第五講 阿部孝史
「同じトートバッグなら、断然こっちの方が好み」
阿部ひとつめはキャンバス地のトートバッグです。’40~’50年代頃のものですね。最近〈L.L.ビーン〉の「デラックストート」(L.L.ビーンが’80年代にリリースしたハンドルをさらにテープで補強した3トーンのトートバッグ)が6万円とか付いてるじゃないですか。だったらぼくはこっちの方がいいかなと。
山田絶対こっちの方がいいよ。ただ、もの自体がもう全然ないけどね。
今野ステンシルもカッコイイですよね。
阿部うん。あとハンドルの縫製部分も好き。〈L.L.ビーン〉とか〈ベルシステム〉のもの(アメリカの通信会社ベルシステムが作業員に向けたトートタイプのツールバッグを60年代頃まで採用していた)だとハンドルがボディからボトムの部分まで縫い付けられているけど、個人的にはこっちの仕様の方が昔らしくて好きなんだよね。
今野確かにハンドルとボディを挟み込んで一発で縫い合わせてますし、その技術自体、結構大変だと思いますよ。
栗原あと近年のものになると糸が化繊になっていたり、キャンバスの質感もやはり古いものの方が雰囲気ありますよね。
阿部そうね。それにしても、どうして「デラックストート」だけあんなに高騰してるの?
今野おそらく展開された期間が短かったからだと思いますね。実際、カタログへの掲載もわずか数年だったみたいですし。
阿部そうなんだ。しかも縦型が最近は一番高いみたいだね。
今野そうみたいですね。
藤原これはどこで手に入れたんですか?
阿部「ベルベルジン」っていう原宿のお店なんだけど(笑)。
山田でも本当に出てこないよ、この辺りのバッグは。いい買い物したんじゃない?
阿部そうですね。いま無地のタイプがeBayに出ているんですが、500ドル付いてますから。
藤原へえー。阿部さんはいくらで手に入れたんですか?
阿部知ってるでしょ(笑)。
「せっかくなら他人と違うものを選びたい」
阿部2つめは〈ヘッドライト〉のセカンドタイプ。これも「デラックストート」と同様に、〈リーバイス〉の「507XX」なら、それなりのお金を出せばいつでも手に入れられるけど、せっかくだったら他人とは違うものをぼくは選びたいと思って。
山田これはいい。最近は本当に見なくなったけどね。
阿部じつは「507XX」も何度か手に入れてトライはしてみたんですけど、やっぱり着丈が短くて胴長のぼくには不格好なので、結局はいつも手放していて。このモデルはその点、着丈も「507XX」よりやや長めにつくられているので着やすいですし、何より他人とカブる機会が少ない。
今野確かに若干長めですよね。それに当時の〈ヘッドライト〉と〈カーハート〉(〈ヘッドライト〉は’60年代に〈カーハート〉に吸収合併されている)はつくりも超が付くほど丁寧ですよね。この縦カンヌキもイイな。
栗原単に〈リーバイス〉の模倣ではないのがわかりますよね。
藤原ワークブランドらしいダブルステッチの襟をはじめ、細部の仕上げが本当に丁寧なんですよ。
阿部もちろんそうだと思うけど、「507XX」よりも玉数自体少ないんでしょ?
藤原もちろんですよ。
阿部ちなみにいま、価格を付けるとしたらいくらぐらい?
藤原色が結構落ちてますし、10万付くか付かないかぐらいですかね。
阿部でしょ。さっきの「507XXEEE」みたいに139万円することなんてないんだし、だったらこっちを探す方が健全じゃない?
山田だからもの自体がないんだって(笑)。
藤原そうですね。ぼくもこういった中堅ブランドのデニムジャケットで大きめのサイズを探してはいるんですが、まず出てこないですよ。
「唯一無二のディテールに惹かれた、ガチャポケのフィルクロ」
阿部3つめはフィルクロのジャケットです。フィルクロは〈フィルソン クロージング〉(1897年にアメリカのワシントン州シアトルで創業したアウトドア&フィールドスポーツブランド〈C.C.フィルソンCo.〉のクロージングレーベル)の略称で40年代頃には〈フィルソン ガーメンツ〉へと表記が変遷するので、おそらく30年代製じゃないかと。
今野いや、20sの可能性もありますね。
阿部そうなんだね。昔からディテールが面白いからハンティングカテゴリー自体には興味があって。それにフィルクロとか〈フィルソン〉って定番のマッキノークルーザーにも使われている赤×黒チェックのウールメルトンが一般的だと思うんだけど、このダック地タイプの存在は前々から知っていて、いつかは欲しいなと思っていたんだよね。
山田ダックは珍しいね。まず出てこないよ。
阿部じつはフィルクロの赤×黒チェックも以前2回ほど所有していたんですけど、やっぱり着ないかなって手放していて。
藤原この辺りは日本よりもアメリカの方が高い印象ですよね。
栗原前出のフィッシングジャケットと同じく、この辺りも昔から関西の方が人気あるイメージです。
今野この阿部さんのモデルなら4、50万円は付けられるんじゃないかな。タグもほとんど擦れてないですし、ガチャポケでこの状態でこのサイズとなると、そうそう出てこないですもん。ただ、探して見つかるようなものでもないですよね?
