレースだったよ。レース終盤にアタックをかけるスタイルが自分にあっているのかもと気がついたのはそのとき。UTMFの後に出た『TDS』121kmでは、後半の勝負どことでコースの誤誘導があって、トップから転落して3位に落ちてしまった。自分のミスだったら納得もいくけれど、あの局面であんなことが起きるなんて…。

でも、これもトレイルレースの一部。前年の『UTMB』で粘って7位まで浮上できたことと『UTMF』で逆転した経験を信じることで、最後まで諦めずに走ることができた。終盤にアップダウンの少ないコースプロファイルで、得意な登りパートが残っていないと知っていたので、最後のエイドステーションの給水をパスしたんだ。120kmも走って、最後の最後は3分45秒/kmの勝負。僅差の2位だったけれど、このレースもUTMFに負けず劣らずのベストを尽くせた」

数年前までのアメリカ人トレイルランナーに多かったヒッピーのようなワイルドな風貌ではなく、まるでトム・クルーズのような正統派の好青年。でも速い。そして強い。新世代のトレイルランナーの代表だ。

「2019年は地元のビッグレース『ハードロック100マイル』か、世界一を決めるヨーロッパの『UTMB』で結果を出したい。ハードロックは抽選で選ばれないと出走できないから、このどちらかにフォーカスすることになると思う。あとは遠くない将来またUTMFを走りたいね。日本は欧米と比べてチルした雰囲気があって、ギスギスしていなくって、行き交う人々のバイブスがすごく心地いい。ラーメンやうどんなどの食べ物もおいしいしね。僕のモットーは“Never Stop Searching”であり、“Never Stop Traveling”であり、“Never Stop Ramening”だから(笑)」。

DYLAN BOWMAN

ULTRA-TRAIL Mt. FUJI

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