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FEATURE|SWITCH INTERVIEW 尾崎雄飛 × 金子恵治 服に命を捧げる、愛すべき服バカたち。前編

尾崎:金子さん、「ベイクルーズ(注:エディフィスの運営会社)」を一度やめて、また戻ってこられたじゃないですか。バイイングするときの意識って、当時と今では変わりましたか?

金子:感覚的には全然変わってないね。

尾崎:(笑)

金子:まず僕って、コンセプトのようなものに結構こだわるタイプなのね。忠実にというか。そのうえで、個人の裁量というか編集によっていろんな感じが出せたらいいなと思っていて。「エディフィス」のときは“フレンチ”がテーマで、いまの「レショップ」はどういう風にも捉えられるように自由なコンセプトにしてるんだよね。

尾崎:「エディフィス」の後期は、“フレンチ”っていう時代じゃなくなってきてましたもんね。エディ・スリマンが登場して、もうワークパンツじゃないでしょっていう。

ー小森さんもまったく同じことを言ってました。

金子:エディ・スリマンの流れで、だいぶお店も変わってきてて、確かに変化のときでしたね。そんなときファイヤー通りの「マテリオ(MATERIAUX)」というお店を立て直して欲しいという話があって。それで「マテリオ」を1年くらいやったんです。

尾崎:え! もっと長く感じますね。

金子:「マテリオ」自体はもっと続いたお店だけど、僕が関わったのは1年だよ。

尾崎:「マテリオ」イコール金子さんというか、そういうイメージが強いです。

金子:そうかな。とにかく今でいうところの“リ・ブランディング”をして。そんなこんなで1年経ったんですが、自分も独立してひとりでやってみたいという思いもあって、「ベイクルーズ」に入社してちょうど10年という節目で退社しました。そこからは、尾崎くんとはしばらく会わなかったよね。

尾崎:そうですね。その頃僕は誰にも会わないという、世捨て人になっていたので(笑)。

金子:そんなわけで、お互い「ベイクルーズ」をやめたんですが、僕としては仕事は抜きにしても、人としてつねに興味があったんです。一緒に出張に行っていても、上司と部下というよりは、ある意味友人のような感じというか。そんなこんなで数年ぶりに会おうかって連絡をしたんです。

尾崎:はい。でも友人っていうわけにはいかないですよと思いつつ、そう言ってくれたので「じゃぁそんな感じで」って。で、そのまま今に至ってます。そこから節目節目では必ず相談するし、なにか始めるときも最初に発表する相手ですね。〈フィルメランジェ(FilMelange)〉のときも〈ヤングアンドオルセン ザ ドライグッズストア(YOUNG & OLSEN The DRYGOODS STORE)〉のときも、最初に金子さんに見せています。これを見て、金子さんはどう思うか?っていう。で、もらった意見を基準にして、もっとこうしたほうがいいかなっていう風に調整していく、僕にとって金子さんはそういう存在なんです。

ー金子さんにとって尾崎さんはどんな存在なんですか? 初対面の印象から変わりましたか?

金子:初めて会ったときはとにかく目の印象が強くて。なんかやりそうな感じというか。それで、蓋開けてみたらやっぱりすごく面白かったですね。洋服の面もそうだし、人としても。色々と影響を受けていると思います。

ー例えば?

金子:何でしょうね。いろいろあると思いますよ。まず言えるのは、僕が持ってない知識をたくさん持ってるんですよね。僕はどっちかっていうと“広く浅く”なので。深くやってそうにみえるらしいですが、実は結構浅いんです。まぁ、人よりは少しかじってるかもしれませんが。ただ尾崎くんほど深く知ってることはあまり無いですね。彼はどっちかっていうと深く掘り下げるタイプで、得意分野がしっかりあるんです。古着もそうですよね。

尾崎:古着は二人とも好きなんですけど、内容が結構違いますね。

金子:お互いのファッション観はかなり違います。違うんですが、共感しあえる部分が結構あって。どこか認め合ってるんですよね。彼がいいって思うものは僕は興味ないけど面白いって思うし、多分逆もあると思います。お互いに高めていけるというか、そういうのはすごく感じますね。なので、こうしてずるずると付き合いが続いてるんです(笑)。細く長く付き合っています。

尾崎:頻繁にご飯に行くとか、何時間も一緒に飲むとかはないですよね。

金子:そう。だけどすごく気は許せるし、出張にも一緒に行けるし。不思議な関係性ですね。

ー自分が知らないことを教えてくれる人と付き合うことで、自分を高めていけるというのはよくわかります。

尾崎:ただ、最初は本当に金子さんに憧れていたんで、真似っこみたいになってましたね。金子さんの持ってるものが欲しいし、あんな風に着こなしたい、みたいな。そう思ってる人って結構多いと思いますよ。どんなことをやっていても、そういうフォロワーが登場する人なんですよ、金子さんって。いまだに覚えてるんですが、ファッションっていうのは“調和する”ってことなんだよって言ってましたよね。

金子:そんな話してたね。。

尾崎:自分の体型や雰囲気とかを理解した上で、ようやく調和するんだと。金子さんはこのなで肩だからこそ似合う服があるんですよね。髪型もずっとコレですしね。なので、やたらとツバが長い帽子がすごく似合ったりとか、あとはどんなレイヤードしてもしっくりきたりとか。それに対して僕はわりと正統派というか、普通に白シャツ着てジャケット着てというスタイルが合いやすいと思うんです。面白いと思うアイテムが違うように、同じアイテムをどう着るかも当然違うわけで。「レショップ」でこれすごいなっていうアイテムを見つけても、全部が全部似合うわけでは無いので、これは買えないなっていうことは結構多いです。すごく欲しいのに全然似合わないという。

金子:その感覚を共有できるひとって、なかなかいないんですよね。

尾崎:そういえば、さっき金子さんが自分のことを“広く浅い”タイプだって言ってましたよね。言わんとしてることはわかるんですけど、それでもなんでも知ってますよ、金子さんは。“浅い”の単位がひととは全然違うんです。僕は確かに局所的に深く掘ってという感じです。なので、興味ないものはまったく知らないです。ただ僕もいっぱい数を掘ってきてるので、知らないことが少なくなってきたっていうのは感じますね。

ー尾崎さんは会うたびに違う格好をしているので、いろいろなスタイルが好きなんだなというのがわかるんですが、金子さんは毎日の服装はどんな感じなんですか?

