切っ掛けとなるような種蒔きをどうしていくか(澤村)

ー 澤村さんはMUROさんに対してどんな印象をお持ちでしたか?
澤村:ぼくもゴンさん(権守氏)と一緒で、90年代半ばくらいからずっとMUROさんのことを追いかけていました。地元が大阪だったんですけど、MUROさんがDJをしに来るってなれば、ツレたちと必ず遊びに行ってましたし、「Diggin’ Ice」や「Diggin’ Heat」とか、カセットテープ時代も集めていました。いまでも大切に持っています。何が偶然で必然だったのかは分からないですけど、そういう経緯の中で今回お声がけして頂いて嬉しかったです。
ー 〈レコグナイズ〉と「吾亦紅」、相性はどうでしょうか。
澤村:「吾亦紅」のコンセプトに”土着”と”渡来”という言葉があって。”土着”っていうのは古くから根付いているもので、”渡来”は海外から海を渡ってこっちに流れて来たもの。そのふたつがクロスオーバーするところに、独特の違和感が生まれると思うんです。日本の文化自体も、海外の人は勿論、いまの日本の人から見たときにズレが生じているので、世界各国のブランドをクロスオーバーさせることで、その違和感を具現化させているのが「吾亦紅」なんです。
〈レコグナイズ〉の服は、懐かしいなって思うようなロゴであったり、ぼくら世代にズバなカルチャーではあるんですけど、果たして若い子がここを知っているのかっていったら、まだファッションフリーク的な人たちに落とし込めていない部分だと思うので、どういう風に若い子がコーディネートするのかな楽しみなんです。


ー いわゆる音楽カルチャーの中ではクラシックなロゴや服を、いまのファッションの中に置いたときにどうなるかって感じですよね。
澤村:若い子達にとっても、キッカケって大切だと思うんですよね。だから、キッカケとなるような種蒔きをどういう風にしていくかっていうのが、この先の可能性に繋がるのかなと。ぼくはニューヨークの「The Loft」(注:NYのクラブカルチャー史に名を残す、伝説のパーティー)のカルチャーが凄い好きで、「吾亦紅」のお店でも当時の「The Loft」のサウンドシステムを再現しているんですけど、そこまで音楽に馴染みの無い若い子達でも、「凄い良い音ですね」って言ってきてくれるんですよ。「この曲ってなんですか?」とか。そういうのって、実は凄い意味のあることな気がするので、そこをMUROさんのブランドでまた表現できたら、より一層拡げていけるのかなって思いましたね。

MURO:若い子達はいまはそういう感じなんですね。
澤村:そうなんですよ。知らないことを欲してる感じだと思うんですよね。いまって服でもなんでもそうですけど、デジタルの時代になっていて、簡単にものが手に入る時代じゃないですか。うちがやっていることって、ほかではやっていないブランドだったり、企画であったり、そういうことがお客さんたちに響いていてるんですよ。
”掘る”っていうのをHIP HOPのエレメンツに入れられたら(MURO)

MURO:最近は古着屋さんにもよく行くようになったんですが、中古盤を探すのと似てる部分が多くて楽しいですよね。“DIG(ディグ)”って言葉も古着業界の人たちの方がいまはよく使っているみたいなんですよ。子供服の古着専門店に来るお母さんたちのことをディグママって呼ぶらしいし(笑)。
澤村:昔は”掘る”っていう言葉自体もなかったですよね。
MURO:そこが市民権を得られれば、ぼくはいつでも死ねますね。
一同:笑

MURO:”掘る”っていうのをHIP HOPのエレメンツに入れられたら良いなっていうのが夢なんですよね。
ー 古着屋さんにまた行くようになって、服の見方が変わったりしますか?
MURO:変わりますね。当時のアーカイブを見たりするのは楽しいです。ゴンちゃんもそうだけど、コレクターさんに会う機会も増えましたね。そのアイテムが持っている当時の意味だったり、バックグラウンドが見えて来るとより興奮しますし。
ー 権守さんは、MUROさんの服をつくる視点のどのようなところに面白さを感じますか?
権守:例えば服における振り幅の広さひとつとっても、一体何をこれまでに見て来たんだろうって(笑)。変な言い方になっちゃうんですけど、感覚を凄い大事にされているんですよね。こういう企画どうですか? ってMUROさんに投げると、落とし込む際のネタのフィットのさせ方とか、色々見て来たから出来るんだなってのが多々あるんです。奥行きがあるというか。テーマに対するリターンも滅茶苦茶早いんですよ。
MURO:90年代からやって来ている人たちって、remixとかが流行っていたし、アレンジとかが上手い人が多いんじゃないですかね? きっと。お題に対して、パッと切り返せるみたいな。
権守:だいたい5分以内とかにリターンがくるイメージがあります(笑)。

ー 〈レコグナイズ〉として今後どういう服を作っていきたいと思っていますか?
権守:現状、探り探りにはなってしまうんですが、すべてMUROさんがやっているっていうのを見えるようにして、若い人にも興味を持ってもらう一方、MUROさんの出演してるクラブイベントに来ているような自分と同じような世代の人にも響くような…難しいところだと思うんですけど、そういうものをつくりたいですね。
MURO:個人的なことを言うと、はじめてカセットテープをつくった15歳のときから数えて、今年でちょうど35周年になるんです。そういう節目でもあるので、〈レコグナイズ〉を含めこれまで以上に面白いことを発信していきたいですね。