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FEATURE|アイヌの文化とデジタルアートが交わる舞台、阿寒ユーカラ「ロストカムイ」。

アイヌの文化とデジタルアートが交わる舞台、阿寒ユーカラ「ロストカムイ」。

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アイヌの文化とデジタルアートが交わる舞台、
阿寒ユーカラ「ロストカムイ」。

独自の言語をもち、クマや鹿の肉が食卓に並び、万物に神が宿ると考える…。日本の先住民族であるアイヌの文化は、きっと多くの日本人が知らない。けれど、彼の地北海道には、少なくないアイヌ民族がいまだに暮らし、そうした文化を継承し続けています。漫画のヒットなどにより、再び脚光を浴びつつあるアイヌ民族ですが、期せずして、北海道・阿寒町では注目の舞台が封切りされました。その名も『ロストカムイ』。アイヌの古式舞踊を軸にした本作は、単に歴史を伝承するものではなく、現代を代表するクリエイターが、最先端のエンターテインメントへと昇華させた作品です。伝統を重んじるアイヌ民族と、時代の先行くクリエイターがどう交わり『ロストカムイ』は誕生したのか。製作陣の話をもとに、紐解いていきます。

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『ロストカムイ』の主役は、
アイヌ民族にとって特別な存在であるホロケウカムイ。

公演初日を迎えるにあたり行われたアイヌ式の成功祈願。

縄文時代から独自の文化を築いていった日本の先住民族アイヌ。海産物や野生動物の毛皮などを特産品に、本州や中国大陸と交易することで発展してきました。

アイヌの文化を語る上で、最も重要なのはその思想。火や水、動食物など自然界のすべてをカムイ(神)と崇め、ひいては生活道具にさえもカムイは宿ると考える。食事の前は、とくに長い時間をかけ、自然への感謝を示す祈りが捧げられます。

アイヌがおもに居住している北海道。なかでもアイヌコタン(アイヌ語でアイヌの村の意)に集中し、最大のコタンは道東、阿寒町にあります。ここにはアイヌの文化を広め、次世代に繋いでいくための施設が多くあり、代表的なものがアイヌ語で宝を意味する劇場「イコロ」(ロはアイヌ語で小文字表記)。『ロストカムイ』はこの場所でのみ、上演されています。

明治時代に絶滅してしまったホロケウカムイ(エゾオオカミ)とアイヌ民族の共生がテーマの今作。そこにテクノロジーを駆使した映像と音楽、ウポポ(アイヌの歌)やリムセ(輪になっての踊り)などの古式舞踊が混ざり合うことで、ただ文化を継承するだけのものではない、極めて現代的で、芸術性の高い作品に仕上がっているのです。

豪華クリエイター陣が語る『ロストカムイ』の裏側。

アイヌの文化にデジタルアート、サウンドデザイン、ダンスと、いろんな要素が絡み合う『ロストカムイ』。今作が“いままでにない舞台”と評されるのは、気鋭のクリエイターが携わったからにほかなりません。彼らはどうアイヌの文化を咀嚼し、舞台へと落とし込んだのか。ここからは各クリエイターのインタビューをどうぞ。

CREATOR.1クリエイティブディレクター・坂本大輔さん

坂本大輔さん

Profile

JTBコミュニケーションデザインに所属。コピーライター、プランナー、クリエイティブディレクターとして辣腕をふるう。おもにアーティストのブランディングや広告を中心に活躍。

まずは『ロストカムイ』をつくることになったきっかけを教えてください。

坂本今年の7月から、阿寒湖の森では『KAMUY LUMINA』という、カムイユーカラ(アイヌの口承文化である叙事詩)をモチーフにしたナイトウォークがはじまります。その日本サイドのクリエイティブディレクターを担当しているんですが、それと、阿寒湖アイヌシアター「イコロ」で以前に上演していた古式舞踊のプログラム、2つをリンクさせた演目をつくろうとアイヌ工芸共同組合の方々がしていて、その流れでお声がけいただきました。

今作のストーリーはどのように決まっていったのでしょうか?

