上出大輔 / TEATORA デザイナー
2013年に〈テアトラ〉を立ち上げる。「クリエーターのパフォーマンスを向上させる」という哲学のもと、ビジネスというTPOをベースにした機能的なウェアをデザインしている。
好奇心を掻き立てられるようなインパクトがあった。
はじめに、ファッションデザイナーとして、最先端のプリント技術を用いた「ADIDAS 4D」に対してどんなことを感じたか教えてください。
上出お世辞抜きにソールを見て久々にワクワクしました。徐々に進化を続けていたソールの世界で、突然、圧倒的飛び級をしたような。生物の進化においても、進化とは突然、一瞬で起こるという考え方がありますが、そんなSFのようなインパクトがありました。
作り手側の目線でいうと、ソールは流し込み、抜き、発砲といった、限られた製造方法しかなかったのに対して、「ADIDAS 4D」はどの製造方法にも当てはまらないのが手にとって一瞬でわかる。
上出数ヶ月前、友人に教えてもらって、光硬化樹脂の3Dプリントの動画を見たことがあって、予備知識なしには、液体の張った浅い器からから器より丈のある造形物が生えてくるようにみえて、製造工程すらかっこいい! と興奮していました。
もうSFの世界です。その流れで、今回この「ADIDAS 4D」で採用されたのを見て、踏み心地を試したい! と素直に思いました。
実際にシューズを履かれて、どんなことを思いましたか?
上出履くまえはボヨンボヨンと跳ね返すような感触を予想していましたが、実作に履くと足がソールのなかにゆっくりと沈んでいくような感覚を覚えました。以前のイベントで登壇した際に開発者の方とお話しさせていただきましたが、これはソールのあらゆる箇所によって密度を増減することによる感触なんだそうです。
つまり、密度が濃ければ固くなり、薄くなれば弾力性が上がると。
上出これまでの技術では足の部位によってクッション性を変えようとすると、切り貼りのようにしなくてはいけなかったため、足の面積の区分けとしては、大雑把な区分けにせざるを得なかった。
ところが、「ADIDAS 4D」では、ざっくり区分を分けることなく、グリッドの持つ全ての点でクッション性のバランスや、反発する方向を変えられる。そうすることでアスリートの足のくせや、環境、種目による変化がつけられる。夢のある話ですね。
上出さんご自身は、さまざまなスニーカーを試したりするんですか?
上出新しいテクノロジーが出ると経験として必ず試すようにしています。あと単純にスニーカーは大好きなので。
デザイン的な観点で、この格子状のソールはどうご覧になられていますか?
上出SFの世界観のようでいいですね。見た目だけで、どんな履き心地なんだろう? っていう好奇心を掻き立てられる。
スニーカーは未来的要素がフィットするアイテム。
上出さんにとってイノベイティブなテクノロジーというのはどんな役割を持つものだとお考えですか?
上出これは本当にぼくの個人的な意見なんですが、ワクワクさせられるかどうかが大切なんじゃないかなと思います。たとえばぼくはこのソールを初めて見た時、ワクワクしながら空気もホイールも不要のタイヤが作れる! なんて考えたんです。
ワクワクする技術を目の当たりにすると、いろんな分野の業種にアイデアのビッグバンみたいに広がっていって、これまで長らく変わってこなかったものすらも突然変異するような、進化の夜明けのようなことが起きる。
ご自身のブランドである〈テアトラ〉では企業と手を取り合いながら生地の開発も行なっていますが、その際もワクワクといった気持ちを大事にされているのでしょうか?
上出〈テアトラ〉はスーツをメインとしたブランドなので、生地の選定という意味では、見た目の未来感やインパクトみたいなものはむしろ避ける傾向があります。どちらかといえば、見た目では気付かず(気づかれず)、着たときに着用者だけが驚きを感じるような開発をしています。
映画『ブレードランナー』で、雨の交差点の中、光る傘をさした人々が交差する有名なワンシーンがあります。そこでは街や車、傘なんかは未来的なんですが、彼らの装いは極めてクラシック。劇中での表現はないですが、ひょっとしたら内側は未来的機能を備えているかもしれません。ぼくたちの開発するスーツにおけるワクワクは、そんなイメージです。
スーツというクラシックな装いはむかしから変わらないけど、持ち物だけは最先端テクノロジーが使われていると。
上出スーツの役割は古くからある礼儀に近いと考えています。ですので、その姿かたち自体は、礼儀の定義が変わらない限りそんなに変わっていくものではないと考えています。
対して、車や、街観、持ち物においては、そもそもの役割が礼儀に由来するものではないので利便性や時代と混ざり合って、どんどん姿かたちを変えていく。そんな中、スニーカーという存在は、着用するものの中では、未来に順応して姿かたちを変えていけるコンテンツだなと思っています。
アディダスとテアトラのデータ計測の考え方。
上出さんは普段、特定の目的があった上で生地を開発するのか、生地があった上でデザインが考えられているのか、どちらに当てはまるのでしょうか?