金子:日によって全然違うときはあります。ただ、自分の服についてはあまりわかんないですよね。

尾崎:金子さんはある日突然「そんな格好します?!」っていう格好をしたりしますよね。で、一回なにかのブームが来ると、ずっと同じアイテムを着続けるときがあるんですよ。ただ、それに飽きたときにまったく着なくなるんですよ。

金子:そうだね。そこの切り替えはすごいかも。

尾崎:ガラッと変えて長く着たら、ガラッと変えて長く着るっていう。あと、世の中で流行ってるものが嫌いというわけじゃないと思うんですけど、着ないですよね、流行ってる服は。例えばコモさん(小森啓二郎さん)のシャツとか着ないですよね。

金子:うん、着ないね。

尾崎:でも、意図的に避けてる風には見えなくて、そこはなんか天然な感じなんですよね。仲いいんだし、コモさんのシャツ着たっていいだろうって思うんですけどね。

ー「レショップ」でも取り扱ってるわけだし。

尾崎:そう。だから金子イズムというのはあると思います。

金子:うーん、そこは本当になんなのかわかんないんですよね。

ーシンプルに、人と同じものは嫌だなという気持ちはあるんですか?

尾崎:それ、僕も聞きたかったです。

金子:いや、全然意識はしてないですね。ただ、それを選ぼうっていう気がそもそもないっていうか。

尾崎:怖いんですよ、この人。自分のお店のヒット品番ってあるじゃないですか。そういうのも絶対着ないんですよ。自分で作って、自分で仕入れて、で、着ない。

ー売れているものは自分とは距離があるんですかね。

金子:それ(売れているもの)に対して自分からどうこうしようという気持ちはないですね。

尾崎:だから天然だと思うんです。普通に考えたら、自分が最初に作って仕入れてるんだから自分が着ててもいいわけじゃないですか。でも、流行るものほど持ってないっていう。かといってヒットを作れない人ではないんで、不思議だなぁって思うんです。あと、さっきもちょっと言いましたけど、この人、見たことないような着方を急にするんですよね。あれってどういうことなんですか? 朝、ちょっとこれやってみようってなるんですか(笑)?

金子:多分そうだと思う。うん、朝だね。

尾崎:こないだもTシャツをパンツに入れて、ものすごいベルトをしてましたよね? あれもすぐやめてましたけど(笑)。でもあれ見て、「すげえ、カッケー」と思いましたよ。基本、裾そんなに入れない人なのに、なんである日急に入れるんですか? (笑)

金子:でも、振り返ると、昔入れてる時期もあったんだよね。

尾崎:とにかく僕と同じように金子さんに憧れるフォロワーがいるんですよ、各世代に。

ー長嶋茂雄じゃないですけど、記憶に残るっていう。


金子さんの思い出の一品。その2

金子:「エディフィス」といえば〈コーギー(Corgi)〉みたいな風潮があって。正統派なものだけじゃなくて、こういう変わった〈コーギー〉がたくさんあったんです。このあたりから、いわゆる“デザインもの”にものすごくハマりはじめて。そのきっかけになったアイテムかもしれないですね。伝統的なメーカーのもので、大きく形を変えるわけじゃないんだけど、という。このバランス感っていうのは未だに自分のなかにあります。

尾崎:金子さんが着るアーガイルに憧れたものです。

金子:これは今年仕入れたものです。〈シピー(Chipie)〉というブランドで、メイドインフランスです。ヨーロッパから見たアメリカってあるじゃないですか。例えば、「エミスフェール」とか、「アナトミカ」のピエールがやっていた「グローブ」とか。そういうお店ではピエール・フルニエさんが80年代にアメリカに行って、〈ヘインズ(Hanes)〉とか〈ロッキーマウンテン フェザーベッド(Rocky Mountain Featherbed)〉とかをバイイングして、フランスのお店に置いていたんです。僕、そういう目線が大好きで。その延長が、この〈シピー〉です。〈シピー〉も完全にヨーロッパ人のアメカジみたいな感じですね。

尾崎:わ、わけわかんねー(笑)。

金子:そう、わけわかんないんだよ(笑)。トラウザーっぽいんだけど5ポケットっていう。こういうのが最近ちょっとツボで、よく探してるけど全然出てこなくて。この辺がいいよねって、いま堀切さん(CLASSデザイナー)と盛り上がってるんだよね。

尾崎:おぉ、怖いふたりだ(笑)。

金子:これは僕がアルゼンチンで買ってきた、いわゆるガウチョパンツです。いまこういうドカンみたいなボトムって流行ってるけど、実はこれが本家っぽくて。

尾崎:ぐぐっとテーパードしてますね。というか、裾が袖みたいになって、カフスついてますよ。

金子:そう、これがちょっと可愛くて。で、このバンドを合わせるっていう。

尾崎:かわいい。

金子:まぁ、一緒には使わないかもしれないけど。ジーパンとかに合わせて履くかなって。

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