坂本自分ひとりで考えたわけではなく、阿寒にいるアイヌの人たちとの話し合いでストーリーは練っていきました。その結果、彼らが敬っているカムイ(神)の中でも、もっとも崇高なエゾオオカミを柱にしようとなったんです。

本作ではダンサーのKARINさんが、エゾオオカミ役を務める。

坂本エゾオオカミはもう絶滅しているわけですが、アイヌの人たちから聞いた話だと人的な影響が大きかったと。本州から来た移民がエゾオオカミを駆除したんだそうです。決して歓迎されることではないし、これもひとつ、エゾオオカミを題材にしようとしたポイントではありました。

『ロストカムイ』でいちばん伝えたいことはなんでしょう?

坂本アイヌとエゾオオカミは共生の関係でしたが、移民によってその関係性が崩れてしまって、終いには絶滅させてしまった。それに付随する文化や関係を知ってもらって、より阿寒のアイヌ民族のことを知ってもらうきっかけになってほしいと思っています。

CREATOR.2写真家・ヨシダナギさん

ヨシダナギさん

Profile

アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影。生み出す色彩と唯一無二の生き方が評価され、テレビや雑誌などメディアに多数出演。

非常に印象的なビジュアルでしたが、撮影はどちらで行われたんでしょうか?

ヨシダ1月の阿寒湖です。アフリカでもどこでもそうなのですが、時間帯は朝日が昇ってからの1時間と、日が沈みきる前の1時間。撮影日は天候に恵まれて、メインカットでは黄色の光の反射が幻想的になりました。

ヨシダさんが『ロストカムイ』のために撮りおろしたビジュアル。

撮影時の苦労話などがあれば教えてください。

ヨシダ苦労話ではないですが、撮影時はとにかく寒かったんです。でも私は裏方なので、寒くても着込むことができたのですが、モデルのみなさんは衣装の都合で着込むのにも限界があります。それでも表情を変えずに協力してくださって、とても助かりました。

モデルさんたちが着てる衣装も目を引きました。

ヨシダ古式舞踊の監督をされた床さんが、全道のウタリ(仲間)に声をかけて、明治以前のアイヌの衣装を目指して探してくれたそうです。そのなかに鮭の皮でつくった靴があったんですが、これには心が打たれましたね。わざわざ鮭の皮でつくるにも理由があって、冬でも靴下が濡れない完全防水仕様。知恵が詰まっているなぁと感動しました。

CREATOR.3古式舞踊監督・床 州生さん

床 州生さん

Profile

阿寒湖温泉在住。阿寒湖アイヌシアター「イコロ」の舞台監督を務め、永年継承してきたアイヌ古式舞踊に込められた想いを現代舞踊、デジタルアートで伝える。

床さん自身もアイヌの血を引いているそうですが、阿寒とアイヌの関係について教えてください。

元々、阿寒の地主である方が、アイヌの人たちへ無償で土地を貸し、コタン(村)をつくって、自分たちで商売ができるよう支援したんです。すると各地域からアイヌが集まってきまして、それでできたのが阿寒。なので、いろんな価値観が混ざり合っているハイブリッドな土地と言えますね。

阿寒の温泉街にあるアイヌコタン。ゲートには村を守るカムイとされるフクロウが掲げられている。

『ロストカムイ』に込めた思いを教えてください。

普通なら演目名もアイヌ語にするところを、阿寒の背景となった“交わり”という視点を忘れず、英語も織り交ぜた『ロストカムイ』としました。

僕らはこの演目で王道を目指しているわけではないんです。みんなが楽しくてわくわくするようなものにしたかった。だから、劇中では問題提起もしていますが、最後は観ているみんながハッピーになれます。それは自信をもって言えますね。

アイヌのコミュニティは閉鎖的なイメージがありましたが、決してそんなことはないんですね。

阿寒のコミュニティはとくにそうだと思います。『ロストカムイ』のなかでもみんなで輪になって踊るシーンがありますが、アイヌ以外の日本人、外国人問わず、アイヌに対してリスペクトの心を持っていれば大歓迎。若い世代にもそういった輪が広がってくれたらうれしいですね。

演者と観客が舞台でひとつとなり、フィナーレを迎える。

CREATOR.4映像ディレクター・於保浩介さん

於保浩介さん

Profile

ビジュアルデザインスタジオ「WOW inc.」のクリエイティブディレクター。CG、VFX を中心に、映画やドラマ、CM、イベントなど高品質な3DCG映像制作、演出を手掛ける。

