1990年代に入ると、〈グラミチ〉は山から里に降りた。そうしてストリートファッションを彩るブランドになった。仕掛け人は、日本のセレクトショップである。
〈グラミチ〉はストリートファッションと切っても切れない縁にある。街で穿かれるきっかけをつくったのは日本だった。1990年代前半、「ビームス」や「オッシュマンズ」が〈グラミチ〉を始めとするアウトドアウェアを街中で着る“ニュースポーツファッション” として提案すると瞬く間に支持された。
当時のショップスタッフのほとんどが〈グラミチ〉を穿いていたという。機能的であると同時に、そこはかとなく醸し出されるモダンな雰囲気が目利きを唸らせたのだ。〈グラミチ〉のショーツにボーダーカットソーとワークブーツを合わせるのがお決まりのスタイルだったそうだ。いわゆるヘビーデューティの流れに乗ったのは間違いないが、それだけでは四半世紀にわたって現在のポジションをキープすることは不可能である。
〈グラミチ〉がいまなおストリートファッションのメインストリームを突っ走っている原動力。それは、穿けば誰もが虜になる、月日が流れても色褪せないシルエットにある。クライミングは岸壁のわずかな凹凸に足をかけて登っていく。滑落と常に隣り合わせにあるクライマーにとって足元の良好な視界は生命線だ。
間違っても裾がバタつかない、ぴたりとフィットしたシルエットは、〈グラミチ〉というブランドにおいても生死をわける最も大切なものだった。〈グラミチ〉の担い手は無数のパターンを引いて、黄金比ともいうべきシルエットを導き出した。そしてタイトなシルエットながら動きやすいこと。これを求めて誕生したのがガセットクロッチ、というわけだ。
テーパード・シルエットなどというネーミングでもてはやされるずっと前に完成させたそのシルエットの設計理念は、続々生まれるニューカマーにも確かに受け継がれている。機能美であれば、時代を超えるのは当然である。