最後のアスファルトで頑張れば逃げ切れるイメージができていた。
そんな状況の中で迎えた最終戦。そのときの暫定ランキングは2位で、トップとは僅差。勝てば間違いなく優勝であり、相手選手の成績によっては1位でゴールをしなくても優勝の可能性はありました。
「当然勝ちは狙っていました。勝って年間王者になるっていうのは誰が見ても納得する結果だし、いちばんかっこいい終わり方。そこはブレなかったです。誰が来たとしても自分がいちばんでゴールする、勝ちにいくつもりで臨みました」

そこで上田さんは勝ちのパターンを意識し、レース序盤から仕掛けます。登りでライバル選手たちを突き放し、そのままゴールまでトップを譲りませんでした。
「2位だった選手は下りが得意なんですよ。ぼくと真逆なんです。本当は最初に様子を見ながら2回目の登りで仕掛けようと思ったんですが、あまりにもペースが合わないので最初の登りから引き離したんです。そこからはひとり旅でした」
最後の下りに差し掛かるタイミングで2位との差は3分ほど。コースは残り7キロでした。「でも、追いつかれたんですよ」と上田さんはレースを振り返りながら話します。追いついてきたのはスペインのオリオル・カルドナ。ポイントにおいて暫定トップの選手です。
「その下りは3、4キロほど。その短い距離で3分差を縮められました。でも、それはわかっていました。いままでのシーズンの傾向がきちんと頭の中に入っていたからです。最終戦の前レースで彼は3位だったんですが、最後のほうに足がでなくて失速しているんです。だから、3分差を追い詰めるほど彼が走ってきているなら、最後のアスファルトで頑張れば逃げ切れるイメージができていました。そういう駆け引きはシーズン中に培われましたね」

そうして見事に1位でゴールテープを切った上田さん。オリオル選手との差はわずか12秒でした。
「よくランナーズハイとか、ゾーンに入るみたいなことを言いますが、あのレースのぼくは冷静でした。自分をコントロールして、その上で勝てた。出場していた他の選手たちもハイレベルな人だらけだったし、だからより自信につながったというのはありますね。周りの人たちもよろこんでくれました。日本人が優勝するのはなかったことだし、ひとつの歴史のターニングポイントをつくれた。大会のスタッフたちからも、感動的な戦いをありがとうと言われました」