山田そうだよ。アメリカでも平気で5000ドルとか付けられてるもんね。でも、本来はその扱いが妥当なんだよ。〈リーバイス〉のループなし(ベルトループなしの初期ジーンズ)辺りと同等に語られて当然の価値がある遺産だと思うし、阿部くんも洗ったり直したりしないでそのまま持っておくべきだよ。
今野洗ってボタンが割れるのも怖いですしね。
山田ネットに入れて洗えば問題ないでしょ。
阿部どっちなんですか(笑)。
「ドット柄のロンリーエレファントは、他に見たことがない」
阿部最後はいつもと同様にヴィンテージバンダナです。今回持ってきたものはすべてトランクダウン(下鼻)の〈エレファントブランド〉なので、総じて40年代頃の多色刷りですね。
今野こんな配色もあるんですね?
阿部やっぱりバンダナっていうと赤とネイビーボディが一般的だし、それ以外の配色自体がすでに希少なんだけど、さらにプリントの柄や配色が珍しいものだけを厳選して持ってきた感じで。
栗原この「FAST COLOR」の文字がなく、ゾウだけプリントされているのって何か呼び名があるんでしたっけ?
阿部勝手にロンリーエレファントって呼んでるけど、全く浸透してない(笑)。この柄とウエスタン柄、あとドット柄で確認されていて、ドット柄に関してはいままで自分が持っているもの以外では未見だね。
藤原阿部さんだけしか持ってないってことですか?
阿部誰か持ってるかもしれないけど、見たことはないなぁ。
山田やっぱり阿部くんのバンダナ(コレクション)はすごいね。
藤原バンダナのカタログってないんですか?
山田そうだよ、阿部くんが本出そうよ。
阿部そうですね。ただ、価値基準が明確になっているジャンルではないので、同じものでも高いお店では高いし、そうでもないお店ではぼくからすると破格と思える価格で買えたりもしますし。本を出すならある程度掘り尽くしてからでないと。
今野ヴィンテージバンダナって、そこが面白い部分でもありますよね。まだチャンスというか掘り出せる可能性があるというか。
栗原eBayなどの場合、すごくレアだけどセラー自体はその価値がわかっていないものを出品した場合、例えばそれがバンダナだったりすると、とある1枚のレアな個体のみ高値で落札されたのに、そのセラーはなぜ高値が付いたのかわからないから、バンダナ全体の出品相場を上げてしまうって現象も起こるじゃないですか。
阿部そうなんだよね。実際とあるレアな1枚を落札した際、そのセラーが別に出品していたバンダナのスタート価格を高値で再設定していたし(笑)。ただ、まだまだ安いものなら何百円、何千円で買えるワケだし、これも山田さんの言う「古着ならではの醍醐味」のひとつだとは思うな。
4時間以上にも及び、途中軽く?お酒も入ったスペシャルゲストを交えての古着放談、いかがだったでしょうか? 今回も古着に精通する5賢者ならではの超マニアックな選球眼と、造詣の深さが垣間見える内容だったかと。とはいえ、彼らあくまで「珍しいから良い」、「レアだから高い」ということを伝えたいのではなく、古着を掘り続けている内に見えてきたそれぞれの解釈や新たな発見を語ってくれているに他なりません。何十万円もするヴィンテージじゃなくとも古着にはまだまだ服好き心をくすぐる発見があるのです。
& BerBerJinで古着サミットのポップアップストアを開催!
6月29日(土)にオープンした「アンド ベルベルジン(& BerBerJin)」のコラボレーション企画第一弾として、「古着サミット」のメンバー4人の私物を持ち寄ったポップアップストアが開催されます。会期は7月6日(土)、7日(日)の2日間。古着好事家4人のお眼鏡にかなった、秘蔵のアイテムが期間限定で店頭に並びます。「古着サミット」で紹介した、あのお宝も出品されるかも!?古着好きの方はスケジュール帳のチェックをお忘れなく。