絶滅してしまったエゾオオカミを映像にする作業は、とても苦労されたんじゃないでしょうか。

於保素材はほとんどありませんでした(笑)。なので数少ない昔の写真と、アイヌの人たちの意見を聞きながらつくっていきました。

エゾオオカミの表現方法で工夫した点を教えてください。

劇中で幻想的に描かれるエゾオオカミ。

於保当初はリアルなエゾオオカミが求められていたのですが、ファンタジーなものにしようと提案しました。そうすることで『ロストカムイ』を見たみなさんが「カムイとしてのエゾオオカミ」のイメージを膨らませる余地を残したんです。あくまで美しく、見る側の受け入れやすさも考えながら。なので、そんなところも意識しながら、楽しんでもらえるとうれしいですね。

CREATOR.5振り付け師・UNOさん

UNOさん

Profile

抜群のスキルとイマジネーションで、多岐に渡り活躍するダンサー。安室奈美恵やEXILEなどのバックダンサーも務める。

伝統的な踊りとコンテンポラリーな振り付けが新鮮でした。とくにKARINさんが演じたエゾオオカミ。

UNO資料となる映像がなかったので「エゾオオカミが神様に変身したときってこんな動きじゃない?」「エゾシカを追いかけるときってこんなテンションじゃない?」っていう感覚やイメージで、踊りをつくっていきました。それに音をはめて、映像をはめて、という感じで。

「フッタレチュイ(アイヌ語で黒髪の踊りの意)」と「エムシリムセ(アイヌ語で剣の舞の意)」は、オリジナルにほとんど手を加えていません。というのも、オリジナル自体の完成度が高く、変な飾りを加えたくなかったんです。

手前でエムシリムセ、奥ではウポポが披露される、劇中でもっとも幻想的なシーン。

苦労した点などあれば教えてください。

UNOアイヌの人たちとは言葉ではなく、踊りというコミュニケーションツールで繋がることができたので、すごくやりやすかったですね。

ただ、アイヌの踊りは、基本的には手拍子と声だけで構成されるものだけど『ロストカムイ』ではKuniyukiさんの音が入る。なので、どうやったら古き良きものを残しつつ、新旧を共存させられるかは頭を悩ませました。

CREATOR.6サウンドデザイナー・Kuniyuki Takahashi

Kuniyuki Takahashi

Profile

北海道札幌市を拠点に活動するDJ。独特の世界観を持つ音楽は、世界各国のプロデューサーやDJから高い評価を得ている。

どういった音楽にしていくか、方向性のイメージはすぐにできたのですか?

Kuniyuki映像もダンスも音楽も、すべてゼロスタートだったので、探り探りではありました。でも、例えばヨシダナギさんの写真を見たときに「見える音」を感じたりして、そういった部分を落とし込んでいった感じでしょうか。

阿寒の自然音なども、サンプリングされたんでしょうか?

Kuniyuki雪が降る前の秋口に森に入って、鳥の声はフィールドレコーディングしておきました。そのタイミングっていうのも思いつきだらけで、即興性みたいなものもあり、やっていてとても楽しかったですね。

あと、絶滅しているので、エゾオオカミの歩く音は録れない。それでも劇中では必要。だからずっと探していたんですけど、あるとき映像チームと川の音を録ろうと雪の中を漕いでいたんです。そのときに、雪と服が擦れて、ササッ、ササッ、って音がするんです。これが想像していたエゾオオカミの歩く音と近くて、採用することになりました。

こんな感じで、劇中では本当にいろんな音を使っています。なので、この音はなんの音だろうって考えながら舞台を観てもらうのも、楽しみのひとつかと思います。

阿寒とアイヌによる新たな試みは、こらからも続いていく。

2008年には、アイヌが日本の先住民族であることが認められました。2019年2月には、アイヌ文化の継承や観光を支援する新法案が閣議決定され、日本国内でも先住民への尊厳が見直されてきています。

『ロストカムイ』はそんな時代の背景も汲みながらも、純粋に楽しめるエンターテインメント。阿寒湖アイヌシアター「イコロ」にて、2020年の3月まで上演予定です。

また、7月からはカナダの「MOMENT FACTORY」が手がけるナイトウォーク『KAMUY LUMINA』も阿寒湖で開催決定。『ロストカムイ』に負けず劣らず、音、光、映像でアイヌの世界を体感できるプログラムです。こちらも合わせて確認を。

INFORMATION

ロストカムイ

www.akanainu.jp/lostkamuy

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#lost kamuy
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