上出どちらのケースもありますが、最近は独自のテクノロジーを持ったテキスタイルメーカーと開発していくベースが出来てきたので、目的があった上で生地を開発していくことがほとんどです。
その“目的”というのはどんなときに思いつくんですか?
上出スーツにとって一番大切な目的であり最重要機能はいかにTPOに耐えるかだと考えています。ですのでまずぼく自身が、さまざまなTPOでスーツにおける実体験を増やすことをしています。これらをぼくたちは客観的機能と呼んでいます。相手にどんな印象を与えるか? といった、着用者以外に対する機能です。これらこそが〈テアトラ〉における最重要目的です。
その客観的機能を絶対条件とした上で、着用者だけが感じる主観的機能で補完していきます。この主観的機能に関しては、ぼくが極めて横着なので、暑いのが嫌、重いのが嫌、雑に扱えないのが嫌、と、嫌がたくさんあり、きっかけは豊富です(笑)。
それらのストレスと向き合い、アイデアを生み、試作と検証テストを繰り返します。そうして、これは絶対必要だ! と確信が持てたとき初めてデザインにとりかかるようにしています。
上出アルピニストが極地で実際にデータを計測してそれをウェアの開発に生かすのと考え方は同じです。ビジネスにおいては極地の種類が異なります。エレガントだとか一流だとかされる、ややこしい場所や、ややこしいTPOこそが、スーツにとっては極地であると考えています。
その極地の体験がなければ極地に耐えうるものは作れない。ただ、これらは数値化できるものではないので、数値化できないものを感じ取ったあとに、本当にそれは必要なのかという見極めや、絶対に必要だという確信を仕分ける必要があります。数値化できないからこそ尚更に、反復した実体験が必要だと考えています。
「ADIDAS 4D」もアスリートのデータ計測を元に設計されています。そういう意味では似ている部分があるように感じます。
上出「ADIDAS 4D」の場合はアスリートのパフォーマンス向上のために開発されたもので、例えば速く走るとか、怪我から守るといったことを、“足”という限られた部位において発揮させることを目的にしている。だから数値計測というのはとても理にかなったことだと思います。
ただ、〈テアトラ〉で最も大切にしている“TPOに耐える”という目的は、数値化できないものがほとんどです。また、ぼくたちのいう主観的機能においても、目的対象がアルピニストや極地ではないので、数値の大小よりも、TPOにおいて“適切である”ということの方が大事だったりします。
ですので、数値化できるものにおいても、あくまでぼくたちが確信をもつためのひとつの定規としてしか考えていません。〈テアトラ〉では数値とはそういった付き合い方をしています。
これまで存在しなかったシューズをつくってみたい。
最後に、上出さんがこの「ADIDAS 4D」のテクノロジーを利用できるとしたら、どんなものをつくってみたいか教えてください。
上出ビジネスシューズの開発がしたいです。見た目も機能も素晴らしいソールを搭載したスニーカーは多くありますが、まだまだビジネスのTPOには耐えうるビジネスシューズには進化の先があると考えています。
その未来は数値化できる主観的機能の直線上ではなく、数値化できない客観的機能との交差点に存在するのではないかと考えています。「ADIDAS 4D」チームのような数値化のプロに、ぼくたちが培った、数値化できない客観的機能をぶつけてみるとか、考えるだけでワクワクしてしまいます。
シューズそのものの可能性を新たに切り開いたソールテクノロジー「ADIDAS 4D」。「ALPHAEDGE 4D」は早くも完売しましたが、今後もさまざまなシューズがリリース予定。気になる最新情報はコチラのオフィシャルサイトでチェックしてみてください。
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