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キディルと切腹ピストルズが交わす“パンク”という名の共通言語。
KIDILL 2020AW COLLECTION

キディルと切腹ピストルズが交わす“パンク”という名の共通言語。

2020年3月25日、新型コロナウイルスの話題で世間が錯綜するなか、日本のファッションブランド〈キディル(KIDILL)〉のファッションショーが、初公開となる渋谷駅西口地下施設(工事中)で行われました。これは渋谷の街からファッションとアートを発信する「渋谷ファッションウイーク」の一環として実施されたもので、国内の情勢を考慮し、無観客のなかでライブ配信という形で披露された今回のショー「 SHIBUYA RUNWAY “The Designer”」。無機質な地下空間では、パンクな衣装をまとったモデルたちが舞台の中央に集まり、そこで鳴り響く音楽に身をゆだねます。音の震源地にいたのは、和楽器でパンクを奏でる楽団、切腹ピストルズ。会場内にはヒリヒリとした鋭い空気が充満し、緊張感が漂うなかでドラマチックなクライマックスを迎えました。今回は、そんな舞台をつくりあげたデザイナーの末安弘明さんと、切腹ピストルズの飯田団紅さんによる対談をお届けします。“パンク”という共通言語を持つ二人がこのショーで表現した精神性は、やはり一本筋の通ったものでした。

  • Photo_Haruki Matsui(without Runway)
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

パンクとは羞恥心を抜きにして、いきなり表舞台に立つということ。

ー 今回は無観客での開催で、ライブ配信という形で披露されました。

末安:無観客は初めてだったんですけど、やってることはお客さんがいてもいなくても変わらないんです。裏で着せつけをずっとしてたから。だから本番の映像も見てないし、正直わからないというのがいまの感想ですね。

ー 最後のクライマックスも含めて、とても素晴らしい演出でした。ロンドンのパンクからインスピレーションを受けたコレクションと、切腹ピストルズの和のコントラストもいい意味での違和感がありました。

KIDILL 2020AW COLLECTION

末安:精神がパンクで繋がっていれば絶対に合うと思ったんです。和だろうが洋だろうがそこはもう関係ないなって。

ー おふたりが抱くパンクの精神はどういったものなのでしょうか?

末安:ぼくは音楽ではなく服なんですが、自分の目指していることを曲げずにやりきることを心がけてます。まぁ好きなものをデザインしているので曲げる必要もなければ、流行にとらわれることもないんですが。自分の価値観を信じて、それをやりきるのが自分のパンクかな。ベニオくんはどう?

飯田:俺は喋ると長くなりますよ。

一同:

飯田:ただまぁ、俺は服じゃないので。もちろんパンクで人生変わったんだけど。じゃあいまなんでこんな格好して和楽器演奏しているかっていうと、いろいろあるんですけど。羞恥心抜きにやっちゃうってことがパンクなのかなぁと。

ー それはどういうことですか?

飯田:昨日まで全然関係ないことをしてたやつが羞恥心を抜きにしていきなり表舞台に立って、なんかやっちゃうとか。それがパンクの面白さだと思ってて。とくに音楽ってそういう素人のパワーがすごく発揮されやすい。誰かに教わったとか、勉強したとか、そういうのでもなく、演者を見る側だった子たちがいきなり始めちゃう。なんの作法もないまま、「それやっちゃマズいでしょ」って言われても関係ない。そうした表現には稚拙なものがあれば、一方ではすっごい面白いものも襲ってくるんです。それがパンクだと思ってて。

飯田:和楽器って江戸時代くらいまでは好きなように演奏してよかったんです。それが明治維新からちゃんとした文化として世界に発信しようという動きが活発になって、格式化されてしまった。だからいま和太鼓って聞くと、アスリートみたいな体つきの人がやってるイメージありますよね。和太鼓の会に入って、ちゃんと習わないとできないみたいな。でも、俺たちはそれをすっ飛ばしてやっちゃった。あんまり上手く演奏すると格式的になるから、どれだけ適当にやるかっていうのが本当の心情だったりします。結局、やりたいことを続けるってことは、周りへの羞恥心とかもなく、好きなことを突き詰めることなのかなと。

ー 初期衝動をどれだけキープできるか、ということですね。

飯田:そうですね。人目を気にせずに、やりたいからやるっていう。邪魔を蹴散らす。

末安:ぼくもその価値観には賛成だな。イギリスで服をつくりはじめたときは専門学校なんて行ってないし、縫い方もわからないけど始めたんですよ。

飯田:勝手に始めたんでしょ? だからそういうことだよね。

末安:フリーマーケットで買ってきた100円のセーターをハサミで切ってみたり、それを燃やしたり、ペイントしたりしてて。そのとき思いつくことをすべてやるみたいな。それを実際に売るってことは、素人が殴り込みにいくような感じですよね。だからベニオくんの言ってることはすごくわかる。でも、ぼくはいますごく上手になっちゃってるんですよ、パリにまで行ってるし(笑)。でも忘れちゃいけないものってある。それだけは頑なに守りながらやっていますね。

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